トマトケチャップが語る資本主義


ジャン=バティスト・マレ(Jean-Baptiste Malet )

ジャーナリスト
『トマトの帝国——トマト産業の世界的な調査——
L’Empire de l’or rouge. Enquête mondiale sur la tomate d’industrie』
(未邦訳)Fayard, Paris, 2017.著者


訳:三竿梓



 経済システムの力は、私たちの暮らしの隅々、とりわけ食事の中に入り込んでいる。どこにでもある濃縮トマトの缶詰には2世紀に及ぶ資本主義の歴史が凝縮されている。ジャン=バティスト・マレは彼の最新作において4大陸で長期間に渡る調査を行った。彼がこの作品で指摘しているのは、様々な角度から検討した「ジャンクフード」の地政学である。[フランス語版編集部]




 カリフォルニア州サクラメントバレーの中心部に位置する剥製の熊とコブラが飾られたレストラン。その店内で、ひとりの男がケチャップの瓶を前にハンバーガーにかぶりつく。モーニングスター社の経営者であるクリス・ルファー氏は、トマトの加工産業を世界的に掌握している人物だ。彼の会社の工場は世界最大規模で、たった3つの工場でこの地球上で消費される濃縮トマトの12 パーセントを生産している。

 「私はいわゆるアナーキストなんだ。だからもう、わが社にはトップはいないよ。うちは“自主管理”を取り入れたんだ」とハンバーガーを口いっぱいにほおばりながらルファー氏は説明する。“自主管理”とはいうものの、ここではコンピューターが管理者に取って代わり、従業員が会社の資本をコントロールすることはない。リバタリアン党を支持するルファー氏(1)が従業員に任せているのは、まだ人間に残された仕事を振り分ける作業だ。 カリフォルニア州ウィリアムズにあるモーニングスター社の工場では、毎時1350トンの新鮮なトマトを濃縮加工している。その洗浄・破砕・蒸発濃縮といった過程は完全にオートメーション化されている。

 モーニングスター社の工場は世界一の競争力を持っている。トマトでいっぱいのトレーラーを一度に2台牽引するトラックが続々と敷地内を横切っていく。8時間シフトの3交代制で稼働し、従業員は70人しかいない。管理者と従業員の大半はリストラされ、代わりに機械とコンピューターが導入された。 ここでの「第一次加工」の処理から様々な品質の濃縮トマトを詰め込んだ巨大な輸送用ケースが誕生する。

 これらの輸送用ケースはコンテナに積まれて世界中の海を行き来する。ナポリの巨大な缶詰工場ではそのケースと中国製濃縮トマトのドラム缶が並んでいるのを見ることができるだろう。そこでは、ヨーロッパの巨大な流通網で販売される小さな濃縮トマト缶の大部分が生産されている。いわゆる「第二次加工」を行うこうした工場は、スカンジナビアの国々、東ヨーロッパ、イギリス諸島、フランスのプロヴァンス地方にも存在し、原料として輸入した濃縮トマトをラタトゥイユ、冷凍ピザ、ラザニア等の工場加工食品に使っている。また、赤紫色で粘り気のあるこの製品はスムール(セモリナ粉)や米と混ぜられて一般的なレシピやマフェ[西アフリカのピーナッツソースを使った煮込み料理]、パエリア、チョルバ[北アフリカやトルコなどのトマトスープ]といった伝統料理にも入り込んでいる。濃縮トマトを使用した製品はこの資本主義の時代において最も手に入りやすい。私たちはそれをサンフランシスコにある流行りのレストランのテーブルの上でも、アフリカで最も貧しい村の陳列台の上でも目にすることができる。ガーナ北部のように、アフリカではトマトピューレがスプーン1杯数サンチームで販売されている。

 世界中の人々が大量生産された工業トマトを食べている。2016年には野菜であり果物でもあるこの農作物(トマトは植物学者にとっては果実、税関吏にとっては野菜とみなされる)の全生産量の約4分の1(3800万トン)が加工されるか缶詰にされた。「地球人」は2015年に一人当たり平均5.2キロのトマト加工品を口にしている(2)。「ジャンクフード」(3)にも地中海料理にも主要な原材料として使用されるトマトはそれぞれの地域の文化や食の違いを超えて、何にも縛られることなく世界に広がっている。歴史家のフェルナン・ブローデルが記すように、小麦・稲・トウモロコシそれぞれの文明は、今日、トマトというただ一つの文明に取って代わられたのだ。

 ハインツのボトルを押してフライドポテトにケチャップのソースを大量にかける時、多くの人が子供の頃から聞き慣れたあの特徴的な音がする。おそらく、ルファー氏はその音を聞いてもソースの成分や波乱に富んだ歴史を思い浮かべることはないだろう。あの真っ赤な色にもかかわらずトマトケチャップにトマトの味がしないのは濃縮物におけるトマトの含有量が30%から、メーカーによってはたったの6%しかなく、糖分が平均25%含まれているからだ。アメリカではコーンシロップ (たいていは遺伝子組み換え)が問題となっている。この「グルコースシロップ(異性化糖)」はショ糖やテンサイ糖より安いため、アメリカの工場加工食品にまんべんなく使われており、この国に広がる肥満の原因として問題視されている。キサンタンガム(E415)やグアーガム(E412)のような加工デンプン、粘ちゅう剤、ゲル化剤が入った極めて有害なケチャップは農産物加工業の「進歩」の時代が行き着いた極地である。

 ルファー氏の工場の技術の大半は世界中のトマト加工設備と同様にイタリアから輸入されている。イタリアのエミリア=ロマーニャ州で19世紀に誕生したトマト産業は世界規模の広がりを見せた。19世紀末には多くのイタリア人が外国へ移住したことでトマト加工品の調理方法が広まり、アルゼンチン、ブラジル、アメリカへのイタリア産缶詰の輸出が活発になった。[ムッソリーニ政権下にあった]ファシズムの時代、イタリアではこの缶詰が「文化革命」の象徴であった。この革命は都市文明化、機械化、そして戦争を賛美する未来派という芸術運動から影響を受けている。トマトの缶詰は、科学工学・工業生産・祖国の地で栽培されたものの保存——この3点が結合してできた「新しい人間」の食品だった。1940年にパルマで開催された第1回「保存用缶詰とパッケージの自給自足展覧会」は政府のお偉方を得意満面にさせるイベントであった。その展覧会のカタログの表紙には「自給自足」と刻まれた缶詰が掲載されている。ファシズムが目指した経済モデルの「緑の自給自足」はトマト産業を合理化し発展させた。食文化史を研究するアルベルト・カパッティ氏はこう述べている。「今日、ファーストフード産業において世界的にポピュラーな食品はピザとパスタ料理です。そのふたつの料理にはトマトが使われています。それはファシズム体制によって組織化され、発展し、促進され、融資を受けた産業の遺産の一部なのです」

 19世紀にアメリカで登場したキャンベルのトマトスープ缶とハインツの赤いボトルは世界中で年間6億5000万個が販売され、それは資本主義の象徴であるコカコーラにも匹敵する。あまり知られていないが、大量生産の歴史においてこのふたつの商品は自動車産業に先行していた。フォードが自動車を流れ作業で組み立てるより前に、ペンシルヴァニア州ピッツバーグにあるハインツの工場はトマトソースで煮たインゲン豆の缶詰をライン生産で製造している。ここでは缶詰の巻締めのような作業は既に自動化されていた。1904年の写真にはライン工場で働くハインツの制服を着た従業員とレールの上を流れるケチャップのボトルが写っている。1905年にハインツはケチャップの瓶を100万本売り上げ、1910年には4000万個の缶詰と2000万本の瓶を製造した。この会社は当時アメリカで最も大きい多国籍企業であった(4)

 1980年代に世界に広がった新自由主義の波と、微生物の繁殖を妨ぐ無菌包装の開発で可能になった食品の大陸間移動の増加によって、ハインツやユニリーバのような巨大企業は次第にトマトの加工事業を下請けに出し始めた。今や、ケチャップ、スープ、ピザを扱う多国籍企業は、直接「第一次加工業者」から濃縮トマトを安く大量に調達している。カリフォルニア、中国、イタリアにある一握りの巨大な工場で世界中で生産されるトマトの半分が加工される。「ハインツの巨大な工場が1棟あるオランダは、ヨーロッパにおけるトマトソースとケチャップの第一輸出国ですが、そこで工業トマトが生産されているわけではありません。オランダやドイツが輸出するソースには世界各地から輸入された濃縮トマトが入っていますが、それらはカリフォルニア、ヨーロッパ、中国の業者から供給されているのでしょう。 仕入れ先は時期、税率の変化、収穫量と在庫量に応じて変動します」とウルグアイ人の貿易業者であるホアン・ホセ・アメザガ氏は説明する。

 濃縮トマトを世界で最も多く製造しているカリフォルニア州には加工工場がたったの12棟しかないが、その全てが巨大である。北アメリカの国内市場で必要な濃縮トマトのほぼ全てがこの工場だけで生産され、時にそれはイタリア産やスペイン産よりも安い価格でヨーロッパへ輸出される。生鮮市場向けの「生食用トマト」と違い、多種多様な「工業トマト」は支柱を必要としない。なぜなら太陽の豊富なエネルギーが無料で与えられ、畑いっぱいに広がって伸び伸びと成長するからだ。これは一年中店に出回る温室栽培の生食用トマトとは対照的である。カリフォルニア州では時に収穫が春から始まり、フランスのプロヴァンス地方のように、秋に終わることがある。

 1960年代から遺伝学者によって「改良」されてきた農工業製品としてのトマトは、初めから加工を容易にするために考え出されてきた。科学は労働の組織化を促進し、加工の前段階であるトマト生産そのものにも入り込んでいる。たとえば、ある遺伝子の導入は手摘みの収穫作業をスピードアップし、機械による収穫を可能にした。グローバル化した産業によって生み出される工業トマトは、どれもただひと揺らしするだけで枝から実を外すことができる。今日、世界中の市場に出回っている工業トマトはその大半が「混合」種だが、遺伝子組換え食品としてヨーロッパで最初に商品化されたのはトマトピューレである(5)

 かじるとカリッと音がする厚い皮で覆われた工業トマトは、トラックの揺れにも機械による乱暴な取扱いにもびくともしない。トレーラーに大量に詰め込まれ、奥深くに沈んだとしても破裂することもない。トマトを種から育てる巨大な生産業者は、スーパーマーケットにある様々な種類の瑞々しいトマトとは対照的に、トマトにできる限り水分が含まれないように気を付けている。水分を多く含んでいると濃縮製品には適さないからだ。結局、トマトの加工産業は、一方ではカリフォルニア州のような水の乏しい地域で大規模に畑が灌漑され、他方では乾いたペースト状の製品を生産するために、トマトが工場に運び込まれて水分が蒸発させられているという不合理なサイクルで成り立っている。


  • (1) ルファー氏は100万ドルもの金額をゲーリー・ジョンソン氏の選挙キャンペーンに出資した。ジョンソン氏は2016年のアメリカ大統領選で440万票(得票率は3.29%)を獲得して3位につけたリバタリアン党の候補者である。
  • (2) Tomato News, Suresnes, 2016年12月
  • (3) Lire Aurel et Pierre Daum, « Et pour quelques tomates de plus », Le Monde diplomatique, 2010年5月
  • (4) Quentin R. Skrabec, H. J. Heinz : A Biography, McFarland & Company, Jefferson (Caroline du Nord), 2009年
  • (5) 1996年の2月から1999年7月まで、セインズベリーのスーパーマーケットの系列店がイギリスで遺伝子組換えのトマトペースト缶を低価格で販売した。また、精力的に広報活動を行い販売促進に努めた。このキャンペーンは「狂牛病危機」の間は中断された。

(ル・モンド・ディプロマティーク2017年6月号)