総合評価に劣るフランス公共バスの環境対策

フィリップ・ボヴェ(Philippe Bovet)
ジャーナリスト

訳・井川浩

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  原子力発電の多いことから京都議定書による二酸化炭素の削減率を0%に設定されているフランスは、一方ではディーゼル大国として知られ、都市部の空気はあまりクリーンとは言えない。対策のひとつとして、1996年に「空気に関する法律」を制定し、汚染警戒値が最悪レベルになった際にナンバープレート規制を行うようになった。偶数日には偶数プレートの車、奇数日には奇数プレートの車だけに通行が認められるという規制で、低公害車の認定を受けて「グリーンマーク」を貼った一部の車は例外になる。ちなみに、夫婦で両方のナンバーをそろえるのがフランス人の行動という冷めた意見もある。また、緑の党から政権入りしたヴォワネ環境相は、自家用ディーゼル車への課税を引き上げる一方、低公害車に対する優遇税制を打ち出した。フランスの自動車課税の基準は、排気量と二酸化炭素(CO2)排出量の二本立てとなっている。こうした現状で非ディーゼル化が進んでいるのか、環境対策の旗振り役を期待される公共交通を切り口に見ていこう。[日本語版編集部]

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 市町村の交通局で環境にやさしいバスの購入を考える担当者は、頭を抱えてしまうだろう。天然ガス、液化石油ガス(LPG)、バイオディーゼル、アクア軽油、電気モーター、ハイブリッドシステム(1)から適切な動力源を選択するのは容易ではない。行政当局が指針を示さないので、バス購入の責任者たちは、技術面でも財務面でも迷路に迷い込んだ気分になる。旧式の保有車両が汚染をまき散らしている、と長いこと後ろ指を差されていたパリ交通公団(RATP)が「クリーン」公共交通に関する方針を公表したのは、ようやく1998年12月6日のことだった。

 フランス全土で1万2000台を数えるバスのうち4000台を保有するパリ交通公団の選択は、常に業界の指標となってきた。しかし、ルノー業務用車両社、エルフ石油会社、そしてエネルギー供給会社であるフランス・ガスとフランス電力の間で板挟みのパリ交通公団が、純粋に技術面から選択を下したとは考えられない。1999年と2000年の2年間でアクア軽油バス700台、粒子触媒フィルター1200基、電気バス20台、LPGバス112台、天然ガス・バス106台を購入するという決定(2)は、フランスの全産業界を満足させた。ドイツのダイムラー社は、ガスを燃料とするバスの調達のための欧州入札に参加すらしなかった。「ルノーが伝統的にパリ交通公団に重用されているので、ドイツの大企業ダイムラーは入札してもむだだと考えたのだ(3)

 ある燃料が環境に与える影響を総合的に評価するためには、そのエネルギーの採掘にあたって発生する影響をも含めたライフサイクルアセスメントの手法が用いられる。たとえば天然ガスの場合、燃焼はクリーンでも、採掘施設やパイプライン建設、そして採掘時のメタンガス(オゾン層の破壊に加担する)の発生による環境負荷を考慮すると、総合評価は下がってくる。また、クリーン・エネルギーという美名の裏に、大きな市場が隠されてもいる。通常のバスは一台およそ120万フラン(約1900万円)するが、天然ガス・バスとなると25万フラン(約400万円)ばかり高くつく。バスにガスを補給するためには特殊な貯蔵タンクと圧縮装置を備えたスタンドが必要だが、そうした充填施設一カ所につき300万フラン(約4800万円)ほどの資金がつぎ込まれる。また、車庫や修理工場も天井などにガスがたまらないように整備しなければならない。当然のことながら、保険料もそれだけ上がる。

 車両燃料としての天然ガスは、なおも技術改善の余地が大きい。最大8時間かかるタンクの充填時間を短縮し、他のエネルギーの2倍を必要とする消費量も抑制しなければならない。天然ガス・エンジンといっても、実際はディーゼル・エンジンの改造にすぎず、もともと専用に設計されたものではない。「クリーン」テクノロジーが日進月歩の現代で、都市の進むべき道が10年や15年の単位で制限されるのは理にかなったことだろうか?

 もっとも環境汚染度の低いエネルギーを探そうという、この称揚すべき競争の中で、ライフサイクルアセスメントの観点からトップに立つのが、バイオディーゼルとLPGの二つである。この二つのエネルギーでは既存の設備が利用でき、インフラ整備が低コストですむ。だが、バイオディーゼルもLPGも、方針決定の責任者たちからは無視されている。ブタンガスとプロパンガスの混合物であるLPGを得るには、三通りの方法がある。第一に、油層には重いものから軽いものまで、天然アスファルトから軽油、ガソリン、そして揮発ガスなどの成分が混在しており、ここにケロシンやブタン、プロパンも含まれている。石油採掘の際に採りこぼされたLPGの利用は長年ないがしろにされてきた。第二に、原油の精製過程ではLPGが「自然に」生成する。ここでも、LPGは放置されてきた。第三の方法は、特殊な精製法を用いたLPGの生産である。最初の二つの方法なら特に工業プロセスを追加する必要もないため、ライフサイクルアセスメントによるLPGの評価は良好といえるが、世界的に見て、この二つの方法で産出するLPGの利用度は60%にすぎないと推定される(4)

 この潜在資源が目一杯に活用されにくい背景には、ある種のエネルギーが、環境問題についての素養をまったく欠く者も珍しくない責任者たちから軽視される一方、産業界の提携関係をつうじて優遇されたエネルギーが存在するという現状がある。月刊誌『路上交通』のティエリー・ド=ソーリュー編集長は1998年7月号で、「ルノーがLPGにけちをつけ、天然ガスに全面的に賭けたのも、クリーン燃料に関する研究費用のかなりがフランス・ガスから出ていたためだ」と強調している(5)。実用面では、一台のLPGバスは、従来のディーゼル・バスと比べて10万フラン(約160万円)のコストアップですむ。LPG用のタンクとスタンドには軽油(ディーゼル・エンジン用燃料)用の既存施設を流用できるため、改造が必要といっても、その工事費は天然ガスの場合と比較して格段に少なくてすむ。

軽油への偏向

 1980年代の初め、欧州共同体(EC)の農業で油が過剰生産となっているなかで、共通農業政策(CAP)の改革によってナタネとヒマワリを休耕地で栽培することが許可された。ナタネとヒマワリの油を精製すればバイオディーゼルができる。これは、環境・エネルギー制御局で自動車動力源を専門家とするジャン=ルー・ゴーデュショー氏が言うように、硫黄分をまったく含まない、再生可能なバイオ燃料である。「ライフサイクルアセスメントによるバイオディーゼルの評価は高く、CO2の排出も少ない。汚染源である化石燃料の消費を減らし、再生可能燃料が利用できるのなら、悪くはない(6)

 バイオディーゼルは利用も簡単である。既存の機材で使用でき、従来の軽油と混合可能で、好きなときに切り替えることができる。バイオ燃料の利用の簡便さは、フィリップ・デマレスコー氏の報告書でも認められている(7)。「バイオ燃料には、現存の保有車両を使い、燃料の流通体制を大きく変えることなく実用できるという著しい利点がある」

 エネルギーを生産するために農地をあてることについて、グリーン燃料の専門家は、大幅な過剰生産地域であるヨーロッパと北米だけのことにすぎない、としきりに強調する。食糧不足に苦しむ地域も世界にあることを考えると、耕作可能な土地の一部をエネルギー供給のために割り当てることが、はたして良識にかなっているといえるだろうか? ある専門家も、そうした見解を匿名で語った。「問題は、一見して見えるほど単純ではありません。たしかに世界全体では食糧が過剰生産されていますが、何トンかの小麦を必要としている地域へ送るという単純な論理を超えたところに、数々の地政学上の問題があるのですから」

 30を超えるフランスの市町村で、バイオディーゼルと軽油の混合燃料バスが導入されている。バイオディーゼルの混合比率は、フランスでは最大30%となっている。ドイツとオーストリアでは、100%バイオディーゼルが税制で優遇されている(8)。フランスは1997年、22万5000トンのバイオディーゼルを生産したが、実際にはこれを大幅に上回る能力があると考えられる。「政府は、100%バイオディーゼルの利用を許可してもいいはずだ。しかし、軽油との混合でなければ、石油製品としての免税は与えられない。ドイツでは逆で、軽油と混ぜれば免税を受けられなくなる」と、ディーエステル(バイオディーゼル)市町村クラブのクリストフ・カルラン担当官は説明する。この税制の相違に、フランスとドイツのそれぞれの姿勢が集約されている。バイオディーゼルの利用を妨げる障害は他にもある。ドイツのダイムラーは1990年以降、メルセデスのエンジンがバイオディーゼルでも動くことを保証しているが、ルノーが同様の保証を始めたのは1997年にすぎず、しかも30%までの混合燃料だけが対象である。バイオディーゼル流通の面から見ても、農家の管理がおよばず、石油会社とその商業論理に従っているのがフランスの現状だ。

 農産品からできるこのバイオ燃料を擁護してきたのは、これを課題に掲げ、農村地帯を基盤とする数人の政治家のみである。バイオディーゼルは、中央政界ときわめて密接に結びついた運輸業界では肩身が狭く、環境効果の点から真剣に考慮されたことは一度もなかった。石油会社はバイオディーゼルの長所を最大限に活用するかわりに、軽油に2〜3%混ぜて安上がりに低硫黄化を実現するだけですませ、それ自体として引き立てようとはしない。

 軽油に水を混ぜた「アクア軽油」という石油会社エルフの手法もまた、既存の設備で利用できる燃料という原則に沿っている。ただし、この製品は通常の軽油とは混合しにくい。それにそもそも、アクア軽油の生産・供給を手がけるのはエルフ一社しかない。これでは、開放と競争をむねとしてきた市場の原理に水を差すことになる。アクア軽油が実際に環境におよぼす効果の得失は環境・エネルギー制御局が評価中だが(9)、この燃料に冷たい目を向ける者たちに言わせると、きわ物にすぎず、外国のエンジン・メーカーの関心も驚くほど低い。硫黄含有率の低い軽油を用い、効果的なアフタバーニング装置(10)を備えれば、古いエンジン仕様でもCO2とHC(完全燃焼せずに残った炭化水素)の60%、粒子状物質の30%相当、汚染を減らせることも指摘されている(11)。それなのに、フランスではなぜ、この種の対策になかなか目が向けられないのだろうか?

 フランスには、あまりに多くのディーゼル車のストックがある。1998年で見ると、ドイツの新車の18%がディーゼル車なのに対し、フランスでは40.2%にのぼる(12)。石油精製の点ではどうかというと、フランスの場合はガソリンが生産過剰である一方、軽油は需要に追いつかないのが現状である。これは財務上あまり好ましい状態ではなく、石油精製会社はアンバランスを是正するために、中東の原油のようにもっとも硫黄含有率の高いものでもかまわず、ありとあらゆる産地から原油を仕入れる。こうした現状では、硫黄を含まない軽油を大量に供給するのは、技術的に不可能である。「フランスの石油精製所を再整備しようとすると大変なコストがかかる。石油会社はしたがって、軽油の許容硫黄含有率の変更に向けた欧州連合(EU)の協議を、あらゆる手段を講じて阻止してきた。もともとの提案では2005年に30ppm(1ppmは100万分の1)とされていたが、結局は50ppm止まりになってしまった」とジャン=ルー・ゴーデュショー氏は言う(13)。この二つの数値の差は、きわめて象徴的である。要するに、うまみのある契約とセットにでもならない限り、汚染防止の腰はなかなか上がらない、というわけだ。

(1) ディーエステルはバイオディーゼルとも呼ばれるが、ヒマワリとナタネから作られる軽油である[訳註:フランスでは「ディーゼル+エステル」から造語された商標名「ディーエステル」が一般名詞として用いられる]。エルフ社が生産するアクアゾル(アクア軽油)は、軽油に12%の水が混ぜられたものである。ハイブリッドシステムは、内燃機関と電気バッテリーを組み合わせて機能させるものである。
(2) パリ交通公団の統計:http://www.ratp.fr
(3) 環境マガジン1999年2月号、パリ
(4) フランス・ブタン・プロパン委員会、パリ、1997年
(5) ルノーはLPGを見捨てたが、パリ交通公団はルノーの不興を買うわけにはいかない。パリ交通公団は知恵を絞って、ルノーのボディとシャーシにオランダのメーカーDAFのエンジンを隠したLPGバス、という解を出した。
(6) 欧州委員会が1997年に発表した「再生可能エネルギー白書」は、2010年までにEU内で消費されるエネルギーの12%を再生可能タイプのものにし、消費燃料の2%を液体バイオ燃料にすることを提唱している。
(7) フリップ・デマレスコー「非食糧農業生産の開発の状況と展望」、農業水産省、パリ、1998年12月
(8) ドイツやオーストリアでは、バイオディーゼルが食用廃油に5%や10%の割合で混ぜられることもある。
(9) 最終結果は、2000年2月に公表される。
(10) 触媒と粒子フィルターを組み合わせたものであり、メーカーの名前からCRTとも呼ばれ、一基約1万5000フラン(約24万円)する。
(11) 環境・エネルギー制御局の発表による。1998年11月3日にリヨンで開催された会議「都市交通において代替自動車をどう位置づけるか」の議事録。
(12) フランス自動車工業会(パリ)とドイツ自動車工業会(フランクフルト)の資料による。
(13) 現在の軽油は500ppmの硫黄分を含んでいる。2000年には、それを350ppmに抑えなければならない。


(1999年12月号)

All rights reserved, 1999, Le Monde diplomatique + Ikawa Hiroshi + Saito Kagumi

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