公衆向け医療ウェブサイト、ドクティッシモの登場

女性ユーザーは情報の宝庫


ソフィー・ユスターシュ(Sophie Eustache)

ジャーナリスト、
Comment s’informer ?
(Ricochet, Tourtour (Var), 2019)共著者


訳:福井千衣


 フランスでは、2000年代初頭、公衆向け医療ウェブサイト、ドクティッシモが出現した。それにより、医療情報が大衆化され、患者は医師への依存から解放されることになった。同サイトのヘビーユーザーは大多数が女性であり、ネットを使いこなす女性ユーザーたちが健康のために進んで提供するプライベート情報は、綿密に分析され、同サイトの広告主たちにさらなる広告と収益の機会をもたらすという驚異のシステムが実現している。[日本語版編集部]

(仏語版2019年5月号より)

Women and Children
Auguste Herbin


 オフェミナン社の訪問者は、(ひょっとすると偽の)牛革の床とふかふかの贅沢なひじ掛けいすに出迎えられる。オフェミナン・メディアグループ(オフェミナン社のほか、マルミトン社、マイリトルパリ社等から成る)は、フランス最大の民間テレビ局TF1に買収された。オフィスはまるで全体にマニキュアが塗られているようにつやつやしている。一方、フランスの公衆向け医療情報サイトの先駆けであるドクティッシモ・グループは、同じくTF1に1,500万ユーロで買収された後、2018年末、パリのサン・フィアクル通りのこの場所に移転してきた。「われわれの親会社は、実用性よりも美意識を優先させる」とドクティッシモの編集長ダヴィッド・ベーム氏は、会議卓の周りのひじ掛けいすに座って冗談っぽく話す。

 ドクティッシモは、フランスにおいてインターネットで公衆向けに医療情報を提供する先駆的サイトの一つであり、2000年、ネオリベ右派の医師ローラン・アレクサンドル氏とクロード・マルレ氏の2人によって創設された。同グループのヴァレリー・ブルシュー前社長によると、創設者たちは、「医療アクセスを大衆化」することと、そして、見識のある患者は医師と建設的な対話をすることができることから、「より良い治療を順守するよう患者自身が責任を持ち、健康を管理するようになることを目指した」と説明する。しかしながら、医療アクセスの大衆化は非常に特殊なかたちを取った。国立保健医学研究所(INSERM)が2007年に行った調査によると、健康に関心を持つインターネットユーザーの属性は、「高学歴で、仕事をもち、パートナーと生活していて、インターネットを使いこなすことができ、かつ、(自分自身又は周囲の者が)健康問題に直面している若年又は中年の女性」(1)である。というわけで、ドクティッシモのウェブサイト訪問者の8割は女性であり、彼女たちは無視できない購買力を備えている。この社会学的特性を販売戦略として利用するには、この購買力以上のものは必要なかった。ドクティッシモは女性向けサイトであり、女性向けの広告から収益を得ているからだ。

 前出のブルシュー氏は、「家庭において健康に責任を持つのは女性です。その理由の一つは、女性のほうがより定期的に健康診断を受けるからです。女性は毎年婦人科検診を受けますし、妊娠したら定期的に受診します。ドクティッシモは妊娠中の女性から成る巨大なコミュニティを擁しています」と分析する。ベーム氏は、ネットを使いこなす「新時代の主婦」(la ménagère 2.0)ともいうべきこの市場にも熱心であった。というのは、「女性は、家族全員にとっての健康情報の玄関口ですから。女性はまず自分の健康について話し、それから子ども、夫の健康について話題にします」と言う。

モバイルアプリの成功

 しかしながら、フランスでは法規制が厳しいため、医薬品の宣伝は容易ではない。そのうえ、フランス人は、ヘルスケアは無料であると考えているため、ネットの健康情報には「誰も金を払いたがらなかった」とブルシュー氏は言う。「だから、わわわれは、とりわけ女性の健康と美容分野における伝統的な広告主との、広告活動とパートナーシップだけに基づくモデルを作った」。このビジネスモデルは、ドクティッシモのウェブサイトのコンテンツに影響を及ぼした。ドクティッシモは、2000年代初頭には、ヘルスケア部門で最も参照されるトップサイトとなり、その後、取扱商品を増やしていった。ドクティッシモに数年間勤務した匿名ジャーナリストによると、「経営陣は、医療以外の心理学、フィットネス、美容などの他の項目を強調していた。広告は、とりわけ美容やフィットネス分野から来ており、女性市場をターゲットに事業を展開した。例えば、化粧品会社ロレアルは広告主の一つであった」。だからといって、自動車メーカーが、新時代の主婦に向けて、最新モデルを宣伝することを軽んじていたわけではない。しかし、ドクティッシモ神殿では、広告収益は2次的な地位を占めているに過ぎず、第一の主はグーグルであった。

 アレクサンドル氏は、「われわれは、グーグルのアルゴリズムの仕組みを理解するために全力を尽くし、いくつもの実験を行った。ドクティッシモはITを重視しており、私はかつて、“エル誌を良く読んでいるユーザーは、ほぼドクティッシモの訪問者のトップを占めている”と言ったものだ。ドクティッシモにおいては、ソフトウェアエンジニアのほうがジャーナリストよりも重要だった。新しいダイエット法について記事を書くことができるジャーナリストは数多くいるが、検索エンジン最適化をマスターしているソフトウェアエンジニアは、はるかに希少である。われわれは、記事がどうやったらグーグル検索で上位に表示されるかを考えた」と言う。

 検索エンジン最適化により、ドクティッシモはグーグル検索で上位に表示されるようになった(2)が、ユーザーがウェブサイトを訪問するだけでは十分ではなく、そこに引き留めなければならない。ユーザーのドクティッシモサイトの滞在時間は平均9分間であった(グーグル・アナリティクスによると、他のウェブサイトの場合は3分である)。それは偶然の産物ではなかった。リヨン大学のアンリーズ・トゥーブルとエリザベート・ヴェルシェールは、2008年の研究で、「ユーザーの検索行為を分析すれば、無数の内部リンクに通じるドクティッシモのサイト内に彼らを引き留めておくための戦略が直ちに明らかになる。唯一の外部リンクは、スポンサーのウェブサイトに通じているだけである」と指摘している(3)

 ドクティッシモ創設者のアレクサンドル氏は、「2008年にドクティッシモをラガルデール社に売却したとき、広告で何百万ユーロの収益を得ていた」と誇らしげに語る。にもかかわらず、2008年からドクティッシモの企業価値は10分の1に下がった。アレクサンドル氏は、この価値の暴落の原因をラガルデール・アクティブ社による広告投資が少ないからだと説明する。しかし、ドクティッシモのサイト訪問者は増え続け、2019年1月には1,100万人のユニークビジター数を数えており、その8割はグーグル検索を経由している。結果として、ドクティッシモの編集方針は、グーグルで最も検索されるテーマを扱うことになっていく。「もし、それらのテーマに対応するコンテンツがわれわれのサイトになければ、それを作る。そして、ニュースのトピックや他の媒体で扱われているテーマの記事を提供する。われわれは、ユーザーの多くが見ているグループチャットを注視している。そこで交わされる議論からユーザーのニーズがわかるので、対応するテーマやコンテンツを作るのだ」と、ある記者は言う。

 広告主がグループチャットを好むのは、オンラインヘルスケア市場の拡大のためだけでなく、ユーザー情報のデータべースを詳細化することができるためである。ラガルデール・アクティブ社でドクティッシモサイトのコミュニティ部長をしていたルシア・ラガリグと、オンラインマーケティング会社スキャン・リサーチ社のジル・アシャシュが2016年6月に述べたところによると、「ドクティッシモのユーザーは、社会・人口統計データ、家族構成の変化、消費性向の推移、関心の的、助言及び意見(症状や、健康問題、好きなブランド・製品・サービスに対する考え方)といった彼ら自身についての膨大な情報を提供してくれる」という(4)。これらのデータと個人のメッセージは意味解析ツールを用いて処理され、その結果、ドクティッシモは広告主に対して、サイト訪問者に関する高度な詳細情報を提供することが可能になる。そして、「適合性レベルがさらに上がると、(例えばターゲットをしぼった記事広告によって)特殊なマーケティング操作を考案することが可能になる」と言う。

 育児用品ブランドのフィリップス・アヴェント社は、2017年、妊娠中の女性向けにカスタマイズした「スポンサー付きコンテンツ」に出資した。この結果、ドクティッシモは、「最高の女性向けウェブサイト」「25歳から49歳の女性向けのトップサイト(母親向けトップサイト)」「660万人の購読者を擁し、毎日3万件のメッセージが書き込まれる」ともてはやされた。それ以後、グループチャットの登録ユーザー数は57万人に激減した。ドクティッシモのマーケティング部長ベルガモット・バズロール氏は、「一般データ保護規則[GDPR]の下で、コンテンツを大幅に整理した」と認める。

 今や、ドクティッシモの新規購読者(とりわけ女性購読者)開拓のためのツールは、グループチャットとニュースレターから、モバイルアプリに移っている。「私の妊娠」「私の赤ちゃん」「排卵」といったアプリのアンドロイドへのダウンロード件数は、合計で150万件を超えた。バズロール氏は、毎月12万もの女性ユーザーを擁する「私の妊娠」は、「ドクティッシモの社説記事といくつかの記事を選び、それらを中心にコンテンツを構成している。われわれも、妊娠中の女性に関するニュースがある場合は、プッシュ通知を用いる」と説明する。ドクティッシモは、音声認識機能付きアプリの開発を計画中である。「例えば、妊娠女性は、将来、“私はムール貝を食べても大丈夫?”などと直接、携帯電話に向かって尋ねることができるようになるだろう。さらに、同様の睡眠導入アプリの開発も考えている」と言う。

 妊娠中の女性、つまり「ママ」たちは、バズロール氏に言わせると「過剰消費」市場であり、かつ、情報の宝庫である。女性ユーザーは、広告主たちがほしがる多くの個人情報をアプリに入力する。サービスを利用するためには、出産予定日や体重、最終月経日等のデータを提供しなければならない。ニュースレターやグループチャットの登録時、又はメッセージの投稿時に入力しなければならないデータと連結されて、入力された各データは、より正確となり、ゆえにさらなる利益を生むものになる。

 TF1グループがドクティッシモを買収したのは、この情報ファイルを入手するためだったのか? マルタン・ブイグ氏が所有するTF1グループは、「マイTF1」のオンラインストリーミングサービスを利用するために登録を義務付けたユーザーを合わせると、すでに2,300万人の登録ユーザーのデータべースを持っている(5)。同グループの新規デジタル事業部長ニコラ・カピュロン氏は、「われわれの目的は、これらの情報を最大限に有効活用し、ユーザー向けには付加価値の高い、よりカスタマイズされた個人向けサービスを提供し、広告主向けには、よりターゲットをしぼったキャンペーンを提供する能力を提供することだ。この上質なデータベースのおかげで、ユーザーの期待や生活習慣に適合するように、われわれの製品(ドクティッシモ)を改良することができるのだ」と、戦略用語で飾り立てた言葉遣いを多用して説明する。

 マルタン・ブイグ氏のTF1グループは、ドクティッシモの買収と、それに先立つ2018年4月のオフェミナン買収により、オンライン視聴者をさらに獲得している。結果として、TF1グループ傘下のもろもろのウェブサイトへの訪問者数はトップ10に入った。さらにTF1グループは、Gamned!社をも買収した。報道発表によると、広告スペースの売買を自動化する会社であるGamned!社の買収は、「主なネット企業(オフェミナン、ドクティッシモ、レニュメリック、マルミトン等)の所有データを有効活用する」ためだった。TF1の社長兼最高経営責任者であるジル・ペリソン氏は、「その結果、われわれは、われわれのサービスを超えて、より正確なターゲット設定力と、ユーザーとのより豊かな対話力とを広告主に対して提供することができるようになる」と説明する。フランスのナンバーワンテレビ局、TF1の幹部たちを忙しくさせる、実に「人文主義的かつ文化的な」プロジェクトだと。視聴者の脳を利用する方法は、実にいろいろあるものだ。



  • (1) Émilie Renahy, Isabelle Parizot, Sophie Lesieur et Pierre Chauvin, « WHIST : enquête web sur les habitudes de recherche d’informations liées à la santé sur Internet » (PDF), Inserm, Paris, 2007.
  • (2) Pascale Besses-Boumard, « La “Google dépendance”, force ou faiblesse pour les sites marchands ? », WanSquare, 20 mars 2018.
  • (3) Annelise Touboul et Elizabeth Vercher, « Communication et santé : entre rationalité marchande, logique d’information et communauté d’intérêts », Tic & Société, vol. 2, n° 1, Montréal, 2008.
  • (4) Document de présentation de la conférence « Pourquoi et comment analyser les forums consommateurs ? Doctissimo et Scan-Research, les leçons d’une collaboration », Association nationale des professionnels du marketing(Adetem), Paris, 10 juin 2016.
  • (5) Marina Alcaraz, « TF1 se renforce dans la publicité programmatique », Les Échos, Paris, 12 novembre 2018.

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年5月号より)