個人と社会の両方にもたらされる恩恵

なぜ有機農産物を食べるのか?


クレール・ルクーヴル(Claire Lecœuvre)

ジャーナリスト


訳:瀧川佐和子


 フランスの環境保護団体「ジェネラシオン・フュチュール(Générations futures)」が今年の2月20日に公開したこの国の農産品に関する報告書によると、5年間分析にあたった果物の73%、野菜の41%から農薬が検出されたということだ。こうした事実からも、有機農業への関心はますます高まっている。[日本語版編集部]

Fluid II, 2009, Palais de Tokyo, Paris
© Claire Morgan Studio, Courtesy Galerie Karsten Greve Cologne, Paris, St. Moritz
Photo credit: Claire Morgan
www.galerie-karsten-greve.com / www.claire-morgan.co.uk


 有機農業には、生態系保護と農業従事者にとっての公平性を促進させることを目指す実践方法がそろっている。中でも合成殺虫剤を使わないことによって、環境と健康への影響が大幅に減っている。研究所で作られた農薬を合成するさまざまな物質は、全世界的に農業生産量の増加をもたらした。しかし、さまざまな種類の化学製品の度重なる使用による影響に直面し、ここ数十年で人々の危機意識は高まっている。

 たとえば、硝酸塩や殺虫剤によって、地表や地下の水が全面的に汚染されていることが20年前から確認されている。水道局による最新の分析によれば、2014年に調査された水の87%から、少なくとも1回は殺虫剤が検出された(1)。最も多く見られた2つの物質は、世界保健機関(WHO)によって発がん性が高いとされた悪名高い除草剤グリホサートと、グリホサートの代謝物質であるAMPAだ。1994年から2013年にかけて、飲料水の集水施設の閉鎖の39%は、硝酸塩と殺虫剤による汚染が原因だった(2)。これらの汚染とその処理にかかる費用は年間6億4000万~11億4000万ユーロに達する(3)。「水質の回復よりも予防の費用の方が安くつくことが分かっています。水の汚染は深刻な問題なので、20年ほど前から水道局は農業の転換プロジェクトのための資金援助をしています」とセーヌ・ノルマンディ水道局長パトリシア・ブラン氏は言う。

 殺虫剤や農薬を使う慣行農業は生物多様性にもいくつかの影響をもたらす。「すべての農作業は同じ方向にむかっています。すなわち、昆虫種を減らすことです」と国立農業研究所(INRA) の科学部長アクセル・ドゥクールティ氏は端的にまとめる。2017年10月には、ドイツ国内のさまざまな場所で、飛翔昆虫のバイオマス[ある空間に存在する生物の総量]が27年間で76%から82%も減少したことが新たな研究論文の中で報告された(4)。鳥類も、農耕地において1989年から2013年の間に種の数が半減した(5)。たしかに、生物多様性が破壊される厳密な原因を特定することは容易ではない。病気の伝播や生息地の減少、殺虫剤の使用は引き合いに出される主要な原因である。しかしながら、確かな裏付けのある論文によると、さまざまな殺虫剤が、受粉を媒介する昆虫を減らす決定的な要因となっている(6)

 生息地について言えば、有機農法は輪作、生垣の植栽、さらには数種類の植物の組み合わせによって、草地に良い効果をもたらす。「多様化はアグロエコロジーの重要な鍵」と有機農業技術研究所の農業経済学者ナターシャ・ソテロー氏は断言する。これらの実践は植物やクモ、ミミズ、甲虫目、鳥類、さらには哺乳類の数を増加させる。彼らがいつでも食べられるこうした食物資源が増加すれば、害虫や害鳥による被害を抑えてくれる「益獣」と呼ばれる種、つまり蝙蝠、ハリネズミ、爬虫類や他の数種の虫やダニ類にとっても好都合となる。

明確になる殺虫剤の影響

 人間活動による影響を観察する場合、たいてい土壌のことが最も忘れ去られている。だが、殺虫剤や窒素、リンの大量使用がもたらす土壌汚染は免れない。過度の肥料は土壌を酸性にし、ブルターニュ地方における「グリーンタイド」(les marées vertes)のように藻類の繁殖現象の原因となっている。合成殺虫剤は大地を汚染し、そこに生息する微生物を死滅させる。他方、有機農業は土壌の被覆層の形成に大いに寄与し、地表の侵食を防ぐ。有機農業の土壌はたいていの場合、より多くの(生きた)有機物を多く含んでいる。1ヘクタール当たりの有機炭素の含有量は有機農業の37.4トンに対し、慣行農業では26.7トンである(7)。有機農業では大規模農業の64%が牧草地を保有しているだけでなく(慣行農業の場合は16%)、マメ科の植物を輪作にさらに多く組み入れ、冬季における大地の被覆層もより安定している(8)。これらの実践のすべてが炭素隔離[二酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段のこと]を促進し、それによって地球温暖化を抑制することが可能となる。

 農業システムを評価することは、それらの社会的効果を考えることにもつながる。たとえば、有機農業において生産物が多様化し、「短い流通」(circuits court)[訳注1]が増えることにより、より多くの労働者が必要となる。有機農業の外部経済効果[訳注2]に関するある報告が明らかにするところでは、3分の2の農場で、この農法によってさらに多くの雇用が生まれているということだ(9)。しかも、農業従事者たちが資金調達面で困難に直面しているいくつもの生産活動の中で、有機農法への移行こそが持続性のある選択であることも明らかになっている。2005年から2016年にかけて、有機農業の作付面積が2%から5.7%になったのはそのためだ。牛乳や果物、野菜の生産においても同様のことが指摘されている。「彼らを有機農業に転向させるのは、多くの場合、何よりも経済的な理由なのです」とINRAの有機農業内部委員会の共同委員長で経済学者マルク・ブノア氏は指摘する。「それは、あのよく知られた“鋏状価格差”[ハサミを開くように価格差が次第に拡大すること]と関連しています。すなわち、エネルギーや肥料、殺虫剤の価格は高騰する一方で、食料品価格は下がっています。牛乳については有機農産物市場の方が望ましく、収益性も高いことに飼育業者は気づいています」

 驚くことに、こうした社会的効果に関するデータが取り上げられることは滅多にない。一般受けする議論はむしろ、健康に関してのものだ。有機農業は健康面で効果があるのだろうか? それを確かめるためには、農薬に直接的あるいは間接的にさらされるケースに関心を持つ必要がある。農業従事者やその近隣の住民とは異なり、消費者たちはこれらの薬剤に直接触れることはない。しかし、有機農業方式から生じるすべての効果は、個々人が得られるものだけではない。住民全体にとっての利点を考えることも興味深い。パラドックスではあるが、有機農業によって作られた一部の製品には微量の合成殺虫剤が付着していることをまず指摘しよう。2015年の報告書によると、慣行農産物の45%に合成殺虫剤が残っていたが、有機農産物の12%からもそれが検出された(10)。その主な原因としては隣接する畑で使われた農薬が飛散したり、製品の加工中に農薬が混入したことが考えられる。

 多くの農薬に直接さらされることによって、健康上のさまざまな問題(癌・奇形など)が生じる。2013年、国立衛生医学研究所(Inserm)の専門家たちが、健康への殺虫剤の影響についての科学的な研究結果を検討し、共同報告書を出した(11)。「まず、農業従事者たちは他の人々より結腸や直腸などの消化器系の癌にも、すい臓癌、膀胱癌や頭頸部癌のように、ニコチン中毒が原因とされる癌にもかかる可能性が低いと指摘されています。しかしこれらの癌にかかるかどうかは年齢や労働者のタイプにもよるでしょう」とカーン・ノルマンディー大学助教授でフランソワ・バクレスセンターの研究者ピエール・ルバイリィ氏は指摘する。

 反対に、化学合成物質の使用とパーキンソン病・非ホジキンリンパ腫(LNH ・リンパ系の癌)・アルツハイマー病との関連は解明されている。殺虫剤を散布する人たちとそれらを製造する労働者たちは、前立腺がんになるリスクが12~28%高いと言われる。ただし、その原因について、特定の一つの薬剤にはっきりと結びつけることはできない。妊娠中に農薬にさらされていた妊婦の子どもに先天性の奇形や白血病が現れるといった推測もさまざまな研究によって示されている。やり玉に挙げられた化学物質の中ではリンデン[殺虫剤]、DDT、そしてマラチオン[害虫駆除剤][訳注3]が、非ホジキンリンパ腫の進行と大抵の場合関連している。さらに、長い闘いの末に、パーキンソン病と非ホジキンリンパ腫が職業上の疾病とまず認識されることになった。

 その後、別の研究によって新たな証拠がいくつも提示された。2005年にスタートしたコオート・アグリカン(La cohort Agrican)は、農業従事者たちの癌の発生について、少なくとも10年にわたって調査することを目的としている。「今のところ、非ホジキンリンパ腫、前立腺癌、メラノーマのような皮膚癌が[農業従事者でない]他の人々と比べて5~30%多く見られます」とピエール・ルバイリィ氏は説明する。いくつもの研究が、妊娠中に触れた場合に、脳の発達に問題を引き起こしかねないクロルピリホスを調査対象とした。「今日において確実なのは、DDTとクロルピリホスが脳の発達にとって大変危険だということです。ですが、脳に影響を与えるかも知れない殺虫剤は100種以上もあります。私たちはそれを証明するためにたくさんの証拠を必要としています。すでに多くの研究がありますが、さまざまな農薬に同時にさらされているケースが多く、一種類の殺虫剤だけを他から切り離すことが難しくなっています」と南デンマーク大学の疫学者フィリップ・グランジャン氏は強調する。INRAの歴史学者のナタリー・ジャス氏は、農薬が引き起こす健康問題の現実は、データ不足によって隠されたままだと考えている。データが取れない背景には、体の変調が症状として見えにくいこと、そして、少量の農薬にしかさらされない場合には、それを体の変調と結びつけるのが難しいという問題がある。彼女はまた、フランスでは、これらの問題が「農業の技術発展による主な代償」だとみなされ、30年以上関心を持たれていなかったことを指摘している(12)

 1980年代以降、さまざまな研究が有機農産物の長所に注目している。「有機農産物には[酸化を抑制する]カロチノイドや脂肪酸、ビタミンEがより多く含まれていることがいくつかの研究によって示されています」と国立衛生医学研究所の栄養専門名誉研究員デニス・レロン氏は強調する。2017年10月にはその中の一つの研究によって、こうした長所に関する最近の研究がまとめられた(13)。「もっとも確かな結果として、ポリフェノールの含有量の差が指摘されました。有機農業の果物や野菜にはポリフェノールがより多く含まれていたのです。また、[有毒な金属の]カドミウムはより少ないことが指摘されました。しかしながら、結果において、その差はそれほど大きくはありません」スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者で、その論文の著者の一人のアクセル・ミエ氏は有機農業の効果について過大評価はしない。

肥満のリスクの減少

 フランスでは、2009年にニュートリネット=サンテ(NutriNet-Santé)による大規模な疫学研究がスタートした(14)。有機農産物を食べることで過剰体重のリスクが23%、肥満のリスクが30%減るということが最初の研究結果として発表された(15)。「ライフスタイルと結びつく要因を切り離すことができた上で、[有機農産物の摂取によって]肥満が減少することがわかっています。バランスの良い食生活をする人々の間でも結果の差がみられます」とこの調査を行ったINRAの疫学者エマニュエル・ケッセ=ギヨ氏は明言する。それを説明するために2つの仮定が挙げられている。一つは、有機農産物にはオメガ3タイプの脂肪酸と抗酸化物質がより多く含まれ、それが肥満と2型糖尿病のリスクを招きうるメタボリック症候群を減らすということ。もう一つは、バランスの良い食事をしているとみなされる人々は、より多くの果物や野菜をとっているが、それらが有機農産物でない場合は、農薬が多く含まれているといった仮定だ。だが、殺虫剤にさらされることによって肥満や2型糖尿病が増加する、といった因果関係を多くの研究が指摘している。

 植物用の薬物製品を原因とする健康被害の問題には長い歴史がある。「20世紀の終わりごろ、初めて大論争を巻き起こした農業用の化学物質は、ヒ素剤でした」とナタリー・ジャス氏は語る。ヒ素剤は、その使用が何度か制限されたが、最終的に禁止されたのは2001年のことだ。多くの物質が時とともに排除されていった。最もよく知られた物質は、有機塩素系のものといくつかの有機リン酸系である。これらの使用禁止は、化学合成製品規制システムが正常に機能している事の証しだと一部の人々は考えている。しかし、使用許可の取り消しがしばしば遅きに失したり、アンティル諸島のグロルデコンのように、使用が禁止されてからずっと後になって影響が現れることもある。アトラジンは2003年にEUが禁止したが、ほとんどの河川や水路で、それらの存在が今もなお認められている。

 個々の農薬の禁止は、殺虫剤にかわる別の解決方法の発見につながるどころか、危険性がより低いとされるさまざまな新物質の登場をもたらしている。しかし、毒性が確かに変化しているとしても、必ずしも弱いということではない。「動物の組織内に長い間留まるような農薬は禁止されましたが、新しいものは水に溶けやすい。したがって、それらは大地にいっそう蓄積するのです」とアクセル・ドゥクルティ氏は説明する。

 農薬のリスクを管理する行政・保健機構は、財政面からの圧力を受け、少々働きが鈍くなっているようだ。しかし、データが蓄積されることによって、持続性のある生産方法へと今以上に急速に変化していくだろう。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年3月号より)