製薬会社にとっての金脈


カンタン・ラベリ(Quentin Ravelli)

国立科学研究センター研究員
著書 La stratégie de la bactérie. Une enquête au cœur de l’industrie pharmaceutique(Seuil, Paris, 2015.)


訳:嶋谷園加


 フランスでも、新型コロナウイルス感染症に対する大規模なPCR検査が行われないことが重大な問題となっているが、それを阻んでいるものは、長年にわたる保健行政に対する政策決定者たちの無関心だ。また、人々の健康と引き換えに富を得んとする動きにも、注意が必要である。[日本語版編集部]

(仏語版2020年4月号より)

Dhruvi Acharya. – « Scream » (Le Cri), 2015
© Dhruvi Acharya - www.dhruvi.com


 経済危機も感染症と同様に、その被害をこうむらない者もいる。3月半ばに株式相場が暴落している時、製薬会社のギリアドの株価は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の治療薬レムデシビルの臨床試験を発表した後、20%上昇した。イノビオ・ファーマシューティカルズ社の株価はINO-4800という実験的ワクチンの開発計画の発表に続き200%膨れ上がった。防護マスクを製造するアルファ・プロ・テック社の株価は232%跳ね上がった。COVID-19の世界的流行の原因となった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の分子診断キットのお陰で、コ・ダイアグノスティックス社の株価は、1370%以上高騰した。

 COVID-19が流行し始めて3カ月も経つ今でも、医師や医療スタッフのものも含め防護マスクが不足し、大多数の人々が検査を受けられない一方で、この騒乱のさなかにこうして富を成すことができるのをどう説明すればよいのか? 韓国からドイツ、オーストラリア、イタリアのロンバルディア州を経て米国まで、世界的な議論のただ中にあるこれらの検査は、なぜ、フランスでは注意深く取り入れられていないのか。保健総局長を務めるジェローム・サロモン氏は、その大規模な検査の活用を「外出禁止の解除」の時までとっておくのか? 政府の発表とは裏腹に、感染者の隔離を唯一の武器としてウイルスと戦うどころか、これは我々自身の経済的あるいは社会的体制をめぐる戦いなのだ。それは、製薬産業が中心的な役割を担っているが巧妙に国民的な議論から遠ざけている保健衛生や、研究、製薬に関する政策の危機なのだ。

 コロナウイルスの世界的流行は、ここ数週間の間に、収益を求める考え方に基づいた社会モデルに亀裂が生じていることを明るみに出した。その考え方は医療スタッフや患者への制約を絶えずあたえる予算削減を正当化するものだ。フランスでは、集中治療室と救急救命外来が飽和状態となるにつれ、CIU[救急医療に携わる医療従事者のための団体]では、何カ月前からより多くの物的人的支援を要求する闘いを行っている医療スタッフたちは、徐々に救命治療が厳しくなり数の減っていく患者の救命措置を続けるか、また常により患者数の多い緊急治療をあきらめるか、という重大な選択をしなくてはならない。アルザスのようないくつかの事例では、もはや生命を維持するべきか、そのまま死なせるべきかが問題となっている状況すらあるのだ。しかし、3月22日には、すでにグラン・テスト地域圏[フランス北東部。ベルギー、ルクセンブルグ、ドイツ、スイスと国境を接する]で271人が亡くなっているが、ライン川のすぐ向こう側の、ドイツのバーデン・ヴュルテンベルグ州では人口が2倍である上に、フランスより早くからの感染が確認されたのにもかかわらず、死者が23人と10分の1以下であることをどう説明するのか?

 この問いについての答えの一つは、製薬産業が我々の保健衛生システムの中で占める極めて政治的な役割に見出せる。ウイルスを検出し、我々にワクチンを接種し、または治療する手段を作り出せるのはこの産業なのだ。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、ウイルスのDNAを増幅し検出するテクノロジーの検査キットは、フランスに圧倒的に不足しているが、製造は容易だ。アボット、キアゲン、クエスト・ダイアグノスティックス、サーモフィッシャー、ロッシュ、ビオメリュー等の多くの企業が間欠泉のように突如あらわれて、この巨大市場に参入している。この技術の製造原価は低く、一つのキット12ユーロ程度のものがフランスでは112ユーロで売られ、そのうちの54ユーロは患者の負担である。しかし、アボットやロッシュのような大企業が技術のプラットフォームを、地方衛生研究所に法外な価格で売っており、他の企業が参入できないような高価な技術料金の協定を結ぶことも可能だ(1)

科学、医学、生態学による全体的ヴィジョンに基づく研究を志向すること

 これらの経済的な制限があったとしても、3月20日時点で、フランスではイランやオーストリアと比べて、住民100万人あたり、半数以下の検査しか行われていないことをどう説明するのか? この日付で実施した検査数が4万件を下回っており、韓国の31万6644件、ドイツの16万7000件、ロシアの14万3619件あるいはオーストラリアの11万3615件と、なんとかけ離れていることか?(2)。韓国では車の中、あるいはガラスで仕切られた小部屋でゴム手袋をはめた臨床医が検体を採取し検査することができる[訳注]。徹底的な検査は感染者ごとの追跡調査を伴い、陽性者であれば隔離することで、伝染の連鎖を断ち切ることができる。その結果、発生源の中国に近いにもかかわらず、外出制限の措置がはるかに緩やかで、陽性患者の死亡率はより低く、とりわけ死亡者数はフランスより極めて少ない。

 検査が感染症に対するフランスにおける闘いの死角の一つであるが、その中にはまたもう一つ別の死角がある。すなわち、ウイルスの存在を実証する検査に不可欠な化学成分の試薬が不足しているのだ。これらの分子についてはほとんど何もわからない。何から製造されているのかもわからず、何の役に立ち、本当はどれだけの費用が掛かるのかもわからない。何十億人の人類の健康にとって、あまりにも貴重なこれらの試薬の全ての成分構成の特許を取り除き、全ての産業の機密や、全ての商業上の秘密を世間にオープンにして、製造工程とともに原料の出所を公開しないのは、なぜだろうか?

 検査に加えて、この戦争において2番目の不可欠な武器は、COVID-19の治療に役立ちそうな何らかの薬だ。中国政府の発表によると、日本の富士フイルムが製造する抗インフルエンザ薬アビガンの有効成分ファビピラビルは、ウイルスを克服する期間を短縮し「とても良い結果」を得られるようだとしている。他の候補として仏サノフィ社と米リジェネロン社で共同実験するケブザラは、インターロイキン6(IL-6)受容体に付着して、その働きを抑えるヒト型モノクロナール抗体で、関節リウマチの治療に使用されるが、COVID-19に罹患した重症患者のウイルス性肺炎の炎症反応を抑制することができる可能性がある。産業政策の代理として、緊急時にこれらの分子成分をCOVID-19の治療のために再転用するという状況は、保健衛生問題の計画化の欠如と、この時ばかりと色めき立つ極度の興奮を表している。

 感染症の世界的流行を予想することはそもそも不可能で、ましてや学術研究は必要のない時に役に立たないと非難されると考えられるかもしれない。だが、この論拠は筋が通らない。というのは、予言できなくても科学、医学、生態学などを総合したヴィジョンに基づき研究を準備して、方向付けを行う事はできる。こういった研究は利益至上主義の下、短期的に行うことができない。人々の真の必要性に応じて、長い時間をかけて行われるのだ。しかし構造上これらの必要性と市場の大きさは適合していない。薬の85%は世界の人口の17%を構成する国々で消費され、また世界でもっとも多い死因のひとつである感染症のための研究よりも、うつ病や肥満症についての薬剤研究の方が多いのだ。

 ひとたび危機が勃発すると、ワクチンという3つ目の武器があふれんばかりに例示しているように、上述のずれが異常な事態を招いている。たとえば、ドナルド・トランプ氏は「米国でのみ」使用するため、ドイツのキュアバック社の抗コロナウイルスのワクチンの特許を買うと持ちかけたが、アンゲラ・メルケル氏の断固とした拒絶を招き、欧州連合から緊急の補助金8000万ユーロの拠出が[同社に対して]決まった。この外交上の性急さは、選挙を意識した下心と無縁ではなく、産業の実態を表している。例えばこうした研究は主として経済的なモチベーションと特許に基づいて行われ、大手製薬会社は基本的な医療分野の一部を成す細菌、あるいはウイルスによる感染症への投資を抑制するといったように。しかも、そこではまだ現実の開発ペースには追いついていない。ウイルス対抗ワクチン開発のトップランナーと考えられているモデルナ・セラピューティクス社でも、ワクチンを世に出すには何カ月もかかるようだ。だが、この開発プロジェクトを発表するや、その株価が高騰する妨げにはならなかった。

 実際に誰が感染しているかを知ることで、不確実性、救急外来への殺到、行き過ぎた措置を避けられるかもしれない。隔離や外出禁止は、政府の突然の方向転換を導く不確かな計算ではない、ウイルスの実際の進行具合に見合ったものになるのだろう。大規模な検査はまた、医療の民主主義において容易に行える措置だ。しかし、これは、国家が将来予測を行い、さらには医療産業を統制することを想定しているため、利益を上げることで成り立つ資本主義システムの中で実施することは難しい。社会階層による差別という話にもなり得る。検査は、一般の国民にとってはもっとも重篤な場合に限られているのに、3月半ばに18人の議員と2人の大臣が受け、陰性だったことを公表している(一人を除き)。これは正に保健衛生上の社会的不平等が存在しているということだ。検査は階層的特権になった。

 この民間の研究の限界状況が公的な研究によって補完されるわけではない。予算の削減はしばしば地道に発展してきたプロジェクトをギロチン刑のように襲う。コロナウイルスのような、「RNAウイルス」(遺伝物質がリボ核酸で構成されるウイルス)複製のメカニズムの研究者である、ブルーノ・カナール氏は3月4日のオープンユニバーシティの討論の場で説明している。「2006年になるとSARSコロナウイルス(SARS-CoV)に対して、政策当局の関心がなくなってしまいました。SARS-CoVが再来するとは思わなかったのです。ヨーロッパは納税者が納得しないという理由で、これらの将来に備えた大きなプロジェクトから手を引いてしまいました。今ではもうウイルスが出現したら、研究者は緊急招集され、今後に向けて解決法を見つけるよう要求されます。5年前にベルギーとオランダの同僚たちと共に、欧州委員会へ前もって備える必要があることを伝えるための意見書を2回送っています(3)」。この研究者は「基礎科学が感染症に対抗するための、より優れた保険なのです(4)」と、必死に訴えるが、ウイルス学と、細菌学のいくつかの分野は、応用薬学研究あるいは基礎的な細菌学研究であっても、人気のない分野であることに気付くだけだった。何年もの投資削減と、別の類似した感染症の流行のあとにしては、300万ユーロの交付金 を得て、実施されるフランス国立研究所のAppel Flash[COVID-19に対する緊急プロジェクトの公募]は、あまりにも人を馬鹿にしたものだ。2015年のMERS(中東呼吸器症候群)、そして2003年に中国で突然現れたSARS(重症急性呼吸器症候群、およそ30カ国で8096人が感染し774人の死者を出している)の後、韓国はついに、自国の保健行政政策を新しい方向へ向け、現在の態勢の土台を築いた。政府が過去のことを忘れないためには、明らかに強烈なトラウマを何度も繰り返すことが必要である。また、この場合でさえもたいてい記憶喪失にやられてしまう。

 何年もの間、保健行政を念入りに蝕んだ後に、突然その重要さを強調しながら、国が忘れさせようとしているのは、まさにこの基本的な政策なのだ。あらゆるカテゴリーの民営化の第一人者である、エマニュエル・マクロン氏は3月12日木曜日に、およそ2200万人のテレビ視聴者の前で「COVID-19の世界的流行が示すものは、市場原理の外に置かねばならない財やサービスが存在するということです」と顔を赤らめることもなく言い放った。民間の研究所では数十年前から臨床試験が実施されてきたが、政府の報道官シベット・ンディアイ氏は、政府側として、国家が援助を始めることを期待するとした。フランスはいかにも遅まきながら、ヨーロッパの感染の中心地となったロンバルディア州知事の「カーペットの下に問題を隠してしまうか、カーペットを取り払い、床を洗うかだ」という言葉に耳を傾けはじめたようだ。次の段階ではおそらく、180度の転換をすることになるだろう。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソスの「検査、検査、検査しなさい」という言葉を含めあらゆる忠告を軽視した後に、ジェローム・サロモン氏はその状況判断について弁明するのだ。窮地に立たされて、同様に認められるものとして、薬剤研究や、保健衛生全般があるが、これらは民間の手に委ねるべき問題ではないだろう。彼らはおそらく、外出禁止が解除されるとすぐに、その舌先三寸の言葉を忘れる。政策についての記憶喪失がさらに山積することにより、次の保健行政の危機を生み出すのだ。



  • (1) Communiqué de presse, Observatoire de la transparence dans les politiques du médicament, 18 mars 2020.
  • (2) Esteban Ortiz-Espina et Joe Hasell, « How many tests for Covid-19 are being performed around the world ? », Our World in Data, 20 mars 2020.
  • (3) Bruno Canard, « Coronavirus : la science ne marche pas dans l’urgence ! », Université ouverte, 4 mars 2020.
  • (4) Bruno Canard, « La science fondamentale est notre meilleure assurance contre les épidémies », CNRS Le journal, 13 mars 2020.

  • 訳注] 韓国で実施されているドライブスルー検査と、電話ボックスの中で行なうウォーキングスルー検査についての言及。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年4月号より)