生産拠点の移転を引き受ける台湾企業

米中貿易戦争は台湾にとって好機か?


アリス・エレ(Alice Hérait)

ジャーナリスト


訳:中桐誠


 米中貿易摩擦の中で、台湾の存在感が増している。アメリカの対中関税引き上げを受けて台湾は対米輸出を大きく伸ばし、5Gを巡る対立を受けた中国ファーウェイ社は半導体の輸入先を台湾へ移転させた。これらサプライチェーンの再編の動きには各国の政治的動きが密接に絡んでいる。台湾の成長とその将来を両岸関係を鍵に読み解く。[日本語版編集部]

(仏語版2020年2月号より)

楊茂林 — « MADE IN TAIWAN. 標語篇IV », 1990


 製品の生産を中国で行うアメリカ企業にとっての打開策は何だろうか? 台湾への移転だ! 米中貿易戦争真っ只中の2019年6月、台湾企業フォックスコン社[鴻海科技集団]の経営トップ董事長を務めるテリー・ゴウ氏は、この台湾という選択肢を推奨した(1)。アメリカ企業アップル社に対する最大の部品供給会社であるフォックスコン社は、中国に拠点を持ついくつもの多国籍企業と同様に、同国にある工場を一部撤退させようとした。台湾の長者番付4位であり、2019年10月に突如断念するまで前回の総統選挙への出馬を目指していたゴウ氏は、中国にある生産工場を台湾に戻すとともに海外投資を呼び込むことを当時約束した。これは、2018年1月から続くアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏と中国の国家主席である習近平氏の間の対立を、グローバルサプライチェーンの中で要所を占める台湾がうまく利用する可能性を示したものであった。

 2019年11月に公開された国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告書(2)は、米中貿易戦争は両国の経済にとってマイナスである一方で第三国にとってはプラスに働くとして、ゴウ氏の拠点移転戦略をより大きな力学の中に位置付けている。これら第三国の中でも、台湾の利益は大きいものとされている。メディアでも取り沙汰された同報告書によると、アメリカによる関税引き上げの影響を受けて、2019年前半の中国からアメリカへの輸出は[2018年前半に比べて]350億ドル(315億ユーロに相当)減少した950億ドルに留まった一方で、台湾の対米輸出は42億ドル増加(20%上昇)した。

 他方でメディアは、長く待望された「台商」(ゴウ氏のように、海外とりわけ中国に投資する起業家を指す)の帰還を報じた。2000年代初めの10年間、台商は、半導体の製造を除く台湾工業の生産工程のほぼ全てを中国に移転してきた。「伝統的な台湾企業のビジネスモデルでは、アメリカから受注し、台湾でデザインし、中国で生産します。台湾の輸出の90%は中間財が占めており、40%は中国向けです」と台北の政策シンクタンク中華経済研究院のエコノミストであるロイ・リー氏は解説する。

 台湾の公式経済予測は楽観的であり、中央銀行は、2019年9月時点では2.4%と見込んでいた2020年の経済成長予測を2.6%に上方修正した。経済部管轄の[本土および海外からの]投資窓口である台湾投資事務所(Inves Taiwan)によると、2018年初めに開始された台湾への投資回帰のための優遇措置を通じて、300にのぼる台湾企業が計8,424億台湾ドル(250億ユーロに相当)の投資を約束し、6万9,374名以上の雇用創出が見込まれている(3)。2019年には、中国への投資は54%減少した。

 「このように、政府は10年にわたって台商に祖国へ投資するよう奨励しています。しかし、彼らは政府の言うことよりも市場の動向に従います。米中貿易戦争によって、政府が呼びかけるまでもなく、台商は戻ってきているのです」とロイ・リー氏は語気を強めて語る。続けて、その含意するところを次のように表現した。「中国市場は今は停滞していますが、成長しつづけており、その潜在力は依然として巨大です。投資家たちはまだ中国を見捨てていません。彼らは、アメリカ向け製品の組立ラインを見直しているに過ぎません。台商は、正確には戻ってきているのではなく、以前であれば中国に投資していたであろう分を台湾に投資しているに過ぎないのです」

 実際のところ、上述のUNCTAD報告書も、台湾への真の投資回帰というよりは、中国から台湾への部分的な事業移転だとしている。「私たちの本社は台湾にありますが、生産工程は全て中国にありました」とバイオテクノロジーのスタートアップ企業であるVesCir社の元社員チェン氏は証言する。「トランプ大統領が中国に対する関税を引き上げると、経営陣は『メイドイン台湾』の表示を得るために組立工程を台湾の工場に移すという単純明快な決断をしたのです」

 2020年1月11日に行われた選挙(総統選挙及び立法委員選挙)を前に、経済面から対中依存問題の議論が再び起こった。4年前の2016年、台湾独立派である蔡英文氏の総統当選は習近平国家主席の怒りを買ったのだった。習氏は、中華人民共和国憲法に書かれているとおり、台湾は中国固有の領土の一部分であることを繰り返し主張した。

 総統は、台湾企業が、東南アジア諸国に投資(新南向政策と呼ばれる)し、「5+2」政策(バイオテクノロジー、グリーンエネルギー、IoT[様々な物がインターネットにつながること]、スマート機械、防衛産業の5分野に、グリーン循環経済と農業を追加したもの)という名の技術革新計画を通じて先端技術に注力することを奨励した。これらの政策は、中国にある生産工程への依存度を低める目的の下、イノベーションの喚起、産業の競争力強化、企業収益力の増強を意図しており、政府の見解によれば、賃金を上昇させ、雇用を創出し、全ての地域に均等な発展をもたらすはずであるとされた。これらはわずかながら成果を挙げていたが、米中貿易戦争がこれに新たな方向性を与えることとなる。

 以来、[台湾にとって]中国と距離を置くことが得策となったようだ。中台接近を働きかけこれまで国民党を支持しつづけてきた台商の票は、二期目の総統当選を狙う蔡氏が率いる民主進歩党に一部流れた。「我々は、米中貿易戦争によって引き起こされる産業構造の転換を支援します」と民主進歩党のスポークスパーソンであるリャオ・タイシャン氏は満足げに言った。タイシャン氏はまた、中国への投資減少及び新南向政策対象国への投資増加についても言及した。確かに、台湾は1月初めにベトナムにおいて第5位の投資国となった。

 巨大な隣国との関係の取り方次第によって政治が左右される台湾において、選挙におけるそれまでの支持動向は一変した。米中貿易戦争、また香港における抗議活動は、蔡氏の主要な対立候補であった国民党のハン・グオユー氏にとって逆風となったのだ。2018年11月の地方選挙における大敗の後、蔡氏は持ち直した。同氏は、2016年の初当選の時をさらに上回る支持を得て再選を果たした(4年前は690万票であったのに対し、今回は全投票数の57.1%に相当する820万票)。

 しかしながら、台商の多くは中国との関係を保ったままだ。国民党指導者に法的・財政的助言を行う国家政策研究基金会の研究者リー・スエンチェン氏は次のように強調する。「全ての台湾の大企業は、自社工場の大部分を中国に持っています。台湾と中国の関係が不安定でありつづければ、誰も台湾に投資したがらないでしょう。そして、現状では、台湾企業にとってはベトナムに投資するよりも中国に投資する方が得策なのです」

 同氏が特に懸念するのは、海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)の終了だ。2010年に台湾議会によって批准されたこの協定は、中国と台湾の間を行き来する商品の大部分についての関税を撤廃し、貿易の発展に貢献してきた。同協定は2020年6月に見直されることとなっており、現状から大きく変更されれば石油化学及び機械工業部門に真正面から打撃を与えるだろう。蔡英文総統は継続を望んでいると断言するが、その決定は習近平国家主席の意思にも左右される。

 日経アジアンレビュー(4)によれば、台湾からの投資を失う危険を冒してでも、習主席はECFAの更新を行わない選択に傾く可能性があるようだ。もっとも、この姿勢はロイ・リー氏が語る次の事実には反している。「台湾政府が敵対的な政策を進める一方で、中国政府は在中国の台湾人を優遇する措置を示すことで応酬しています」。一般的には、これらの措置は在中台湾人を味方につけて中国への帰属意識を高めようとする意思を表明していると言っていいだろう(5)

 2019年11月4日、中国政府は、台湾企業を「中国製造2025」に参加させるための26の新たな優遇措置(6)を発表した。「中国製造2025」とは、ハイテク分野でのいくつかの鍵となる産業を発展させ、結果として外国への依存度を低めることを目的とした政策である。トランプ大統領は同政策を危険視し、アメリカの巨大企業のライバルと目される通信業界の巨人ファーウェイ社とのテクノロジー戦争を始めている。トランプ氏によると、中国企業の新たな5G技術は、軍事関係を始めとするデータの違法な収集を手助けしかねないという。

 トランプ大統領は、ファーウェイ社がスマートフォン製造のために大きく依存する部品の輸出を停止すると脅しをかけた。これに対し、同社は製造工程を「脱アメリカ化」することを決断した。他方で、台湾は中国にとって電子機器の製造に不可欠である半導体の70%を製造している。2019年末、ファーウェイは最先端の半導体を製造する世界的企業である台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC社)の一番の顧客に躍り出た。

 工場の大部分を台湾に置きつづけたTSMC社は、6月以後業績の伸びを見せている。「TSMC社は実質的な独占状態にあります。中国が同社を必要としており、強い立場にあるのです」とマティウ・ドゥシャテル氏は説明する。同氏はパリのシンクタンクであるモンテーニュ研究所のアジア・プログラム長で、アメリカ制裁下の中国企業による5Gの提供について調査を行った人物だ。「5G時代の到来によって、高品質な部品の世界的需要はますます高まります。TSMC社の優位はこの先予見し得る限りは続くでしょう。これは台湾にとって非常に有利に働きます」

 「中国製造2025」は、台湾の半導体産業にとって時限爆弾となるリスクがある。すでに3千名の台湾人半導体技術者が中国へ流出しており、これは台湾全体における同研究分野の技術者のうち1割に相当する。「このような頭脳流出は数年前からの懸念事項でした。総じて、米中貿易戦争はすでにあった傾向を加速させたに過ぎないのです」とロイ・リー氏は解説する。「中国は台湾の技術にいつまでも頼ることを想定していません。これは、中国にとって安全保障の問題なのです。中国は、その存続に不可欠な技術に関して、第三国にこれ以上依存したくないのです。台湾が供給を突如停止したらどうなるでしょうか。中国政府は、台湾は遅かれ早かれアメリカ側につくと考えているのです」



  • (1) Debby Wu, « Foxconn’s billionaire founder urges Apple to invest in Taiwan », Bloomberg Businessweek, New York, 21 juin 2019.
  • (2) Alessandro Nicita, «Trade and trade diversion effects of United States tariffs on China », Cnuced, Genève, 15 novembre 2019.
  • (3) « Trois projets d’investissement à Taïwan génèrent plus de 840 milliards d’investissements dans plus de trois cents entreprises » (en chinois), Invest Taiwan, Taipei, 27 décembre 2019.
  • (4) Kensaku Ihara, « Taiwan Inc. weighs loyalty to mainland in presidential election », Nikkei Asian Review, Tokyo, 27 décembre 2019.
  • (5) « Pékin fait de l’œil aux citoyens taïwanais », Le Monde diplomatique, mai 2019.
  • (6) Samson Ellis, « China dangles carrot to Taiwanese in battle for hearts and minds », Bloomberg Businessweek, 4 novembre 2019.

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年2月号より)