「完全デジタル化」が置き去りにした数百万人

インターネットなしではもう生きられない?


ジュリアン・ブリゴ(Julien Brygo)

ジャーナリスト
著書 Boulots de merde ! Du cireur au trader.
Enquête sur l’utilité et la nuisance sociales des métiers

(La Découverte, Paris, 2016)(オリヴィエ・シランとの共著)


訳:福井睦美


 世界は完全デジタル化に向かっている。近い将来、人々は乗り物に乗るにも買い物をするにも、税金を払うにも、スマホでスキャンしたりインターネットを使うしか方法がなくなるのだろうか? 大丈夫、みんな慣れて使いこなせるようになるさ、と推進派は言うが、フランスでは想像以上にたくさんの人々がデジタル迷路の迷子になって困っている現実がある。[日本語版編集部]

(仏語版2019年8月号より)


photo credit: Фотобанк Moscow-Live.ru IMG_1869

 じゃがいも畑と亜麻畑、ゴシック式教会堂の鐘楼。遠くには、巨大な孵化場とタバコ屋、ガソリンスタンド、チョコレート屋が軒を連ねるベルギー国境。ここは人口4000人のノール県オントショット村。2本のメイン道路の交差点に建つ公共サービス館(MSAP)は2人の職員が配置された生気のない建物だ。20㎞も先にあるダンケルクの役所まで遠すぎて行けない近隣住民のために公共サービスを行っている。

 2019年5月9日午前11時。2冊の分厚いバインダーを抱えたマリー=クロード・クラリスさん(65)がMSAPのドアを押す。「これまでずっと、必要な書類はきちんと自分で処理してきたのよ。それが今になって、なんだか自分がすごく頭が悪くて、おバカさんみたいな気がするわ。何もかも全部インターネット化されてしまって」。この、最初はPoint com、その後Point relais services、そして公共サービス館と改名された場所(そして近々国内2000カ所の「フランスサービス館」の一つになる)にはデジタル化に乗り遅れた人々が集まってくる。これまでは当り前のように自分でこなしていた色々な手続きが、できなくなってしまったのだ。

 この農村地域に住む多くの人々の日常生活は、デジタル化によって面倒なことになってきた。フランダース風ワンピースを着た赤い頬のクラリスさんは、きれんばかりに怒っている。サービス業(不動産、物販、イベント運営)から年金生活に入った彼女にとって、インターネットでの所得申告は「悪夢」だ。「うちの村は世界の果てでもないのに、インターネットに関しては果てなのよ! インターネットが調子よく繫がったことはないわ。サポートに電話するといつだって“電源コードを外してみて、つなげてみて、また外してみて……”と言われるばかり。もういい加減にしてほしいわ。これ以上白髪を増やしたくないわよ」

 クラリスさんの住んでいるのは、2018年に541カ所を数えるホワイトゾーン[携帯電話ネットワークのカバーしていない市町村]ではないものの、それに準じるグレイゾーン[携帯電話ネットワークが1社しかカバーしていない市町村]で、彼女もブロードバンドにアクセスできないフランス人128万人の一人だ(1)。応対に出た地区職員のクリストフ・リケブッシュさんは彼女を安心させようとしている。納税者番号とパスワードを尋ねられたクラリスさんは書類をかき分け、フォルダーをひっくり返してあちこち探し回る。「わからないわ」。「Ameli[Assurance Maladie en Ligne の略。フランス国民健康保険のウェブサイト]のアカウントをお持ちじゃないですか? あれがあれば公共サービスサイトのどこでも使えますよ」。リケブッシュさんは答える。「Ameli、ですって?」

 電話のパスワード、パソコンのパスワード、メールのパスワード、他にもあれやこれや、クラリスさんは覚えきれない。「じゃあ、メールアドレスはまだ使えてますか?」職員は尋ねる。「えーっと、まあ、使えると思いますけど」。クラリスさんはeメールを使っていない。手書きの手紙や直接会って話すほうがいい。「コードを変えてあげましたから」。リケブッシュさんは言い放つ。「メールで新しいコードが届きますからね」

 この新しいコードを見つけるために、クラリスさんは義理の娘に頼ることになる。しかしその娘も2018年にスマートフォンを所持している75%のフランス人に入っていない。「新しいコードを持ってまた来てください、そしたら新しいパスワードを作りましょう」とリケブッシュさんは続ける。impots.gouv.fr[フランス財政総局]からのメールが迷惑メールフォルダーに入ることはないはずだけど、よくあるから気をつけて、と警告することも忘れない。

 ログインID、パスワード、キャプチャ(人間とロボットを識別するための視覚テスト)[CAPTCHA、英語のCompletely Automated Public Turing test to tell Computers and Humans Apartの頭文字を使って作られた造語]、確認メール……。クラリスさんにはどれもよくわからない。「バカってことかしらね」と彼女は繰り返す。「インターネットを使うのは怖いわ。だから大抵は諦めちゃう。銀行も同じよ、あれも今じゃ全部インターネット。でもね、やっぱり直接人と会って話す方が私は安心するし。なんでこんなことになっちゃったんでしょうね」

非接触型社会へ

 18歳以上のフランス人の23%にあたる1300万人以上がインターネットを「気軽に」使いこなせていない(2)。 最もデジタル世界から遠い人々の66%がシニア層で、70歳以上の55%が自宅にインターネット環境がない。35歳以下でも20%がそうだ。ノール県では59万8000人(全人口260万人の23%)がインターネット接続なしで生活している。コンピュータ機器を持っていない、機能を使いこなせない、またはインターネット接続がない状態を表すために「イレクトロニズム」[訳注1]というなんともデリカシーのない単語が生み出された。

 非インターネットユーザーの半数ほどが、オントショット村のような人口2万人以下の村に住んでいる。「イレクトロニズムに苦しんでいるのは年金生活世代も50代も同じことです」とリケブッシュさんは認めている。「年金生活世代の人たちはインターネットを使おうとしてますよ、孫たちとスカイプで話したいというだけにしても。彼らの多くは本当に興味があって、ネットサーフする自由時間もあるから、50代の人ほどインターネットに対してイライラしてないですね。みんながインターネットのことを習いたがってるんですが、そんな予定はないんです」。2018年9月、当時のデジタル担当副大臣ムニール・マジュビ氏は1300万人の国民にデジタル教育を提供するために「数年間かけて」7500万~1億ユーロを投資すると発表した。これは1年間に150万人のペースということになる。焼け石に水のようなものだ(3)

 この「インターネット接続のない人々」は徐々に居場所を縮められている。2017年11月以来、運転免許証と自動車登録に関する手続きにはオンライン操作が必須になった。職業安定所の登録、家族手当公庫(CAF)、健康保険助成公庫(CPAM)、年金基金、フランス電力公社(EDF)への申し込み、学生の奨学金申し込みについてもしかりだ。所得申告はインターネット接続に抵抗がある人のためにあと1年だけ猶予がある。

 レストランのテーブル、ホテルの宿泊、劇場の座席、スポーツイベントの観客席、映画館のチケット、交通機関の切符に医者の予約(4)、テニストーナメントへの参加申し込み、行政手続き、さらにはスーパーマーケットでの買い物のセルフレジと、デジタル化は日に日に進んでいる。2021年にはパリのメトロチケットは紙が廃止されてリチャージできるプラスチックカードか画面のQRコードになる。2021年からカルトヴィタル[CPAMの被保険者カード]はapCVというモバイルアプリケーションに代わり(5)、多くのCPAM事務所が閉鎖になる(次々と閉鎖されているイゼール県の例のように)。毎週、銀行、企業、公共サービスが新しい完全デジタルシステムの製作を発表する(例えば2019年半ば、アップルとパセ=ゴーモン社は共同開発した映画チケット販売システムを運用開始した)。何百万もの市民を強制的に画面に向かわせる非接触型社会が出現している。

 エマニュエル・マクロン大統領は「2022年までにすべての公共サービスをデジタル化する」と発表した。節約効果は期待できる。フランス・アンフォの報道によると「市民一人当たり年6回の行政手続きをするとして、計算は単純だ。『完全デジタル社会』へ移行すれば国庫にとって国民一人あたり64ユーロの節約になるそうだ。総額で4億5000万ユーロだ」。が、そこには一つの数字が忘れられている。フランス全土の行政手続のデジタル化を達成するのに90億ユーロ以上が必要だということだ(6)。マクロン大統領は2018年1月22日、フランス会計検査院での演説で「改革するにはまず投資が必要だ。そのためには、慣行も変えなければならない。(……)(政府は)変化を恐れてはならない」と述べた。

 「ここは自由の共和国でしょう。なのに選択肢がどんどん狭まっている。すべてがデジタル化されているからですよ。こんなことを頼んだ覚えはないね。だから私はインターネットなしでやってます。やり方次第ですよ、一つの手続きに1日かければいいわけで」、と話すのはリール市郊外ロム村の電気技師ダヴィッド・ルコントさん(49)。劇場でパートで働いている彼は、インターネットとコンピュータのニーズは「人為的に作られた」ものだと言う。「徐々に人と人とのやりとりを消し去り」、環境への配慮を謳っているものの「現状では、紙は90%リサイクルできるのに、コンピュータ部品はそうはいかない」。そんなわけでこの抵抗運動家は、西洋ゴボウよりもキクイモが好きだ(あるいはその逆)と地球全体にリアルタイムで公表するためのツイッターアカウントを持っていないし、日がな「いいね」を押し続けるためのフェイスブックアカウントもないし、一日に何歩歩いたか知らせてくれるスマートフォンもない。コンピュータも、インターネット接続も、メールアドレスもない。「インターネットが無料で誰でも使える本当の公共サービスになる日には私も使うつもりですよ」。でもそれまではルコントさんは全部「昔ながらの方法」でやるつもりだ。電車の切符は窓口で買い、手続きには直接役所に出向く。そこで彼は多くの「完全に馬鹿げた状況」に出くわすことになるのだが。

 「最近労災に遭ったんです。職業安定所から、社会保障から支給された補償金の明細を見せろ、と言われまして。町にいるから直接社会保険局に行ったんです。普通のことでしょ。で、明細書を請求したんです。窓口の向こう側の女性は『問題ないですよ、メールアドレスをください』と。だから持ってないって答えました。そしたら係の女性はびっくりして、明細書を印刷することも、直接職業安定所に送ることもできない、って。上司の所に聞きに行って、その人が仮のメールアドレスを作ってそこへ書類を送って、それを印刷して僕にくれました。その場で2時間かかって交渉した結果ですよ。でもまあ、人間がいただけマシでしたかね」

「私は抹消されてしまった」

 2019年の春、ルコントさんは所得申告をするために出かけたランベルサール村の税務署でもやはり同じことを経験している。「やっぱり担当者はインターネットでやるようにと言いました。それで、みんなが使えるコンピュータはどこだって聞いたら……そんなのはないと。それはないでしょう。インターネットで申告しろと強制してるけど、そのためには古くなるから2年に一度は買い替えなきゃならないコンピュータを買って、民間の接続プロバイダーに契約して、ついでに個人情報もいっぱい提供して、って。冗談じゃない」。行政、交通機関、銀行、スーパーマーケット……「人と人とを繋ぐこういうものが、一つ一つ省略されていってる」とルコントさんは悲しむ。 「私たちは哺乳類でしょう。同じ言葉をしゃべらなくったって、眼差しや接触で分かり合えるし感情をやり取りできるもんです。それをタブレットに変えていってる。これからの人たちはどうやってお互いを分かり合えるんでしょう? 今、人間が目の中に自然に持っている感情信号を、未来の人たちは理解することができるんでしょうかね?」

 利用者だけをコンピュータの前に残して窓口には人間がいなくなった。そういう状況が多くの公共サービスですでに現実になっている。繊維工場跡を改修した真新しいダンケルクの職業安定所では「コンピュータツールを使えない人たちばかりが毎朝訪れます」とカミーユ・Sさん(仮名)は話す。カミーユさんは22歳のボランティアで、労働契約書なしにこの市民サービスを引き受けた。彼女自身、この安定所に仕事を探しにやってきたのだったが、正規の仕事を見つけることができなかったため、週28時間、最低賃金の半分でこの仕事に「雇われた」。やることは仕事を探しに来た人を画面の前に案内するだけだ。「求職者の代わりに手続きをしてあげることは絶対に禁じられてます。みんな仕事を探しにやってきていて、コンピュータを使えない人もたくさんいるんですけどね。まあそうは言っても、やってあげるしかない場合も多いんですが」

 2019年5月2日、我々がその朝の居場所に決めたコンピュータの横には一人の男性がいた。彼は職業安定所の再登録フォームに入力しながら震えている。「データ更新をし忘れたので、抹消されちゃったんですよ」。テディー・Nさんは焦ってコンピュータで再登録手続きをしている。「でないとRSA(積極的連帯手当)から100ユーロ引かれちゃうんで」。まるでケン・ローチ監督の映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)のストーリーのようだ。手続き方法を説明するのは職員が「青服の子たち」と呼ぶ10人のボランティアの一人。午前中いっぱい、(一日のうち唯一の開館時間)彼らは同じフレーズを繰り返す。「ログインIDを持ってますか? じゃあログインしてください。“職業安定所とのやりとり”をクリックして“書類の送信とメールによる追跡”をクリックして。それから“スキャン”、“ページを追加”、“確定”、“確認”、“別の書類を送信”、“確定”、“確認”。送信する書類ごとにこれを繰り返してくださいね」。「役に立つ」仕事という定義の市民サービスがこんなものだとはボランティアたちは想像していなかった。別のボランティアが旨そうに煙を吐きながら、息抜きしている。この建物はかつて織物工場だったものが共同オフィススペースに改築されたものだ。「なんて説明しましょうかね、つまり、我々は[正規の]給料をもらって仕事をしているわけじゃないんですよ。そこが問題ってことです。580ユーロはもらってますが、彼らを助けるのはだめなんです。ね、他には何にも言いようがないんですよ」。ボランティアたち(女性が多数だ)は疲れた表情で肩を丸め、だるそうにしている。

 ダンケルクの支庁にはもう受付職員はいない。3人の市民サービスボランティア――3人で国家公務員一人分のコストに相当する――だけだ。その3人も来訪者を受付に設置されたコンピュータに案内することだけで一日を過ごしている。家族手当公庫(CAF)、職業安定所、 社会サービス。すべてが非接触型社会に遷移しつつある。国は簡略化の議論を前面に押し出すが、滞在許可証更新の手続きをみても、デジタル操作の煩雑さは――パリ空港公団の空港民営化に反対する国民投票実施を求める署名サイトのように――コンピュータに慣れていない人を差別するプロセスの一部ではないかと疑わざるを得ない。そのせいで手続きはより複雑になり、利用者は取り組むのをあきらめさせられている。

権利を行使しない人々の氷山

 「仮に操作ができたとしたって、インターネットの方に問題が大ありなんですよ」とジョゼット・ヴォーシェさんは証言する。彼女は退職後「サラーム協会」のボランティアとして、フランス北部で行き場のない移民の人々を助けている。「滞在許可証の更新請求はすべてインターネットを介してやるんです。しかも5分以内に全部の要件を記入しないといけないんです(そうしないとログインしているセッションが無効になる)」。そして彼らが首尾よく2、3、6カ月後の面接を予約できたとしても、その通知メールに15分以内に返信しないと全部キャンセルされてしまいます。ほんとにちっちゃく“確認する”のボタンがあるんです」。県庁での面接がどうやってビジネスになるのかがよくわかる。セーヌ=サン=ドニ県の例では、大使館のビザの下請け業者かなにかのように、出店が数10ユーロから数100ユーロの値段でサービスを提供している(7)

 「ひどい目に遭ったわ」とアニー・ヴァンドゥヴァルさん(62)は思い出す。「悪夢」のことを涙ながらに語ってくれる。「給与明細を見つけ出して昔の雇い主に連絡をとり、スキャンしてプラットフォームから送信し、電話を何度も繰り返したわ。サポートを1回、2回と頼んだけれど、もう、いつもいつもこのマシンを使うたびに助けを頼むのは疲れちゃって。はっきり言ったわ、インターネットを使うのは嫌だって」。低所得者住宅(HLM)の清掃の仕事をずっとやってきたこの女性は、数カ月間収入のない状態に陥った。「2カ月を数10ユーロですごさなきゃならなかったのよ。奈落の底だったわ」。収入のほぼすべてだった500ユーロほどの連帯特殊手当が突然取り消されたことを彼女は説明した。 それでRSA[積極的連帯手当]をもらうためにCAF[家族手当公庫]に連絡を取った。「CAFで手続きは全部インターネットでしないといけないと言われて、パニックになったわ。誰も助けてくれなかった。そしたら住所の書いてある小さなカードをくれて、それでここへたどり着いたというわけ」。「ここ」というのは支庁、CAF、労働審判所、ダンケルク裁判所からすぐの(理想的な)場所にある「連帯交差点」という団体の事務所のことだ。

 そこで待っていたのは2人のフルタイム職員、サンドラ・ビュルテールさんとステファニー・トンさんだった。地元からの寄付で近いうちもう一人増える予定だ。(8)2人はダンケルクの食糧援助活動をなんとかコーディネートしている。2018年7月、この「連帯交差点」は「インターネットを使ったことのない人たち」の面倒をみるという協約を市のCAFと結んだ。トンさんは、RSAを受け取れるようになるまでにヴァンドゥヴァルさんが何度やってきたか思い出そうとする。「30回? 40回? 50回? 数えられないわ! 申請は全部インターネット経由で、返事は全部メールなの。だけど彼女はインターネット接続もメールアドレスも持っていないでしょ。だから彼女がRSAをもらうのを手伝って、それから年金も。年金申請も同じように手続きがデジタル化しているので。今は彼女は全部もらってますよ」、満足そうに彼女は話す。個人手帳(この団体がインターネットを使わない人に、重要なパスワードを書き込んでおくために渡している小さなノート)をあきらめ顔で眺める ヴァンドゥヴァルさんも、早期退職者や退職して間もない人など「完全デジタル化」移行期の波をもろにかぶっている何百万ものフランス人の一人だ。ビュルテールさんはこのほんの小さな組織を預かりながら考えている。「一つの間違いでも誰かを1年間大変な目に合わせることになりかねません。デジタル書類を作るときは、いつもそういう不安を感じています。それでもデジタル化は多くの人にとって大幅な時間短縮になります。インターネットに苦労させられるのではなく、使いこなさないといけないですね」。

 フランスでは400万人以上が社会的ミニマム手当[最低所得保障制度に基づく各種手当]を受けている。そのうち190万人が積極的連帯手当(RSA)の受給者で、この事務所からは、権利を行使していない、デジタル化を諦めている膨大な数の人々の氷山の一角が垣間見える。SPS(Syndicat de la presse sociale)[訳注2]がInstitut CSA[Consumer Science & Analyticsー民間の調査会社]に依頼して行った調査によると、2018年現在、そういう人たちはフランス人の5人に1人いる (9)。「デジタル化のせいで自分の権利を行使できない人たちがいるのは許せないことです」とビュルテールさんは続ける。「人は誰もが自分の基本的権利を主張できるべきです」。2018年、RSAの未請求額は50億ユーロ以上、家族手当や住宅手当もほぼそれに匹敵する額に達した。一方で社会給付の詐取は約40億ユーロとみられている(10)

 ダンケルク近郊で人口4500人のレフランクック市にある公共サービス館では全く違う雰囲気が漂っている。ここでは市民向けに無料コンピュータ入門コースを実施している。2019年5月20日、この日、毎週月曜のこのコースに参加したのは3人の60代女性、ミッシェル・デュケノワさん、クロディ・ルフェーブルさん、それにマリーズ・バタイユさん。「男の人たちはね、自分たちでなんでもできると思ってるから、頭を下げて誰かに助けを求めるってことが絶対できないのよね。ほんとにわからない時でもね。私たちは毎日の生活にインターネットを上手に使いこなそうと思ってここに習いに来てるのよ。楽しみのためっていう方がいいわね」とバタイユさんが説明する。

 「今日はeチケット、バウチャー(サービスや物品の引換券)、それにパリの有名なキャバレー、ミシューで145ユーロのディナーショーの予約をしてみましょう」。コースを担当しているヴァネッサ・ヴォンブネドゥンさんは話し始める。この3人の年金生活をしている女性は中産階級で、もうコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン、プリンター、スキャナーを所有している。「先週は税金申告書の記入の仕方をみましたね。来週はメールアドレスの作り方を学習しますよ」と先生は続けた。

「迷子になった人たち」

 フランス国鉄(SNCF)によると2019年のTGVチケットは90%以上がオンラインで購入されている。「往路分を確定するわよ……保険って買わなきゃなの? これって詐欺?」SNCFサイトで操作しているルフェーブルさんは聞く。レフランクック市の助役で取材に立ち会ってくれたシルヴィアンヌ・トマさんはちょっと笑ってコメントする。「その12ユーロの保険を売ってる人は、これは詐欺ですとは言わないですよ!」。デュケノワさんは独り言を言っている。「でも、もしスマートフォンを持ってなかったり、電車の中でバッテリー切れしちゃったらどうしたらいいのかしらねえ?」。答えはない。払い戻し不可の切符や条件によって変わる値段や、その他の驚きにヴォンブネドゥン先生のコメントは一つだけだ。「注意するんです!」。2つ目の実習課題はバウチャー。「他の人が投稿したコメントをよく見てください」と先生はアドバイスする。バタイユさんのスクリーンに「注意。現在複数の人がこのページを閲覧中です」と表示されたウィンドウが開く。先生がそれに気づいて「惑わされないで。それはあなたに焦って買わせようとしているの! 代わりにプライベートウィンドウを開いて」。3人の生徒が口をそろえて「それは何?」と尋ねた。「それはクッキーを避けるためですよ」

 3人はコースの最初に習ってもう知っている。クッキーはビスケットではない、トレース用ファイルだ。例えば商業サイトはそれを使って同じページを2度目に見に来た人に対して値段を上げる。「あなたが前にチェックしたとわかったら値段が変わるの。だからプライベートウィンドウを使いましょう」とヴォンブネドゥン先生が説明する。我々のそばでトマさんが本音を言う。「私たちの世代の人間は迷子なんです。私は43年間社会保障局で働いていたけれど、Ameli.frのサイトはいまだにどうにも使えないんです、複雑すぎて! でも他には方法もなくって! 電気料金の請求書も同じ。ダンケルクにはもう、電気口座の相談に乗ってくれる担当者のいるEDF営業所もないんですよ。有料番号に電話するしかありません」。バタイユさんは心配だ。「子ども達はもう、時間を取って私たちに説明なんかしてくれないわ。どうやって教えればいいか知らないのよ。教える代わりに自分でやってしまいたいって。私は85歳の母のことを特に考えるわ。農業をやってきて、コンピュータなんて触ったこともない人。私が母のことは全部やってあげてるけれど、20年たって、何もかもインターネットでしなきゃならないようになったら、私も今の彼女みたいに何もできない人になるんじゃないかしら?」



  • (1) « En France, 6,8 millions de personnes n’ont pas accès à Internet », 20 Minutes,21 mars 2019.
  • (2) « Treize millions de Français en difficulté avec le numérique », Mission société numérique (pilotée par le gouvernement de M. Édouard Philippe).
  • (3) Sylvain Rolland, « Illectronisme : l’État prévoit jusqu’à 100 millions d’euros pour former 13 millions de Français », La Tribune, 12 septembre 2018.
  • (4) Lire Sophie Eustache, « La “patiente informée”, une bonne affaire », Le Monde diplomatique, mai 2019.
  • (5) Julien Lausson, « Votre smartphone pourra bientôt servir de carte Vitale », Numérama, 29 avril 2019.
  • (6) Olivia Ferrandi, « Comment faire vos démarches administratives si vous êtes allergique à Internet ? », France Info, 7 avril 2019 ; cf. aussi Sylvain Rolland, « L’État 100 % numérique de Macron coûtera 9,3 milliards d’euros », La Tribune, 26 septembre 2017.
  • (7) Julia Pascual et Corentin Nicolas, « Titres de séjour : le prospère business de la revente de rendez-vous en préfecture », Le Monde, 1er juin 2019.
  • (8)雇用のためのダンケルク住民連帯」活動により、2018年には14万ユーロ以上の税額控除対象寄付金が集まり、それは3年分の「社会的用途」の雇用資金に配分された。
  • (9) « Enquête sur “l’illectronisme” en France », CSA Research, Puteaux, mars 2018.
  • (10) Lilian Alemagna et Amandine Cailhol, « Non-recours : des milliards non distribués », Libération, Paris, 22 juin 2018.

  • 訳注1]illectronisme、非識字者を表すillettrismeから作られた造語で非デジタル化対応者のこと。
  • 訳注2]フランス国内80以上の社会的メディアの連合団体。設立は1997年。情報誌などを発行して社会的活動を行う団体で、社会問題に関する情報の発信と共有などを目的としている。イレクトロニズム(訳注1参照)問題は近年の主要課題のひとつ。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年8月号より)