スマートゆりかごの背後で待ち伏せる市場

危機に陥るフランスの乳幼児期公共サービス


レイラ・シャシャアニ(Leïla Shahshahani)

ジャーナリスト


訳:福井睦美


 母子保護センター(PMI)の役割の縮小、公立保育所の質の低下と民間企業の参入による収益第一主義の台頭、児童精神科医の深刻な不足、早期の障害判定による画一的予測医療の広がり、非行化予防のための特定層への監視と管理……。かつて世界の優等生とされていたフランスの乳幼児ケア政策に陰りが広がっている。[日本語版編集部]

(仏語版2020年2月号より)

Martin Falbisoner


  2020年1月14日、フランス全土の乳幼児の専門家と親たちは、政府が2019年12月に発表し、2月中旬までに決定されることになっている政令の条項に反対する抗議行動を行った。「保育サービスのガイドラインを簡略化する」ことを目的としたこの改革は、7月1日に施行されることになっている。すでに2010年には「モラノ政令」(当時のナディーヌ・モラノ家族担当相の名から命名された)が保育所に関する法規制を緩めたことで、前代未聞の抗議運動が起こっていた。2019年3月28日と5月23日の抗議行動を受けて政府は「規定上」は職員配置基準(歩き始める前の子ども5人につき成人1人、歩き始めた子ども8人につき成人1人)を維持するとしたが、改革案にはこうした基準についていくつもの例外条項が含まれている。この抗議を始めたのは、主要な労働組合と乳幼児関連組織を集めた活動グループ「赤ちゃんを一時預かりに託さない」のコーディネーター、ピエール・スュセール医師だ。彼は、定員を埋めようという流れと受け入れ条件の悪化は「安全性、子どもの身体的および精神的発達と快適な環境」を危険にさらす、と警鐘を鳴らしている。

 神経科学、人文科学の両分野から見て、認知、情緒、社会性、精神面など全ての側面において人生の最初の数年は子どもの発達と成熟のために決定的な時期だ。「フランス権利擁護官」の最近のレポートは、乳幼児の権利を守ることは「彼らが個人として、また社会の一員として成長するための(……)比類ない手段」であるだけでなく、「すべての人が同等であることを推進するため」にも重要である、と改めて指摘している(1)。フランスでは、一般的に乳幼児期とされる0歳から6歳の子どもは460万人で(2)、「母子保護センター(PMI)」がそれを管轄している。義務教育開始年齢は従来6歳だったが、2019年7月26日の「信頼の学校」法で3歳に定められた。

 2003年の「家族会議」を期に、政府は公的サービスを補完する目的でこの領域を民間営利企業に開放し、「最大数の参入者」からの投資を募った。家族控除(3)と全国家族手当金庫(CNAF)の出資によって企業内託児所の設置が奨励された。この「開放」政策は2006年のサービス市場自由化の先鋒的EU指令、通称「ボルケシュタイン指令」に後押しされ、公共の保育機関はもろにその影響を受けることになった。保育所は増え始めた。そして民間企業が、保育所を開設したり、公共サービスの委託を受けて企業内託児所や自治体の保育所を運営するなど、この分野で存在感を高めてきた。フランス保育企業連盟(FFEC)によると、ここ数年間、子どもの受け入れ数増加の半分以上を創出したのは民間企業で、受け入れ数全体の17%はすでに民間企業の運営下にある(2012年は7%)。FFECは更に大幅な規制緩和を目ざして活動し、それが「国民の需要に応える唯一の手段」だろうとしている。他の事業主は需要についていけていない。例えば2016年の受け入れ増加分のうち、地方自治体(託児サービスは担当ではない)が創出したのは23%、民間非営利組織は19%にとどまっている。

 「バビルー」、「レ・プチ・シャプロン・ルージュ」、「ピープル・アンド・ベイビー」、「クレッシュ・アティチュード」(ソデクソ社)、「ラ・メゾン・ブルー」など、いくつかの大規模な企業グループがこの市場の支配的地位を占めている。収益性の考え方が公立保育所にまで及ぶようになった今、これらの企業は経営の第一人者を自任している。家族子ども高齢者高等審議会 (HCFEA)副議長のシルヴィアンヌ・ジャンピノ氏は、「2002年に開始された『統一サービス手当』制度[訳注1]は、資金補助をより公平に行うことを目ざしていました。ですが導入された家族との契約制度と時間払い制は、お役所的な厳格さと点数制の考え方を生み出しました。これは家族と保育所の関係のあり方を変え、職員たちの仕事を難しくしたのです。受け入れ可能人数や子どもの数、ゆりかごの数ではなく、稼働率で評価されるようになったのです」と説明する。空席を埋めるためのやりくりに費やされる時間は、子どもや家族、職員同士の情報交換のために使えないのだ。

 フランス国立労働経済社会研究所研究員で、保育サービスに関する複数のレポートの著者、ソフィー・オデナは「休む暇なく働かねばならず、職員は疲弊し、病欠者が多数出ていて、人の入れ替わりが激しい」と観察している。エクス=アン=プロバンスの保育所協会で予防と支援サービスコーディネーターを務めていたマルティーヌ・ギャラン氏は2008年、自治体の運営方針が変わり地域内20カ所の保育所の経営が「レ・プチ・シャプロン・ルージュ」社に委託された時、その職を辞した。「私たちは15年間に渡って予防の関係者とネットワークを築き上げてきて、非常に貧しくて困っていたり、精神疾患を抱えているなど、複数の困難を抱えた家庭の子どもたちを上手く受け入れてきました。自治体はそれを優先課題から外したたため、新しい方針ではこのやり方は求められなくなったのです」と話す。エクス=アン=プロバンスPMIの元責任者、マリー=ロー・カダール医師はそれに同意する。「入札システムは害があります。経営管理のことばかりが頭から離れなくなってしまうのです(4)

 2018年にクセルフィ・グループが発表した調査によると、2017年の民間保育所市場は「極めて良好な」実績で、年成長率19%、売り上げ13億ユーロを越えていた。同グループは、この成長が継続し、とりわけ規模の経済のおかげで収益が見込めると予想していた。バイリンガルスタッフ、ジェスチャー・コミュニケーション、「zen[禅]」ルームなど、幼児教育分野のイノベーション競争が始まった。「ピープル・アンド・ベイビー」グループは2017年、「持続可能な世代4.0」と名付けたパリの保育所を公開し、自動的に揺れるスマートゆりかご、インターネット接続されていて体温が計れるおしゃぶり、湿り気センサーのついたおむつ、ロボット知育玩具など、未来の育児ツールの数々を紹介した。オンラインショップ、イベント企画、学校の勉強サポート、在宅ヘルパーと、商品の種類が増え、サービスの幅が広がっている。保育所企業は国外市場に進出し、投資ファンドがそこに資本参加する。

 社会問題監察総監(IGAS)はこの市場の利益率が「他の経済主体よりも大幅に上回っている」ことを懸念している。全企業の利益率が7.8%のところ、保育所事業の営業利益は売り上げの約40%にもなるようだ。しかもこの大きな利益は「公的資金の援助を大幅に利用して達成された」とIGASは明言している(5)。小規模施設の激増(ほとんど例外なく保育所企業による)(« L’envol des microcrèches »参照)は、保育の質と料金面での利用しやすさに関する懸念を引き起こしている。国と地方の社会・保健部門の何十もの団体が集まった「子どもに関する政策を一緒に作り上げる」グループは、特に貧困ラインを下回る家族への保育サービスの無料化を要求している。「統一サービス手当」を受給する保育所では、家族は保育1時間あたり14セント~3.18ユーロ、平均1.6ユーロを支払っている(6)

診療件数の大幅減少

  シルヴィアンヌ・ジャンピノ氏は2016年、家族・子ども・女性の権利大臣のロランス・ロシニョールに提出したレポートで、たくさんの専門家たちに再び期待を抱かせた。児童心理士で精神分析学者のジャンピノ氏は、「商業的、消費主義的な姿勢」を強めている保育サービスの偏向に警告を発し、子ども一人ひとりの生活リズムに合わせること、人間関係や居場所をなるべく変えないこと、資格のある職員を置くこと(7)、といった子どものニーズに論点を戻した。彼女は、経済性と安全性の制約にとらわれて保育所を画一化することに懸念を示した。「無味無臭に標準化された場所やモノは、人間味のないやりとりを生み出す」からだ。2017年初め、政府は「ジャンピノ・レポート」の推奨の方向性に沿う形で、乳幼児の受け入れに関する憲章を付した要綱を発表し、HCFEAはそれを実施に導く複数の提案を行った(8)。そして保育サービスに関する改革発表の直前、「赤ちゃんを一時預かりに託さない」グループは、保育所でも保育ママ宅でも受け入れ乳幼児の定員オーバーが増えていること、人口過密地域における子ども1人当たりの受け入れ場所面積が7㎡から5.5㎡に縮小される可能性を懸念している。いずれにしても、国が掲げた「受け入れ人数を拡大するすべての保育サービス事業主(公的機関、民間企業、非営利組織)に優遇税制を適用することにより、2022年までに3万人分の『保育の解決策』を創出する」という目標は、HCFEAが必要だとする最低23万人分にはほど遠い。

 社会心理学者ジャン・エプステインは、モラノ政令の出された2010年以来、フランスがそれまで40年近く保っていた「乳幼児期の大切さを信じる国の中で余裕を持って占めていた先頭集団の座(9) 」を放棄するのではないか、という懸念を抱いてきた。実際、第二次世界大戦後、公衆衛生危機を脱してから、精神分析と心理学のおかげで乳幼児が精神的、感情的に必要とするものに興味が向けられるようになった。子どもは様々な感情を持ち、周囲との関係を理解する一個の完全な人間となるのだ。子どもをただ預ける場所だった保育所は1980年代以降徐々に、教育的、社会的な保育の場所になり、そして芸術や文化への目覚めの側面も取り入れられるようになった。そこでは、職員や理事会と並んで両親が保育に参加する「親保育所」の元でありそれを展開させた「子・親・専門家団体協会(ACEPP)」の主導で、両親と連携して教育計画が作り上げられている。精神分析医フランソワーズ・ドルトの創設した「子どもと親の保育所」である「メゾン・ヴェルト」に続き、同様の保育所が増加した。今は多くの人が、築き上げられてきたこれほどの成果が散り散りになるか消滅してしまうのを心配している。

 乳幼児保護施策のもう一つの基柱、1945年に設立され1983年に県行政に委譲されたPMIは、その予防医療と、心理的、社会的な問題発生を予防する役割が広く認められているにもかかわらず、危機に瀕している。ミッシェル・ペロン代議士は、2019年3月に政府に提出したレポート(10)の中で、PMIは「集団無責任体制の犠牲」だと書いている。国も地方も、行政当局がもっと熱意を持って取り組まない限り、普遍性の原則に逆行して最も弱い住民に「的を絞りすぎる」リスクによって、今後10年間に大部分の県でこの組織制度が「消滅」状態になるだろう、と彼女は予言する。全国PMI医師労働組合(SNMPMI)など、2011年以来行政当局に危機を訴えている14団体が集まった連合体「PMIの将来を保証する」は、「国は責任を放棄しすぎだ」と確言している。

 乳幼児死亡率が抑制されると、PMIの任務は広げられた。家族計画、周産期ケア、障害児、青少年保護、乳幼児の保育サービスの認可と管理などだ。国の支出が「明らかに減少」する中、スタッフが対応する生計が著しく不安定な家族は増加している。2010年から15年の間にPMI医師の数は7.7%減少した。賃金の低さと、この職業に対する認知度の欠如が人材確保を難しくしている。PMIは0~6歳児の診察ニーズのうち12%しか担わなくなった。年中クラスの子どものうち3分の1は、幼稚園の健康診断制度で認められている無料検診を受けていない。「子どもの権利擁護官」ジュヌヴィエーヴ・アヴナール氏は、「初期予防活動の大部分(11)」が放棄されることを危惧している。PMIで診察を受けた子どもの数は、地域により大きな格差があるが、1995年から2016年の間に45%減少した。

 ペロン氏のレポートは保育サービスに関する任務をPMIから家族手当金庫(CAF)に移すという提案をしているが、「もし明日、議会が別の組織に任務を移すと決めたら、受け入れ定員を増加させる方向に動くことが予想されます。(……)稼働率をさらに極大化させることによって、乳幼児の受け入れ施設(EAJE)の質が悪影響を受けないとは言い切れません」と注意も促している。これが保育所の職員をさらに心配させている。

 精神障害と発達障害の診断と支援を行っているセンターの状況も同じように暗い。「児童青少年精神科-医学心理センター(CMP-IJ)」、「医療・心理・教育センター (CMPP)」、「早期医療・社会センター (CAMSP) 」では需要の継続的な増加に直面しているが、人手不足が業務の継続を危うくし、運営資金がニーズに追いついていない、とIGASは報告している(12)。これらの組織はフランスが陥っている児童精神科医不足の影響をもろに受けた。2007年から2016年の間にその数は48%減少し、14の県ではゼロになった。初診予約は平均6カ月待ちで、場所によっては1年以上のところもあり、そのため複数のセンターが新規の子どもの申し込みを断っている。IGASが視察したある県では、「CMP-IJが受け入れた9人の子どものうち8人までが、児童精神科医の時間が取れないため診察を受けられていない」。医療アクセスの不平等がここまで来ている。

 パリ大学の児童青年精神医学名誉教授、ベルナール・ゴルスは、1970年代に医学心理センター(CMP)を中心にして整備されたセクトゥール制[訳注2]は、すべての地域住民に複数の診療科から専門医を集めたチームによる壁のない地域医療を提供するという、「すばらしく民主的な大志」を抱いていた、と指摘する。「世界中がうらやんだこのセクトゥールの考え方は、それに見合う資金の不足により、自由主義経済の中で姿を消しています」

「リスクの高い」住民に的を絞る

 フランスは今や、予防に関して先進諸国の中で最も遅れている国に属する。医療支出全体のうちイタリアは4%、カナダは6%を予防政策に支出しているのに対し、フランスは1.8%しか充てていない(13)。「子どもの権利擁護官」は、「小児医療分野では、現在投資しないことが長期的にみて悲劇的な結果を招くだろうだけでなく(……)、必然的に将来の医療費支出が増大する誘因にもなるだろう」と忠告している。

 予算制約が乳幼児の公共サービスを停滞させている時に、「社会投資」の支持者たちは政府に対し、「リスクの高い」住民に的を絞るよう働きかけている。米国での経験に着想を得て、シンクタンクのテラ・ノヴァは「非常に集中的なプログラムを組んで乳幼児に投資すれば、とても高い社会的利益がある」と明言する。また、そのプログラムの利用者は後に「フランスの社会給付の助けに頼る」ことが少ない、と付け加えている(14)。2018年にエマニュエル・マクロン大統領が発表した貧困の予防と対策に関する国家戦略は、早くも保育所の段階から、「認知科学に基づく実験プログラム」を実施するとし、それを優先課題としている。グルノーブル市社会活動センター(CCAS)の副センター長だったオリヴィエ・ノーブルクール氏が同市で推進した「赤ちゃん語を話す」対策プログラム(本紙インターネット記事« “Parler bambin” ou formater les bambins ? »参照)をめぐる論争が物語るように、これらのプログラムに憤慨した専門家たちもいる。ノーブルクール氏はその後、児童・未成年の貧困の予防と対策の省庁間代表を務め、現在はグルノーブル市長候補になっている。

 「恵まれていない子どもたちが、生まれつきのハンディキャップを自分自身で埋め合わせられるようにするには、彼らにごく早期から働きかけるだけで十分なのだろうか」と、社会学者のジェラール・ネランは疑問を呈す (15)。いずれにしてもそれが、マクロン大統領が2019年9月に立ち上げ、精神神経科医のボリス・シルルニックが委員長を務める「子どもの最初の1000日(妊娠4カ月目から2歳の乳児まで)」委員会の抱いている大志だ。この委員会は「運命の不平等」と闘う意志を宣言している。そのアイデアは政権内で賛同者を得ている一方で、強い懸念も浮き上がらせている。社会の責任を個人に転嫁することで、リスクは二重になる。機能不全と判断される子どもとその家族を公然と非難し、彼らにより厳しい締め付けを強いるのだ。

 2006年初頭、すでに多くの専門家が、素行不良に至らせる可能性のある精神障害の早期発見を奨励する法案と、フランス国立保健医学研究機構(INSERM)の疑問視されている鑑定書の政治利用を告発していた。INSERMは鑑定書の中で、「この月齢なら、難しい気質、多動障害、素行障害の初期の検知を行うことができる(16)」として、生後36カ月ごろに行動障害の検査を実施することを推奨している。これについて、「3歳児に行儀0点をつけない」グループは当時、「子どもの素行の難しいところと、将来素行不良になるリスクとの間に次々と機械的なつながりを打ち立てることで、問題の本質を見えなくしている」として警鐘を鳴らしていた。職員らは、「問題児の捕獲場所」に変えられた保育所や幼稚園で、自分たちが治安偏重政策の片棒をかつがされるのではないかと危惧していた。この法案は、「ある人またはその人の家族の社会的、教育的、物質的困窮の深刻度が(……)複数の介入者を(必要とする)」場合、社会福祉関係者と医療の専門家は、市長の要請に応じて職業上知り得た情報を提供することが許される、としていた。この条項は2007年3月5日の非行予防に関する法律の第8条で継続された。

 20万近い署名を集めたアピールのおかげで、「3歳児に行儀0点をつけない」グループは早期検診に関する条項の法案からの取り下げを勝ち取り、2007年1月11日の国家倫理諮問委員会(CCNE)の見解がそれを念押しした。「早期かつ適切な形で精神障害の兆候のある子どもへの支援を可能にするはずの『予防医療』と、大多数のケースで発見しなければそうならなかったかもしれない運命に、かえってその子どもたちを閉じ込めかねない『予測医療』とを取り違えてはいけない」。CCNEは、「子どもを危険因子とみなし、事実上その子を被害者から犯罪者の立場に押しやるような、予防医療を未然防止の領域に組み入れる意図を認めること」はできない、とも付け加えている(17)

 2010年、「3歳児に行儀0点をつけない」グループは再び表舞台に立った。「移動生活をする家族らが社会福祉サービスの管理や監視から漏れないように、憂慮すべき情報の伝達を改良する(……)」ことを目標の一つにしている「全国子ども三部会」[子ども保護団体、各県の子ども保護審議会、子どもの関与者と専門家]への反論として、グループは「思いやりのある予防」とは、問題を抱える子どもとその家族を社会に対する危険因子とみなすのではなく、彼らを支援することだ、との再認識で「全国子どものための三部会」[子ども、その家族、子ども関連職に従事するすべての人]を組織した。医師で人類学者のマリー=ロー・カダールは、「体系化されていない複雑なノウハウの結晶であるこの予防策は、人々を信頼し尊重する中で作り上げられました。それは目立たないけれども効果的に、子どもやその家族を非難したり評価基準や予測的診断、非人間的な決まりごとにはめ込んだりせず、医学的、心理学的、社会的、教育的に支えつつ行われています」と説明する(18)

 問題は、収益を上げるには、今や予防は評価可能で立証できなければいけない、という点だ。このルールでいけば、神経科学に基づいて短期間で症状を消すことを目指している認知行動療法と再教育のアプローチが優位だ。一方で、包括的予防策の推進者たちは、他のアプローチも除外せずに、一人一人の子どもをその複雑性(独自性、生い立ち)の中で捉えることを強く勧める。彼らは主に精神分析に由来するセラピーをよりどころとしており、症状というのは、長期的な効果を得るために意味を探り出して治療を施すべき訴えだと捉えている。

 激しい批判にさらされながらも、彼らは画一化された診療方法の激増に警戒を促している。それは、「ディスのリスト」(ディスレクシア[読み書き障害]、ディスフェーシア[発語障害]、ディスプラクシア [協調運動障害]など)[訳注3]、プロトコール[訳注4]、「最大数の患者に何度も適用可能な」フォーマット化された治療プロセスなどのことだ。また、生まれつきの障害と診断された症状を消すために薬剤治療をしたがる傾向にも注意を促している。「もし児童精神医学が鬱(うつ)病、多動症、自閉症などの専門分野に細分化されれば、患者である子どもとその子が置かれた環境についての全体像を見失う危険があり、予防が妨げられることになりかねません。もし『すべてを精神分析学的に』みるのが失敗だったとすれば、『すべてを行動療法学的に』みるのも失敗するでしょう」とゴルス名誉教授は見る。彼は子どもの障害を過度に分類しすぎること(中には本物の病理ではなく「正常の範囲内」の領域に属しているものもある (19))、それをある分類の枠の中に閉じ込めてしまうことを心配している。

 IGASは、ますます多くの子どもが現在の分類化の対象となっていることに留意し、既定の基準からの少しの逸脱も許されていない、という仮説を共有している。成果と競争が重んじられる今日の社会では、神経科学がごく小さな子どもの脳力を判定し、生育の早さや学校の成績、テスト結果の競争が急ピッチで進んでいる。しかも「スーパーベイビー」を作り上げようと目論む過剰刺激の危険についての専門家たちの警告は無視されている。遅れた子どもは見捨てられるかもしれないが。



  • (1) « De la naissance à 6 ans : au commencement des droits », défenseur des droits, Paris, 2018.
  • (2) « L’accueil du jeune enfant en 2017, données statistiques et recherches qualitatives » (PDF), Caisse nationale d’allocations familiales (CNAF) et Observatoire national de la petite enfance, Paris, 2018.
  • (3) Loi de finances pour 2004, article 98.
  • (4) Marie-Laure Cadart (sous la dir. de), Les Crèches dans un réseau de prévention précoce, Érès, coll. « 1001 BB », Toulouse, 2008.
  • (5) « La politique d’accueil du jeune enfant. Revue de dépenses » (PDF), Inspection générale des affaires sociales - inspection des finances, Paris, juin 2017.
  • (6) « Atlas des établissements d’accueil du jeune enfant » (PDF), Caisse nationale des allocations familiales, Paris, exercice 2016.
  • (7) Sylviane Giampino, « Développement du jeune enfant. Modes d’accueil, formation des professionnels » (PDF), rapport remis à Mme Laurence Rossignol, ministre de la famille, de l’enfance et des droits des femmes, Paris, 9 mai 2016. Elle vient de publier Pourquoi les pères travaillent-ils trop ?, Albin Michel, Paris, 2019.
  • (8) « Pilotage de la qualité affective, éducative et sociale de l’accueil du jeune enfant » (PDF), HCFEA, Conseil de l’enfance et de l’adolescence, Paris, 22 mars 2019.
  • (9) Jean Epstein, « Accueillir », dans Patrick Ben Soussan (sous la dir. de), Le Livre noir de l’accueil de la petite enfance, Érès, coll. « 1001 BB », 2010.
  • (10) « Pour sauver la PMI, agissons maintenant ! » (PDF), rapport de Michèle Peyron remis au premier ministre, Paris, mars 2019.
  • (11) « Droits de l’enfant en 2017. Au miroir de la convention internationale des droits de l’enfant » (PDF), défenseur des droits, novembre 2017.
  • (12) « Mission relative à l’évaluation du fonctionnement des centres d’action médico-sociale précoce (CAMSP), des centres médico-psycho-pédagogiques (CMPP) et des centres médico-psychologiques de psychiatrie infanto-juvénile (CMP-IJ) » (PDF), IGAS, Paris, septembre 2018.
  • (13) Rapport d’information présenté par M. Cyrille Isaac-Sibille et Mme Ericka Bareigts en conclusion des travaux de la mission relative à la prévention santé en faveur de la jeunesse, Assemblée nationale, Paris, septembre 2018.
  • (14) « Investissons dans la petite enfance. L’égalité des chances se joue avant la maternelle », Terra Nova, Paris, 31 mai 2017.
  • (15) Gérard Neyrand, « “Parler bambin”, un avatar parmi d’autres du néolibéralisme ? », dans Patrick Ben Soussan et Sylvie Rayna (sous la dir. de), Le Programme « Parler bambin », enjeux et controverses, Érès, coll. « 1001 BB », 2018.
  • (16) « Troubles des conduites chez l’enfant et l’adolescent » (PDF), Inserm, Paris, 2005.
  • (17) « Problèmes éthiques posés par des démarches de prédiction fondées sur la détection de troubles précoces du comportement chez l’enfant » (PDF), avis no 95, CCNE, Paris, 2007.
  • (18) 2012年の「3歳児に行儀0点をつけない」のフォーラムでは、約50の組織が乳幼児を大切にする活動を発表した。「La Prévention prévenante en action」(Érès社刊、2012年)に集約されている。
  • (19) Lire Gérard Pommier, «La médicalisation de l’expérience humaine », Le Monde diplomatique, mars 2018.

  • 訳注1]統一サービス手当は家族手当金庫から保育所への運営補助金。
  • 訳注2]セクトゥール制は、フランスの公的精神医療・福祉サービス体制。人口地理学的に地域を設定し、必要な体制を組織化している。全国に830の成人精神医療セクトゥールと320の小児・児童精神医療セクトゥールがある。それぞれのセクトゥールに少なくとも一カ所のCentre Médico-Psychologique(CMP:医学心理センター)、hopital de jour(昼間病院、デイケア)、apartment thérapeutique(治療的アパート)、Centre d’Accueil Thérapeutique à Temps Partiel(CATTP:時間限定治療センター)などが設置されている。
  • 訳注3]dys- はギリシア語の接頭辞で困難、欠陥の意。
  • 訳注4]医学用語のプロトコールは各疾患に対する決められた診断手順や治療手順などのこと。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年2月号より)