制度的レイシズム、米国人種差別の根源


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版7月号論説)

訳:土田 修



 米国の多国籍企業はこれまでしばしば、自分たちに利益をもたらした悪行を隠すため慈善行為を利用してきた。5月からはブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter、通称BLM)運動[訳注]を含むアフリカ系米国人の非営利団体に数億ドルを寄付してきた。「制度的レイシズム(racisme systémique)」と闘う運動へのこうした気前の良さは何やら保険を掛ける行為のように思える。「制度的」の意味を誰よりもよく知っている、アップル、アマゾン、ウォルマート、ナイキ、アディダス、フェイスブック、ツイッターは、企業の足元で米国社会の構造的不公平が、警官の暴力とは異なる別の恥ずべき事態として問題化されることを心配しているに違いない。こうした仮説に基づくと、抗議運動の参加者たちはこの先ずっと、アフリカ系米国人の前でひざまづいたり、黒人差別の象徴である彫像を撤去したり、通りの名前を変えたり、「白人特権」を懺悔するといった「象徴的な」行動で満足することはないだろう。ところで、多国籍企業の経営者は、白人警官に首を膝で押さえつけられて窒息死した黒人男性の映像が拡散して米国社会を覚醒させた大衆運動が、企業にとって無害なこうした一連の象徴的行動にとどまることを願っている。

 数知れぬ黒人家庭を、返済不可能な不動産貸付という餌で釣り上げ破産させたJPモルガン銀行のCEO、ジェイミー・ダイモン氏がひざまづいたのは、[アフリカ系米国人ではなく]彼の銀行の巨大な金庫室の前でのことだった。2012年の大統領選挙で共和党候補だったウィラード(・ミット)・ロムニー氏は、「47パーセントのアメリカ市民は寄生虫だ(連邦所得税を払っていない)」と発言したことがあるが、人種差別に反対する抗議活動に参加し、「ブラック・ライブズ・マター」と何度も呟いた。香水・化粧品のエスティローダーは、「人種的・社会的正義を促進し、教育を受ける機会をもっと増やそう」と1000万ドルを寄付した。こうした目的でエスティローダーは恐らく、2016年の大統領選でドナルド・トランプ陣営に献金している。

 こうしたパロディにまさる茶番劇とは別に、「制度的レイシズム」への反対運動が、バーニー・サンダース氏がジョセフ・バイデン氏に民主党予備選で敗れた数週間後に始まったことを指摘しないわけにはいかない。サンダース氏はこの制度に立ち向かうのに最もふさわしい候補だったし、反対にバイデン氏はこの制度を黒人にとって厳しいものにするのに大いに貢献した人物だ。実のところ、1994年に当時のバイデン上院議員は、多くのアフリカ系米国人を投獄しやすくする犯罪法案の起草に重要な役割を果たした。しかも、米国議会にいる38人の黒人議員のうち26人はこの法律に賛成票を投じている。肌の色が必ずしも良い選択を保証しないということだ。そうした出来事の数々は既にバラク・オバマ大統領が体現しているところだ。

 米国では大多数のアフリカ系米国人家族の資産は2万ドル(約220万円)以下に押さえ込まれている(1)。つまり、無いに等しい。だから、アフリカ系米国人家族は貧困地区に住むしかなく、学校は相当程度に固定資産税で賄われているので、子どもたちは学力の低い学校に通わせるしかない。彼らの子どもたちは将来、職についたとしてもたちまち借金に苦しめられることになる。「制度」の問題の核心はそこにある。すなわち、「白人特権」とは何よりも資産の特権のことだ。そして、JPモルガン銀行は間違いなくそのことに気がついている。


  • (1) Lire Dalton Conley, « Aux États-Unis, la couleur du patrimoine », Le Monde diplomatique, septembre 2001.


  • [訳注] アフリカ系米国人に対する警察の暴力行為に抗議して2013年7月に設立された非暴力・不服従の市民運動。2020年5月、米ミネソタ州ミネアポリス近郊で警察官に拘束されて死亡したジョージ・フロイドさんの事件を受けて抗議行動の先頭に立ち、国際的注目を集めた。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年7月号より)