アジアの晴れ間


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版11月号論説)

訳:土田 修



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 ブラジルで起きていることとは違い、保守派の大統領経験者たちが横領の罪で裁判にかけられ、刑を宣告され、刑務所に送られる国が存在する。その国では右翼や極右、それにプロテスタントの原理主義者らがドナルド・トランプ氏に裏切られたと感じており、イランとの核合意や、ロシアとの中距離弾道ミサイル条約を見直そうとするどころか、米大統領がどの前任者たちにも解決できなかった紛争を解決しようとしているように見える。その前任者の中にはノーベル平和賞を受賞したオバマ前大統領も含まれている。

 それは恐らく極東で起きている。それは恐らくマニ教徒の善悪二元論の偉大な物語の中に置かれるにはあまりにも複雑すぎる。その物語というのは、世界についてのわれわれの眼差しを形成するとともに歪曲もする。だが、世界の状況はあまりにも暗く、文在寅大統領の積極外交的で楽天的でもある演説は注意を引かないわけにはいかなかった。さる9月26日、国連総会で文大統領は「朝鮮半島で奇跡が起きた」と語ったのだ。

 奇跡? それはともかく完全なる方向転換だ。わずか1年前にトランプ氏と金正恩・北朝鮮労働党委員長とが交わした、「炎と怒りに北朝鮮が直面することになるという警告」や「米国の核のボタンをもっと大きく、パワフルにだ」といった怒りに満ちたツイートの応酬を誰も忘れてはいなかった。米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、2017年9月2日、中国政府が北朝鮮に対して行動するよう促すため、中国国連大使に北朝鮮に侵攻する可能性について言及したことを最近認めた。トランプ氏は今や、彼の「友人」である金委員長の「勇気」に敬意を表している。そして、米国共和党の集会でトランプ氏は金委員長に「愛」を感じているとまで語っている。

 両巨頭が手を結んだことで、南北朝鮮は半島和平の急速な進展を手にした。その結果、韓国の右派はズタズタに引き裂かれ、結局、北朝鮮は国家レベルでの経済発展を有利に進めたかのように見える。北朝鮮との無分別な和解を理由に民主党と米国メディアから激しく非難された米政府は、「取引上手」を自称するマエストロ[トランプ大統領]が自身より悪賢い相手[金委員長]にいっぱい食わされたと米政府は認めることはないであろう。いずれにせよ、米国が[北朝鮮に対し]「炎」や「怒り」へと回帰する道を選ぶならば、中国やロシアと米国の関係が急速に悪化している中で、ロシア政府と中国政府がもう一度、米政府と歩調を合わせるのは難しくなるだろう。

 こうした全体的な見通しの中で、双方の軍事演習の中止、経済制裁の解除、平和条約締結など他の交渉課題を実現させる上で、朝鮮半島非核化を前提条件にすべきではない。北朝鮮政府は確かな保証が無い限り、命綱である核開発政策を放棄することは決してないだろう。トランプ政権が永遠に続くわけではないし、トランプ氏の善意もそうだ……。それは、75年間続いてきた紛争をたったの数カ月で片付けようとする楽天主義にとってもう一つの皮肉な理由なのだ。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年11月号より)