共和党員、民主党員、メディア、情報機関による攻勢

反ロシア勢力に包囲されたドナルド・トランプ


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長


訳:村松恭平



 昨年の米国大統領選挙の際のドナルド・トランプ氏の言動を思い起こしてみれば、これほど積極的な軍事政策を米国が採ることになるとは予想し難かっただろう。多くの有権者も米国の帝国主義的・介入主義的姿勢を懸念し、方針転換を望んでいた。だが、現在の北朝鮮問題をはじめとして、挑発のエスカレートによって紛争の火種が生まれている。そして、この国のロシアとの関係は特に注視される。トランプ氏がプーチン氏への接近を試みれば、共和党員、民主党員、米国メディア、情報機関が一斉に動き出し、それを阻止する強力な勢力が形成されるのだ。[日本語版編集部]



 ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれてからたった数カ月の間に、米国は気候に関する国際協定[パリ協定]から離脱し、新たな経済制裁をロシアに課し、キューバとの外交関係正常化の動きを反転させ、イランとの核合意を破棄すると通告し、パキスタンへの警戒を呼びかけ、ベネズエラへ軍事介入すると脅し、そして、「世界が見たこともないような炎と怒りによって」北朝鮮を攻撃する準備が整っていると表明した。米国大統領が2017年1月20日に交替して以来、この国の政府が外交関係を改善したのはフィリピン、サウジアラビア、イスラエルとだけだ。

 こうしたエスカレートが生じた責任はトランプ氏のみに帰されるわけではない。2017年の春に彼がアジアでの軍事演習を指示し、シリアの空軍基地に向けて59発のミサイルを撃った際には、共和党のネオコン[新保守主義]派の議員、民主党員、そしてメディアもまた拍手喝采したからだ(1)。その反面、ロシア政府への接近の可能性を模索した時にはトランプ氏の行動は阻まれ、さらに、この国に対する新たな制裁を彼は次々と公表しなければならなかった。結局、米国の外交政策の平衡点は、共和党員が持つ本能的恐怖と、民主党員が抱える嫌悪感が日々積み重なる中で定まっている。共和党員はイラン、キューバ、ベネズエラに対して本能的恐怖を抱いており、民主党員もしばしばそれを共有している。一方で、民主党員の嫌悪感はロシア、シリアに向けられるが、ほとんどの共和党員も同じような感情を抱いている。たとえワシントンに平和の党が存在しているとしても、今はそれを見つけることができない。

 だが、昨年の大統領選挙の際の論争においては、米国の帝国主義的志向を断ち切りたいというこの国の有権者の思いが示されていた(2)。当初、トランプ氏は外交政策をテーマとした選挙キャンペーンを展開していなかった。しかし、彼がそのことについて話した時には、それは彼の行動方針がワシントンのエスタブリッシュメント[既存体制](軍人、専門家、シンクタンク、専門誌)の方針とも彼が今日採っている方針とも大きく異なることを示唆するものだった。

 トランプ氏は地政学的な戦略よりも米国の経済的利益を優先すると約束し、産業の衰退した州に多くみられる経済的ナショナリズム(「アメリカ・ファースト」)の支持者に訴えた。また同時に、過去15年間途切れることなく続いた戦争 —— その結果(アフガニスタン、イラク、リビアの)情勢は悪化し、混乱状態が広がった—— によって、ある種の現実主義のメリットを認めるようになった人々にもトランプ氏は訴えた。米国の「傲慢さ」が「次々と厄災」を引き起こし、「何千もの米国人の命と、何兆ドルもの金を費やした」と確信するトランプ氏は、「もし我々が15年前から中東の面倒をみていなかったならば、[米国経済は今頃]もっと好調だろう」と2016年4月に演説を締め括った(3)

 共和党の候補者による予想外のこうした分析は、民主党の中でも最も進歩主義的なグループが抱いていた感覚と一致していた —— ロナルド・レーガン氏と彼の後継者だったジョージ・H・ブッシュ氏の最も注目された演説の内容を執筆したペギー・ヌーナン氏は、大統領選挙の際にそう強調した。「外交政策に関しては(トランプ氏は)ヒラリー・クリントンより左に自らを位置づけました。彼女は好戦的で、軍事力を行使したいという思いが非常に強くあり、分別に欠けています。大統領選挙で共和党の候補者が民主党のライバル候補よりも左に位置付けられるのは現代史において初めてのことでしょう。そして、そのことが事態を面白くするでしょう(4)

 面白い状況はまだ続いてはいるものの、ヌーナン氏が予想していたほどではない。平和は他国への威嚇からではなく、他国との対等な関係から生じると考える「左派」に対し、世界的な世論にまったく関心のないトランプ氏は、彼の支持者と自分自身にとって最高の「ディール」[取引]を求め、まるで悪質な周旋屋のように行動している。したがって、彼にとって軍事同盟の問題は、その同盟によって紛争を抑止する以上にそれを拡大させる危険性があるということよりも、米国人にとって費用が高くつくこと、そして、その費用を支払うことによって米国が「第三世界の国」になってしまうことなのだ。2016年4月2日、ある集会でトランプ氏は「NATO[北大西洋条約機構]は時代遅れだ」と強く主張した。「我々は日本を守り、ドイツを守っているが、彼らは我々にコストの一部しか支払ってはいない。サウジアラビアは、もし我々がそこから立ち去れば崩壊するだろう。テーブルから離れる姿勢を示さなければ、“グッド・ディール”は得られまい」

 トランプは「グッド・ディール」をロシア政府とも結ぶことを望んでいた。[米露の]新たな協力関係はイスラム国に対する同盟形成を促し、ロシアの安全保障にとってのウクライナの重要性を認識させ、この二つの大国の間で悪化していた関係を改善しただろう。現在では、クレムリンに関するあらゆることに対して米国が抱えるパラノイア[妄想症]によって、クリミア併合と、ロシアによるシリアへの直接介入後の2016年にウラジーミル・プーチン氏がもたらした危険性をバラク・オバマ氏もまた過小評価していたことが忘れ去られてしまっている。オバマ氏によれば、ロシアによるウクライナと中東への介入は、「彼らのもとから逃れる寸前だった従属国」を前にしたその場しのぎの策、抑えられなかった強硬姿勢でしかなかった(5)

 オバマ氏はこう付け加えていた —— 「ロシア人たちは我々を大して変えることもできないし、弱めることもできない。ロシアは小国であり、弱い国であり、そして、石油、天然ガス、武器以外では他国が買いたいと思うものを彼らの経済は何も生み出せない」。当時彼がプーチン氏についてとりわけ恐れていたことは…… プーチン氏がトランプ氏とその信奉者たちに抱かせる共感だった。「共和党支持の有権者の37%は、KGB[ソ連国家保安委員会]の元トップだったウラジーミル・プーチンに賛同している。ロナルド・レーガンは安眠できないに違いない!(6)

 2017年1月以降は、レーガンの永眠はその安らかさを再び取り戻した。「[米国で新しい]大統領が登場したり去ったりするが、その政治は変わらない」とプーチン氏は彼の演説を締め括った(7)。歴史学者たちはいつか、米国の情報機関、民主党のクリントン陣営の幹部たち、大半の共和党議員、トランプ氏に敵対するメディアの努力が一点に集中したこの数週間について研究するだろう。彼ら共通の計画とは何か? それは、ロシア政府と米国政府の間のあらゆる合意形成を妨げることだ。

 それぞれが抱えた動機は様々に異なっていた。情報機関とペンタゴン[米国国防総省]の一部のメンバーが恐れたのは、イスラム国の軍事力がいったん破壊されれば、トランプ氏とプーチン氏の接近によって恰好の敵が自分たちから奪われることだった。クリントン陣営は予期していなかった彼らの敗北を、選ばれた候補者と彼女の下手な選挙キャンペーン以外の理由のせいにしようと急いでいた。すなわち、民主党のデータをロシア政府がハッキングしていたという理由が彼らの目的にかなっていた。「イラク戦争を後押しし、プーチンのことを嫌い、イスラエルの安全は譲れなかった(8)」ネオコンたちは、トランプ氏の「新不干渉主義」的な試みを前に、顔が引きつっていた。

 そして最後にメディア、特にニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙は、新たなウォーターゲート事件を望んでいた。両紙は自分たちの読者 —— 裕福で、都市部に住み、教養のある読者 —— がトランプ氏のことを大いに嫌い、彼の下品さや極右的な志向、荒々しさ、無教養を軽蔑していることを知っていた(9)。したがって、彼が大統領職から自ら退くか、あるいはやむなく辞職せざるをえなくなるような情報や噂ならどんなものでも探そうと言わんばかりだった。アガサ・クリスティの小説『オリエント急行の殺人』で描かれたように、結局のところ各人の理由はそれぞれでも、手を下す標的は同一だった。

 [共和党員、民主党員、メディア、情報機関を分ける]境界がすかすかだっただけに、トランプ氏を狙ったその4者による共謀関係はなおさら容易に結ばれた。上院の軍事力委員会委員長のジョン・マケイン氏によって体現される共和党のタカ派と軍産複合体の間の協調は自明のことだった。昨今の米国の帝国主義的試み、とりわけイラクへの侵攻を計画した者たちは、2016年の選挙キャンペーンと、彼らに向けられたトランプ氏の揶揄によって苦い思いをした。約50人の知識人と政府高官たちは、共和党員ではあったものの、「国家の安全を危険に晒す」自分たちの党のこの候補者を支持しないと発表した。そのうちの何人かは意を決し、クリントン氏に票を投じた(10)

 メディアもまた、米国が支配する国際秩序をトランプ氏の無能さが脅かすことを恐れていた。メディアは軍事作戦がとりわけ「人道主義・国際主義、進歩主義」というもったいぶった大義によって色付けされている場合にはまったく反感を示さなかった。こうした基準にしたがえば、プーチン氏も右派ナショナリストに対する彼の贔屓(ひいき)も明らかに問題があったが、サウジアラビアとイスラエルも同様だった。そうだとしても、ロシアを容赦なく批判するウォールストリート・ジャーナルは、サウジアラビア政府にとって当てになる新聞だった。イスラエルについては、極右の政治家が政府の一員となっていたにもかかわらず、米国のほとんどのメディアがこの国の政治を支持していた。

 トランプ氏が大統領の座に就くよりも一週間と少し前に、ジャーナリストであり弁護士でもあるグレン・グリーンウォルド氏 —— 国家安全保障局(NSA)による大量監視プログラムに関するエドワード・スノーデン氏の暴露を本にしたのは彼の功績である —— が一連の出来事に関して警告を鳴らしていた。彼は、米国のメディアが情報機関の「最も価値のある道具」となったこと、「メディアの大部分が情報機関を崇め、助け、信じ、支えている」ことを指摘していた。同時に、「想定外だった上、トラウマも残した選挙の敗北にまだショックを受けている」民主党員たちは、グリーンウォルド氏には「理性を失い、どんな評価にも甘んじ、どんな策略も受け入れ、どんな極悪人とも手を結ぶ」ように見えた(11)

 反ロシア同盟はまだそのすべての目的に達してはいなかったが、すでにグリーンウォルドは「ディープ・ステート」[訳注1]の野心を予見していた —— 「一方は、選挙で選ばれてはいないがワシントンに居住し、歴代の大統領の行動を見てきた非常に強力な集団。他方は、米国の民主主義が大統領に選んだ人物。彼らの間の公然たる争いを今、私たちは目撃している」。情報機関によって助長されたある推測が、この新大統領のすべての敵を熱狂させていた。その推測とは、ロシア政府がトランプを巡るいくつもの危険な秘密 —— カネ、選挙、性に関する秘密 —— を握っており、その2カ国の間で危機が生じた場合にはトランプを身動きできなくさせるだろう、というものだ(12)

 クリントン派の経済学者ポール・クルーグマンが「トランプ=プーチン同盟」と要約するこうした次元の秘密合意疑惑によって、反ロシア的な戦闘的態度は、超保守主義陣営を除けばますます嫌われている大統領に対する国内の「政治的兵器」へとその形を変えた。FBIとCIAがこの米国大統領にひそかに敵対する反対派の住処としての役割を担うようになって以降、またそれらがひたすら秘密を漏洩することでトランプと戦うようになって以降、左派の活動家がこれら2つのエージェントの擁護者になるという話を耳にするのはもはや珍しいことではない。

 米国の情報機関によってロシアが犯人とされた民主党のデータのハッキングが、なぜこの政党とメディアを魅惑しているのかは理解されよう。そこには二重の企みがある ——[それによって]トランプ氏の大統領選出の正当性を否認することができ、且つ、ロシア政府とのいかなる緊張緩和の促進も彼はできなくなるのだ。しかし、他国の国内事情に外国の権力が介入することについて米国政府が強く非難する時、誰がそのおかしさに今でも気づくだろうか?

 そして、アンゲラ・メルケル氏の電話での会話がクレムリンではなく、オバマ氏がいたホワイトハウスによって盗聴されていたということを一体誰が指摘するだろうか? 元米国国家情報長官ジェームズ・クラッパーに質問したノースカロライナ州の共和党議員トム・ティリス氏が今年の1月、この沈黙を破った。米国は「第二次世界大戦以降、81回もの[他国の]選挙に介入してきた。状況を米国にとって有利なものに変えようとしたクーデターや“体制変革”はその回数には入っていない。ロシアの側がそれを行ったのは36回だ」と彼は指摘したのだ。ロシアの悪巧みに対するニューヨーク・タイムズ紙の非難が、こうした検証によって和らぐことはほとんど期待できない。

 ニューヨーク・タイムズ紙は若い読者たちに対し、ロシア大統領だったボリス・エリツィン氏 —— 彼が1999年に後継者としてプーチン氏を選んだ —— がその3年前に、重い病気を患いアルコール中毒だったにもかかわらず、米国の議員たちが手を貸し、米国大統領による支持の表明を受けて行われた不正選挙の末に再選されたことも指摘し忘れている。同紙は「ロシアの民主主義にとっての勝利」(1996年7月4日)と題した論説の中でこの結果を評価していた。当時、この新聞は「民主主義と改革の力は決定的な勝利を得たが、これは最終的な勝利ではない」「歴史上初めて、自由なロシアが彼らのリーダーを自由に選んだのだ」と考えていた。

 今では、このニューヨークの日刊紙はロシアとの紛争に向けた心理的準備の最前線に立っている。こうした動きはほとんど何の抵抗にも遭っていない。右派の側では、8月3日にウォールストリート・ジャーナルが米国はウクライナを武装させよと主張した一方で、副大統領のマイク・ペンス氏はエストニアでロシアの「侵略の脅威」に言及し、次にジョージアに対しNATOに加わるよう仕向け、最後に、この軍事同盟に加わったばかりのモンテネグロを称賛した。

 ニューヨーク・タイムズ紙はこの2つの大国の間の緊張感の高まり([米国による]ロシア政府に対する経済制裁、ロシアによる米外交官の国外追放)を同時にもたらした、こうした非常に多くの挑発的振る舞いについて懸念するどころか「放火狂」を演じた。8月2日、同紙は「民主主義国を脅かす国々から、彼らを守るという約束を米国が再確認」したと称賛し、ペンス氏の思いが「ホワイトハウスで彼が尽くしている男から信頼もされていなければ、評価もされていない」と残念がった。しかし本当のことを言えば、この段階ではトランプ氏が考えていることなどどうでもよかった。この米国大統領は、この件について自分の意向を表明することはもはやできなかったのだ。こうした彼の無力さを確認したロシア政府は、そこから結論を引き出した。

 9月には、ベルリンの壁崩壊以降かつてない規模のロシアの軍事演習によって、ウクライナとバルト諸国の近くに約10万人の陸軍・海軍・空軍の兵士が動員されるだろう。この軍事演習はニューヨーク・タイムズ紙に、いわゆるイラクの「大量破壊兵器」なるものに反対して2002年から2003年にかけてこの新聞がかき立てた激情を煽るキャンペーンを思い起こさせる「一面」記事を提供している。ニューヨーク・タイムズ紙は「我々が毎朝目覚める度に誰が脅威なのかが分かる」と塞ぎ込んだ様子で話す米国の陸軍大佐の言葉を引用し、「情報の歪曲キャンペーン」の傾向を伴っているだけにいっそう恐ろしいというロシアの大量兵器リストを掲載し、ドイツとブルガリアの間で「停車し、子供たちを乗せることを許した」NATOの戦車にも言及していた。

 しかし、こうした(エンベッド従軍)ジャーナリズム・モデル[2003年のイラク戦争で米政府が導入した、前線米軍部隊に記者を埋め込み(embed)行動をともにさせるメディア戦略]の中で最もおかしかったのは間違いなく、ロシアによる自国の地域とベラルーシでの訓練の位置を示すために、ニューヨーク・タイムズ紙が「NATOの周縁部で(13)」という表現を使った時だった……。

 今後、フランス政府やドイツ政府がロシア政府との融和を試みれば、それらはすべてワシントンでの支配力を取り戻したネオコンのエスタブリッシュメントから「弱腰」だとみなされ、そして、米国のほとんどのメディアからは徹底的に攻撃されるだろう。[マクロン]仏大統領の人気が大きく下落したことに関してニューヨーク・タイムズ紙は、その強迫観念を完全に映し出すような説明を見つけ出した ——「フランスで、とりわけ左派の人々からはどちらもあまり好かれていないドナルド・J・トランプとウラジーミル・V・プーチンの贅沢な接待は、マクロン氏[の支持率アップには]役立たなかった(14)」。米国メディアの論調はここまできている。

 欧州の国々は、こうした好戦的態度のエスカレートを食い止めることができるのだろうか? 彼らにはそのような意欲があるのだろうか? 朝鮮半島の危機によって、米国政府は結局彼らの国から遠く離れた場所の問題には関心がないということを思い起こさせた。トランプ氏が言う「極東における核の脅威」に信憑性を与えようと気を配る共和党のリンゼー・グラム上院議員は8月1日、「たとえ数千人の人々が死ぬとしても、彼らが死ぬのは向こうであって、ここではない」と漏らした。彼は、米国大統領もこの気持ちを共有していると付け足した ——「彼が私に向かってそう言ったのだ」





(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2017年9月号より)