もし日本が破産したら - 「土建国家」と税金問題

ガヴァン・マコーマック(Gavan McCormack)
オーストラリア国立大学高等研究所

訳・斎藤かぐみ

line
 日本経済は、4年間の不況の後に回復方向に向かい、今年は2.5%から3%の成長率が見込まれている。だが人々の目はさめている。巨大な財政赤字を生みだした構造問題は袋小路におちいったままで、不動産バブル崩壊が銀行システムにおよぼす効果はまだ充分に出ていない。政治家に大事にされて「国家の中の国家」と化した建設業界は、財政赤字を悪化させるばかりか、自然環境も荒廃させている。日本も破産を免れるわけではない‥‥[訳出]

line
 80年代末、日本の証券価格・不動産価格は急落し、経済は不況期に入った。金融バブル崩壊の結果の周期的な現象にすぎないというのが共通の認識であり、時機が来れば景気は回復し、日本はアジアと世界の牽引車の役割を取り戻すだろうと思われていた。だが、構造的な問題であることを示唆する分析もある。「エコノミスト」誌の昨年12月の特集号は、「金融破断 日本発の金融パニックはあるのか」と銘打った。

 しかしながら日本の経済力は圧倒的で、世界の国内総生産(GDP)の17%、アジア・太平洋地域のGDPの65%を占めている。3年間の不況の後、今年の経済成長率は2.5%から3%となると予測されている。産業も金融も堅調で、経常収支の黒字額は年間1000億ドルを超え、対外資産は1兆円近い。資産額で見た昨年の世界の銀行番付では上位10行を日本の銀行が占め、アメリカ最大手のシティコープは26位にすぎず、上位100行のうち29は日本の銀行で、アメリカの銀行は9つしか入っていなかった。社会問題の面でも、他のOECD諸国で慢性的問題となっている失業問題に苦しむこともなく、今年5月の失業率は労働力人口の3.5%にとどまった。

 実際の状況はもっと複雑だ。日本の巨大な財政赤字は、あまり分析されていないが、規模ではアメリカを超えている。赤字額は220兆円とよく言われているが、この数字はいくつかの要素を考慮に入れていない。最近の研究によれば実際の赤字額は3倍の782兆円、国民1人当り650万円にも達するとされる。内訳は政府が291兆円、地方自治体・公営事業が181兆円、郵便貯金・年金などが310兆円となっている(1)

 ヨーロッパでは、マーストリヒト条約の統一通貨のための収斂基準により、財政赤字の上限はGDPの3%に定められている。同じ基準に従えば、昨年度の対GDP赤字率がアメリカの2.8%に対して7.6%に達する日本の財政はとっくに破綻していることになる。累積赤字の方はGDPの59.1%に上り、1994年度のアメリカの60.2%に匹敵する。他のOECD諸国と違って日本は財政再建策をとってきていない。

 本年度予算は28%の赤字を見込み、47兆円の国債の発行を予定している。うち27兆円分は過去の債務の返済にあてられる。

不況のファクター

 返済をとどこおりなく進めるためには3つの道しかない。経済成長か増税かインフレーションかである。今年の第1四半期は好調だったとはいえ、第一の道の見込みは少ない。不況・悪化を示すファクターも多い。消費者市場は成熟し、人口の老齢化は社会福祉制度の財源をおびやかし、他のアジア諸国の競争力の向上と円高のために産業は空洞化している。現実には、日本経済の伝統である「拡大を生む均衡」のための条件がそろわなくなっている。またインフレをまじめに考える者はいない。

 公式の失業率はまともな分析には耐えられない。確かに今年1月から5月にかけての失業率は、労働力人口の3.4%から3.5%(240万人)に増えただけで、他のOECD諸国と比べると見かけの数字は低いものである。だが「まったく職のない者」しかこの計算には含まれていない。もしアメリカ労働省の基準を用いたなら日本の失業率は9%と、オーストラリアと同レベル、アメリカよりやや高いレベル、いずれにせよ公式データの3倍になる(2)。さらに100万人から650万人の間と推測される日本企業の余剰労働力も、現実的には失業者に数えるべきだろう。

 銀行の格付に関して言えば、昨年8月のムーディーズの格付ではBが1行(静岡銀行)だけであり、Cが3行、Dが26行、E(借り入れルートを絶たれた番外)が3行だった。資産額だけを考慮する格付にムーディーズは疑問を呈した。11の都市銀行のうち、資産が不良債権を上回っていたのは5行にすぎなかった。昨年10月のムーディーズの国別の格付では、日本のランクはOECD加盟国中唯一、中国やメキシコやブラジルと同じDランクだった。

 1995年は特に悪い年だった。2つの信用金庫と1つの銀行が破産し、回収不能の債権額は1兆5000億円、ほとんどが80年代末の不動産会社への投機的な貸し付けによるものだった。また、大和銀行(名目資産額では世界第19位)のニューヨーク支店が1000億円の損失を出したことが報じられ、何人かの責任者が詐欺・重罪隠匿の罪状で逮捕・訴追され、大和銀行はアメリカから撤退せざるを得なくなった。

 金融業界の別の部門、住専での巨額の損失を大蔵省が懸念しはじめたのは昨年9月になってからのことだった。住専は不動産融資専門の機関で、うまみのある不動産市場をコントロールする目的で70年代に銀行が設立したものである。80年代に住専が投資的な貸し付けを行ったのはゴルフ場やリゾート施設の建設で、裏の世界にかかわることもあった。その重いツケが今になって回ってきて、住専の保有する13兆円の債権のうち、一次債権と呼ばれる6兆4100億円が回収不能となっている。

 だが、住専の資産の清算の過程で二次債権と呼ばれるものも回収不能であることが判明し、今年6月18日には住専救済のための6850億円の財政支出を予算に盛りこむ法案が可決され、金融安定化拠出基金ではまかないきれない総額1兆円にのぼる二次損失の穴埋めのため、納税者の負担がさらに求められることになる(3)

 こういった不透明な制度では正確な数字を出すことはむずかしいが、日本の銀行の損失額が80年代のアメリカの貯蓄銀行の損失額をはるかに上回るものであることは明らかである。政府によれば不良債権または回収不能な債権の総額は40兆円とのことだが、この数字を2倍にすべきであるとか100兆円であるとかいう意見もある。ドイツ・バンク・キャピタル・マーケットのアジア担当第一副社長のケネス・カーティス氏の意見では、日本の銀行システムは「潜在的な破産状態」にあるのだ。

 危機の根源にあるのは80年代の集団狂乱で、不動産価格は、特に都市部の場合は2倍にも3倍にもなり、紙の上では東京都の不動産価値はアメリカ全土の不動産価値の3倍、皇居だけでもカリフォルニア州に匹敵すると言う者もいる。1991年のバブル崩壊以降の損失の規模は推測するしかないが、少なく見積もっても1000兆円はあるのではないかと思われる。

相も変わらぬ金喰いシステム

 株式相場は落ちこんだ後に堅調に転じたが、不動産価格はそうはいかず低落の一方だった。借り入れ(それ自体が次の投機の資金となることも多かった)の担保となっていたのは証券と不動産だったから、銀行システム全体の基盤はもろいものだった。政治家と官僚が問題の大きさをわかっていたとは思えない。景気回復政策の基本はバブルの形成に一役かった70年代初期のものと変わらず、優先的に行われたのは財政赤字による大規模公共投資だった。90年代のデフレ傾向にもかかわらず政策の基本にあったのは、不動産価格は上がることはあっても下がることはないという戦後から変わらぬ定理だった。だが、この定理は誤っていたのだ。

 1992年3月から1995年9月にかけて、内需拡大による景気回復のために約60兆円の財政支出が行われたが、1994年にアメリカとの貿易交渉で日本政府が約束した数字に比べれば微々たる金額である。日本政府の約束は、むこう10年間で630兆円分の公共事業を行うというもので、財政赤字の増大につながるものである。金利は昨年9月以来、0.5%という歴史的な低金利にまで下げられている。90年代前半の財政支出は、世界最大の金融機関である郵便貯金約200兆円によってまかなわれた。

 赤字財政の財源として「建設国債」の発行が始まったのは1965年のことだった。これは拡大の一途をたどり、大蔵省の今年1月の見積もりによれば、2006-07年には482兆4000億円、GDPの68.9%に達する見込みである。この数字にはアメリカに約束した公共事業10年計画が含まれていないため、実際には2005年には1400兆円、国民1人当たり1100万円、平均所得額の2年分相当にのぼると思った方がよさそうである。利子を含めた返済のためには、国民1人当たり毎年170万円を60年にわたって支払う必要があるという計算になる。日本という超経済大国が進んでいるのは、まさに崩れやすい砂の上なのだ‥‥

 日本の「中核」は、製造業界でもサービス業界でもなく、建設業界にある(4)。日本の建設業界は世界最大の規模を誇り、600万人の従業員をかかえ、年間売上高は約80兆円と国家予算にも匹敵する。1960年から1991年の間に行われた1084兆円の建設関連投資のうちの30%は政府によるものだった。政府と建設業界の関係は「土建国家」とも呼ばれ、アメリカの軍産複合体にもたとえられる。政官財のネットワークを通じて、海岸や土手のコンクリート工事はもちろんのこと、ダム・高速道路・新幹線・原子力発電所の建設資金が調達される。こうして国の富が濫費され、財政赤字がかさみ、社会・自然の環境が破壊されている。

 このシステムが機能するためには、巨額の予算を吸収するような大規模な計画を常に行う必要がある。京都大学の佐和隆光教授は、これをエジプトのピラミッド建設にたとえた。昨年の神戸の悲劇は、成長のために安全を犠牲にした建設業界と地元政治家の責任を問うものとなるべきはずだった(何人かは現に事情聴取を受けている)が、逆に大規模な再建事業のために利用されたのだ!

 阪神大震災は、神戸だけではなく全国の、鉄道・トンネル・橋などのインフラ強化工事の好機となった。神戸自体でも、関西新空港という収益性の低い化け物を完成させたばかりの大阪湾からそう遠くない人工島に、空港建設が予定されている。東京でも首都移転構想が進められている。首都圏の人口は3000万人にのぼるが、遅かれ早かれ富士山の噴火(最後の噴火は1707年)か大地震(最近のものは1923年)に見まわれると専門家は予測している。ちなみに8世紀以来400年ごとに遷都が行われてきた‥‥ 首都移転問題は10年来論議されているが、昨年12月には国会で審議会が設けられ、今世紀末までに立地の選定が、2010年までに実際の移転が行われる予定となっている。

 移転が徐々に行われるとしても、重要なのは首都移転が素晴らしい利益を生みだすということである。基礎工事の初期費用は14兆円と見積もられるが、空港・橋・鉄道などの建設を含めると2-3倍にはなるだろう。首都移転構想の引き起こした論議は、数々のスキャンダルも「土建国家」システムをゆるがすには至らず、移転計画の税制への影響が相変わらず考慮されていないことを示している。

 日本政府は破産することはないだろうが、財政赤字の規模の大きさを認識しておらず、社会の暗い未来が見えるようだ。問題は非常に深刻で、経済・産業・税制の構造の健全化のために政策を転換すれば重大な結果を招くだろうし、国内問題のために対外資産を引き上げたりすれば世界に激震を引き起こすだろう。いずれにしても日本の「バブル脱出」は、長期にわたって世界中に予断を許さない影響を与えることになるだろう。

(1) 「中京大学教養論叢」第35巻2号(1994-95年)、「週刊金曜日」1996年2月16日号および3月22日号の青木秀和・河宮信郎の論文
(2) 「失業の本当の数字」(ル・モンド・ディプロマティーク1993年12月号)
(3) ル・モンド1996年7月5日号、 Financial Times 1996年7月19日号の日本特集
(4) Gavan McCormack "The Emptiness of Japanese Affluence" (M.E.Sharpe & Allen & Unwin, New York, Sydney, 1996年)


(1996年8月号)

* 第四段落「経済条件接近指標」を「収斂基準」に、「同様の指標」を「同じ基準」に訂正(2005年9月5日)
* 註(1)中「『週間金曜日』3月22日号」を「『週刊金曜日』2月16日号および3月22日号」に訂正(2005年9月5日)

All rights reserved, 1996, Le Monde diplomatique + Saito Kagumi

line
表紙ページ 本紙の位置づけ 有志スタッフ
記事を読む 記事目録・月別 記事目録・分野別
メール版・お申込 読者の横顔
リンク(国際) リンク(フランス)