EU東方拡大 - もめる手続きと諸国の思惑

カレル・バルタク(Karel Bartak)
チェコCTK通信ブリュッセル特派員

訳・斎藤かぐみ

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 欧州連合(EU)の東方への拡大は一応は決まったこととされている。それが可能なのか、あるいは必要なのかなどと、表だって異議をはさむ者はない。とはいえ、今後の行方はまだわからない。 スケジュールの上で確約されているのは、昨年12月のマドリッド首脳会議の終了寸前に採択され、半年後のフィレンツェ首脳会議で確認された表現の通り、「拡大交渉の予備段階がキプロスおよびマルタとの交渉開始と時期的に一致することを欧州理事会は望んでいる」ということだけである。拡大交渉は「政府間会合終了(IGC)の半年後に、その結果を考慮して」開始される。具体的には早くても1997年末ないしは1998年初めとなるだろう。この計算では、最も優秀な国でも加盟の批准は2002年となる。

 主要国のうちドイツとイギリスは、別々の理由で当初から拡大を最も熱心に支持していた。コール首相は、マドリッド首脳会議前には各国の首脳に無理強いせんばかりの勢いで、ドイツの「お膝元」のポーランド・ハンガリー・チェコに対する確約を望んでいた。

 フランスも、そこまで性急な態度は示さないまでも主に戦略上の理由によって、次第にドイツの立場に接近していった。シラク大統領は9月中旬のポーランド訪問の機会に、NATO拡大とは違ってEU拡大にはやぶさかではないが、相応の制度改革が必要であるとの主張を繰り返した。フランスとドイツの波長は一致したらしく、IGCがらみの難題と両国の景気の悪さという事情のため、それ以上に踏み出すことはしなかった。前途は多難と承知していた両国は、先のマドリッド首脳会議のあいまいな表現で満足した。

 拡大方式が超国家的権力の強化につながらないことを求めつつも分の悪さを感じていたイギリスも、似たようなものだった。英国政府は以前から東中欧諸国の加盟を全面的に支持はしていたが、新たな約束を行おうという姿勢はない。イギリスの目的は、「ヨーロッパの建設」を妨げて単なる自由貿易地域におとしめ、EU共通政策に歯止めをかけることである。イタリアの場合は、はっきりと意見を表明したためしがない。メンバーとなっている「北部先進国クラブ」と圧力を高めてくる地中海諸国の間で、板ばさみになっている。地中海諸国の懸念は、EUの重心と低開発地域への助成金が北東方面に移動してしまうのではないかということにある。

 こういった不透明な状況では、IGCの結果が非常に重要な意味を帯びることになる。東方諸国の統合には、EU機構の根本的な見直しが必要である。加盟国が20ヶ国以上ともなると、現在のルールでは正常な機能は望めない。だが意見の一致を見るのはそこまでで、閣僚理事会の決定方式のいかなる変更にもイギリスは反対を唱えている。

ルールの調整

 イギリスとは逆にサンテールEU委員長にとっては、機構の柔軟化が将来の拡大の絶対条件と考えられる。ドイツ・オランダ・ベルギーを筆頭とする「統合主義諸国」とも通じるサンテール委員長の懸念は、EUを深まりのないまま地理的に拡大するならば、「ヨーロッパという思想」がサッチャー流の自由貿易の発想に成り下がってしまうということにある。ルクセンブルグのユンカー首相も、「EUが大計のない自由貿易地域に成り下がることを受けいれるわけにはいかない」と警鐘を鳴らした。ベネルクス三国は、欧州共同体が経済・政治統合の新段階に踏みださない限りは新規加盟の承認は問題外であると宣言した。IGC、ひいては統一通貨が失敗した場合、早期拡大の望みはなくなるだろう。ヘンシュ欧州議会議長の提案はもう少し柔軟で、「新規加盟国」第一陣を承認してから制度改革を目的とした別の会合を招集してはどうかというものである。

 統合の際には、理事会での各国の拒否権の問題に加えて、理事会決議の票数と委員会の席数の国ごとの配分というデリケートな問題も生ずる。自国語がEUの公用語リストから削られたような小国は、委員会における自国代表を失うことには断固拒否の姿勢である。最近ベルギーのデレイケ外相は、「人口と並んで経済や財政の状態も考慮して票数の加重を修正する」ことを提案した。この方式を用いるとすれば、新規加盟国の最有力候補でありながら人為的な為替レートによって人口一人当たり国内総生産(GDP)がギリシャより20%も低い計算となるチェコはどうなるのだろうか?

 加盟国候補は、EUとの連合協定を締結済みの12ヶ国である。キプロスとマルタの他には、ブルガリア・エストニア・ハンガリー・ラトヴィア・リトアニア・ポーランド・チェコ・ルーマニア・スロヴァキア、そしてイタリアの拒否権の撤回によって今年6月に連合国となったスロヴェニア(1)が含まれる。これら諸国の加盟が同時に実現するとは誰も考えないが、「それぞれの長所に応じて」各国を仕分けしなければならないという見通しがあるために、険悪な雰囲気が生じている。実際問題として、2通りのシナリオが考えられる。

 第一のシナリオによれば、IGCが終わるとすぐ、委員会の勧告に基いて閣僚理事会が優先国を選んで交渉開始の時期を定め、その他の国は後回しにされることになる。この方式は当然ながら、チェコ・ポーランド・ハンガリーなどの先行諸国には願ったりのものである。スロヴァニアは含まれるだろうが、スロヴァキアは問題だろう(2)。だが大部分の後進候補国を「放り出す」ことは政治的に誤ったこと、と欧州議会には受けとめられるだろう。代わりに全員を同じスタートラインに並べ、ゴールで差をつけるというのはどうか? 「それは無理だ」というのが委員会の答えである。一ダースもの正式交渉をどうやって並行して進めようと言うのか?

 しかしながらEU拡大を実施する地政学的なゆえんを実務上の理由によって見失ってはならない、と権威あるセンター・フォア・ヨーロピアン・ポリシー・スタディーズのラドロウ所長は論ずる。「拡大の第一の理由が、EUの安定地域を拡大することによって新たな欧州安全保障システムを構築しようということにあると言うのなら、候補国の早まった差別化への反対論は非常に有力なものとなる」。この観点からすると、アメリカの後押しで並行して進められているが先行すると考えられるNATO拡大とEU拡大とは、別々にじっくりと検討されるべきだろう。

 今年4月17日付の欧州議会の報告書は、人権尊重などの民主主義の原則を犯した国に対する「停止条項」を、将来のEU条約に盛りこむことを提唱している。また、EU加盟国に「なれない」か「なるつもりのない」国との「持続可能なパートナーシップの取り決め」についても触れている。

 EUと東中欧諸国との当面の関係はというと、連合協定に調印して以来、PHARE計画の協力・援助の仕組みを設け、EUと候補国との間の近年の「対話の構造化」に至っている(3)。こうして日常的とも言えるコンタクトが深まったことで、様々な候補国からの強い不満もはっきりと表われるようになった。「経済改革に着手したばかりの国の初歩的な問題で会議をつぶすのはうんざりだ。『対話の構造化』は我々には何も新しいものをもたらさない」とチェコの閣僚が最近もらした。ブルガリア・ハンガリー・ポーランドにしてみれば、EUの農産物輸入制限がいらだたしい。政治の上では連帯意識が打ちだされても、ひとたび財政・産業に関わる利害が問題になると限界が出てくる、という矛盾も強調されよう。

拡大の損得勘定

 議論のポイントはまさに、予算の80%を占める共通農業政策・低開発地域向け構造基金をはじめとする高出費政策に悪影響を与えずに東方拡大を「消化」する体力がEUにあるか、という点にある。両政策とも、現在の規則によれば東中欧諸国も恩恵を受けることになる。フィシュラー農業担当EU委員の試算では、2010年以降の共通農業政策の出費増は年間120億ECUにのぼる。構造基金の方はと言えば、380億ECUというリークもあるが、委員会による追加補正予算は年間90億ECUにすぎない(4)。 言葉を選んで言えば、EUは全員に同時に門戸を開くことはせず、新参者には産業分野ごとに長さの違う移行期間が課せられることになるだろう。移行期間によってEUの負担は減り、新規諸国の援助の必要性も減るだろう。他方、新規加盟国の承認を同様に求められているアイルランド・ポルトガル・スペイン・ギリシャは、構造政策の規則が変わらないように目を光らせることだろう。

 EU東方拡大の費用について西欧の世論が懸念する理由には(5)、西欧にとっても東中欧は魅力的であるという情報が不足しているということもある。1990年以降のEU諸国の対東中欧輸出の増加はかなりのものである。約200億ECUであったのが、昨年には493億ECU(EUの第三国への輸出総額は5890億ECU)となっている。欧州共同体市場に押しよせると考えられていた東中欧農産物の輸出の方は逆に起こらず、西欧市場はわずかに開かれただけであり、東中欧の農業は相当な打撃を受けている。その一方、東中欧諸国の下請けを活用する西欧企業数十社の売上高は、投げ売りされる一次産品と安上がりな労働力によって水増しされているのである。

 つまり東方拡大の費用は、ここ5年間で貯めこまれた利益、ポーランドのサウリシュ・ヴォルスキ欧州統合担当次官が今後も増えつづけると言う利益と並べて見なければならない。純粋に経済的な観点から見ればEUは拡大をやめた方がよいのではないかと言う者がいるほどなのだ! だが、「ヨーロッパの自分自身との和解」の論理がドイツ・フランスを筆頭とするEUの大国によって推進されてきたため、今さら拡大への動きを妨げることは、まだ不安定なヨーロッパにとって大きな災いにもなりかねない(6)。そしてブリュッセルでは、拡大を行わない場合のコスト計算の必要も語られはじめている‥‥

 新規加盟についての議論の背景には、EUで深まる諸問題もあるだろう。統一通貨や新5ヶ年予算の準備、失業の増大、EUプロジェクトへの信頼感の喪失などである。ベルリンの壁の崩壊に続くショックもなかなか消えない。拡大の意思もなく手続きも遅い、と一方的に非難するのは不公平だろう。この世紀末では1年が10年に匹敵する。5年経って人の意識も変わった。以前は遠い夢だったことが、少なくとも一部の国にとっては、日常業務の対象となっているのである。

(1) スロヴェニア議会は、旧イタリア系マイノリティの構成員に一定の条件でスロヴェニア国内の不動産の取得を認める「スペイン式の妥協」を受けいれた。
(2) メチアル政権が民主主義の原則を欠いていることをEUが非難しているためである。
(3) PHARE計画は東中欧諸国の経済再建支援を目的とする。10億ECUにのぼる資金はEU予算によってまかなわれ、実施は加盟国の企業によって行われている。
(4) 今年9月17日現在で1ECUは約130円である。ちなみにEUの総支出は昨年度で663億ECUにのぼっている。
(5) 昨秋の委員会の発表によると、東方拡大に賛成しているのはEU加盟国民の17%にすぎない。だが56%の者が、ヴィシェグラード諸国は2010年にはEUに統合されているだろうと考えている。
(6) 拡大の必要性を説く際のサンテール委員長のお気に入りの言い回しである。


(1996年10月号)

All rights reserved, 1996-1997, Le Monde diplomatique + Saito Kagumi

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