ボローニャの食文化の殿堂は、いろんな味付けでいっぱい

イタリアの新しい食のテーマパーク


ジャン=バティスト・マレ(Jean-Baptiste Malet)

ジャーナリスト、特派員
『トマト缶の黒い真実』(太田出版、2018)(L’Empire de l’or rouge.
Enquête mondiale sur la tomate d’industrie,
Fayard, Paris, 2017)著者


訳:村上好古


 「食のディズニーランド」と言われるFICO Eataly World(フィーコ・イータリー・ワールド)が、2017年11月ボローニャ郊外にオープンした。Eataly をはじめとしてイタリア農産食料品業界の関係者がこぞって参加するこのテーマパークは、環境保護などの理念を謳い上げつつ、昔ながらの「絵葉書の絵のようなイタリア」を演出し、「イタリア製」の農産品や加工品の拡販を狙っている。[日本語版編集部]

(仏語版2018年1月号より)

Michele Lapini. – L’entrée principale de FICO, 2017
www.michelelapini.net


 遊園地さながらの大きな入場門が、ボローニャ(エミリアロマーニャ州)郊外、DIYやスポーツ用品、照明器具、玩具などの大型小売店が集積された商業地区の中心に建つFICO Eataly Worldの入口である。監視カメラが設置された塀の向こうには10へクタールの敷地が広がり、このうち8ヘクタールは44,000の太陽光発電パネルで覆われ、その周辺の2ヘクタールには、小菜園だとか、動物用の小区画が配置されている。メインゲートの回転ドアの上の高い壁には、いくつもの棚にリンゴがギッシリ並べられ、入園者を歓迎する。この飾りつけは、果樹栽培事業者の共同体で、2015年の売上げが2億5,500万ユーロ以上に達するメリンダ(Melinda)がスポンサーになっている。説明板には、「ヨーロッパにはリンゴの種類が1,200以上ありますが、イタリアにはそのうち1,000種があり、他のヨーロッパ地域には200種です。私たちがFICOを設立した理由は、そこにあります」と書かれている。「これらの果物はすべて本物です」と、広報担当のシルビア・ザネッリさんは笑みを浮かべながら説明してくれた。「2週間おきに取り換えるんですよ。FICOは、資源の無駄遣いに反対し、永続性と環境を重視したエコパークなんです。古いリンゴも捨てたりせず、慈善団体に差し上げています」

 フランスのメディアから、「食のディズニーランド」(France Info、2017年11月15日)、あるいは「農産食料品産業の遊園地」(フィガロ、2017年11月11日)と呼ばれるFICOは、Fabbrica Italiana Contadina(イタリア農業工場)の頭文字をとった呼称で、イタリア語で「イチジク」を意味する。傘下には、エレクトロラックス社[家電]、コーヒーのラヴァッツァ社、トラクターのニューオランダ社、トマト缶詰のムッティ社、サムスン社[家電]、ボローニャのモルタデッラソーセージ生産者組合、ワールプール社[家電]、家具のカルテル社、コーヒーメーカーのアレッシ社、それに乳製品大手のグラナローロ社など、多数の事業者が集められている。2017年11月15日に行われた開幕式には、パオロ・ジェンティローニ首相のほか、環境、労働、農業、それに文化・観光の各大臣が出席し、この施設の名前の由来となった食料品流通ブランドEatalyの創業者オスカー・ファリネッティ氏以下、150以上の企業のトップも列席した。

 ファリネッティ氏は、父が創業した家電専門量販チェーンのウニエウロ社を継いだが、Eatalyを設立するため、その設立前年の2003年にこの事業を売却した。口ひげを蓄えたこの企業家は、農産食料品を世界中の物販店やレストランに輸出することでイタリア経済の沈滞を打ち破り、この国のまさに伝説的な勝ち組企業のヒーローになったのだった。Eatalyの販売拠点は、米国、カタール、サウディアラビア、ブラジル、ドイツ、日本、チュニジア、韓国に広がり、さらに、海上にも、すなわちMSCクルーズ社の客船上にも及んでいる。イタリア政財界の数々の最高指導者が列席したFICO Eataly Worldの開幕式は、新たな「ビジネス王」ファリネッティ氏の戴冠式の様相を呈するものだった。今や、雑誌の表紙にも、空港の大きな広告にも、彼の写真が掲げられている。

 施設の入口、リンゴの壁の下には、パートナー企業のひとつであるビアンキ社[自転車]の「イタリアで組み立てられた」青い3輪自転車数百台が置かれている。身分証明書と引換えに1台を借りるのだが、この3輪自転車の前部と後部には、木製の籠がついており、「FICO用に考案されたこの3輪車を使えば、とても広い園内を簡単に移動できますし、買ったものを楽に運べます」と広報担当者が教えてくれる。「私たちはこの施設に1億2,000万ユーロを投資しましたが、来園者がそれぞれ20ユーロお金を使ってくれれば採算がとれると見込んでいます」。目標は2020年に来園者600万人とのことで、その3分の1はエミリアロマーニャ州内から、3分の1はイタリア国内の他地域から、残りの3分の1は外国から、という。中に入ると、いくつもの円盤状の説明書きに縁取られた大きな円形の展示台が並んでおり、歓迎の言葉代わりに、このテーマパークの基本理念が掲げられている。「1.私たちはイタリアのために働きます。2.ここは本物のための場所です。3.私たちは歴史を語らねばなりません。4.地球が第一。5.私たちは世界に向かって語ります。6.楽しみながら学ぶこと。7.尊敬の気持ちとビジネス」。つまり、ファシズム体制下の「緑の自給自足」理念[訳注1]から生まれた、強大なイタリア農産食料品産業という理念の総合そのものだ。そしてその内容と言えば、絵葉書のような[豊かで美しい]イタリアというエキゾチックなイメージを絶えず呼び起こしながら、それでいて今日の新自由主義という環境条件に適合している。というのは、農産食料品のパッケージに“イタリア製(made in Italy)”と表示できるよういかに気を遣おうとも、その中身の多くはイタリア産ではないからだ。このことは、通関統計そのものが物語っている。すなわち、イタリアは2016年に確かに、相当量のパスタ類(21億9,000万ユーロ)、純オリーブ油(14億2,000万ユーロ)、コーヒー(12億9,000万ユーロ)、それにチーズ(22億6,000万ユーロ)を輸出したが、これは一方で、小麦(12億9,000万ユーロ)、オリーブ油(13億9,000万ユーロ)、コーヒー(12億ユーロ)、牛乳、発酵乳製品および練乳(10億ユーロ)の多量の輸入があったればこそなのである。

 来園者は、3輪車のペダルをこぎ出した途端に、ここが新しいジャンルの消費の殿堂であることに気づく。大きな照明器具は木製で、絶え間なく掲げられている無数のスローガンが、「環境保護」、「伝統」、「イタリアの食文化」、そして「生物の多様性」について、その重要性を謳っている。「敬うこと、それはカッコいい(cool)こと」と、要約しているものもある(因みに、この施設の名前に相当するイタリア語のficoは、日常用語として、カッコいい、流行の最先端というcool の意味も持っている)。チーズの山、ハム・ソーセージ類、瓶に入ったオリーブ油、バルサミコ酢、ワインやビール、それに、ビスケットの箱、砂糖菓子、ありとあらゆる種類の缶詰。FICOは、なんと言ってもまず世界最大の農産食料品のショッピングセンターである。「私たちは、ジャンルの壁を取り払おうと考えました。ここは、まずもって“イタリア製品(made in Italy)”の殿堂なのです。イタリアの食文化は、他の国の追随を許しません。だから、ここはイタリア農産食料品産業の展示会場であり、商業や観光の場なのです。また同時に、楽しみながら学習する場でもあります」と、広報担当のザネッリさんが説明してくれた。

 FICOの園内中心部では、イケア(Ikea)の巨大倉庫式の売り場と同じように、一定の道順が決められている。広報担当者は、「FICOを訪れることは一つの体験をすることだ、というコンセプトによるものです」と、語る。広げてくれた園の案内図は印象的なものだった。来園者の小さな姿がさっと描かれており、これらの人々が、45あるレストランで食事をし、製品や産物の試食会に参加している。また手近な広場でスポーツをし、ブランド企業が惜しまず提供してくれる料理教室に参加したり、10メートル四方の小さな柵の中にいる牛や豚の観察をして楽しんだりしている。この園の「農家の作業場」と呼ばれる40の生産ユニットで働く作業員の姿も、書き込まれているのかもしれない。

 FICO Eataly Worldがショッピングセンターの革新であるとするならば、「農家の作業場」は、その象徴である。イタリアでは関税の引き下げあるいは撤廃が数10年続き、その間農産食料品産業は、遠い外国産の材料をその製品に取り込んでゆくために、極度にその生産過程を変化させてきた。そして今、「農家の作業場」というこれらの小さな生産ユニットは、来園者が生産の現場に立ち会う機会を提供している。同時に、作業場の隣の売店での実際の購買に結びつくような物語を考案し聞かせる、という意図も持っている。その実演は、納得の行く、誰にもわかりやすい内容であり、騒々しく巨大な工場でのものとは異なっている。作業場の広さが大き目の厨房くらいだし、焼き立てのパンのにおいがするのだ。

 出展ブースの中で最も地味で控えめだったのは、なんと言っても人材派遣会社ランスタッド社のものだった。「私たちは、雇用のお手伝いのためにここにきています。FICOで働く人の大部分は、ランスタッド社と契約しています。この営業所を経由しているのです」と、募集担当の女性が教えてくれた。「月、週、日単位の契約だけですが、1日契約から4カ月契約まであります。今は、ウエイター、コック、実演販売担当者を募集しています」。アマレッリ社[製菓]のリコリス(甘草)キャンディの販売員が4カ月契約、ラヴァッツァ社[前出。コーヒー]のカフェの従業員が3カ月契約となっているのは、恵まれているということになる。ある広告代理店が募集したピンク・レディという商標のリンゴ(そのブースでは「在来種のリンゴ」とされているが、実は植物新品種登録証明certificat d’obtention végétale で保護された最近の交配種である)を配る女性コンパニオンは、数日分の契約しか結んでいない。ユニフォームのピンク帽を被った若い女性は、「この仕事を選んだのは、ほかに選択肢がなかったから」、と言う。「誰だってそう思っているけれど、FICOは私たちの弱みに付け込んでいるんです。園内には、どうしたらよいかわからないぐらい、いたるところに販売用の食品があります。でも、彼らは、ここで働く人間の食事のことは何も考えていないんです。ですから昼食補助券なんてありません。私はいくつものアルバイトを掛け持ちしていますが、今日みたいに食事の時間がないときは、FICOで1日43ユーロもらううち12ユーロを、ここでのパスタランチ代に払うことになってしまいます」。成年従業員の不安定な雇用関係の傍らでは、未成年者、大部分は、ホテル、レストラン学科の学生による無報酬労働が、交代で行われている。ランスタッド社とFICO Eataly World は、イタリア中の200の学校からの2万人の学生を当てにして、30万時間分の無報酬労働を見込んでいる(1)

 2016年の売上が1億7,000万ユーロ以上に達するビスケットとパネトーネ製造の大企業バロッコ社のブースでは、「小麦の世界史」を年譜にした横長の説明板が、見学者を古代エジプトから資本家の時代、そして同社創設の場面へと順々にいざなって行く。そこにはガラス張りの大きな窓があり、小さな製造ユニットの内部を覗けるようになっている。観客のフラッシュを浴びながら、モヒート(カクテル)をサービスする小さなスタンドの前で、白い作業帽を被った作業員が働いており、機械を操作して、ビスケットを作っている。見学者の側には10ばかり説明板があり、いくつもの製造工程を解説しているが、その最後にある案内板にはこう書かれている。「ここで見学をやめないでください。歴史をたどる旅は続いています。お菓子のお店に入ると、フランチェスコ・アントニオ・バロッコがフォッサノ(Fossano)で1927年にオープンした最初の店の雰囲気を楽しめるでしょう。きっと私たちの特製のおいしいお菓子が見つかりますよ」、と。実際、いかにもという飾りつけで、古い秤が、同社製品のすべて(ドイツのチェーン店であるリドル社向けなど、プライベートブランド用製品は除かれる)といっしょに並べられていた。その店の責任者に、ビスケットの材料に含まれている小麦はどこから来たものですか?と尋ねると、「私には分かりません」と、素直に認めた。店には、表紙で一人の男がにっこり微笑んでいる本が山のように積まれており、その男、[現在の]オーナーのアルベルト・バロッコ氏の顔写真の下には、大文字でこんなタイトルがつけられていた。「私はパティシエ(菓子職人)になりたかった」と。



  • (1) « FICO Eataly World e Randstad insieme per alternanza scuola-lavoro », 2017年10月9日,www.adnkronos.com

  • 訳注1]1930年代のイタリアは、他国からの経済制裁を受け、燃料、ゴムなどの原材料が不足することとなった。これに対しファシズム政権は、代替品の生産、利用や、節約、リサイクルなどによる自給自足を目指した。これを、現代的なエコロジーの視点から、省資源を企図した「緑の」自給自足と呼ぶことがある(《L'autarchia verde》,Marino Ruzzenenti,2011)。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年1月号より)