不十分な新型コロナウイルス対策

amazon配送センターの裏側


ジャン=バティスト・マレ(Jean-Baptiste Malet)

ジャーナリスト
著書 En Amazonie. Infiltré dans le « meilleur des mondes » (Fayard, Paris, 2013)


訳:三竿 梓


 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策として世界中で外出禁止令が出される中、アマゾンの利用は急増し、配送センターは前代未聞の注文量の対応に追われた。2020年3月、パンデミックの最中に欧州の倉庫では何が起きていたのか。現場の従業員や労働組合員へのインタビューから得た生の声をお届けする。[日本語版編集部]

(仏語版2020年4月号より)

Dhruvi Acharya. – « Intuit » ( 直観する ), 2019
© Dhruvi Acharya - www.dhruvi.com


 家から出ることができない状況下で、運動用マットやダンベル、芝刈り機、デッキチェア、バーベキューセット、子供を遊ばせておくための粘土を手に入れるにはどうすればいいだろうか? 在宅を指示された数百万人の人々はこの問いに六文字で答えを出した。Amazonだ。パンデミックの最中、オンライン販売世界第一位のアマゾンは、外出禁止令にもかかわらず、まるで魔法のランプから飛び出した魔人のように、多種多様な望みを叶えている。

 矛盾した状況が現出している。世界中で工場が閉鎖され、書店、スポーツ用品店、そのほか生活に不要不急な品物を扱う店はシャッターを下ろし、規則を守らなかった人は重い罰金を科された。しかし、大都市の郊外には千人以上の人々が密集している場所がある。物流センターだ。2020年3月末現在、大規模小売業の物流センターや郵便物集配センター、オンライン販売用の物流センターはフル稼動している。

 「言うまでもなく、私が勤めているアマゾンの配送センターでこれほど多くの取扱量を見たことはありません」と、カステル・サン・ジョヴァンニ(エミリア=ロマーニャ州)配送センターのイタリア労働総同盟(CGIL)組合員、ジャンパオロ・メローニ氏は言う。フランスでは、3月2日~8日の週、店頭へ客が押し寄せたにもかかわらず、オンライン販売は実店舗売上の4倍になった。以降、この傾向は強まっており、平時からフランスのオンライン販売の20%を占めるアマゾンの一人勝ち状態になっている。

 「この危機の当初から私がミラノの配送センターで見てきた光景はひどいものですよ」とロンバルディア州のCGIL組合代表であるアントニオ・バンディーニ氏は打ち明ける。「イタリア人への配送品のほとんどは、アマゾンが出した告知に反して今すぐ必要なものではありません。私が配送用カートで目にしたものですか? マニキュアやスポンジボール、それにアダルトグッズですよ」

 「私が働く配送センターは食品センターではないので、食品の取り扱いは全体の5%以下です。車のホイールにビデオゲーム、DVD……。昨日、配送用カートを10台ほど無作為に選んで調べたところ、そこに生活必需品は一つもありませんでした」と、モンテリマール(ドローム県)のアマゾン・ロジスティクスのフランス労働総同盟(CGT)代表、フージア・ベンマレク氏はまくしたてる。スブレ(ソーヌ=エ=ロワール県)の配送センターでは、CGT代表のアントワンヌ・ドゥロルム氏が「ここは靴と服が専門なんですよ!」と明かす。バート・ヘルスフェルト(ヘッセン州)の従業員、クリスチャン・クレーリング氏は「私の働くドイツでも同じことです。ここでは主に服や靴、それから蒸留酒を発送しています」と言う。

 この前代未聞の需要のピークに対応するためには人手が必要だ。3月16日、アマゾンは米国だけで10万人を臨時雇用すると発表した。80万人の常勤社員と米国以外でも大規模な臨時雇用を行うことによって、アマゾンは100万人近い労働者を率いている。「現在、英国では従業員の大半が週50時間働いています。1日13時間働く人も珍しくありません。多くの長時間勤務に頼っている状況です」とイギリスの全国都市一般労組(GMB)でアマゾンを担当する全国組織責任者のミック・リックス氏は言う。

 この間にもアマゾンの幹部たちはシアトル(ワシントン州)の本社でCOVID-19陽性の従業員を記録した機密文書を積み上げている。3月1日、アマゾンはイタリアの最初の感染者2名を公式に認め、3月3日にはアメリカの最初の感染者を発表している。感染者は、イタリア、スペイン、フランス、ドイツ、ポーランド、米国の配送センターで3月中に増加しているが、各地の労働組合によるとアマゾンはその大部分を公にしていない。

 マドリード郊外、エレナスにあるアマゾン配送センターのスペイン労働者委員会(CCOO)代表ダグラス・ハーパー氏は、「3月19日、この配送センターでは4名の陽性が公式に確認されていますが、実際のところ感染が疑われる症状のある従業員は百人以上います。全員が現場でこの陽性者4名と接触しています」と怒りをあらわにした。この危機的状況を受け、CCOOはマドリードの配送センターの即時閉鎖と完全な消毒をアマゾンに求めたが、拒否されている。ハーパー氏はこう続ける。「アマゾンは配送センターの状況を調査するよりもむしろ、感染者と交代させるために臨時従業員を雇ったのです。何人かの従業員が数日間しか働くことができなかったのは、配送センターで働き始めたとたん、今度は彼らに症状が出たからです」

 ロウィン=プランク(ノール県)にある配送センターの夜勤チームで働いたフランス人の臨時従業員は、当時発熱していながら電話で私たちにこう話した。「私は3月7日にアマゾンに入社しました。入社から10日後、医師が新型コロナウイルス陽性の診断を下したため私は現場に行けなくなり、このことを知らせるためアマゾンの人事部に連絡しました。アマゾンが他の従業員を守るためです。アマゾンからの唯一の回答は、私の雇用主がアデコ(派遣会社)である以上、対応はしないというものでした! アマゾンは配送センター内の予防策を一切講じていません。ロッカーから作業場、タイムレコーダーの各場所で全従業員が濃厚接触しています(1)」。同じ出来事はバルセロナやイタリアのエミリア=ロマーニャ州、ピエモンテ州、ロンバルディア州の各配送センターでも起きている。

 3月の間ずっと組合員たちはマスクや手袋、保護メガネ、除菌ジェルの支給を強く求めてきたが、無駄だった。神奈川県の小田原配送センターで働く男性従業員が3月20日に証言したところでは、食堂の入口にアルコール消毒ポンプが設置された以外、COVID-19への対策は何も取られていないという。「私たちは、もし病気になったとしてもそれは自己責任で、他者との距離は自分たちで気をつけて取るように、とマネージャーから言われました。休んだ場合、給料は払わないと予告されましたし、熱が出ても職場に来るよう促されたのです」[訳注]。

 3月19日、中央組合代表らとの緊急会議の際、アマゾン・フランス・ロジスティクスの最高経営責任者であるローナン・ボレ氏は、社内で3名のCOVID-19感染があることを認め(労働組合によると数字は少なく見積もられている)、配送センター内の安全対策の不備も認めた。モンテリマールの配送センターで従業員の健康管理を担っている産業医のミュリエル・ルブラン氏は、「衛生の観点から言えば企業活動を停止するほうが賢明でしょう」と言う。一方、ソーヌ=エ=ロワール県のスヴレにある配送センターで労働基準監督官を務めるセバスチャン・ドゥプランシュ氏は「新型コロナウイルスの兆候がない場合でも、従業員を自宅待機させる」ことを推奨し、この点に関してはポーランド、スペイン、イタリア、フランスの労働組合もセンターを閉鎖すべきであるという意見で一致している。この間に100人以上のフランス人従業員が就労を拒否することができる「撤退権」を行使した。それに対しアマゾンは書面で、「職場の衛生環境はCOVID-19に関する規制に合致しています(人事部によって確認済)。労働環境に重大で差し迫った危険は一切見られませんし、政府の見解に従っています。ですから、撤退権は認められませんし、どのような場合でも欠勤すれば給与は支払われません」と回答した。

 イタリアでは、経営者団体、政府、労働組合が3月中旬に締結した労働者保護のための規制合意をアマゾンに遵守させるため、労働組合の代表者らがストを呼びかけた。「しかし残念なことに、メディアの関心がイタリアの医療崩壊の過酷な状況に集中し、抗議集会が厳しく禁止されている時に、アマゾンの配送センターが国民全体を衛生の危機に陥れていることを人々に伝えるのは至難のわざです」と、CGILの全国コーディネーターであるマッシモ・メンシ氏は嘆く。

 アマゾンは、ウイルス感染の可能性がある配送センターへ従業員を次々と送り込むために驚くべき方法をとった。賃金を引き上げたのだ。ロジスティクス部門の従業員は一時的に、アメリカでは時給2ドルの割増を、ヨーロッパ諸国では2ユーロの割増を受け取ることになり――ただし、大方の商品をドイツへ発送しているポーランド人は、60サンチームの割増しか受け取れないだろう――、その総額は3億5千万ドルになる。「こうなることは予想できたでしょう。私は賃金アップには全く反対していません」と英国のリックス氏は言う。「しかし、配送センターで罹患する従業員の数は増えていくでしょう。彼らは他の従業員にウイルスを移し、その結果より多くの求人が必要になる。このアマゾンのやり方は危険であるだけでなく、完全に無責任です」

 アマゾンは、ニューヨークのラガーディア空港に近いデリバリーステーション(クイーンズ区)で3月19日に行ったように、いくつかの配送センターの閉鎖と消毒をやむなく決定する。アマゾンの取締役会会長兼社長であるジェフ・ベゾス氏は、今後は「必要不可欠な商品の保管と配送を優先(2)」したいと言う。フランスの労働組合の代表者たちにはボレ氏からこう説明があった。「ビデオゲームは必要不可欠な商品です。家にいなければならない子供の世話に必要ですから」。3月21日以降、アマゾンはメディアに対し、今は「必要不可欠な」商品しか発送していないと繰り返し説明している。ただし、それが何を指すのかは明らかにしておらず、この告知から5日経ってもまだGPS付きの犬用首輪は配達可能となっていた……。

 この話は、巨大プラットフォーム企業が提供する消費者への個別サービスと、彼らのビジネスモデルの土台となっている隠蔽されがちな社会全体に関わる損失との因果関係に気づかせてくれる。「何年も前からアマゾンは、拠点を置くそれぞれの地域に合わせて税制上最適な手段を取ることによって、租税回避をしようと工夫を凝らしてきました」と、アマゾンの主要労働組合を集約した国際組織、ユニ・グローバル・ユニオン書記長のクリスティ・ホフマン氏は念を押す。「そして今、この歴史的な危機から最も恩恵を受けているのは、そう、アマゾンなのです!」。こうして世の中の力関係は変わってしまうだろう、と彼女は考える。



  • (1) 何度も質問したが、アマゾンとアデコは回答を拒否した。
  • (2) « A message from our CEO and founder », blog de la société Amazon, 21 mars 2020.

  • 訳注]流通ニュース(電子版、4月2日)などによると、小田原市の配送センターでは従業員2人の感染が明らかになったことから、施設の消毒を行ったほか、濃厚接触者と同じエリアで働いていた従業員計26人を2週間、自宅待機にした。元従業員によれば、その後、センター内ではマスク着用や休憩室・ロッカールームの使用禁止などの対策が取られているが、施設内の階段や入り口などでは相変わらず密集した稼働状態が続いており、感染拡大に不安を感じる従業員も多いという。[日本語版編集部]

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年4月号より)