似て非なるバルカンの人々

訳・斎藤かぐみ

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 歴史は、音楽や文学や食文化と並んで、バルカンの人々の運命を一つのものとしたが、文字や言語や宗教がかくも異り、そのことに誇りをもっている国々は、一様な分析に簡単に押しこまれはしない。

 第36回サロニケ国際映画祭(1)で紹介されたバルカン映画のパノラマを見ると、こういった多様性がわかる。トルコからは、主人公の内面への旅によってスーフィズムを考えるオメル・カヴール監督の「秘密の顔」(1991年)。ボスニアからは、戦争(この映画の場合は第二次世界大戦)前の純真を追憶するネナド・ディズダレヴィッチ監督の「恩知らずの天使」(1993年)。ユーゴスラヴィアからは、ベオグラードの精神病院を逃れた精神病者たちの冒険を描いたゴラン・マルコヴィッチ監督の「おどけた悲劇」(1995年)。マケドニアからは、同胞殺しの戦争の幕がいかに簡単に切って落とされたかを描いたミルチョ・マンチェヴスキー監督の英仏との共作の「ビフォア・ザ・レイン」(1994年ヴェネツィア映画祭金の獅子賞)。

 ルーマニアのミルチャ・ダネリウツ監督は、1993年の「婚姻の床」で、共産主義後のルーマニアという病んだ社会の混乱をどう生きのびるかを描いて、西欧に知られるようになった。新作の「議員たちのカタツムリ」では政治癒着の社会諷刺が手がけられた。チャウシェスク時代によくいたタイプの偉そうなまぬけの実力者が、無用の風車の開幕式に貧しい田舎町にやって来て、外国テレビ局の一団にふるまうために開かれる豪華な宴会に出すカタツムリを捜すように飢えた町の人々に命ずるに至る、といった話である。

 登場人物たちの中に旧体制のステレオタイプが登場していることがすぐに見てとれる。追従する者、役得を得る者、1人2人は抵抗する者もいて、ひどいあつかいを受けるマイノリティもいる。誰もが新たなサバイバル・ゲームに引きずりこまれている。

 「ルーマニアの状況はまったく変わっていない」とダネリウツ監督は言う。「新政府も人々も、前と同じメンタリティをもったままだ。」 まったくその通りで、カンヌから帰って見ると、監督はポストを追われ、企画も全部がキャンセルされていたのだった! しかし今日では、20本ほどのフィクションに加えて10本ほどの純粋プロパガンダのよせ集めが毎年つくられていたチャウシェスク時代に比べると、ほとんど映画がつくられていないような状況なのである。ルーマニアで急いで行うべきことは、保存されているフィルム(30%は傷んでいる)を救い、国産映画の配給を確保して外国映画との競争から守ることである。制作の低迷は助成金によってまかなえるのが3-4本しかないからで、映画産業の民営化も遅れている。文化への関心は、高いインフレ率と低い生活水準のために低下している。映画のチケットの安さはヨーロッパ随一(およそ70円)だが、古くて暗い映画館よりも海賊版ビデオと衛星放送の方が人気がある(2)

 ブルガリアの場合、EUや欧州評議会との協定があるとはいえ、困難に直面していることには変わりない。ブルガリア映画は近隣諸国とは違った道を歩んできた。50年代末の「雪どけ」の後、ユーゴスラヴィア映画のルネッサンスのさなかの60年代半ばから末には低迷していたが、他の社会主義諸国での制作が低迷した70年代初めには回復し、80年代に至る。現在の凋落については深刻というほかない。貧しいブルガリアで苦労して稼いだ金の使いみちは、病んだ自国映画産業を支援することではなく、ハリウッド映画を見ることなのである。

 ブルガリアの映画館の数は、5年前には2500あったのに今や100もない。改革後に制作された映画はたった5本、かつての4分の1のペースである。ニコライ・ヴォレフ監督の説明によれば、「健康と教育と文化が、80年代末にかさんだ借金の犠牲になった」のである。

 過去の傷のいえるのに時間がかかるブルガリアという国の同監督の最新作「The Great Horn II」(1994年)は、古いカルト・フィルムのリメイクである。1971年にメトディ・アントノフ監督が作った旧作は、17世紀に羊飼いの妻がオスマン・トルコにレイプされ、殺されたことの復讐劇だった。この新作はトルコ人地域を中心としてブルガリアでの受けはよく、トルコの4都市での上映さえ企画されている。

(1) 1995年11月3-12日開催
(2) "Variety International Film Guide 1996" (Focal Press, Boston, p.286)


(1996年7月号)

All rights reserved, 1996, Le Monde diplomatique + Saito Kagumi

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