庶民階層と税の不公平

税に対する怒りの根源


アレクシス・スピール(Alexis Spire)

社会学者、フランス国立科学研究センター研究部長


訳:生野雄一


 去る11月にフランスで「黄色いベスト」を着た人たちが主に地方や都市周辺で自動車燃料税に反対して立ち上がったのは、政治組織や労働組合の主導によるものではなく、自然発生的なものだった。この事件によって、税および社会システムに対して庶民階層が長い間抱いてきた不公平感が明るみに出た。2013年にもエコタックス導入に反対する「赤い帽子」集団による過激なデモが発生している。税を通じて富を再分配する仕組みのこの国にあって、その最大の受益者である社会の底辺層から税に対する異論が噴出するのはなぜか。[日本語版編集部]

(仏語版2018年12月号より)

Pieter Brueghel le Jeune. « Le Paiement de la dîme », 1618
© De Jonckheere, Genève.


 「増税阻止」、「マックダック[訳注1]マクロン」、「仕事があることは贅沢になった」、「右も左も税金だ」、「たかるのは止めろ。国民は強い。その怒りは革命を招くぞ」……去る11月17日に始まった、自動車燃料増税に反対して幹線道路を封鎖したデモのスローガンの多様さは、この動きが政治的には決まった形を持たないものであることと、福祉国家の土台である税金にはっきり的を絞った怒りであることを示している。

 20世紀を通じて、庶民階層はどちらかと言えば税金問題とは縁遠かった。第一次世界大戦の直後に累進所得税が導入されると、まず、自由業者、個人事業主、農民が納税者団体を作ってこれに反対した(1)。そして、フランス人民戦線(1936年~1938年)[訳注2]の時期を除けば、労働運動において税の不公平性の問題は、とりわけ賃金や雇用確保の要求に比べて副次的でしかない扱いであり続けた。付加価値税(TVA)──所得税が税収の4分の1でしかないところTVAは約半分を占める──のように消費にかかる間接税の極まりない不公平さに対してさえ、労働組合や左派政党はめったに立ち上がらなかった。

 ところが、ここ数年来、税に関する論争が活発になってきた。緊縮財政策反対の中心的な論点にまでなっている。ポルトガルでは、2010年5月に増税と歳出削減に反対して数万人がデモを行った。2年後にはスペインで、緊縮財政、民営化および付加価値税の増税──学校教材について言えば4%から21%に引き上げられたばかりだった──に反対して数十万人が立ち上がった。ギリシャでは、賃金低下と不公平税制に抗議して公的部門と民間部門の賃金労働者が街頭に繰り出した。その数か月後、解雇されるおそれのあるフランスの農産物加工工場の労働者たちが、エコタックス[訳注3]阻止のために農業者や小規模事業主が開始した「赤い帽子」運動[訳注4]に加わった。

 税制議論の論点が変わってきたのは、何よりもまず、政策の側からだった。深刻化した大量の失業と国際競争の激化に直面して、政府は、企業収益の賃金と利潤への一次的分配に干渉するのを次第に控えるようになった。利益配分の観点から議論されてきた社会問題は、この数年で、税制問題にとって代わられ、有権者の歓心を買うための道具にされている。2007年にはニコラ・サルコジ氏の「もっと働いてもっと稼ごう」というスローガンと超過勤務手当の非課税化構想は、多くのサラリーマン、労働者の心をとらえた。5年後、年間百万ユーロを超える部分の所得に75%の所得税を課す公約により、オランド氏の選挙綱領は庶民の味方という色彩を帯びた。この施策はあまりにも内容が不明瞭なものだったので憲法院[訳注5]はあえてこれを問題視しなかった。2017年にはマクロン氏も、自分がエリートの代表者だというイメージを打ち消すために住居税[訳注6]の廃止を掲げたが、その後結局は、3年間に分けて実施すると発表した。

 こうして税制問題が政治の場で扱われると、重大な逆説に直面することになる。つまり、庶民階層は、彼らこそが課税による所得再分配システムの最大の受益者であるにもかかわらず、今や課税水準に関して批判的な最大勢力なのだ。この政治不信は人々が属する地域によって際立ってくる。大都市から遠いほど課税の不公平感は強まり、農村や都市周辺地区ではパリの住民よりも税制に批判的になる。不動産取得の促進策が打ち出されて数年後には、借り入れをして住宅を取得した多くの低所得世帯には、さらに、固定資産税が定期的に引き上げられるという負担が加わった。地方公共団体への国の交付金削減を穴埋めする増税だ。いくつかの地域では、公共サービスの低下や鉄道路線の廃線で移動の自由を奪われたことが不公平感を生んでいる(2)。移動をほとんど自動車に頼っていて自動車燃料税の引き上げをまともに被ったこれらの地区住民にとっては、自分たちが払った「税金」が公的財源として郵便局や駅、学校といった具体的な姿で地域に還元される制度が眼前で消えてゆくように見えたのだ。

 税務当局に対するこのような納税者の不信感は、脱税等のスキャンダルが次々に発生した特異な状況と軌を一にしている。2011年には、フランスで最も裕福な女性とされるリリアンヌ・ベタンクールが1億ユーロを超える所得隠しをしていたことが発覚し、サルコジ氏の選挙運動のために現金を供与したことも明らかになった。さらに、オランド政権の予算相で脱税取り締り担当だったジェローム・カユザックの事件が起こる。彼は、議会では否定したあとで2013年に、スイスに総額60万ユーロの秘密口座を持っていることを認めた。同時に、メディアで連続番組が始まる。ルクセンブルク・リークス、スイスリークス、オフショア・リークス、「パナマ文書」、「パラダイス文書」[訳注7]といった出来事が、多国籍企業、政界指導者、スポーツ界や芸能界の著名人による税金逃れの仕掛けを明るみに出した。こうした一連の出来事によって、今や世界は一方では、財政立て直しへの協力を強要される一般の納税者と、他方では実際は何の心配もなく法的拘束を免れることができる有力者(ベタンクールは何の刑事訴追も受けないまま2017年に亡くなり、カユザック氏は4年の禁錮刑[2年の執行猶予と実刑2年だが、2年以下の実刑は収監回避が可能]の宣告を受けたが全く自由の身だ)に分かれており、税の公平性は法律書のなかの絵空事だということが明らかになった。

 庶民階層が役所との接触で蓄積した現実の経験から、「役所は状況や都合に応じて言うことが異なる」という印象を強くしていく。税に関する難解な言語を理解するのが最も不得手な納税者は、自分の権利を主張するのを手伝ってもらうためにしばしば役所の職員を頼る(3)。ところが、公務員の人員削減のせいで役所の窓口の対応が悪くなっている。2005年から2017年までの間に、歴代政府は公共財政部門全体[訳注8]で、受付担当職員を中心に35,000人以上削減した。地方では業務取扱時間は短縮され、都市部では窓口に並ぶ行列が長くなる。不利益を被るのは高等教育を受けていない、デジタル手段よりも窓口での対面交渉を希望する納税者の人たちだ。特に、税の減免措置の申請、すなわち、住居税、固定資産税あるいはテレビ視聴料を経済的に支払えないことを疎明する場合だ。失業と生活の不安定さが増すなかで、この減免措置の申請件数は2003年の695,000件から2015年の140万件に増加している。しかし、収税吏と上手く交渉する能力は社会階層によって異なる。すなわち、私たちが2017年に行った調査によると、役所と意見の不一致があった納税者のうち、[話し合いの結果]上級階層の69%が満足を得たとしているのに対し、庶民階層の人たちは51%しか満足していない。

 役所事務の煩雑さに加えて、金融危機の影響がある。購買力が停滞するか減少している給与生活者と小規模個人事業主にとって、租税公課は公的部門のサービスの対価というより余計な費用と映る。彼らの不安は募る。求められる金額を支払えないことに加えて、そのお金が「高みにいる人たち」を裕福にするために使われると確信している。2008年の金融危機以来、産業組織の崩壊と雇用の削減が、指導者たちが工場などの国外移転に抗し切れないことを白日の下に晒した。かつて自分たちの保護を保証するものだと思っていた国が、強者に奉仕し、自分たちには縁遠い存在のように思われているのだ。

 そのうえ、特に国際競争に晒されている小企業においては、税はしばしば雇用の維持を直接に脅かすものに見えてくる。この見方は、「税が人件費の重みになっている」というメディアの常套句に刺激されて、従業員と経営者が歩み寄る道を拓く。特に、課税と過剰規制が問題になる場合にそうだ。

 雇用者がすすんで仕事を下請けに出す分業の世の中にあって、税に対する異論も高等教育を受けていない若年労働者、サラリーマンや労働者──これらは皆失業や不安定な生活の深刻な影響を受けている──の声に表れる。多くの場合、仕事の個人化は、組織からの脱退の形で集団的連帯の衰退を伴う。公務員の身分に与えられる安定性とはとても縁遠いこれらの労働者は、国や、自分たちが得られない保護を享受している公務員にある種の敵意を抱いている。金融危機の影響を最も被った人たちにとっては、自営業者の身分は一つの解決策に見える。ところが、そのより良い身分に見えるものは非常にしばしば「過重負担」と言われる状況を選択したに等しい。つまり、社会保障費と税負担でがんじがらめにされた小規模企業のイメージは、現場が直面している困難とは縁遠く無関心な国家のイメージと対をなしている。尊厳と相応の報酬の根源として労働の価値を高く評価する考えかたは、税金を使った扶助を罪悪視することと表裏の関係にある。こうして、大部分の下層賃金労働者の生活が不安定になっていくと、何としても雇用を守ってほしいということから、庶民階層が現在の税金のあり方にますます不信感を募らせることに繋がった。

 福祉国家の財源に関する庶民階層の信頼感の喪失は、長い間税制議論では触れられなかった。選挙運動中には税金が取り沙汰されるにしても、政治指導者は有権者の過半数を占める社会階層である中産階級、それに上流階級が税制を受容するようにより腐心するのが常だ。1980年代の初めから、所得税の減税を可能にする税の抜け道が増えている。一方で、TVAは全ての消費者に対して均等であり、自動車燃料税の増税は(運送業者を除いては)いかなる例外も認めない。政党および非営利団体への寄付、家事雇い、賃貸不動産投資、省エネ工事、等々の免税措置はどれをとっても納税世帯の課税所得の減少に繋がるが、同時に最も裕福な人々にもさまざまの節税策の路を開くことになる。

 こうした特例措置は課税水準についての見方に影響する。私たちの調査によれば、少なくとも1つの減免税措置を利用した納税者はそのような措置を利用しない納税者に比べて、「フランスは税金が高過ぎる」と考える人が4割少ない。そのうえこの秋、税の源泉徴収導入をめぐって展開されたメデイアのキャンペーンによって、 富裕層を利することになるこの源泉徴収措置の実現を図るため政府が行動を起こす用意があることが明らかになった。すなわち、フィリップ首相は、軽減措置の60%を当初予定されていた6カ月後ではなく、2019年1月から導入すると決めたというのだ。

 これと並行して、与党はほかにも富裕層向けに施策を決定した。たとえば、「デュトゥレイユ条項」(4)の拡充がそれで、この条項は企業オーナーがその持分を生前または死後に贈与する場合にその大部分または全部について贈与税を免除するものだ。全く誰にも気づかれずに決まったこの措置には、何らの明確な見積もりもなされなかった。すでに毎年約5億ユーロの財政負担になっているこの免税措置の拡充は、これを享受する人たちにはとても大きな利益をもたらすと思われる。

 この間、ジャーナリズムや政治家たちは「黄色いベスト」に眼を奪われて、優先すべきは自然保護かドライバーかと互いに論じ合っている。この運動がこのあとどうなるかを見極めるのはまだ時期尚早としても、庶民階層において長年くすぶっていた税の不公平感に光を当てたのはこの運動のとりあえずの成果だ。

  • *近著にRésistances à l’impôt, attachement à l’État. Enquête sur les contribuables français(Seuil,Paris,2018)がある。この研究は、2,700人の代表サンプルに対して2017年に実施したアンケートと、行政諸機関の窓口を訪れた納税者に対して実施した定性的な調査に基づいている。

 


  • (1) Nicolas Delalande, Les Batailles de l’impôt. Consentement et résistances de 1789 à nos jours, Seuil, coll. « L’Univers historique », Paris, 2011.
  • (2) Lire Jean-Michel Dumay, « La France abandonne ses villes moyennes », Le Monde diplomatique, mai 2018.
  • (3) Yasmine Siblot, Faire valoir ses droits au quotidien. Les services publics dans les quartiers populaires, Presses de Sciences Po, coll. « Sociétés en mouvement », Paris, 2006.
  • (4) デュトゥレイユ法(当時中小企業担当大臣だったルノー・デュトゥレイユ氏の名前を冠してそう呼ばれた)、正式名称は2003年8月1日の« loi pour l’initiative économique »によって制定された条項

  • 訳注1]ドナルドダックの叔父。何よりもお金を愛する世界一の金持ち。
  • 訳注2]「反ファシズム」を掲げたフランス社会党、急進社会党、フランス共産党など諸政党の連合戦線。1936年~1938年に政権を担当。
  • 訳注3]2014年に政府が導入を試みた重量貨物トラックに走行距離に応じて課金する制度。正式名称はTaxe nationale sur les véhicules de transport de marchandises
  • 訳注4]2013年にブルターニュでエコタックス反対を訴えて、赤い帽子の集団が繰り広げた過激デモ。その過激さからメディアでは暴動とか反乱と呼ばれた。
  • 訳注5]法律および批准前の国際的協定について合憲性を審査する機関。
  • 訳注6]家主、賃借人を問わず居住を占有する人に課される税金。住居の広さ、階、居住区の状況等に従って税額が決まる。
  • 訳注7] ルクセンブルク・リークス:大幅な租税回避を可能とする複雑な財政構造の詳細を記した計2万8000ページにのぼる内部資料。2014年に国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって公表された。これらは、ルクセンブルグの税務当局が多国籍企業数百社に対して巨額の優遇課税を協定し行っていたことを示す。
    スイスリークス:世界最大規模の金融グループHSBCホールディングスのプライベート・バンキング部門(HSBC Private Bank、本社ジュネーヴ)による富裕層顧客の巨額脱税幇助が機密文書の公開によって2015年に発覚した事件。ICIJがこれらのファイルを入手し、世界中のメディアに提供した。
    オフショア・リークス:2013年にICIJが公開した、租税回避を行った企業などのリスト。 「パナマ文書」:オフショア金融センターでの会社設立支援などを行うパナマの法律事務所から流出した内部文書。1150万件以上におよぶ膨大な顧客情報で、2016年にICIJによって一部が公表され、世界各国の富裕層や大企業が租税回避地(タックスヘイブン)を利用して節税を行っている実態が明らかにされた。
    「パラダイス文書」:英領バーミューダ諸島に拠点を置く法律事務所などから流出した内部文書。2017年にICIJが公開。1340万件に及ぶ顧客情報や登記文書で、前年のパナマ文書に続き、世界各国の富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用している実態が明らかになった。
  • 訳注8]税務行政の執行部門を指し、日本の国税庁(税務署)の機能に相当するとみられる。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年12月号より)