ヨーロッパ分離派のもう一方の実験現場

急進左派に「汚染された」ワロン地方


セバスティアン・ジラール(Sébastien Gillard)

ジャーナリスト


訳:熊耳春菜


 2014年の国会議員選挙以来、着々と支持率を増やしてきたベルギー労働者党。青年運動「コマック」や様々なフェスティバル、討論会などを通して、ベルギー・ワロン地方の国民の心を掴んできた。しかし、複雑な言語体制や政治事情ゆえ、フランドル地方の支持を得るのは容易ではない。今後ベルギーの政治は、何処へ向かっていくのだろうか。[日本語版編集部]

(仏語版2017年11月号より)

©Cécile Marin


 黒地の背景に真っ赤な煙が立ち込め、ひとりの男の不気味なシルエットが浮かび上がる。「そこのあなた、あなたも、急進左派に汚染されていませんか?」。ル・ヴィフ・レクスプレス誌は、2017年3月31日号の表紙で、読者にこう問いかけた。さらに、このベルギーの週刊誌は「汚染率」を測るためのセルフチェックを読者に提供した。中絶の権利やセクシュアル・マイノリティ、社会的不平等の是正などを擁護する読者は、「急進左派の思想に影響を受けやすい」、あるいは最悪の場合、ベルギー労働者党 [Parti du travail de Belgique (PTB) ]の「シンプルな、いや、シンプルすぎる」演説に魅せられてしまう可能性があるという。ベルギー労働者党は、ワロン地方とフランドル地方にまたがる統一的な政党で、フランドル地方では Partij van de Arbeid van Belgïe (PVDA) と呼ばれている[訳注1]。

 マルクス=レーニン主義の影響を受けて1979年に結成されたこの政党は、国民投票では1%以上の票を獲得できず、長い間その得票数は明らかにされてこなかった。しかし、2014年5月の国会議員選挙で事態は変わった。ベルギー労働者党が連邦全体で3.7%、ワロン地方では5.5%もの票を獲得したのだ。その3年後、一連の世論調査がベルギー労働者党の未来はより輝かしいものになると予想した。2017年7月にレコー紙が調査したところ、ベルギー首相シャルル・ミシェルが率いる改革運動 [Mouvement réformateur (MR) ]や、今日すっかり衰退した社会党 [Parti socialiste (PS) ]を差し置いて、ベルギー労働者党がワロン地方でトップに立ち、25%近くもの得票を見込めるというのだ。それ以来、ベルギーの政界にはパニックが巻き起こった。

 このベルギー労働者党の飛躍を理解するには、転機となった戦略が実行された2008年の第8回党大会にまでさかのぼる必要がある。「この時期、我々は自問していた。我々は労働者党だから、労働者を代表して、労働者の利益を守り、労働者を解放したい……。 ではなぜ、我々についてくる労働者がこんなにも少ないのか?」。そう語るのは、ベルギー労働者党の青年運動「コマック」の会長、シャルリ・ル・ページュ氏である。「そこで我々は演説を改良して、人々がもっと理解できるように、もっと衝撃的で動員力があると思ってもらえるように試行錯誤した」。ベルギー労働者党は、カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルスやレーニンへの支持を再確認しつつ、毛沢東やヨシフ・スターリンに言及することはやめると決め、パンチの利いた提言で政策綱領を練り直した(大富豪への増税、退職年金の最低月額1500ユーロへの引き上げなど)。そして、彼らは言葉遣いまでも変更した。「労働者階級」に言及するよりも、「人々」という呼び名を好んで使用したのだ。2004年に採用されたスローガンは「利益ではなく、人々が優先」であった。

 政治学者であるパスカル・デルウィット氏とジウリア・サンドリ氏は、この進展を「スターリン流の教条主義的修辞法を放棄して、急進的ポピュリズム(1)のスタイルを選んだ」とみている。だが、ベルギー労働者党の指導者らはこのような修辞法の転換を受け入れたとしても、この党が左翼的であるとはいえ、ポピュリズム的な考え方とは距離を置いてきた。ベルギー労働者党の代表、ペーター・メルテンス氏の言葉(2)を借りれば、特に「社会主義2.0」[新たな社会主義]を築く必要がある、というわけだ。メルテンス氏は引き続き、階級闘争の考え方を何よりも優先させるだろう。「我々は階級の分析に基づいた、しかし今日の情勢に適応された、そんな演説を求めている。19世紀に作られた雄弁な演説のコピー・ペーストではなく、だ」とル・ページュ氏は説明する。

 こうした急進的な思想が普及していくなかで社会党の著しい信用低下が加わって、第8回党大会で決めた戦略はすぐに成果を収めた。2008年から2016年の間、ベルギー労働者党への加入者は4倍に増えた(2500人から1万人)。2014年は結党以来初めて、議員を連邦議会へと送り込むことに成功した。スポークスマンのラウル・エデブー氏及び、脱税問題への取り組みで有名になった、元財務省役人のマルコ・ファン・ヘース氏である。ベルギー労働者党はそのほかにも、ワロン議会に2人、ブリュッセル議会に4人の議員を送り込んでいる。ベルギー労働者党の議員たちは、国の統一を重視する立場を強調するため、宣誓は公用語の3カ国語(ドイツ語、フランス語、オランダ語)で行い、改革をもたらそうとする意志を示すため拳を上げ、ベルギーの議会に輝かしくデビューした。たとえば、各議員はそれぞれ月1500ユーロから1800ユーロの給与で生活し、残りの議員報酬は党に移管しなければならない、という厳格な規律も自らに課した。エデブー氏は2017年5月1日のリエージュでの演説で、基本的理念をこう語った。「我々は、かくあるべしと考えた通りに暮らしていかなければ、毎日の暮らし方の通りに考えるようになってしまう」。この理念は、ここ数カ月間で、主として社会党の地方議員による汚職が頻発しただけに、より意味深いものがある。彼らは自治体相互間協同組合「ピュブリファン」[訳注2]に出席していないにもかかわらず、同組合の会合費としてかなり高額な金銭を着服したとして告発されたのだ。

フランドル地方を勝ち取る

 これらのスキャンダルは、他の既存政党への不信感を強め、ベルギー労働者党に有利に働いた。同党は、自分たちに悪影響が及ばない政策ばかりを打ち出す、現実を無視した政治家階級を告発し続けていた。すなわち年金問題(過去の失業時に納税しなかった分の年金の削減を検討するバクレーヌ法案)、労働法(残業時間や非正規雇用、フレックスタイムなどを緩和するペータース法)などである。マルクス主義のベルギー労働者党は、これらの改革に反対する社会運動の最前線に身を置いている。ベルギー労働者党の活動家たちは2014年と2015年の緊縮財政に反対するデモに積極的に参加し、ストライキのピケでも、とても目立った存在だった。この活動によってベルギー労働者党は、昔から社会党に近く強力なベルギー労働総同盟 [Fédération générale du travail de Belgique(FGTB、加入者数150万人)]をはじめとする労働組合の世界に足掛かりを掴んだ。2014年の選挙の際は、ベルギー労働総同盟のシャルルロワ地域支部が、本部の意見に逆らってベルギー労働者党を支持するよう呼びかけた。2017年、前代未聞ながら、ベルギー労働総同盟は6月の全体会議に社会党の指導者たちを招待しないことさえ検討していた(3)

 ベルギー労働者党はフランドル地方ではまだ定着しておらず、ワロン地方と同等の得票数を得るには至っていない。このPTBの定着度が両地域で異なるという展開にほくそ笑むのは、フラマン系民族主義政党である、新フラームス同盟[Nieuw-Vlaamse Alliantie (N-VA)]のリーダー、バルト・ド・ウェーバー氏だ。自由主義や民族主義を支持する「右派」のフランドル地方と、ベルギー労働者党、社会党、エコロ[環境主義の政党]を支持する「左派」のワロン地方、この2つをより激しく対立させる機会をうかがっているのだ。また、言語の分裂は政治の分裂でもある。ベルギー労働者党の指導者たちは、この問題にも取り組み始めた。2017年3月には、エノー州支部のリーダー、ジェルマン・ムゲマンガンゴ氏が、カリスマ的存在であったエデブー氏の後任として、スポークスマンに任命された。党の顔ぶれを多様化させる狙いに加えて、エデブー議員をこの任務から解放して、彼がフランドル地方で選挙キャンペーンができるようにする狙いもある。完璧なバイリンガルのエデブー氏は、フランス語とオランダ語で会話を繋いでいく。彼の国会での発言の映像はソーシャル・ネットワークで何度も話題になり、北のフランドル地方でもかなりの評判を得た。フランス語話者としては珍しく、フラマン系のテレビ番組 « De slimste mens ter wereld » ( 『世界で最も賢い人 』)にも招待されている。かつてド・ウェーバー氏が一気に人気を高めたきっかけになった番組だ。

 ベルギー労働者党は2019年の国会議員選挙で何人かフランドル地方の議員を出したいと願ってはいるが――おそらくアントワープでメルテンス氏が民族主義者たちと戦うことになると思うが――、選挙に勝つことを最優先の目標にはしていない。「我々が政権の座につくのは、今から10年後、15年後になるだろう」と、 エデブー氏は2016年5月21日にラジオ&テレビ・ベルギー・フランス語放送(RTBF)で認めた。マスメディアや社会党の指導者たちはこの発言をすぐさま利用し、ベルギー労働者党の無責任さや統治能力の無さ、この政党に投票することの無意味さを指摘した。エデブー氏は 「左派の主導権を取り戻す 」ための「力関係の構築[他党との連携]」の大切さを強調しながら弁解した。なぜなら、ベルギー労働者党は社会党やエコロなどの、EUが課してくる緊縮政策を支持するような政党とはいっさい組むつもりがないからである(4)。「この力関係の構築がなければ、選挙で30%の得票があっても、これらの支持票をもたらした選挙公約を実行する手段がないということになる。もし今とは異なる政治を望むなら、EUの束縛に抗わなければならない」と、ベルギー労働者党の副党首ダヴィッド・ペスティオー氏は、将来の同盟者に対して予告した。

 ベルギー労働者党が選挙の結果以上に強調するのは、ベルギー国民における「階級意識」を作り上げるための「思想闘争の大切さ」である。 この表現は、彼らの出版物(5)のなかでも常に使われている。彼らはまず強力な社会運動を発展させ、そこを拠り所としていつの日か政権までたどり着くのだ。そのため、シンパの人たちには、より精力的に活動し、惜しみなく時間を費やすことを奨励している。ベルギー労働者党は、9月に「マニフィエスタ」というフェスティバルも計画している。フランスの「ヒューマニティーフェスティバル」がモデルになっており、コンサート、講演会、討論会などが混じりあったものである。ベルギー労働者党には活発な青年運動を行う「コマック」もあり、大学での自主的な活動も増えている。イースターとクリスマスの休暇の間、「コマック」は「集団勉強会(6)」を開催し、250人ほどの学生が、わずかな参加費で、様々な政治思想に親しみながら心地よい雰囲気の中で試験勉強をする場を提供している。同様に、ベルギー労働者党の若者は毎年「カール・マルクス学校」を計画し、200人から300人もの人が参加している。2017年版の時間割によると、授業には以下のように見出しがつけられていた。「マルクス主義とフェミニズム」「初心者のためのマルクス主義」「労働者階級の歴史」「ヨーロッパにおける仕事の未来」「パレスチナ、最後の植民地?」「初心者のためのCETA[EUカナダ包括的経済貿易協定]」……。

 急進左派において知識の重要性を高めるため、ベルギー労働党の若手党員研究者や党に近い研究者たちは、2017年ついに『ラヴァ』を刊行した。この「社会批判とマルクス主義の分析のための雑誌」は、同様のテーマを扱う英国の著名な雑誌『マンスリー・レビュー』や『ニュー・レフト・レビュー』から着想を得た。特にアメリカの新しい姉妹誌『ジャコビン』からは、入念にデザインを真似したり、ヴィヴェック・チバーやウォルター・ベン・マイケルス(7)などの大学教員を著者として採用するほどである。「エスタブリッシュメント[支配階級]側は、現実の世界が唯一考え得る世界だとする文化闘争を常に仕掛けてくる」と、『ラヴァ』の創設者の一人であるダニエル・ザモラは語る。「思想闘争は抽象的な闘争ではない。もし左派がこの抑圧的な思想的枠組みを壊したいと思うのなら、支配階級に反抗して活動しなければならない。(中略) 思想闘争は、もうひとつの別の世界を求める闘争でもあるのだ(8)」。

 2017年3月29日、ラジオ&テレビ・ベルギー・フランス語放送の記者ベルトラン・エンヌが、エノー州支部リーダーのムゲマンガンゴ氏に次のように尋ねた。「経済的バブルがありますよね。あなたがベルギー労働者党と他の左派の政党と一緒に告発しているものです……。しかし今や、ベルギー労働者党は政治的バブル[実体よりも大幅にかけ離れて人気を手にした状態]になっていませんか?」。世論調査で多くの得票数が見込めていても、選挙で勝てるとは限らない。しかし、ベルギー労働者党の躍進は、今やすでにベルギーの政界では明白な事実だ。2015年、社会党の議員アルメド・ラウエジュは、高額財産に課税する法律を提案した。2016年の党大会では、社会党は、減給なしの週労4日制と労使共同意思決定方式を政策綱領に組み込んだ。ベルギー労働者党も社会党と同じようなこれらの政策を主張しているが、これまでの26年間(1988-2014)の連邦政権では、一度も実行されようとはしなかった……。



  • (1) Pascal Delwit et Giulia Sandri, «La gauche de la gauche», dans Pascal Delwit, Jean-Benoit Pilet et Emilie Van Haute, Les Partis politiques en Belgique, Éditions de l’Université libre de Bruxelles, 2011年
  • (2) «Le socialisme 2.0, aux dimensions de l’homme et de la nature, dans Peter Mertens, Comment osent-ils ?, Adenを参照
    Bruxelles,2012年
  • (3) Bernard Demonty, « La FGTB n’invitera pas le PTB », Le Soir, Bruxelles,2017年6月7日
  • (4) Entretien avec M. Raoul Hedebouw, La Libre Belgique, Bruxelles,2016年12月23日
  • (5) Par exemple le dossier «La nécessaire bataille des idées», Études marxistes, n° 111, Bruxelles,2016年10月―12月を参照
  • (6) ベルギーのフランス語で«bloque»は試験勉強期間のことを示す。
  • (7) Walter Benn Michaels, « Liberté, fraternité... diversité ? », et Vivek Chibber, « L’universalisme, une arme pour la gauche », ル・モンド・ディプロマティーク2009年2月号、2014年5月号をそれぞれ参照
  • (8) Gaston Van Dyck, « Lava, un nouvel outil dans la bataille des idées », Solidaire,2017年6月9日

  • 訳注1]ベルギーにはフランス語圏、オランダ語圏、ドイツ語圏で分けられる言語的境界線(Communauté)と、ワロン地方、フランドル地方、ブリュッセル地方で分けられる地理的境界線(Région)がある。フランドル地方はオランダ語圏で、ワロン地方は主としてフランス語圏だが一部にドイツ語圏がある。ブリュッセル地方はフランス語とオランダ語の両方が公用語。

  • 訳注2]言語的境界線で区切られた地域(フランス語圏、オランダ語圏、ドイツ語圏)が協同で運営している公共企業。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2017年11月号より)