ルクレール戦車のありがたい買い手


エヴァ・ティエボ(Eva Thiébaud)

ジャーナリスト


訳:生野雄一


 アラビア半島の小国アラブ首長国連邦(UAE)は、かねて近隣の強国サウジアラビア、イラク、イランを安全保障上の脅威に感じていた。1990年のイラン・イラク戦争でサダム・フセインの装甲車にクウェートが圧倒されるのを目の当たりにして、UAEははっきりと方針を転換し、他国との連携、武器の購入、自国軍の強化に向かう。アブダビの主導権の下で、ここ10余年の急速な軍備強化には目を見張るものがあり、バーレーン、リビア、イエメンなどの近隣諸国の内戦に軍事的な関与をするまでになっている。今や世界で5番目の武器輸入国であるUAEに対してフランスは大量に戦車を売り込んだが、武器取引が両国の関係にもたらす展開の様相を浮き彫りにする。[日本語版編集部]

(仏語版2021年3月号より)

"Défilé du 14 juillet (Char Leclerc)"(7月14日の革命記念日軍事パレードでのルクレール戦車)by cgo2 is licensed under CC BY 2.0

 フランス陸軍の代表的装備であるルクレール戦車はその先端技術がもてはやされる一方で、価格の高さと現代の戦争には適していない点が欠点とされてきた(1)。いずれにせよ、フランスとアラブ首長国連邦(UAE)の特別な関係の歴史の中心には、この戦車がある。

 冷戦期に、フランスはソ連の攻撃に備えて1,400台のハイテク戦車の製造を決める。フランス陸軍の武器を製造する国有企業のGIAT[le Groupement industriel des armements terrestres 陸軍軍備産業グループ]は、当時、走行スピードが速く、特に走行中に砲撃ができるという特徴をもった戦車を考案した。しかし、1991年12月にソ連が崩壊すると、当初の製造計画台数は多すぎるということになり、これを見直して406台に決めたが、1台当たりの価格は著しく跳ね上がった。

 そのため、GIATは輸出先を探し求め、なかでも、1990年のイラクによるクウェート侵攻を目の当たりにして脅威を感じていたUAEを売り込み先に定めた。翌年、GIATは、同国人のアッバス・イブラヒム・ユセフ・アル=ユセフ氏と仲介契約を交わし、2億3,500万ドルの手数料でUAEとの取引獲得を委託した。この秘密契約はウィキリークスで情報がリークされる2018年までは世間に知られていなかった。2008年にアル=ユセフ氏は、1億9,500万ドルしか受け取っていないとして、残額の支払いを求めて国際仲裁裁判所に訴え出ることになるが、その訴えは退けられる(2)訳注]。こうしているうちに、GIATはUAEにルクレール戦車390台、戦車修理用車両46台、およびフランス製弾薬を総額32億ドルで売り込むことになる。「この契約はまさに、フランスの対UAE外交の礎の1つとなるものだった」と今日、国民議会議員のセバスチャン・ナド氏は見ている。そして1995年、UAEに対して「外敵からの攻撃がある場合にはフランス軍が介入することができる」という戦略合意が両国間の連携を強めることになる(3)

 ところが、UAEへの戦車販売はフランスにとって期待したほどの妙味はなかった。2002年の議会報告書は、「ルクレール戦車の価格はぎりぎりの値段だった」とし、当時、機会損失を13億ユーロとみていた(4)。また、GIATはUAEの求めに応じて、初期に納入した戦車の装備を無償で最終納入分の戦車の性能水準にアップグレードすることをコミットしていた。このアップグレードを実施するために、何百人もの技術者やエンジニアを、納入期間中(1996年~2006年)UAEに送り込む必要があった。議会報告書はこれを「かなりの経済的負担」だと指摘している。

 さらにUAEは重要なオフセット契約、つまり「兵器購入の見返りとしての補償条件」を手に入れていた。GIATは、UAEの企業設立に資金を出すことをコミットしていた。対象企業は多岐にわたり、地域空調工事のタブリード社や、新種ナツメヤシの培養・販売を行うアル=ワツバ・マリオネット社などがそれだ。これらの企業は10年後には20億ドルの「付加価値」を産むべきものとされている。研究者のジャン=ポール・エベール氏によると、GIATはこのほかに石油メジャーのトタルに協力して「UAEでの発電・配電の民営化」にも参画している。「したがってUAEの経済発展に関する政策決定にGIATが強く関与していることになる」とエベール氏は1997年に書いており、1999年に終了したこの補償プログラムの問題点を指摘している(5)

 2006年にGIATはネクスタ―という社名になる。同年、UAEが新規導入したこれらの戦車のメンテナンスをアル=タイフ・テクニカル・サービシーズ社に委託する。同社はアブダビに駐在するネクスターの数十人のスタッフの支援を得ながら、フランスとの連携、アフターサービスおよび交換部品の供給を担う。

 やがて、もっとフランス人がやってくる。2009年にはアブダビに近東におけるフランス最初の3軍統合基地が設置された。約700名の兵士を擁するこの基地は、空軍基地、海軍基地および陸軍派遣部隊を含み、フランス国防省(当時)のいう「この戦略地域での危機発生時に出動するためのもの」である。

 2011年に、ネクスターはUAE戦車の市街地戦機能を改善するために、都市部での運用を考慮した仕様のAZURと呼ばれる戦車の装備一式10台分を契約する。それは、イエメンで役に立つことになる。2015年の夏、イエメンのアデン港はサウジアラビアとUAEの連合軍によって奪還され、8月の初めにはルクレール戦車が上陸する。ルクレールは、なかでも、アル=アナドの軍事基地の奪還作戦に参画する(6)。これは、フランスの製造業者にとって、またとない機会だった。「ルクレール戦車がイエメンの戦闘で登場したことは地域の軍関係者を強く印象付けたと確信している」とネクスター社長のステファン・マイェール氏は2016年3月の国民議会で自賛していた。おそらく、新たな売り先を期待してのことだ。しかし、新たな買い手は現れず、この戦車を購入したのはフランスを除けば今もってUAEのみだ。ところが、2020年10月、UAEは70台のルクレール戦車のヨルダンへの譲渡を発表した。本来、この譲渡にはフランスの同意が必要だった。いずれにしろ、2018年11月にはまだ、イエメンのホデイダ港の郊外にUAEのルクレール戦車の姿があった(7)

 戦闘に投入されたルクレール戦車は、保守・修理が必要だが、軍事偵察局[フランス国防省所属の諜報機関]は、2018年10月の文書で、UAE軍が現地で修理等を行うことの困難に直面したと指摘している(8)。「イエメンの戦場にはしかるべき支援部隊がいなかったため、ルクレール戦車を含むUAEの車両のメンテナンスは海路でUAEに移送してから行われた」と書かれている。そのメンテナンスにはアブダビに駐在するネクスターのチームが参画した可能性がある。

 仮にそうした支援をしていたとすると、フランスとルクレール戦車メーカーのネクスターは国際刑事裁判所(ICC)にUAEと並んで出廷することになるのだろうか? 国連人権理事会(UNHRC)は、イエメン戦争は、実際すべての戦争当事者が数多くの重大な人権侵害を冒している流血の戦場であったとし、紛争が終わらないことについては武器を供給している諸国にも責任があると強調している。憲法および人権のための欧州センター(ECCHR:European Center for Constitutional and Human Rights)[非政府組織]の法律家カネル・ラヴィット氏は「国際刑事裁判所には西側諸国と企業を含めて罪を犯した者すべてを裁く権限があるべきだ」と考えている。今のところ、ネクスターはこの非政府組織が問題とする欧州企業には含まれていない。

 「武器の供与とメンテナンスは戦争手段の輸出審査に係る大臣間の権限として外部から見えない形で行われるのではなく、議会で堂々と議論されるべきです」と、防衛に関する民主的統制のために活動する非政府組織である兵器観測所(Observatoire des armements)のトニー・フォルタン氏はみている。UAEの戦車が耐用年数の半ばにさしかかり、更新していく必要があるこの時期、そしてUAEが戦争犯罪に問われるかもしれないこの時にこそ、UAEとフランスのこの提携関係の性質と形態がフランスで公開の議論の対象になるべきだと思われる。


  • (1) Cf.Antoine d’Évry, «Les chars, un héritage intempestif ? », Focus stratégique, n° 53, Institut français des relations internationales, Paris, septembre 2014.
  • (2) Cf. Fabrice Arfi, «De la corruption à la guerre au Yémen, l’histoire secrète des charsfrançais», Mediapart, 28 septembre 2018, www.mediapart.fr
  • (3) Nathalie Goulet, rapport « sur le projet de loi, adopté par l’Assemblée nationale, autorisant l’approbation de l’accord entre le gouvernement de la République française et le gouvernement des Émirats arabes unis relatif à la coopération en matière de défense », Sénat, Paris, 6 juillet 2011.
  • (4) Rapport d’information sur la situation de GIAT Industries présenté par les députés Yves Fromion etJean Diébold,Assemblée nationale, Paris, 17 décembre 2002.
  • (5) Jean-Paul Hébert, «Analyse économique des exportations d’armement », Groupe de recherche et d’information sur la paix et la sécurité, Bruxelles, mai 1997.
  • (6) Cf. Michael Knights et Alex Almeida, «The Saudi-UAE war effort in Yemen (part 1): Operation GoldenArrow inAden», The Washington Institute for Near East Policy, 10 août 2015.
  • (7) Cf. Romain Mielcarek, « Impuissance ou cynisme face aux ventes d’armement européennes», Le Monde diplomatique, septembre 2019.
  • (8) Note du 3 octobre 2018 sur la situation sécuritaire au Yémen de la direction du renseignement militaire (DRM), révélée dans « Cartographie d’un mensonge d’État », Disclose, 15 avril 2019, https://made-in-france.disclose.ngo
  • [訳注] 訴訟の内容は、下記International Policy Digestの記事における“Summary of the case”に詳しい。

(仏語版2021年3月号より)