とてもロマンティックとはいえない生産方法

バラ栽培の舞台裏


ジュルマ・ラミレス(Zulma Ramirez)&ジョフロワ・ヴァラドン(Geoffroy Valadon)

グループLa Rotativeのメンバー


訳:生野雄一


 あらゆる機会の贈り物の定番ともいえるバラの花。形、色彩、香りは、華麗、豊かさ、芳醇のシンボル。そして数え切れないほどの品種を誇る。しかし、その商業生産の舞台裏には環境志向からはほど遠い、知られざる風景がある。[日本語版編集部]

(仏語版2020年2月号より)

Fanny Papay. — « Is it contemporary art ? » (「これは現代アート?」), 2018
© Fanny Papay


 バラとは何だろう? 昆虫に花粉を運ばせるための植物の仕掛け? 香りの良い花? 人工的な都会にあって目を楽しませる自然の恵み? 何よりもそれは、人に贈るために買う品物だ。母の日やバレンタインデーなどの機会に広告業界がここぞとばかりにもてはやす愛や尊敬のシンボルなのだ。バラは、贈られた人にとっては、すぐに楽しめてほとんど手間がかからず、萎れたらゴミ箱に捨てられて終わる。バラの組織や水分は化学物質を含んでいるので、堆肥にはせずゴミ箱に捨てる。

 バラのライフサイクルは、清掃車によってゴミ焼却場に運ばれていく時点から遡って8年前に始まる。ドイツ、オランダ、フランスのバラ園で、優れた耐性、形、生産性を備えたものを作るために育種業者がさまざまなバラの雄しべと雌しべを交配している。生産性は、1㎡あたりに生育するバラの樹の本数で測られ、重要な指標だ。低地で栽培されスーパーマーケットで売られる花はこの指標が240本にのぼることがある。どういう形や色にするかはそのときどきの流行に大きく左右され、それはまた衣服の流行に関連している。こうして、この業界では常に品種が入れ替わる。大量生産のトマトの味(1)と同じようにバラの香りは品質基準リストの最後にしか来ない。「感性は二の次だ」とフランスの主力育種業者のマティアス・メイアン氏は認める。このプロセスの行きつくところは新しい品種の特許登録であり、そしてそれを市場にのせることだ。

 栽培業者はある品種を苗床あたり1ドルで買い(2)、毎年0.15ドルの特許使用料を支払う。育種業者は、数週間あれば温室いっぱいの苗を作ることができる。親株から一部分を切り取ると、それが有性生殖なしに再生する。この挿し木を繰り返して数千のクローンを作るのだ。この1つ1つを赤道地帯の気候にも適応しやすい根に接ぎ木すると、病気に強い樹ができる。

殺虫剤、殺菌剤、消毒剤

 バラ栽培は古代に遡るとはいえ、品種改良技術によって花が大きくて茎がまっすぐな現代のバラが作られるようになるのは19世紀になってからだ。バラ栽培は大戦後、農業の工業化、機械化、植物病虫害防除革命などを経験する。この業界は、ヨーロッパの気候では冬には育たない品種を生産するために、暖房を入れた温室で栽培をはじめた。1970年代の石油ショックを受けて、ヨーロッパ以外の地域での競争が激化するとこのやり方では採算が良くないことが明らかになった。そこで経営者は、コロンビアとエクアドルのアンデス山脈地帯のような労働力と土地が安価(2018年の日給はおよそ15ドル)な赤道地帯の気候に目をつける。10数年後には、ヨーロッパの生産者は、消費者市場に地理的により近いケニア(日給3~4ドル)やエチオピア(日給1ドル)の山地に投資する。

 これらの国々には、気候、水、労働力という極めて重要な3つの資源がある。赤道に近い高地で、花は太陽光を十分に浴び、霜が降りることも猛暑になることもなく年間を通じて気候が安定している。太陽光を最大限に浴び、空気をコントロールするために、バラ栽培は35℃にもなる温室で行われる。もともとは、栽培は極めて肥沃な土地で行われていたが、単一栽培では特に根から感染する多くの病気の被害を受けていたので、2000年代からは土には植えず、栽培用高分子フィルムあるいは不活性合成土に植えられている。

 バラは大量の水を必要とする。栽培方法によって蕾1つあたり7~13リットル必要だ。したがって、何百万本もの苗はその地方、さらには国全体の水資源を貪るように吸い上げていく。時として、生産者が湖や地下水を自由に利用するからなおさらだ。こうしてボゴタ(コロンビアの中心部)のサバンナはケニアやエチオピアの湖のように(3)訳注]、住民の水不足と人々の健康や生態系に影響を与える水源汚染という二重の水危機を被った。現地の人々が動き、それが国際的連携を呼び、企業はやり方を変えざるを得なくなった。複数の最大手企業が雨水の回収と廃水の再利用によって水の使用量を半減させると確約した。今では、灌漑と栄養が点滴注入され、水が土壌の要らない栽培用高分子フィルムに肥料とその他の植物病虫害防除物質を運んでくる。

 この気候のもとでは、バラは一年中咲く。しかし、バレンタインデーのような年中行事に関連した需要を満たすには厳格な日程管理が必要だ。バラ栽培業者は蕾の開花日を特殊な剪定方法によってコントロールしている。コロンビアでの剪定日は海抜高度と日照に基づいて計算され、箱詰めの出荷日より平均して95日前だ。これは精密な作業で、大部分が細かい作業に長け規律正しい女性たちによって行われる。1990年代以降、生産のテンポは速くなり、コロンビア女性労働者の多くがさまざまな腱炎を患うことになる。「同僚たちの間で、2人に1人は手根管症候群にかかっています。労働組合員だと思われたら困るのでこのことは訴えないでいます」と彼女たちの1人は打ち明ける。コロンビア花卉栽培労働者全国組織のイネス・マロカン氏が報告するように、「会社は不調で、組合が倒産をもたらす」と責任者はしつこく繰り返し、女性労働者たちの口を封じようとする。

 バラはとても手がかかる。切り花は花弁や葉にいっさい染みがあってはいけない。バラの花は、コロンビアの大企業の名前が示す通り、「女王」であり、「華麗」であり、「エリート」なのだ(4)。あらゆる危険に備えて、苗木には殺虫剤、殺菌剤、消毒剤を撒布する。生産者は数字をほとんど明らかにしていないが、リエージュ大学の農学博士であるカウラ・トゥミは、バラの花は「食品に認められている量の100~1000倍(5)」の薬剤を含んでいると語った。ボゴタのサバンナの村では、何人かの女性労働者は流産や子供の奇形、あるいは癌を心配している。労働組合のUntraflores[全国花卉労働者組合]は、バラ栽培と健康には関係があると論証した研究があるにもかかわらず(6)、バラ栽培の保健衛生上の影響について踏み込んだ調査研究がないことを残念がっている。「封建時代の封土のような農場での労働者の健康を、独自に一定期間調査することは難しい」と、ボゴタ環境研究所のトマス・エンリク・レオン・シカールは証言する。

 何人かの農場責任者は、そういう時代はもう終わったと断言し、やり方を改善したと言う。にもかかわらず、植物病虫害防除製品を取扱う業務からは女性労働者は除外されたままで、それに伴う手当も貰えない。「それは、私たちが食事の準備をし、授乳をしており、赤ちゃんを産めなくなるからです」と、この仕事を気に入っているコロンビアの女性労働者デイジーは説明する。彼女の夫はといえば、すでにこの仕事から転職しており、妻に対して「健康とお金を引換えにするな」と言っているが彼女は言うことを聞かない。殺菌剤や殺虫剤は苗木の全成長過程において噴霧されている。薬剤噴霧のたびに、薬が地上に落ちてしまうまでの間は温室に入ることは禁じられている。この立入禁止期間は、薬剤の種類、あるいは農場によるが、数日あるいは数時間続く。

 バレンタインデーの2週間前、コロンビアの貧しい地方から来た労働者やベネズエラからの移民を乗せたバスが収穫に向かう。いきなり、1日の労働時間が平均10時間から16時間に延びる。収穫は1時間に350個のバラの花を切っては積む同じ動作の繰り返しだ。これが済むと、蕾が開花したり萎れたりしないように4℃に冷やした倉庫に運び込む。そこでは、他の女性たちの一団が葉と棘を落とし、選り分け、切り直し、包装し、殺菌剤をかけ、スーパーマーケット用の束にまとめる。花びらの数が少なかったり、茎が曲がっていたり、小さな染みやかすかな変色があって基準に満たないと判断された花は、捨てられるか、国内市場で安く売られることになる。

オーガニックブームから置き去り

 収穫が続く一方で、すでに冷蔵トラックは空港への往復を始めている。空港に近いことが生産地区の選定基準の1つになっている。警備された道路で慌ただしい動きが始まっている。盗難や麻薬の持ち込みを防ぐためであり、西欧の育種業者に特許使用料を払っていない輸送車両を密かな眼差しで追う捜査官もいる。取引先の倉庫まで途絶えることなく低温を維持するための輸送コストは相当に嵩む。コロンビアとエクアドル産の花の多くは米国市場向け(輸送費は1キロあたり85セント)で、ケニアやエチオピア産の花はヨーロッパに運ばれる。その輸送はケニア産のバラが排出する二酸化炭素排出量の90%を占める。だが、照明および暖房付きの温室でのオランダの栽培のCO2排出量は6倍も多いという(7)

 切り取りから2日後、バラのパレットがオランダの国際的な花卉取引所であるアールスメールか、または北米セクターの中心地であるマイアミに到着する。そこで、バラの花は卸業者やスーパーマーケットの間で競りにかけられ、次いで、トラックで大都市の配送センターに運ばれる。切り取ってから5日後に花屋に届く。

 輸出販売はドル建てで行われる。農場からの出荷時には1本で約20~30セント、小売り業者への卸値は80セント、消費者には1.50ドルだ。バレンタインデーには値段は2倍か3倍になる。アメリカの生産者に打撃を与えた自由貿易協定の元となったのが欧米の大手企業グループで、最大手の農場はそこに属していた。しかし、その代わりに、アメリカの農業者ロビーはコロンビアへの大豆、麦、トウモロコシ、食用油の輸出関税の撤廃を勝ち取った (8)。コロンビアの環境団体カクタスのリカルド・ザムディオ氏にとっては「悲劇だ。肥沃な土地なのに、輸出用の花卉生産が現地の食糧栽培にとって代わり、 そしてこの通商協定によって我が国の食糧主権がついに失われた」というのだ。

 花は、年中行事の数日前に花屋に届く。ちょうど、キャンペーン広告でバラの魅力が高まっているときだ。ここでまた新たに一連の作業が始まる。「長靴も手もびしょ濡れ。実際、これは汚い仕事です」とフランスの花屋は言う。果物や野菜ではルールがあるのに、花は産地表示の規制は何もない。だから、バラのほとんどが赤道地帯の国々から来ていることを知る人は少ない(9)。花屋は花の生産に化学物質が使われていることは知っているが、彼らにとってどれほど危険なのかは気がついていない。しかし、カウラ・トゥミは、ベルギーの花屋の手指に100以上と尿に70の有害物質が残留していることを突きとめた。それらのうちいくつかはヨーロッパでは禁じられているものだ。花は食べるものではない(あるいは食べなくなった)という理由から、花卉園芸業界は保健衛生上の議論や規格から一部分免れている。オーガニックブームの埒外にいたのだ。花卉業界は、「緑マーク」のラベルを設けたが、これは自己認証によるものだったり、あるいは企業経営者に依存した民間組織のものだ。「労働者はこれらの評価には関与できていない」とザムディオ氏ははっきり言う。

 消費国では、いくつかの切り花栽培業者が生産性第一主義から脱却することを決めたようだ。小規模の企業では、季節に応じた地場または在来の品種を生産し、化学物質の投入を最小限にし、地元の顧客を対象にして、ときには自らがフラワーアレンジメントを提案している。まだ社会の認知度は低いが、資本をあまり必要とせず、労働力とノウハウをより必要とする彼らのこうしたアプローチは、農民農業を守る会(Amap)のアプローチと共鳴するところがある。彼らのうち何人かが自分たちの切り花を近くの八百屋で野菜の横に置いて売っているのも偶然ではない。ここでは、バラは天気の良い日だけに売り出され、より小さくて、香りが良い。しかも、堆肥にすることができる。



  • (1) Lire Jean-Baptiste Malet, « Le capitalisme raconté par le ketchup », Le Monde diplomatique, juin 2017.[日本語版「トマトケチャップが語る資本主義」参照]
  • (2) 2020年1月初現在では、0.90ユーロ。
  • (3) Lire Christelle Gérand, « La rose assèche les lacs d’Éthiopie », Le Monde diplomatique, avril 2019.
  • (4) Queen’s Flowers, Splendor Flowers, Elite Flower.
  • (5) Khaoula Toumi, « Exposition des travailleurs aux résidus de pesticides sur les fleurs coupées et sur les produits horticoles », université de Liège, 2018.
  • (6) Mauricio Restrepo et al., « Prevalence of adverse reproductive outcomes in a population occupationally exposed to pesticides in Colombia », Scandinavian Journal of Work, Environment and Health, Helsinki, vol. 16, n° 4, août 1990 ; Marcela Varona et al., « Alteraciones citogenéticas en trabajadoras con riesgo ocupacional de exposición a plaguicidas en cultivos de flores en Bogotá », Biomédica, vol. 23, n° 2, Bogotá, 2003.
  • (7) Adrian Williams, « Comparative study of cut roses for the British market produced in Kenya and the Netherlands », Cranfield University, 2007.
  • (8) Damian Paletta, « In rose beds, money blooms », The Washington Post, 10 février 2018.
  • (9) フランスではバラの切り花の99%が輸入品である。« Bilan annuel. Commerce extérieur français des produits de l’horticulture » (PDF), FranceAgriMer, Paris, 2016.
  • 訳注]ル・モンド・ディプロマティーク日本語版2019年6月「経済成長の陰で犠牲になったエチオピアの湖」参照

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年2月号より)