情報化革命は仕事を変えるか?

ジョエル・ド・ロネ(Joel de Rosnay)
科学産業都市総裁

訳・斎藤かぐみ

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 21世紀の夜明け前、工業化社会は情報化社会のショックをもろに受けている。経済成長の鈍化、失業率の上昇、政治・経済エリートの伝統的な役割への疑いなどが、工業化社会から情報化社会への移行の速さを物語っている。乱流の中から中央集権的な権力に立ち向かう新たなグループが現れ、情報ネットワークやインターネットを通じて、匿名の「ユーザー」ではない個人の主張が出てきている。こういった大きな流れのよりよい理解は、明日の世界を自覚的に建設する助けとなるだろうか? [訳出]

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 工業化社会の特徴は、生産手段の集中、標準規格品の大量流通、業務の専門化とそのピラミッド管理などにある。労働契約を支える3つの柱が場所・時間・機能の一体性である。

 情報の電算処理、データのデジタル化、インタラクティブな通信ネットワークの発展とともに、古典的な基準は弾けとぶ。3つの一体性(場所・時間・機能)に対して、仕事は分散し、経済活動は時間を離れ、取引は非物質的になっていく。誕生しつつある社会は、権力ピラミッドよりはネットワーク、ヒエラルキーの歯車よりは独立した細胞、垂直的な産業構造よりは「情報エコシステム」によって組織されるのだ。こういった多次元の増殖、新たな変化の荒々しい加速を前に、定量的・比例的・どこにでも当てはめられるような変化に慣れきった政治家・高級官僚はとまどう。インターネットのような国際的通信手段が出現し、驚きをもって迎えられ、統制の意欲をかき立てたことからも、彼らの物差しの消失がはっきりと見てとれる。

 「人々」の出現も大きな変化である。情報ネットワークの結び目で、行動し、表現し、創造もする様々な個人、地球という惑星の脳の「ニューロン」が、一斉に変化を見せている。かつてのように他人から提供されるサービスの受け身の「ユーザー」ではなく、各人の力と効率を倍増させる新しいインタラクティブなツールの生産者も消費者もかねた人々が出現している。

 情報化社会の新しいツールは、工業化社会における機械のような役割を果たしている。基本的なツールはマルチメディア・パソコンである。ポータブルであれデスクトップであれ、会社で使われようと家庭で使われようと、最小限の機能のみをもつ「ネットワーク・コンピューター」であれスタンドアローンの「パーソナル・コンピューター」であれ、経済成長に大きな影響を与え、利用が増大している。新たな通信手段の筆頭は、飛躍的に発展しているインターネットである。インターネットは、よく誤解されているがネットワークそのものではなく、あらゆるコンピューターに共通のプロトコルであり、電話・企業内システム・ケーブルテレビ・衛星・光ファイバーなどのネットワークの何にでもつながるものだ。インターネットは大容量に発展し、教育・情報・娯楽の分野でのインタラクティビティを刺激するだろう。こういった論理を極端にもっていくと、「個人多国籍企業」といった概念に結びつく。新しいツールをあやつれば個人でも、既存産業と競争することができるようになる。

非物質化した世界

 情報化による「人々」の出現は深い意味を含んでいる。統計や世論調査でカバーされる世界に慣れていた政治家は、これからは千差万別の人々を相手にしなくてはならなくなる。最近、国際的に活躍するある政治家が次のようにもらした。「今までは2種類の市民パワーを相手にしていればよかった。有権者と活動家である。我々がなじんでいるのはそういう世界だ。有権者なら機嫌をとればいいし、活動家はおどかせばいい。有権者には投票用紙を、活動家には街頭とテレビを与えればいい。有権者を管理するためには選挙公約と、マスコミが大きく取りあげるような活動があればいい。活動家を御するためには、時間と機動隊があればいい。今ではインターネットのようなマルチメディアのインタラクティブなネットワークの爆発のおかげで別のタイプの市民が出てきて、無数の人々が自己主張しようとしている。だが、こういう新たな状況では、何をどうしたらよいのかわからない!」

 この告白には、ネットワークから生まれた新しい形の民主主義を前にした政治家の混乱が表れている。こういったずれはパラダイムの変化、文化の飛躍的変化から起こっている。数学と法律で教育された政治・産業のデシジョンメーカーが分かち合っているデカルト的な・分析的な・直線的な・シリアルの・比例的な思考は過去のものとなっている。新しいパラダイムとなる複雑性の文化は、システィマティックな・非直線的な・多次元の思考に基き、増幅効果のダイナミズムをはらんでいる。

 新しい経済・社会・文化空間の特徴は非物質的なことにあり、「サイバースペース」とも呼ばれる。古いモデルで生き、古いモデルで考える人々には、分析不能・不可視のものとなっている。デシジョンメーカーの中に2つの文化が併存することになる。新しい文化的断絶は伝統的な政治的分裂よりもはっきりしている。世代間の断絶ばかりでなく、非物質的で複雑な環境への新しいアプローチも問題となる。我々が現在いるのは「情報エコシステム」の中であり、国家や企業などの組織が、協力もすれば競争もするという場なのである。

 新たなネットワーク経済の躍進を見ればこういった文化的断絶がよくわかる。工業化社会、市場経済の指標はもはや当てはめることができない。だが現代の激変に新しい目を向けさえすれば、「金では測れない」成長・雇用・活動を考えることは可能だ。

 市場経済の「中核」は国家が様々な税金や社会保障費を集めることを保証していた。経済成長の「推進力」は研究開発、産業の発展、市場の多様性などで、経済の進歩と社会福祉が保証されていた。経済は競争により活性化され、システムの存続に必要な雇用は経済成長により創出されていた。こういった図式は、モノの製造・流通に基いた物質的世界ではずっとうまくいっていたが、情報化社会には適合しなくなってしまった。というのも、古典的な経済学でいう利潤率の逓減の法則が、現代に当てはまっているからである。わずかの利益・市場シェア・競争力の向上の実現のためには、政府の莫大な努力と産業界のあの手この手の投資が必要となる。近年の峻厳な法則は、機械化・情報化のための生産性向上によって根絶しがたい失業が出現する、というものである。

 だが、活動領域の方は着実に発展している。情報化社会は新しい形の取引の触媒となり、非物質的な取引の流れを増幅させる。こういった新しい活動は、古典的経済では必ずしも金で測れるものではないが、社会の強い欲求から出てきたものである。工業化から生まれた市場経済の中核と、情報化に結びついた活動の拡張を、どうやって両立させればよいのだろうか? 労働の時間と性質について深く考えなおす必要がある。

 今日の労働契約は、時間=給料という一次元マトリックスによる経済成長の論理に閉じこめられ、場所・時間・機能の一体性という伝統的な法則が情報化経済の飛躍を妨げている。だが、離れた場所で働くことができるなら、時間を選んで働いたり、性質の違った複数の仕事を同時に行うこともできるはずだ。「自由業サラリーマン」という新しい一群が出現する。複数の所に勤めたり、コンサルティングをしたり、講演をしたり、「自由業サラリーマン」は通信・情報処理ツールを駆使する「テレ・アクティビティ」の雄である。

 アンケートによれば副業に前向きなサラリーマンの数は多い。給料が上がるよりも、生活の質の向上、教育、労働時間の削減、「時間バンク」の創設などの方を望む者もいる。マルチメディア・ネットワークになじんだ者の間では、「情報物々交換」なる新形式の経済も行われている。独創的な作品(ソフト、テキスト、アドバイス、音楽、グラフィック、AV)をただでユーザーに提供し、さらに付加価値の高い情報を「報酬」として受け取る。契約のマトリックスは拡大し、時間・給料という労働契約の2つの要素は、情報・価値・認知・時間などの新しい要素とつき合わされる。

 情報化社会の基本的な特徴の一つは、新形式の物々交換を刺激することである。ボランティア・人道援助・団体活動が加速化する。こういった動きから「時間資本」が創出されて「利子」を生む。「情報資本」も創出され、平行して機能する複数のユニットによるグループワークが、投資される時間のおかげで加速・効率化する。

 こういった移行点にこそ、次の世紀の経済発展の鍵がひそんでいる。古典的経済の「中核」を伸ばすことができないなら、雇用を間接的に創出する新機軸の活動領域によって外から息を吹きこむべきではないか? 情報化社会における取引やコンタクトの密度こそが、こういったつながりを実現するのだ。「情報スーパーハイウェー」と(誤って)呼ばれるインタラクティブな国際ネットワークの開発の賛同者にはよくわかっている。「ハイウェー」の比喩から想起されるのは通行料や交通規制のつきまとう工業化社会の重いインフラだが、「情報スーパーハイウェー」はそれとはほど遠いものだ。形づくられるのは、細かく枝分かれして社会のあらゆる部門に流れる毛細血管・静脈・動脈の複雑なからみ合いである。流れの増大は組織・器官・有機体の細胞の統合のために必要となるが、独自の機能は生命の基礎単位である細胞の「再生」にこそある。

時間と空間の崩壊へ

 明日のネットワークの中心にあるのは人間と、その行動を意味づけるメッセージの中身である。雇用は場当たり的な対策からではなく、時間・空間・労働の関係の変化、つまりインタラクティブで責任をもった社会に新たなパラダイムを導入することから生みだされる。工業化から生まれた政治の見方は、希少価値のある物の管理、生産・流通の集中、業務の専門化、活動の計画化と統制といった、19世紀以来の論理にとらわれている。だが、情報化社会のキーワードは、あまりある物(特に情報)・すたれる物の管理、交流の規模、操縦法、触媒作用などとなる。関係・交流の密度を増大させることなら何でも進めていい。時間を分割し、分担し、蓄積し、選択することで、仕事を時間から引き離すこと。通信コストの低下と端末・パソコンの操作の大衆化・単純化を通じて仕事場を再編すること(移動オフィス・ヴァーチャル企業)で、活動を決まった場所から引き離すこと。起業家を援助し、企業育成の場を設け、労働契約を改革することで、機能を多様化すること。年配者の経験を活かし、その知識を生きたものとして後世に伝えること。今日行われている対策とは逆である。現実を受けいれることが必要だ。政治決定や補助金を用いて雇用を創出するのはもう無理だが、雇用を生みだすようなシステムの奨励をはかればいい。雇用は間接的に、別の場所で、別の時間に、別の機能で見つかるだろう。こういった新しい物の見方は、選挙区・任期・事業税といった我々の民主制の慣行にぶつかることになる。

 情報化社会は雇用の助成という旧来の政策に挑戦する。多様性ということを政治家はもはや恐れるべきではなく、逆に奨励すべきである。多様性をコントロールできないのなら、個々のポテンシャルの出現の「触媒」となればいい。工業化社会から情報化社会への移行は、選択的な知の行使(孤立していることも多い)を継続するか、集団的な知の連帯的実践を奨励するか、という選択肢にまるごと表れている。複雑性はデカルト的分析で決められるような単純な要素に還元されるものではなく、責任をもち、情報に通じ、創造力をもった人々の一斉の行動によって構築されているのだ。21世紀への移行が成功するかどうかは、地球の脳の「ニューロン」、人間の顔をした明日の担い手の責任にかかっている。


(1996年8月号)

All rights reserved, 1996, Le Monde diplomatique + Saito Kagumi

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