従順さと良い成績のためにリタリンは必要か?

薬で飼い慣らされる子ども達


ジュリアン・ブリゴ(Julien Brygo)

ジャーナリスト
著書Boulots de merde ! Du cireur au trader. Enquête sur l’utilité et la nuisance sociales des métiers
(La Découverte Poche, Paris, 2018)(オリヴィエ・シランとの共著)


訳:福井睦美


 リタリンはもともと、比較的まれな精神障害である「注意欠如多動症(ADHD)」の対症薬だった。それがアメリカでは数年前から少しでも態度に問題のある子どもに簡単に処方されるようになり、また、集中力を飛躍的に高める魔法薬として大学キャンパスでも猛威を振るっている。オピオイドに次いでアメリカ市場を席捲したこの麻薬が今、フランスにも広がりつつある現状を検証する。[日本語版編集部]

(仏語版2019年12月号より)

Classroom by Allison Meier


 2019年4月13日土曜日、パリ。市内の大型ホテルでチームリーダーをするクレール・ルブロンさんは息子のニルスくん(11)と共に小児精神科の待合室に座っている。数分もするとこの男の子は医師の前に座り、いつものようにまた学校での成績や態度について聞かれることになる。しばらく座っていたニルスくんは、そわそわと動き出し、立ち上がり、また座り、そして母親のスマホを取って街の写真をめくり始めた。街灯、ゴミ箱、トラック、そして今は街の写真が彼のお気に入りだ。

 パタッ。スマホが床に落ちる。ルブロンさんはカッと怒り、声が一オクターブ上がる。彼女にとってこの光景はまた一つ、自分の息子が他の子と違ってじっとできないし、注意しても直らない「多動症」の証拠だ。彼女はこのぴったりな言葉を数年前に見つけていた。学校でも家でも続く息子のわるさに、彼女は苛立ちを募らせている。

 彼女の選択は正しかった。壁の向こうから聞こえてくる声の主は、「この分野の権威」として有名なお医者さんだ、と彼女は一息つく。全国放送ラジオの常連ゲスト、ガブリエル・ワール医師は医療誌や一般誌の論壇にも定期的に登場し、落ちこぼれ、早熟、昨今話題になっている注意欠如症(ADD)や注意欠如多動症(ADHD)などを始めとするお得意のテーマについて、たくさんの本も出版している。

 彼の魔法薬、それは1944年にイタリアの化学者レアンドロ・パニゾンが合成した分子からなる錠剤、リタリンだ。一説によるとパニゾンは、集中力を向上させてテニスのバックハンドがうまくなりたかった妻のマルゲリーテ(愛称リタ)のためにこの薬を作り出したという。その日、ワール医師の患者は一人残らずこの向精神薬の処方箋を持ち帰ることになる。

 リタリンはアンフェタミンの派生物質、塩酸メチルフェニデート製剤だ。この分子は脳内のドーパミンを増やすため、大人も子どもも驚くほど多くの不具合から解放されるという(面倒なことを嫌がる困った性格から、注意不足、集中力不足、そして権威の絶対拒否まで)。この薬はノバルティス社(2018年の総売り上げは520億ドル)の目玉商品の一つだ。「スマートドラッグ」(知能ドラッグ)、「従順さのための薬」、「キディー・コーク」(子ども用コカイン)などと呼ばれることもあるこの精神刺激薬は、頭脳の働きを向上させ、子どもが親や先生に従順になるとされている。「リタリンは何も治しません。この薬は対症薬であって、治療薬ではありません。不注意障害の症状を抑えるものです。遺伝子による生まれつきの障害であるADHDを治しはしません(1)」とワール医師は認める。リタリンやアデラル(シャイアー社)をはじめとする同効薬は麻薬に分類されている。

 2016年、フランスでは約6万2千人の20歳以下の子ども(主に6~17歳の男児)がニルスくんのようにメチルフェニデートを服用した(2)。「多動」児の大部分と同じように、彼も登校日だけ薬を服用している。正確に8~16時間薬効を保つ「持続性」のある体内での拡散方法が考案された。「落ち着かない子どもが1人いたら、クラスは台無しです」とワール医師は強調する。彼の魔法薬を使えば、お仕置きも、騒ぐ子どもたちをおとなしくさせる教育策もいらない。女児に関しては躾のおかげで迷惑な態度を取る傾向は少なく、多動性のない注意欠如症(ADD)と診断されることが多い。

 フランスではメチルフェニデートの処方が爆発的に増えている。1996年の発売時に比べて現在はその30倍だ。2017年には2005年の4倍の81万箱が販売された。しかも、市場にはまだ伸びしろがあるとみる関係者もいる。例えばフィガロ紙は「2014年に処方を受けた子どもは4万人で、これは不十分だ。まだ処方を受けたほうがいい子どもが数十万人はいる」とみる(3)。一方allodocteurs.frのウェブサイトは「リタリンは、処方を必要としている患者すべてに行き渡っていないようだ」と警鐘を鳴らしている(2017年9月5日)。ルブロンさんは単刀直入に言う。「薬を与える理由は静かに過ごすため、この子が言うことを聞いて、学校ではよい子にして、良い成績を取るためです。呼び出されてばかりだったんですから! でも、もう効き目がなくなりましたし、この子には不安障害が出ています。だから薬はやめさせます」 「子どもにアンフェタミンを飲ませるのは辛いです」

 子どもへのメチルフェニデート投与における長期的影響についての調査は全くない(4)。ルブロンさんの心配には、ワール医師も有名な医師によくある冷静さで同意する。「そうですね。睡眠や食欲への障害、腹痛などはあり得ます。でもこの薬は75カ国で処方されている、70年以上も前に開発された薬です。人間の冒険でリスクゼロのものは何もありません。この薬は何の悪さもしませんし、依存性も全くないです。メチルフェニデートは特に集中できなくて落第してしまうような子どもの人生を救うものなのです」 。「IQはとても高い」のに、復習にきちんと集中できなかったあの女子小学生は、「あっという間に」平均点が9点から16点[20点満点]に上がった。また、リヨンの「立派な医師」は「リタリンを服用しなかったら自分の息子は医学の勉強も、その後の外科の勉強もできなかっただろう」と公言した。そんな逸話をワール医師は山ほど持っている。「私の患者さんたちは、寒かったら暖房をつけるように、雨が降ったら傘を開くように、近視だったらメガネをかけるような感覚で薬を服用しています。ケンタッキーとか、社会問題とかなんとか、彼らにそんなことを言ったって、誰も気にしやしませんよ」

 なぜケンタッキーが話題になるのかというと、ケンタッキー州はアメリカで最も多動症診断を受ける子どもの割合の高い州だからだ。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が両親の申告をもとに集計したところによると、州内の子どもの14.8%が多動症と診断されていて、そのうち10人に1人が薬剤投与を受けている(5)。西部のヘンダーソンなどいくつかのカウンティでは就学児童の4分の1が学校にADHDの診断書を提出している。この人口450万人の州は不注意症児への薬剤投与率が世界第1位なのだ。2017年、アメリカでは成人1600万人(うち500万人は違法)と未成年400万人の合計2000万人以上が精神刺激薬を服用した(6)。投与率は西部と南部の州、農村、工業地帯がそれ以外の地域に比べて高い。

 2019年9月29日日曜日、ケンタッキー州レキシントン市。高速道路のインターチェンジ、商店街と郊外住宅地域を行った先にボーモント図書館がある。ジェス・デュンさん(39)と2人の子ども達は翌週読むための本を借りに来ていた。「世界一だってことには全然驚かないですよ」と大学病院に勤務する薬理学者、デュンさんは言う。「ケンタッキーはとても保守的な州です。子どもの感情とか、気持ちなんか全く考えません。それより薬をあげたがります。そのほうがずっと簡単です。カリフォルニアだったら反対でしょうね。クリエーティブだったり多動だったりするからって後ろ指は指されません。ここでは、それが過剰に診断されすぎています。特に男の子には」

 その朝、デュンさんと一緒にいたエリザベスちゃん(11)は絵に描いたようにおとなしい。「うちの娘はずっと成長の早い子でした。他の子より早く読めるようになって、ずっと読書ばかりして過ごしています。でも以前は、夜になると手に負えなかったんです。ちっとも私たち両親と静かに食事をしてくれないんです。私の仕事はとても忙しくて、週に50時間も働いていますから、夜になるとヘトヘトなのに。しかも、この子は病的なことを考えるんです。『ママ、私は生まれてこなかったら良かったのに』、みたいなことを言うんですよ。心が痛みました。それで何人かの医者に診てもらって、7歳の時にコンサータ(リタリンの同効薬)を飲ませ始めました。それからは長期休暇中も週末もずっと飲ませています。やめようとしたら、成績が急降下してしまいました。親としては、子どもにアンフェタミンを飲ませなきゃならないのはすごく辛いことです。でも他に方法はないんじゃないかと思ってます」。彼女の考える唯一絶対の原因、それは「スクリーン」だ。

 薬の処方箋を更新してもらうためにデュンさんは毎月医者に出かける。「1回に30日分しか処方してもらえないので、毎月小児精神科医に行かなければならないんです。それから薬局に電話して、4日間待って、IDカードを見せて……。とっても厳しく取り決められているんですよ、学生用に闇売買する人たちがいるから」

英才カテゴリーへの入場チケット

 2008年にアメリカ南東部の大きな大学で行われた調査によると、アメリカの大学生の34%が試験勉強のためにメチルフェニデートを服用したことがあるという(7)。商学部の学生シャノンさんは驚いた。「それだけですか? もっとだと思いますよ。もっとずっと多いと思います。ここじゃあ少なく見積もっても70%は下らないですね、私の見たところ。私の周りじゃみんなやってます」。レキシントン市のケンタッキー大学キャンパスではメチルフェニデートを入手するのはたやすい。「コンサータを飲むとすごく集中力が出ます。昨日なんか、午後2時に飲んだらご飯も食べないで夜中の1時まで試験勉強ができました。ネットのディスカッショングループで27㎎を8ドルで買いました。全然簡単ですよ」。心理学の試験を終えて出てきたばかりの、青白い肌にどんよりした目つきのマヤさん(19)はきっぱり言う(8)。「私は家族の中で初めて大学に入りました。だから何が何でも卒業しなきゃならないんです。私の地元のケンタッキー北部では、大学に進む子なんて、強いバスケ選手ですらいないんですから」。半期に1万3000ドルかかる大学で、この若い女性はためらわずに「ありとあらゆる手段を使って」いるのだ。

 「危険な」状況だ、と大学病院医師で学生の精神病治療部門で働くマチュー・ネルトナー氏は言う。「精神刺激薬には依存性がないはずだという見解は、オピオイドに関する議論を思い出させます。あの問題もこれと全く同じように始まりました! リタリンがなくなると落ち込み、疲れ、一日中寝て何をする気力もなくなります」。たくさんの患者が、診察室にやって来るなり自分はADHD患者だと申告するのだと言う。「誰も『二重人格です』とか、『うつ病です』と言って来ません。そういうのはセクシーじゃないですから。学生たちは行動療法のことなんか聞きたくないんです。本当は効果があるんですけれどね。あるいはもっとシンプルな治療法もありますよ、エクササイズをするという。走ったり、外出したり、スポーツをすることで、多動障害は治療できるのですが」。彼の部門は「やたらに処方箋を出さないようにしています。私たちはADHD患者は子どもの5%、大人の2.5%だと立証しているDSM-5[精神障害の診断と統計マニュアル第5版](9)を基にしています」

 アメリカでは、ADHDに悩まされていることが望ましいとされることがある。それは、英才カテゴリーへの入場券と同義語だからだ。歌手のジャスティン・ティンバーレイクから女優のエマ・ワトソンまで、実業家のリチャード・ブランソン、水泳選手のマイケル・フェルプス、ミュージシャンの故カート・コバーンも、それにレオナルド・ダヴィンチに至るまで、たくさんの有名人が皆、ADHD患者と診断されている。金融、ビデオゲーム、野球、ショービジネス、それに軍隊や競馬(10)まで、広くアメリカ人の日常生活に入り込んでいるメチルフェニデートを讃(たた)えるうたい文句は数知れない。

 「私の息子は天才なんです」とマリー・フラー・プロフィットさん(63)は断言する。ウェイトレスの彼女は11年前に養子縁組したアイザックくんを一人で育てている。「彼はいとも簡単に完璧なヨーロッパ地図が描けるんです、第一次世界大戦前と大戦後と、それから第二次大戦後も」。かつては精神病患者をケアするソーシャルワーカーをしていたプロフィットさんは(「私は38人の患者を受け持っていて、毎月全部で1万種類もの薬を管理していました」)、長い間精神刺激薬に反対していた。何人かの医師が早い時期からイサークくんにADHD診断を下したが、彼女はそれに懐疑的で、ケンタッキー州では過剰診断が横行していると思っている。「イサークは生まれた時からコカインやアルコール依存症でした。生母が摂取していたからです。私は育児のために仕事をやめなければなりませんでした。まだ小さい頃から、学校からは態度の注意ばかりされてきました。おしゃべりをやめない、どうしても座らない、好き勝手にふるまう、と。先生方は私に、何か薬を与えるように圧力をかけてきました。彼らはイサークに黙って座っていて欲しいんです」。結局プロフィットさんは折れた。「登校日だけコンサータを飲ませています。先生たちは満足してますが、私はそれほどでもないです。いい保険に入るお金がないので、薬代に毎月130ドルも払っているんですから」

 ケンタッキー州東部、アパラチア山脈の麓にある人口5000人のハザード市。そこにあるのはドライブイン薬局、点在するスーパーマーケット、それに石炭採掘か道路修復のためにパワーショベルが掘削する段々の山並みばかりだ。インタビューの申し込みに応じてくれた学区組合のところへ向かう途中、ドライバー向けに"ADHD"という略語の看板を光らせていた一軒のクリニックに立ち寄った。中に入るとクロスローズ・ヘルスセンターの広告があった。「あなたのお子さんは言いつけを守れなかったり、宿題を終えることができないですか? 学童や大学生でじっと座っていられなかったり、列に並んでいられない知り合いがいますか? 手足をばたつかせたり、体をゆすったり、走ったり跳んだり、いつも動いている子どもと接することがありますか? ADHDの疑いがあって、診断を確定する助けが必要そうな人をご存知ですか? この番号にお電話ください」。受付で、この地域では何歳からADHDの診断ができるのか尋ねてみた。「生後18カ月からです」と当直の医師が教えてくれた。

 ケンタッキー・バレー学区共同支援組合(傘下の生徒数5万人、教員数2900人)[訳注]の会議室で副組合長のデジ―・ボーリングさんは、この地域に多発しているADHDに関する我々の質問に答えるために8人もの関係者を集めてくれた。大規模高等学校の教師エミリー・Kさんは言う。「私のクラスでは生徒20人のうち、おそらく30%がADDかADHDを抱えています。私は教師歴5年ですが今までもずっと同じでした。ここではそれが普通だと思います。私の生徒の少なくとも半分はオピオイドや他の麻薬のせいでもう両親と一緒に生活していません。祖父母や養父母宅で暮らしています。そこなんです、うちのクラスの本当の問題は」 処方は「必要なら4歳から」

 石炭産業の衰退と麻薬(主にオピオイド、メタンフェタミン、コカイン)の猛威に蝕まれたこの地方では、教師はできる範囲のことをしている。「すぐ注意が逸れる子どもたちにはバーチャル・リアリティのラボや木工作業室に行くように勧めています」とボーリングさんが説明する。ドローンを製作したり、自分で作ったモノを3D印刷したりする時は集中力の問題は全くないんです。もしかすると単に、紙やペンよりもモーターや設計図の方がしっくりくる子たちだというだけなのです。たくさんの教員に、大きなバランスボールチェアや立っていたい子用のハイチェア、ロッキングチェアなどを教室に配置するよう促しています。それもこれも、すぐに薬の服用をさせないための解決策の一環なんです」

 アメリカの学校では最近20年間に2度の相次ぐ改革を経て、学校間、生徒間、教師間の競争が激化した。No Child Left Behind(「どの子も置き去りにしない法」)という法律がジョージ・W・ブッシュ政権下で成立し、バラク・オバマ政権はRace to the Top(「トップへの競争」)プログラムを導入した。これらは学校間の不平等を深刻化させた。学校は子ども達にとって、そのリズムについて行くには薬を服用しなければならないほど厳しいものになったのだろうか? 「我々は子ども達が一人前の大人になり、社会の生産的なメンバーになるための準備をさせなければなりません」とKさんは答える。大きな問題なのは、週末に全く薬を飲まなかった子が月曜日の朝学校に来ることです。その子たちは一週間をひどい興奮状態で始めるので、また頭が使えるように戻るには火曜日を待たなければならないんです」

 カウンティ―で一番大きなハザード市プライマリーケアセンターはぼた山のてっぺんにある。そこにモリ―・オルーク小児科医の診察室を訪ねた。「私のスケジュールを見てください。木曜日は忙しい日です。26人の患者のうち、12人が多動症か不注意症で診察に来ます。毎月の処方箋を取りに来るんです。そういうのが1日の診察の半分以上になる日もあります」。ADHDの診断を確定するためにオルーク医師は患者にヴァンダービルドADHD診断評価尺度(VADRS)と呼ばれる質問票に回答してもらう。「これは主観的なものです。両親が自分の子どもの態度について答えるものです。もしその子が学校でも自宅でも同じ症状があれば、薬剤治療を検討します」。質問票には47の質問があり、0(全くない)から3(非常によくある)の段階を選択させる。

 「精神障害の診断と統計マニュアル」の場合と同様に、回答欄にチェックを入れ、その合計が一定点数以上だと「多動症」または単なる「注意欠如症」とみなされる。例えば「しゃべりすぎる」「よく自分の物を忘れる」「やるべきことをうまく順序立てられない」「頻繁に他の人が話しているのに割って入る」「イライラしがち」「夜に抜け出したことがある」「人に性的暴行を加えたことがある」「大人と口論する」など。質問は多岐に及んでいるが、すべてがその子どもの迷惑度に関するものだ。オルークさんはリタリン、コンサータ、フォカリン、アデラル、ヴィヴァンスを処方している。「必要なら4歳からです。毎月新しい薬剤が発売されるんですよ」と彼女は感嘆の声をあげる。

 最も最近発売されたAdhansiaは、オピオイド問題(20年間に40万人が死亡)の主要な原因とみなされているオキシコンチンを出した製薬会社、パーデュー・ファーマの製品だ(11)。「私は投薬量を減らしたり、行動療法を促進したり、薬剤投与をやめる努力をしようというプログラムに入っていました」とオルーク医師は続ける。「私の目標は子どもが子どもらしく、遊んだり学んだりできることです。今までに成長障害以外には長期的な副作用を見たことはありません。最も大きな問題は、特にティーンエージャーの場合は依存症と、転売のようです」。彼女にとっては間違いなく「テレビがADHDの大きな原因です。この国のナンバーワンベビーシッターなんです」。彼女の診察待合室にはまた1人、男の子が待っていた。ジェイデンくん(12)は「少しもじっとしていない」。多動症と診断され、4年前から向精神薬を投与されている。母親のターシャさんは言う。「薬を飲まないと、手に負えない子です」。学校はどう? 「面白くないよ」とジェイデンくんが答える。「読むのはつまんない。一日中じっと座ってるのはつまんない。パパと野球をやったり、友達とフォートナイトやワールド・オブ・ウォークラフトやNBA 2K(ビデオゲーム)をやるほうが好きだよ」

 話をフランスに戻そう。ワール医師の診療室で、ルブロンさんは先生に向かって率直に話す。「結局のところ、はっきり言ってしまえば、リタリンは学校の安心のためですよね。週末や長期休暇中には飲ませないわけですから」。ワール医師は困ったような顔をする。椅子に座り直し、「そこはね、はっきり言って、私は貴女の意見に賛成できません。一番の目的は、苦しんでいる子どもたちが良くなるように助けることです。昼間は学校で先生たちから怒られ、夜は両親からも怒られて、ADHD患者の子どもは絶えず葛藤しているわけですから!」。ルブロンさんは言い返す。「そりゃそうですよ、先生。私たちだっていつもいつもこんな風に叱るのはうんざりです」。小児精神科医は持論を繰り返す。「これは生まれつきの障害です。これに関して貴女は良くも悪くもない。貴女がこの子のADHDに責任がないのは、私の両親が私の近眼に責任がないのと同じことです」。ニルスくんが笑い出し、ワール医師は言葉を改める。「ニルスくんは純粋なADHD患者ではないですよ」。けれども彼は4年間に渡って向精神薬を服用し、今は深刻な不安感と呼べるような感覚をもつようになっている。

不安感と自殺企図

 「独占捜査」、「アクション捜査」、「超緊迫の捜査」、他にも様々な機動隊の「ルポ」番組を何時間も見ていることは、彼がありそうもない誘拐の恐怖を感じていることの説明にならないだろうか? 「残念ながらリタリンはADHDを治療するものであって、不安感には効きません」とワール医師ははっきり言う。精神刺激薬服用中の子どもで、不気味な不安感を抱えるのはニルスくんが初めてのケースではない。7歳からアデラールを服用しているガブリエル・Tくん(14)は、自殺未遂を図った。ケンタッキー州のホテル飲食業で働くトレー・マッコーミックさん(23)は子どもの頃、母親には服用していると信じさせておいて錠剤をトイレに捨てていたと言う。その薬があまりにも「気をめいらせ、憂鬱にし、恐ろしい幻覚」を引き起こしたからだった。そして建設作業員ジョー・デイジアーさんは両親が彼に「無理やり」飲ませたこの「毒薬」について、どんな批判の言葉でも足りないほどだと言う。

 2019年に発表されたある調査によると、精神刺激薬を投与されている子どもたちは精神異常を発症するリスクが2倍だという(12)。しかしワール医師は全く納得しない。「リタリンは依存症のリスクを減少させていますし、原則的には精神異常のリスクも限定的です。学校の成績が良くなっているわけですから」。成績が良ければミッションは達成できたわけで、この医師は満足なのだ。

 パリ北部サンプリ市の一軒家にルブロンさんを訪ねた。「ワール先生はリタリンを処方した時、『副作用のリストを見るとぞっとするだろうから、効能書きは読まないで』と私に言ったんです。名医さんの言うことですから、指示に従いました。でも他で読んだアンフェタミンとの類似性のことで不安になりました。それを知ったあとで、リタリンがもう息子に全く効果がないと気づいて、それでやめさせようと決心したんです。ニルスは4年間も服用したわけで、すごい量ですよね。来年には中学進学で、どうなるか心配しています」

 ダイニングルームでルブロンさんはリタリンのボトルを振り、彼女が皮肉を込めて「ちっちゃな魔法薬」と呼ぶ薬のきっちり折りたたまれた効能書きを我々に差し出す。第4章には少なくとも70項目の「起こり得る副作用」が、「かなりの頻度でおきるもの」(動悸、不整脈、頭痛、焦燥、不眠など)から「頻繁におきるもの」(食欲減退、発熱、脱毛など)、そして「非常にまれなもの」(心臓発作、自殺企図、異常思考、感覚や感情の欠落など)まで列挙されている。「その他の副作用」には、いくつかの項目の中に「依存性」も挙げられている。

 陽気で遊び好きなニルスくんは「眠るのを邪魔して、心臓をドキドキさせて」いたこの薬をやめられてとてもうれしい、と話す。「私はこの子が多動症だって確信していたんですが」と母親は言う。「私たちは問題から目を背けて、子ども達に麻薬を与えているのではないでしょうか?」



  • (1) Lire Gérard Pommier, « La médicalisation de l’expérience humaine », Le Monde diplomatique, mars 2018.
  • (2) Cf. « Méthylphénidate (Ritaline) : dernier choix dans l’hyperactivité », Prescrire, 1er août 2017.
  • (3) Damien Mascret, « La Ritaline, entre sous-prescription et abus », Le Figaro, Paris, 16 mai 2017.
  • (4) 雑誌『Prescrire』は「メチルフェニデートの中長期的効果についての研究がなされていない」ことを指摘している。同誌はこの向精神薬メチルフェニデートについて、副作用に注意を喚起する記事を複数発表しており、「危険があるにも関わらず一般化されて」いて、その処方は「子どもへのドーピング」に類似している、とした(Prescrire, no 406, Paris, août 2017)。
  • (5) Chiffres de 2011. « State profiles — Diagnosis and medication treatment among children ages 4-17 years (survey data) », Centers for Disease Control and Prevention.
  • (6) Amelia M. Arria et Robert L. DuPont, « Prescription stimulant use and misuse : Implications for responsible prescribing practices », The American Journal of Psychiatry, vol. 175, no 8, Washington, DC, août 2018.
  • (7) Alan DeSantis et Audrey Curtis Hane, « “Adderall is definitely not a drug” : Justifications for the illegal use of ADHD stimulants » (PDF), Informa Healthcare, 2010.
  • (8) 名前はそれぞれ変えてある。
  • (9) アメリカ精神医学界発行の精神障害の診断と統計マニュアル (DSM)はADHDを含む精神障害の診断基準を規定している。
  • (10) 2015年、Tru[e]sdail製薬会社の監査の際、メチルフェニデート(馬術競技チャンピオンシップのカテゴリー1興奮剤)に陽性反応を示した馬のいた7件の事案が隠蔽されていたことが発覚した。
  • (11) Le Monde, 16 octobre 2019, L’Adhansia est un psychostimulant dont les effets durent seize heures, soit deux fois plus que la Ritaline. Lire Maxime Robin, « Overdoses sur ordonnance », Le Monde diplomatique, février 2018.
  • (12) Edith Bracho-Sanchez, « Young people on amphetamines for ADHD have twice the psychosis risk compared to other stimulants, study says », Cable News Network (CNN), 20 mars 2019.

  • 訳注] Kentucky Valley Educational Cooperativeはケンタッキー州に8つある学区共同支援組合の一つで、担当する22学区内の学校を支援する共同支援組織。主だった運営資金は連邦補助金。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年12月号より)