ヨーロッパの熱狂


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)


訳:土田 修



 「経験は高くつく学校だ。だが、愚か者は経験を通してしか学べない」。1790年に亡くなったベンジャミン・フランクリンは避雷針を発明したが、欧州連合(EU)の設立を予見できなかった。そのEUは、経験からまったく学ぼうとしていない。

 実際、欧州の人々は[EUと米国間の]自由貿易を拒否したが、欧州議会はまた新たな自由貿易協定を採択した —— 今回はカナダと。新協定の主要な措置は加盟各国の議会による批准手続きを待たずして適用されるだろう。かたくなでさえある愚か者は次の経験からは学んだかもしれない。2010年5月以来、ユーログループ[ユーロ圏各国財務相会合]と欧州中央銀行、国際通貨基金(IMF)によって処方された劇薬[緊縮財政を強いる「救済プログラム」]を飲まされて疲弊したギリシャは、新たな債務不履行の危機へと向かっている。痣だらけのギリシャの体に不潔な注射[当を得たとはいえない緊縮財政等の政策]が次から次へと打たれている。いずれ、ドイツの右派がユーロ圏の[規律や規則でがんじがらめで融通の効かない]営倉病院からギリシャ政府を追い出す決定をするだろう。最近の例はどうか? 複数のEU加盟国では、失業手当を削減し外国人向け医療費を停止するためのアイデアが競い合って提示され、福祉予算の削減に圧力がかかっている。同時に、全EU加盟国は「ロシアの脅威」に対応するため、軍事予算の増額に関して意見が一致しているようだ。ロシアの国防費は米国の10分の1以下でしかないのに……。

 ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長は、こうした優先事項を擁護できないと結局は認めたのだろうか? 友人であるフランソワ・オランドの賢明さを見習ったユンカーは、1期目での引退を表明した。彼は欧州委員長に就任する際、自ら引き受けた役割について「最後のチャンスとなるだろう」と公言していた。だが、現在は「EU加盟国の離脱プランを立てるために一日、数時間」を費やしている。「これは未来の仕事ではない」と彼が言った理由がよく分かる。

 2014年、EUの右派候補のユンカー氏は租税回避地とみなされたルクセンブルクを弁護したことで知られていたものの、EUの社会主義系議員から得られた多数の支持によって欧州委員長に就任した。「我々の違いが何なのか、私には分からない」とユンカーのライバルだった社会民主主義者のマルティン・シュルツは語った。それに対し、ユンカーは「シュルツ氏は私の考えにほぼ賛成だ」と語った。2月15日にカナダとの自由貿易協定が採択された背景には、この二人のイデオロギー的近親性がある。社会民主主義系のEU議員の多数が自由主義者たちと手を結んだのだ。

 ギリシャが争点となる時、この国の債務額に関する議論をドイツは拒否している —— これは賛同できない態度だ。だが、フランスの社会党政府はそのドイツの方針を支持している。ユーログループ議長であるオランダ労働党のイェルン・ダイセルブルーム氏もまた、尊大な態度でそれを熱狂的なほど支持している(1)

 選挙の時期になると、EUを「新しい方向に導くこと」がしばしば議論の的となる。そうした構想は称賛に値するが、経験からも同様に学ぶ必要がある。当てにしない方が良い候補者が誰なのかを経験は教えてくれる。ほとんどすべての市民が関わりを持たざるを得ない[欧州機構の]政策領域に対し、新たな幻滅が生まれるのを避けるために[経験から学ばなければならないのだ]。




(ル・モンド・ディプロマティーク2017年3月号)