経済改革論の「常識」に潜む5つの先入観


ローラ・レム(Laura Raim)

ジャーナリスト 

訳:村上好古


 主に自由主義の考えに基づき、競争原理の活用や民営化による経済改革、また保護主義反対などの主張が当たり前のように行われている。しかし、たとえば本当に国家は非効率で、自由主義に任せることが国民経済にとって望ましいのだろうか。経済理論における5つの「常識」に疑問を投げかける。[日本語版編集部]

(仏語版2019年7月号より)

Marie-Françoise Serra. – « Chantier 33 », 2013  www.mariefrancoiseserra.fr

1.「製造業の時代は終わった、次はサービス業だ」

< 歴史の流れに逆らって何になるのか? 製造業は、その前に農業がたどったのと同じ道をひたすらなぞっている。産業は第一次産業から第二次産業へ、さらに第二次から第三次産業へと一貫して発展し、北の先進国は、サービス業によって成立ち「工場を持たない企業」(アルカテルの社長、セルジュ・チュルク氏の2001年の言葉)によって推進される「モノ離れ経済」へと進む。この間、環境汚染的で過酷な労働を要する工業生産は労働力の安い国々へと移転される……。> 

 製造業とサービス業は敵対するものではない。互いに入り組み補完しあう産業分野だ。製造業が従来社内で行っていた[従業員]食堂、清掃、さらに会計などの業務を外注化する20年来の動きは、製造業の直接雇用者の数を減らし、サービス業での増加を招くひとつの要因となっている。同時に、多くの製造業がますます、設備の据付けやメンテナンスといったサービスを販売し、さらにリースも行う。たとえばミシュランは、タイヤを走行キロメートル単位で貸し出している。

 いずれにしろ西欧では、製造業の大部分が、特に繊維、靴、家電製品、化学、木材、プラスチック、さらにゴムといった分野で崩壊した。政治は30年間受け身でしかなく、幸福感にあふれる脱工業化を主唱した者たちが約束した姿に比べ、とても喜ばしいとは言えない結果をもたらした。フランスでは2004年以来対外収支[貿易・サービス収支に相当]は赤字であり、サービス収支の黒字が製造品に係る貿易収支の赤字を補い切れていない。また工場の閉鎖は地域全体の衰退を招いているし、技術的なノウハウの喪失へとつながっている。その一方で、次の成長を担うとみなされるサービス業の報酬は、製造業に比べて20%低い(1)

 フランスで、スキー用品製造のロシニョール、紅茶ブランドのクスミ・ティー、衣料品製造のパラブーツ、ル・コック・スポルティフといった企業が国内回帰していることは、また逆の動きを示している。この現象はフランスでは少数にとどまっているが、アメリカでは、エネルギー価格の低下、地産地消への関心の高まり、技術集積度が高く省労働の製品への指向、を背景にその広がりを見せている。アップル、ゼネラル・エレクトリック、キャタピラー、レノボそれにワールプールといった企業は、新興国での賃金が上昇しているだけに、生産を国内に戻すのにドナルド・トランプ氏の保護主義政策を待ってなどいなかった。かたや新興国は「世界の工場」であることにもはや満足せず、今や自らが研究や特許取得に投資している。

2.「国家が口を出す必要はない」 

< 良い株主でも、有能な経営者でもない以上、国家は企業を操縦しようとしてはならない。その役割はせいぜい、競争のルールを守らせ、インフラや、将来の労働者を生み出す教育、それに基礎研究に資金を投じることで成長環境を整備すること、にとどまる。その間、市場の法則によって、生き残るに足る十分な競争力と革新性がある活動主体が選別される……。>

 EUの基本原則とされている自由競争への信奉の強さから、1980年代の半ば以降、歴代政府は企業行動への指導力を放棄し、国の産業基盤の衰退を見るにまかせてきた。ペシネ(アルミニウム)、アルセロール(鉄鋼)、ブル(情報)に続き、フランスは、ラファージュ(セメント)、アルカテル(電話)といった国を代表する企業が外国投資家の財布の中に飲み込まれるのを見てきた。2008年の危機を迎えてようやく、構造的な大幅対外赤字によって引き起こされる金融面の不安定性が明らかになり、生産面の立直しの必要性が少なくとも議論の上で公的当局の関心事項に立ち戻った。しかしだからといって、アルストム[鉄道車両]をアメリカのゼネラル・エレクトリックにどうぞと差し出しその解体を進めることについて、これを阻むことにはならなかった(2)

 そうは言っても「栄光の30年間」に現れたフランスの国家的大事業のリストは、国家を抜きにした産業の自由主義神話を否定するのに十分だ。アリアン[ロケット]、エアバス、鉄道車両のコライユ、TGV、原子力発電計画、全国電話網整備、これらは国家が戦略家としても経済計画面でも高い能力を持つことを示している。国を再建し近代化するために、国家は、国有化や、計画化、公的発注、保護主義に訴えることをためらわなかった(たとえその結果として、公的当局が対策をとるのが遅れ環境破壊につながったという面があったとしても、である)。

 たしかにいくつかのプロジェクトは失敗した。Calcul 計画[訳注1]、コンコルド、それにミニテル[訳注2]がしばしば「技術上のコルベール主義」と悪口を言う者のやり玉にあがる。しかし経済学者のジャック・サピールは、これらの失敗が学習の材料として前向きの成果を持つ性格のものだとさえ言っている。商業的な大失敗とされる超音速旅客機は、「フランスの航空産業に知識と設備を広げること」を可能にし、そのことは「後のエアバスの成功にとって不可欠な」事象だった(3)

3.「イノベーションは常に民間分野から訪れる」

< 官僚制と公務員の無気力のせいで、国家は経済学者のジョセフ・シュンペーターが言うところの創造者としての「アニマルスピリット」をかき立てることができない。ただ市場だけがイノベーターを生み出し、彼らが能力を開花させる手段を与える。シリコンヴァレーがアメリカ政府の出先でないということは驚くべきことなのだろうか? >

 カリフォルニアの企業のパイオニア精神に関する神話化されたこの話は、ある事実を忘れている。民間部門は結果が不確かでコストの大きい研究分野には決して投資してこなかった。経済学者のマリアナ・マッツカートは(4)、ここ数十年間の最も重要な技術革新は国家の積極的な資金援助によって可能になったものだ、と指摘している。たとえば、インターネットはアメリカ国防省の一部局(国防高等研究計画局DARPA)による助成金を受けていた。また全地球測位システム(GPS)はNAVSTAR[GPSを支援する衛星運航システム]という軍事プログラムから、タッチパネル式表示装置についてはこれに携わったデラウェア大学のふたりの研究者に中央情報局(CIA)と国立科学財団(NSF)から、グーグルのアルゴリズムはやはりNSFから、それぞれ助成金を得ている。製薬業界では、「新分子化合物[new molecular entities、新薬のこと]の75%は実質的に、退屈極まりなくあてもなく非現実的な研究作業を行う公的研究所の資金負担によるものだ。たしかに『巨大製薬会社』も技術革新に投資している。しかし、それは特にマーケティング分野へのものだ」と彼女は言う。「ファイザーや最近ではアムジェンもそうだが、彼らは研究開発よりも多くの資金を、株価引き上げのため自社の株式を買い入れるのに使っている」(5)。新興企業や、ベンチャーキャピタルも重要な役割を果たしているが、それは公的当局が非常に大きな資金負担をし、非常に大きなリスクを引受けたその15年、20年後の開発第2段階でのことである。

4.「競争は労働コストの引き下げを求める」

< 経済財務大臣ブルーノ・ル・メール氏は、「我々はなお競争力が十分ではない、特に隣のドイツに比べるとそうだ」(フランス・アンテール、2017年11月26日)と言う。彼によれば「最低賃金SMICの2.5倍[現行制度での企業減税の対象範囲]を越える部分について企業の税負担を軽減する議論から始めなければならない」。30年にわたり同じ言葉が繰り返されている。新興国との競争にさらされる開放経済では、フランスの企業は過大な「労働コスト」に苦しんでいる。ドイツはこの点、2000年代に実現した賃金抑制政策のおかげで成功したのだ……。>

 この見方が背景となって、1992年以来、「競争力強化・雇用促進税額控除」(CICE)など、社会保険料免除措置が増加した。生産コストの引き下げは、一方では市場を獲得するための価格引き下げを可能にし、他方では利幅を改善し、ひいては徐々に投資意欲を高め、雇用へとつながるということらしい。ここにはあの不朽の「シュミットの定理」がまた顔をのぞかせている。「今日の利益は明日の投資であり、さらにそのまた次の日の雇用である」、この定理は、実に1974年にさかのぼる。

 労働コスト改善運動は実を結んだ。2016年以来、フランスの企業の時間当たり労働コストはドイツに比べ2.1ユーロ低い(6)。しかしながら、この「偉業」がフランスの産業を立て直すに十分とはとても思えない。なぜなら労働コストは脱工業化の原因ではない。第一に、高い生産性によってカバーされている。国内総生産(GDP)を労働総時間数で割ると、フランス人はアメリカ人、そしてドイツ人とも実際上ほぼ同等の水準にある。次いで言えることは、2000年代初め以来フランスの企業の競争力を主に損なっているのは、強いユーロなのだ。2000年から2010年の間に、企業の時間当たり労働コストはユーロ建てでは32%しか上昇していないが、ドル建てでは90%上昇している(7)

 フランス産業の衰退は、30年来の大企業の国際化によっても説明される。ドイツの企業が国内の生産拠点を強化した一方、フランス企業は海外移転と、成長力の高い新興国を中心に対外直接投資を重視した。

 自動車の例がこのことをよく物語る。2006年以降、海外におけるフランスの自動車生産は、2002年以来縮小している国内での生産を上回る。一方ドイツ国内におけるドイツ自動車メーカの生産は増え続けている。たとえば、フランスの多国籍企業は2014年に海外で600万人を雇用しているが、競争相手となるドイツ、イタリア、スペインはそれぞれ500万人、180万人、100万人以下だ。

 フランスが国際的な再配置の道を選んだことの理由のいくらかは、中低価格帯の市場を相手にしていることに由来する。そこでの競争は基本的に価格競争であり、そのことが国外生産によりコストを引き下げる誘因となる。これに対しドイツの競争力は「非価格」的である。言い換えると、その競争力は品質と技術革新に基づいており、このことが高価格を受け入れさせることを可能にする。「産業のための宣言」協会の創設メンバーで経済学者のガブリエル・コレティスにしてみると、ドイツのゲルハルト・シュレーダー首相(1998年~2005年)の政権でとられた賃金抑制政策は、競争力の強化というよりも利益を高めるのに役立った。

 フランスの脱工業化現象に決定的な役割を果たしたのは、労働コスト以上に資本のコストだった。大企業は生み出した付加価値のより大きな部分を常に、投資や研究を差し置いて株主に分配している。30年前、配当は企業の生み出した富の5%以下だった。今ではこの割合が25%に上昇している。企業は1978年に純投資1ユーロにつき50サンチームの配当を行っていたが、2011年では2ユーロだ(8)

 株主の圧力のもとで、十分な収益を挙げられないいくつかの投資を企業はあきらめざるを得ず、また、一般的な要求水準とされる収益率15%を達成するため高コストの資金操作を行うことを余儀なくされる。「標準的な企業の収益率は6~8%辺りなので、企業は株価を高めるために自己の株式を購入する方向に引きずられている」とコレティスは説明する。このやり方はアメリカで広く普及しており、フランスでも浸透してきている。1999年から2015年の間に1,150億ユーロがここに投じられた(9)。2018年には、CAC40対象企業[ユーロネクスト・パリ証券取引所上場の主要40社]は109億ユーロの株式を買い入れた。全体でどれほど収益機会が失われているか、金額では示しきれない。「収益率の要求水準を満たすだけのために実は巨大な浪費が行われている。このせいで生産されなかった富、創出されなかった雇用、着手されなかった地方、社会、環境プロジェクト、これらがどれほどの大きさになるのか、想像もつかない」と、経済学者のローラン・コルドニエは嘆く(10)。ル・メール氏は、フランスが「産業の強国」に復することを望むのであれば企業を金融支配から助け出すことをまず始めればよい。

5.「保護貿易主義は役に立たないし危険である」

< フランスのエマニュエル・マクロン大統領にとって、「保護貿易主義、それは戦争であり、偽りであり、自閉行為である」(2017年4月26日)。フランス銀行のフランソワ・ヴィルロワ・ドゥ・ガロー総裁によれば、それは「世界のふたつの重大なリスク」[訳注3]のうちのひとつであり、「輸入物価の上昇は、輸入品を購入する割合が相対的に大きい低所得層家計にとってより大きな負担となる」(11) >

 保護貿易主義は戦争に直結しかねない一方「穏当な貿易」[訳注4]は平和をもたらすという神話は、歴史上否定されている。1870年にフランスとプロシアは、自由貿易協定に調印した直後に戦争に突入した。逆に、「栄光の30年」を特徴付ける保護貿易主義はいかなる衝突も引き起こさなかった。保護貿易主義が必ずや国の自閉行為となり貿易の終末を意味するという考えは、次の事実を前にするともはや持ちこたえようがない。「1890年代から1914年の間、イギリスを除くすべての工業国は保護貿易主義的な貿易政策をとっていた」ことを経済学者のガエル・ジローは思い出させてくれる。「このことは決して、この間に国際貿易が極めて一貫した増加をみせること(年率5%の増加)の妨げにはならなかった。歴史家がこれを『最初のグローバル化』と呼ぶぐらいだった」(12)

 現在はどうなのか。自由貿易の信奉者は、グローバル化のおかげで、豊かな国では、家計にゆとりのない人たちでも買物カートいっぱいのTシャツやおもちゃ、薄型テレビを割安で買うことができるのだと、好んで指摘する。保護主義政策はこれら輸入品の価格高騰につながるだろうということは本当だが、それなら同様に、それは賃金抑制をもたらしている「労働コストの呪縛」から逃れることも可能にしてくれるのではないか。つまり、消費者として被る損失を、賃金労働者として取り返すことができるのではないか。しかも、余分なものを消費するよう仕向けられることもなくなるだろう。

 アメリカ大統領のトランプ氏のことを称えているのではない。彼はカナダのアルミニウム、中国の太陽光パネルに対し関税権という宝刀を抜いたが、それがどういう結果をもたらすか(報復であったり、産業政策が伴わないため政策が有効にならないこと、など)は頭にない。保護貿易主義は、産業全体にかつての姿を取り戻させる魔法の杖ではないし、それ自体が経済政策である訳でもない。それはひとつの政策上の道具でしかなく、保守的で一方的、攻撃的な政策にも使えるが、逆に、協調的で環境重視、そして社会的な政策にも使い得るものだ。

 たとえば、「連帯保護貿易主義」の支持者は、賃金、社会性、税制、環境などの点で一定の基準を守らない国からの輸入品に制裁を課すといったヨーロッパ関税障壁を提案している。その目的は、「産業の『ジュラシックパーク』」(13)訳注5]を補助するのではなく、環境社会への移行に不可欠な生まれたばかりの産業を保護することにある。とりわけ、産業の問題を越えて、より公正で均衡のとれた世界的な貿易秩序を招来することだ。なぜなら、戦争をもたらすもの、それは保護貿易主義ではなく、競争を侵すべからざる崇高な価値に仕立て上げた現在の規制緩和システムだからだ。それによって各国の賃金労働者と税制が競争に巻き込まれ、社会政策は果てしなく最低限のレベルに切り下げられている。


  • (1) Jean-Christophe Le Duigou (sous la dir. de), La Bourse ou l’industrie, Éditions de l’Atelier, Ivry-sur-Seine, 2016.

  • (2) Cf. Frédéric Pierucci, avec Matthieu Aron, Le Piège américain, JC Lattès, Paris, 2019, et lire Jean-Michel Quatrepoint, « Au nom de la loi… américaine », Le Monde diplomatique, janvier 2017.

  • (3) Jacques Sapir, « Politique industrielle et privatisations », blog RussEurope, 21 juin 2014. 

  • (4) Mariana Mazzucato, The Entrepreneurial State. Debunking Public vs. Private Sector Myths, Anthem Press, Londres, 2013. 邦訳『企業としての国家――イノベーション力で官は民に劣るという神話――』、大村明人訳、薬事日報社、2015年9月。

  • (5) Mariana Mazzucato, « TED Global 2013 talk in Edinburgh : Government-investor, risk-taker, innovator », octobre 2013, disponible en ligne.

  • (6) « EU-Vergleich der Arbeitskosten 2017 : Deutschland auf Rang sechs », Office fédéral allemand de la statistique Destatis, Wiesbaden, 16 mai 2018. 

  • (7) アメリカ労働統計局(BLS)の資料。

  • (8) Florian Botte et al., « Le coût du capital : entre pertes et détournement de richesses. Mieux saisir le capital pour en mesurer le coût pour la société » (PDF), rapport de recherche, université Lille-I et université du Littoral - côte d’Opale, Clersé, 2017.

  • (9) Florian Botte et al., « Le coût du capital… », op. cit. 

  • (10) Lire Laurent Cordonnier, « Coût du capital, la question qui change tout », Le Monde diplomatique, juillet 2013. 

  • (11) 共和国大統領あてフランス銀行年報序文についてのプレスリリース、2018年6月20日。 

  • (12) Gaël Giraud, « L’épouvantail du protectionnisme », Projet, no 320, La Plaine Saint-Denis, février-mars 2011. 

  • (13) Augustin Landier et David Thesmar, « L’ère du “Jurassic Park” industriel », Les Échos, Paris, 21 octobre 2009. 


  • [訳注1] 1966年に始められた情報テクノロジー化推進計画。

  • [訳注2] 1979年にフランス電信電話総局によってサービスが開始されたビデオテックス用の情報端末。インターネットに取って代わられ2012年に運用停止。

  • [訳注3] アメリカおよびBrexit関連の保護貿易主義の動きと、世界的な過剰債務に伴う金融の不安定性が挙げられている。

  • [訳注4] doux commerce。効率性と利益を求める資本主義の精神は貿易に安定をもたらすという思想。

  • [訳注5] サルコジ大統領が企業経営者との関係を深め、自身の利益に関わるネポティズムを横行させたこととともに、既成勢力の権益の温存を図る政策を取ろうとしたことへの批判に使われた言葉。一時代前に栄えた大企業の集まりを温存することを意味するものと思われる。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年7月号より)