欧州連合とアフリカ連合による有害な意見の一致

自由貿易主義者に苦しめられるアフリカ農業


ジャック・ベルトロ(Jacques Berthelot)

エコノミスト、Réguler les prix agricoles(2013)『農産物価格を規制せよ』(未邦訳), L’Harmattan, Parisの著者


訳:山中達也



 国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界の飢餓人口は10年前から減少し続けてきたものの、2016年に増加に転じたようだ。その原因は部分的には気候変動と武力紛争によって説明されうるが、自由貿易協定(FTA)の影響も受けている。欧州連合(EU)の支援を受けているアフリカ諸国は、現地の農業と農村経済を破壊する自由貿易をますます推進しようとしている。[日本語版編集部]



 自由貿易の風が黒い大陸にいっそう激しく吹きつけている。欧州連合(EU)は、経済連携協定(EPA)(1)の締結を達成し、片務的な特恵関係を終わらせるために、アフリカ各国政府に対する圧力を強めている。現在アフリカ諸国は、欧州向け輸出に対する関税[欧州における輸入関税]が免除されているが、それを維持するためにEUからの輸入品に対してそのうちの80パーセントの関税を撤廃しなければならなくなるだろう。一方でアフリカ連合(AU)は、アフリカ大陸自由貿易圏(ZLEC)[英語ではCFTA]を創設するための交渉を始めている。2017年6月16日、ニアメ(ニジェール)に集まったアフリカ各国の通商大臣らは、いずれは大陸内において関税の90%を廃止することをすでに決定している。

 自由貿易主義者たちのこうした高揚は、とりわけ農業分野において人々の不安をかき立てている。食料不足の拡大、人口爆発(2)、気候変動という3つの課題に直面している西アフリカの事例をあげてみよう。西アフリカにおける食料貿易の赤字は、2000年から2004年には平均1億4400万ユーロだったが、これが2013年から2016年には21億ユーロまで増加した(基礎的食料品ではないカカオ豆を統計に入れなければ、赤字は同期間に25億ユーロから75億ユーロまで激増する)[訳注1]。またアフリカでは、2050年までに人口が倍増すると予測されており、食料貿易の赤字はさらに拡大すると見込まれている。と同時に国連によれば、2℃の温暖化がサハラ以南のアフリカの農業生産を10%減少させる可能性があるという。EUが要求するEPAは、締結後5年目の時点で基礎的食料品(米を除く穀物類)と粉ミルクの関税を撤廃しなければならない。これは輸入食料への依存をよりいっそう高めるだけでなく、アフリカの酪農家をはじめ、現地の穀物類(トウジンビエ、ソルガム、トウモロコシ)や他のデンプン作物(キャッサバ、ヤムイモ、プランテン)の生産者に大きな打撃を与えるだろう。

 欧州委員会は、このEPAを「Win‐Win」の協定として提示しているが、それではアフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国の大多数が協定書に仮調印した後、すなわちEPAを締結する意思を示した後に、なぜ正式に署名することを拒否したのだろうか? これは、2016年に西アフリカの国内総生産(GDP)の72%、人口の52%を占めたナイジェリアの例である。ムハンマド・ブハリ大統領は、2016年2月3日、欧州議会において同EPAがナイジェリアの工業化計画を破綻させると断言した。東アフリカでは、タンザニアとウガンダの指導者らも同様の懸念を表明している。EPAがそれほど有益ならば、なぜEUは、西アフリカにおいて三度行われた影響調査(2008年4月、2012年4月、2016年1月)の公表を拒否したのだろうか?

 欧州委員会は、EPAが西アフリカの穀物輸出を10.2%増加させ、牛肉の輸出も8.4%増加させるとの報告書を2016年に発表した。しかし、これは西アフリカ現地の農業を完全に無視したものだった(3)。2013年の穀物総輸入量1610万トンのうち280万トンをEU共通市場から調達した(2016年は340万トンに及ぶ)ように、穀物は西アフリカにとって主要な輸入農産物である。一方で西アフリカは、2016年に8万4895トンの牛肉を輸出したが、EUはそのうちの22トンしか輸入しなかったのだ。

 実際、欧州からの輸入によって得られる関税および付加価値税(VAT)の年間損失額は、EPAが開始されると、初年度の6600万ユーロから最終年度の2035年には46億ユーロにまで上るとされ、累積の損失額は322億ユーロに達するとみられている(4)。しかし、これらの損失は、2015年から2020年までに見込まれている欧州からの援助では全く補填されることはない。EPA開発プログラム(Paped)は65億ユーロに過ぎず、欧州委員会の開発協力局も述べているように、そもそもこれは当該諸国に通常付与されている援助を再調整したものだからだ。また2017年には、フランスがすでに開発協力予算を1億4000万ユーロ削減し、欧州開発基金(EDF)の14.5%を拠出してきた英国がEUを離脱するため今後の見通しはいっそう暗澹としている。

時期尚早の市場開放

 欧州では巨大な利権が絡んでおり、EPAを締結するために国内およびEUの政治家に凄まじい圧力がかかっている。フランス企業は、これらの市場に関心をもつ農業関連企業の中でもとりわけ大きな存在感を示している。たとえばロバート・ファーブルが経営するフルーツ会社は、コートジボワール、ガーナ、カメルーンにおいて、バナナとパイナップルの大部分を生産し、輸出している。レ・グラン・ムーラン・ダビジャンをはじめ、レ・グラン・ムーラン・ドゥ・ダカールやセネガル製糖会社は、ミムラングループが所有していたが、同グループは、これらの企業を先ごろモロッコのグループに売却した。ボロレグループはギニア湾の港湾インフラを管理し、欧州向けの製品輸出を行っている。

 EUによる自由主義の信条告白も、西アフリカ向け輸出に補助金を供与することの足かせにはなっていない。2016年、EUは穀物340万トンに対して2億1500万ユーロ、乳製品250万トン(牛乳換算)に対して1億6900万ユーロの補助金を付与した。同年、南部アフリカへの輸出補助金は、穀物に6000万ユーロ、鳥肉と卵に4100万ユーロ、乳製品に対し2300万ユーロに達した。最後に、中部アフリカ向け乳製品には1800万ユーロの補助金が注入された。他方で、EUが穀物加工品をはじめ乳製品や牛肉を輸入する際にEU域外の国々に適用する関税率および枠外税率は、サハラ以南のアフリカ諸国がそれらの産品に適用する税率よりもはるかに高い。

 こうした状況の中、アフリカ連合は、国連貿易開発会議(UNCTAD)および国連アフリカ経済委員会と国際金融機関の支援を受けて、2017年末までにZLECを軌道に乗せ、2019年を目途にアフリカ大陸関税同盟を創設することを決議した。ZLECでアフリカ55ヵ国間の関税を撤廃し、続く関税同盟では、域外の国々への対外共通関税を設ける予定だ。環大西洋自由貿易圏(GMT、英語ではTAFTA)やEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)などのメガFTA(構想)に魅せられたアフリカ連合は、それらよりも上手くやってのけると主張する。アフリカ連合の通産担当委員を務めていたファティマ・ハラム・エイシルは、「メガ地域貿易協定の出現は、アフリカ諸国による主要な市場へのアクセスを脅かしつづけている」と表明していた。また、「こうした傾向はさらに加速しつづけるだろう。たとえわれわれが世界貿易機関(WTO)やその他の場所で起こっていることをコントロールできないとしても、アフリカ大陸自由貿易圏構想は、完全にわれわれの手中にある(5)」とも述べていた。

 黒い大陸が国際競争に対して突如として市場を開放することが可能で、そこからさまざまな経済的利益が得られるという考えは幻想である。歴史的に見ても、農業と幼稚産業を輸入から保護せずに他国との競争に対峙するのに十分なほどの経済発展を遂げた国はなかった。さらに、すでに発展を遂げた国々は、たとえば欧州共通農業政策[CAP]の一環として巨額の補助金を受け取ってきたし、今後もその恩恵に与るのだ。2014年9月に開かれたWTOの公開フォーラムにおいて、西アフリカ農民・農業生産者組織ネットワーク名誉会長のママドゥ・シソコは、「われわれは今日アフリカが、市場を先に開放することによって経済が発展することを示す最初の例になることは望めない」と発言した。

 こうしたなか2016年3月9日、ガーナのアクラで開催された西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の会合において、同国のエクウォ・スピオ=ガァブラ通商産業大臣は警告を発した。「ZLECの成否は、民間部門のニーズをいかに満たすかにかかっている。アフリカ諸国が貿易取引のために採択する規則は、民間部門がそれをうまく利用できるようになることを目的として全般的に予定されている。したがって、ZLECに対する民間部門の関与と世論の喚起は、不可欠である(6)」。とはいえ同大臣が言う「民間部門」は、何億人ものアフリカ小規模農家——輸入に対する有効な保護を行い利益の出る農産物価格を保証することによってはるかに多く生産する——のことは指していない。アフリカに拠点を置く数十の多国籍企業とアフリカ諸国間の関税撤廃に向けて圧力をかけるアフリカの民間企業のことを言っているのだ。「たしかに国際貿易において有利な条件を引き出すことは、アフリカ諸国の大多数にとって未だ挑戦である」とガァブラ大臣は認める。「というのも原産地規則のような政策措置をはじめ、インフラの不足、そして貿易政策の手段に見せかけた各規格や技術的障壁は、われわれが市場にアクセスする機会の活用を妨げ続け、多角的貿易体制へ効果的に統合されることを妨害しているからだ」。しかし、彼はEPAがアフリカ諸国の国内市場の保護に大きな亀裂を生むことを知らないようだ。

 UNCTADは、とりわけ農業分野においてZLECの利点しか見ていない。同機関によれば、「アフリカ諸国は、特に小麦、穀物類、粗糖(サトウキビ、甜菜)などの農産物食品や加工食品(肉、白糖、その他の食品)の輸出においてZLECから最も多くの利益を享受するだろう」とのことである。また、「ZLECによってアフリカの農産物および食品輸出は、開始当初と比べて、2022年には7.2%(38億ドル)増加するだろう(7)」としている。しかし現実にはアフリカの対外依存は深刻化している。アフリカ全体における小麦の年間輸入量は、2001年から2003年には2660万トン(37億ユーロ)だったが、2014年から2016年の間には、4860万トン(92億ユーロ)まで増加した。同時期に輸出量は、30万トン(3160万ユーロ)から20万トン(7410万ユーロ)に減少した。これらは、主に南アフリカ共和国に起こった変化から見て取れる。最初の期間[2001‐2003]において、南アは小麦の総輸出のうち71%をアフリカ諸国に輸出していたが、第2期[2014-2016]にはその割合が85%にまで上昇していた。それにもかかわらず南アにおける小麦の貿易赤字は5.5倍に膨れ上がったのである。

 UNCTADは、アフリカ域内の農産物貿易における関税撤廃によって期待される利益を声高に主張しているが、それは農産物市場の歴史に関する完全なる無知を晒しているだけだ。ファラオの時代以来、農産物市場は、すべての国において常に特別な保護措置の対象となってきた。なぜなら農産物市場は、工業製品やサービス業とは対照的に自らを制御することができないからである。短期的には安定した食料需要に直面していても、農産物の生産とその価格は、とりわけ気候変動の影響を受ける。また投機や為替レートの変動から影響を受けるドル建ての国際市場価格にも左右されるのだ。農業従事者は、サハラ以南のアフリカにおける全労働力の約60%を占めていることから、農産物貿易の自由化によってもたらされる甚大な社会的影響については想像に難くない。

 アフリカ連合は、自らの自由貿易圏構想の前に立ちはだかる様々な障害について考慮しているだろうか? 2016年にはすでに12億人の住民(2050年には25億人)を抱え、政治体制や関税制度が大いに異なり、交通インフラも非常に脆弱で、さらには一人当たりの国民所得も260ドル(ブルンジ)から6510ドル(ボツワナ)まで大きな隔たりがある広大な大陸に共通の貿易ルールをどうやって築いていくのか? 「ZLECは、アフリカ製品がほとんど取引されることのない巨大なアフリカ市場を創出するだけだ」と、第3世界ネットワーク・アフリカは予測する。「ZLECは、単にヨーロッパや世界の他の地域から輸入される生産物の流通を容易にするだけだろう……(8)

 EUが達成した統合はアフリカ連合に着想を与えているようだ。そこでEUが追求する政策を批判的に見ることによって教訓を得られるだろう。アフリカ連合は、全貿易のうちアフリカ域内貿易が占める割合は約10%であることを強調する。一方で、ヨーロッパの域内貿易は全貿易の約3分の2を占めている。しかし、それは奇跡的に起こったわけではない。EUの予算は、常にGDPの約1%と非常に限られているにもかかわらず、構造基金と結束基金にEU予算の3分の1以上が費やされてきた。こうした資金の移転は、EU内において経済発展の遅れた諸国を成長させ、加盟国間の格差を是正することを促進した。このようなものは、黒い大陸では全く計画されていないのだ。

 したがって、サハラ以南のアフリカが引き出すべき教訓は明らかである。持続可能な経済統合は、(特に大陸の各地域内の)加盟国間における明確な再分配政策なしには不可能であり、これには多額の予算と最低限の政治的統合が前提となる。時期尚早な自由貿易の開始は、補償なしでは、家計、企業、そして最も貧しい地域を周縁に追いやるだけであろう。またそれは、乗越え難い構造的な社会・政治紛争を生み、アフリカの低開発を増長させるだろう。




(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2017年10月号より)