現代のリベラリズムが抱え込んだ偽善者

ハーヴェイ・ワインスタインの没落


トーマス・フランク(Thomas Frank)

政治アナリスト、歴史家、ジャーナリスト


訳:大竹秀子


 不祥事で失墜した当代きっての大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン。人種差別、性差別、検閲などに反対し社会正義を求める革新派のキャンペーンや民主党の資金集めのためにゴージャスなパーティやイベントを企画し華やかな話題をふりまく顔役としても知られた。ワインスタインのような偽善者を招き寄せるにいたった、今日のリベラリズムのもつ歪みとは? その構造を探る。[日本語版編集部]

(英語版2018年2月号より)

photo credit: ANDERS KRUSBERG / PEABODY AWARDS Project Runway


 ハーヴェイ・ワインスタインの事件が初めて明るみに出た時、彼の名は私にとって初耳だった。アメリカのジャーナリストの間で、私は珍しい存在だったに違いない。おびただしい数の女性たちにセクハラ行為を行ったとして告発されたこの映画プロデューサーとは、いったい何者か。この人物について調べを進めるにつれ、彼がかつては、まったく違う件で名をなしていたことを発見した。民主党のリーダーたちとごく親しく、リベラルな政治家や革新的な大義に気前よく金を出す後援者だったのだ。

 不祥事を起こし続けていたこの大興行主は、人種差別、性差別、検閲に対する強力な批判勢力の一人だった。エイズと闘う資金集めのために豪勢なパーティを主催したし、2004年には「ブッシュに反対するお母さんたち」という名の女性団体の大物支援者となった。さらにパリのテロリストたちがフランスの『シャーリー・エブド』誌を攻撃するや、報道の自由を求めて勇敢に声をあげた。この時、ワインスタインは、「我々に、我々の世界の実態を見せてくれる偉大なアーティストたちの力を打ち砕くことは、誰にもできない」という文を寄稿した。(ヴァラエティ誌、2015年1月11日号)

 何よりもまず、彼はバラク・オバマとヒラリー・クリントンの熱狂的支援者だった。だからこそ、クリントン財団の民主党リベラルの世界が抱え持つ両義性を代表していた。財団のチャリティ行事など、彼が関与した取り組みは、いわば社会的思惑の「交換所」の役割を演じたのだ。

 クリントン財団のイベントには、善意のエネルギーがみちあふれている。出席するセレブリティは、善良で高いモラルの持ち主として称賛される人たちで、ボノやマララのように、苗字無しで知られる人物も多い。当代の聖人ともいえる人たちだ。そして、イベントの場では交換が起きる。こうした人たちが、もっともな大義のために寄付金を出すアメリカのビジネス界のお歴々と顔を合わせるのだ。モラルの高い聖人陣営と汚くておぞましく醜いビジネス界。クリントン一家はその両陣営の真ん中に立ち、この対立的な両者に属して橋渡し役を演じる。クリントン財団を通してモラルの交換が行われ、ハーヴェイ・ワインスタインは、まさにこのモラルの交換を体現した。

ベルナール=アンリ・レヴィの「驚くべき勇気」

 女性支援のチャンピオンだったこの人物が、いまでは並外れた規模のセクシュアル・ハラスメントで告発されている。報道機関の擁護者だったこの人物は、同時に報道機関の操作にたけ、聞かれたくない質問を重ねたレポーターに暴力をふるったこともあると言われている。しかしまた彼は、好感を生む顔となりネットワークを作り、人々に恩恵を与え、またそれを受け取るすべも知っていた。

 2012年にワインスタインは、フランスのドキュメンタリー映画『トブルクの誓い』(The Oath of Tobruk・日本未公開)のアメリカでの商業権を取得した。端正な身だしなみで知られる知識人、ベルナール=アンリ・レヴィがリビアのカダフィ政権を転覆させるべく、国際社会の喚起にいかに尽力したかを描く作品だ。アメリカでは、この作戦を「ヒラリーの戦争」と呼んでいるが、リビアはいまだにこの時の崩壊から立ち直れずにいる。

 以下は、この映画についてのワインスタインの記述だが、たったひとつのパラグラフの中にどこまで多くの思い上がりと愚劣さを詰め込むことができるのかを示す一例になっている。「このすばらしい映画は、BHL[ベルナール=アンリ・レヴィのフランスでの通称]の驚くべき勇気とニコラ・サルコジ元フランス大統領の強さを明らかにすると共に、バラク・オバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官の比類なきリーダーシップを浮き彫りにしています。アメリカの観客は、我が国の政府とフランス政府がいかに手に手をとって、無辜(むこ)な市民たちの虐殺を止め、一国の政府をみごとに転覆させたか、その舞台裏を垣間見ることになるでしょう」

 BHLは、こう応えた。「私にとってハーヴェイ・ワインスタインは、単なる『芸術家』であるにとどまりません。彼はアメリカでアムネスティ・インターナショナルの立ち上げを支援したプロデューサーです。映画を武器にして死刑制度と闘った男です。人々がロマン・ポランスキーをリンチにかけようと望んだとき、弁護にまわりました。このワインスタインが『トブルクの誓い』の冒険に加わると知り、大変、嬉しく思っています」(1)

 ワインスタインのリベラリズムは、称賛と受賞で構成されてもいる。彼は、さまざまな非営利団体の理事会メンバーを務めている。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、そしてなんとフランスのレジオンドヌール勲章まで受章した。数々のジャーナリズムの賞までもらっている。2017年6月には、ロサンゼルスのプレスクラブから「真実を語る人」賞を授与された。彼のリベラリズムは、どうやらつねに見せかけだった。一貫性を欠いていたし、考え抜かれたものでもなかったことは間違いない。彼は、バーニー・サンダースを断固として認めようとはしなかった。2008年11月の米大統領選挙の夜、ワインスタインはオバマの当選確実を祝したが、それは「世界各地で平均株価が上昇するだろうから」というただそれだけの、自分の都合が理由だった。

『カール・マルクス』は、死んだ

 ワインスタインのリベラリズムは、また、都合次第でひどく軍事優先主義的にもなった。彼の会社が製作した映画『ネイビーシールズ:チーム6』(オサマ・ビン・ラディンの殺害がテーマ)の公開に際し、ワインスタインは次のように述べた。「当代きっての軍事の天才コリン・パウエルが大統領を支えています。オバマ大統領を支えています。そして、軍は、大統領を愛しています。私はこの映画の製作者です。軍のことはよく知っています。軍は、彼が行ったことを尊敬しています。彼はジョージ・ブッシュが8年間で達成した以上に多数のテロリストを短期間で殺害しました」(CNN、2012年11月5日)

 ワインスタインの世界では、政治が贅沢な事物のこれ見よがしの誇示と組み合わされるのが通例だった。候補者への祝賀や大義への資金集めは、マーサズヴィンヤードやハンプトンズ[訳注1]での行事とされた。2000年にカンヌで開かれたワインスタイン主催のエイズ医療研究支援イベントについて、映画評論家のロジャー・エバートは、次のように記した。「ミラマックス社のトップ、ハーヴェイ・ワインスタインが企画したディナーと公開オークションに続いて、プライベート・オークションとファッション・ショーが開催された。今年、ワインスタインは、ハイディ・クルムによるマッサージをオークションに提供したばかりか、ケネス・ブラナーとジェイムズ・カーンを説得してシャツを脱がせ、彼女の技を示す実験台になるよう承諾させた。マッサージには、3万3000ドルの値がついた。『カール・マルクスは死んだ』とジェイムズ・グレイ監督は、評した」(2)

 ドナルド・トランプが我々に幾度となく思い起こさせるように、どんな政党にも下司な人物はいる。だが、そうはいっても、ワインスタインは異例だった。自らは平気で破る信念を過激に声高に支援してみせた。革新的な大義と自らのアイデンティティをいったいどう結びつけていたのだろう? おそらくは、権力者に取り入りたい一心、ビル・クリントンの友達になることで感じるわくわくした興奮を手に入れたい一心だったのかもしれない。道徳上の罪滅ぼしを手にすることだけが大事だったのかもしれない。ウォルマートやゴールドマン・サックス、エクソンモービルなどの一団がつねに心ある企業リストの筆頭に立とうとするのと同じだ。富裕者の世界においては、リベラリズムとは、別の領域での強欲な行動を帳消しにしてくれるものなのだ。数々の告発に直面したとき、ワインスタインがまず見せた必死の反応の中で、全米ライフル協会に対する闘いと女性への奨学金支援を約束したのは、偶然ではない。

 だが、ここにはもっと深い何かがある。左派の大半の人たちは、自らを権威への抵抗者だと考えているが、彼らのリーダーたちの中には、現代のリベラリズムとはクラスに備わる権力を合理化し行使する方法だとみなす人たちもいる。とりわけ、「クリエイティブ・クラス」[訳注2]の権力、すなわち、ウォール街やシリコン・バレー、ハリウッドの裕福な経営者たちの権力の活用だ。こうした大変特別な人々への崇拝を正統なこととして認めることで、民主党員は、共和党員たちに侮られながらも資金集めのパーティの魅力に引き寄せられることができるようになり、アメリカの裕福な郊外のどこででも党の財源を膨らませてきたのである。

 この種のリベラリズムがまた、資金集めにこのうえない力をもち「偉大なアーティストたち」を敬うワインスタインのような偽善者を引き付けるのは驚くに当たらない。彼はこの構図にぴったりはまるからだ。こうした形態のリベラリズムには、独善にアッパークラスならではの特権が溶け込んでいる。だからこそ、ハンプトンズがその卓越した発信地になる。一般の人たちとショービジネスのセレブリティたちとが信頼と親密さでひとつにつながるという関係もこれで理解できる。

 もっとよく知っていてしかるべきだった大勢の人たちが、ワインスタインの性的虐待疑惑に驚いている。それどころか、彼らには事態がまるで見えていない。自らの美徳と趣味の良さに感激の涙を流しながら、モラルの鏡の間で道を見失っているに違いない。


  • 筆者のトーマス・フランクには近著Listen, Liberal, or, What Ever Happened to the Party of the People?, Metropolitan Books, 2016がある。


  • (1) Weinstein Co to release Gadhafi doc ’, United Press International, 21 May 2012
  • (2) Roger Ebert, ‘Elizabeth Taylor helps host surreal AIDS benefit ’, 21 May 2000

  • 訳注1]マーサズヴィンヤードは、マサチューセッツ州ケープコッドの南に位置する島で富裕層の避暑地として名高い。バラク・オバマやクリントン夫妻などの政治家や、著名な映画俳優、エンターテイナー、作家、スタージャーナリストなど、知名度が高い人々が夏を過ごす場所として知られる。ハンプトンズはニューヨーク州ロングアイランドの、サウザンプトン郡とイーストハンプトン郡を合わせた地域を意味し、海浜リゾートとしてアメリカ北東部の歴史的避暑地のひとつ。米国で最も高価な住宅地と言われている。

  • 訳注2]「クリエイティブ・クラス」とはアメリカの経済・社会学者リチャード・フロリダが2002年の著書『クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭』などを通して提示してきた概念。フロリダによるとクリエイティブ・クラスは、大別してアメリカの労働人口の約12%を占めるスーパー・クリエイティブ・クラス(科学者、エンジニア、学者、コンピューター・プログラミング、研究者ならびにアート、デザイン、メディアの仕事に携わる人たち)とクリエイティブ・プロフェッショナル(ヘルスケア、ビジネス、金融、司法、教育関係など知識を基盤とする仕事をする人たち)の2つで構成され、これにごく少数のボヘミアンたちを加えて約4000万人、アメリカの労働人口の約3割を占める。フロリダは、クリエイティブ・クラスがアメリカの経済成長を牽引する勢力だとしている。

(ル・モンド・ディプロマティーク 英語版2018年2月号より)