ハフィントン・ポストの転向

ロドニー・ベンソン(Rodney Benson)

ニューヨーク大学社会学教授

訳:土田修


 2011年4月、ブロガーたちがニュースサイト、ハフィントン・ポストを提訴した。このサイトは、彼らが無償で寄稿していた記事のおかげで成長を遂げている。なのにAOLに売却されたことに対し、1億500万ドルの支払いを求めたものだ。米国左派の代表サイトが、創刊から6年で多国籍企業の手中に落ちるとは、いったい何が起こったのだろうか。[フランス語版編集部]

 2004年、アリアナ・ハフィントンがブッシュではなくケリーの支持を決めたことで、民主党は思いもよらぬ盟友を得た。ハフィントンはそれまでの10年間、共和党の熱心な活動家だったからだ。1994年に、大手エネルギー企業の2代目経営者で、レーガン大統領の協力者だった夫(後に離婚)が上院選で落選した後、ハフィントンは保守系の政治コラムニストとして活動を開始した。下院与党共和党の院内総務だったギングリッチに近いシンクタンクに加わり、立て続けに本を出版し、インターネットサイト(Resignation.com)を創設した。そのサイトの唯一の目的は、モニカ事件発覚後のクリントン大統領に辞任を求めることだった。

 その後、ハフィントンは左派に急転換する。「国家の役割についての認識が変わったため共和党を去ることにした」のだと言う(1)。そして2005年に、瀕死状態の民主党を助けるためオンライン新聞ハフィントン・ポストを創刊した。同紙は超保守派のドラッジ・リポートの対抗軸として名乗りを挙げ、まだ敗北のショックから覚めやらぬ左派の有力な足場として急速に伸長した。当初から物議を醸すサイトだったが、それは政治的な立場を明確に打ち出したせいだけではない。コンテンツが豊富で、伝統メディアのライバルになったせいでもある。不当競争であるとも言われた。その記事は、100人前後のジャーナリストも有償で寄稿していたが、ニュース「アグリゲーター」と呼ばれる人々が(大部分を)提供していた。セックススキャンダルやセレブの動向を主要分野として、他のメディアに出たニュースを利用する人々だ。さらに、9000人にも及ぶ有名人ブロガーが無償で参加してきた。ビル・クリントン、ドミニク・ストロス=カーン、マイケル・ムーア、ベルナール=アンリ・レヴィらに加え、アレック・ボールドウィン、シャーリーズ・セロンといったハリウッドの富豪が並ぶ。月間訪問者数が2007年の100万人から2011年初めの2500万人へと増えるにつれて、伝統メディアとの競合は露骨な激突に変わった。ハフィントン・ポストはトップ10に入る米国の有力ニュースサイトとなったのだ。

 初期のハフィントン・ポストはリベラルな論調を採り、大多数の米紙の中で異彩を放っていた。イラク戦争に反対し、戦争に同調した伝統メディア、とりわけニューヨーク・タイムズ紙のような伝統メディアに対抗する論陣を張った。また、市民団体「センター・フォー・インテグリティ(CPI)」と組んで調査報道ジャーナリスト50人の仕事をサポートした。さらに、金融危機の元凶となった大銀行への預金を引き出すよう、米国市民に求めるアピールを出してもいる。

 ところが2011年2月、激震が走る。AOLグループのアームストロング会長が、3億1500万ドルもの資金をつぎ込み、この「参加型」サイトを買収すると発表したのだ。この大手ネット企業はさらに、インドと米国で950人をリストラすると発表した(2)。保守的で知られるITの巨象と、リベラルを売りにしてきたオンライン新聞とは、意外な取り合わせに見えるかもしれない。しかし実際には、事業発展のよくあるパターンとして捉えることができる。同紙がまだ民主党全国大会のブースのスポンサーを続けていた2008年の時点で、政治ニュース以外の読者を拡大し(3)、広告収入を増やすのが新たな戦略だと、ハフィントンは誰彼かまわず語っていた。それから2年後の2010年、同紙が3000万ドルの利益を上げると、資金提供してきた投資家たちは一刻も待ちきれない様子だった。彼らは成功の果実を望んでいた。

 買収の発表は、読者と寄稿者をいたく失望させた。読者の拡大を追い求めれば、政治的な立場やジャーナリズムの職業倫理で、犠牲にされる部分も出てくるのではないか。米国のジャーナリズムが広告主や投資家、また前のめりの消費文化の要請に従うならば、長期的にどのような影響が生じることになるか。ハフィントンはAOLによる買収に際し、「右派と左派の対立を乗り越えるべき時だ」と宣言した(4)。10年前に、左転回を正当化するために語った言葉とほとんどそのままだ。

ストライキの呼びかけ

 路線転換の影響は既に出ている。社会問題や労働者の権利を専門とするブロガー、マイク・エルクはそれを味わった。2011年1月、政府からの支援資金を悪用した銀行家がいることに抗議して、200人の組合活動家がワシントンの抵当銀行協会の会議に乱入した。エルクは1人の組合員に自分のプレスカードを貸し、会議室に入れるようにしてやった。それがハフィントン・ポストの経営陣にばれ、彼の行動は「職業上の過失」として、即時解雇の口実に使われた。

 AOLによる買収、そしてこの事件を受け、他のブロガーたちは、『第三世界アメリカ:いかに政治家は中産階級を見捨て、アメリカンドリームを裏切ったか』という13冊目の本を出したハフィントンに対し(5)、言葉と行動を一致させることを公に要求した。ブロガーの団体「ヴィジュアル・アート・ソース」とジャーナリストの労組「ニュースペーパー・ギルド」は、寄稿者にストライキを呼びかけた。

 ハフィントンの答えはこうだ。「どうぞ、ストライキをおやりなさい。誰も気がつかないでしょうけど」。彼女に言わせると、ブロガーたちの努力はサイトが「提供」する露出度によって十分に報われている。AOLによる買収で露出度はさらに高まり、月間訪問者数は全米で計1億1700万人、世界中で計2億5000万人に達する見通しだ。おかげで広告料も上げられるだろう。2011年2月現在で、トップページの広告料はAOLサイトで1日20万ドル、ハフィントン・ポストでは1日9万から12万5000ドルだったが(6)、この差は合併により縮まるはずだ。

 多数の読者がいることは、同紙からの報酬を必要としない有名ブロガーにとっては参加の決め手だ。ハフィントンは彼らを利用し、彼らもまたハフィントンを利用する。だが、この暗黙の取り引きで一番得をするのは誰か。そしてそれは、この新形式のジャーナリズムに対し、どのような深刻な影響を及ぼしているのか。

 ブロガーたちの無償の労力に依拠した姿勢は、ハフィントン・ポストがスタートアップ企業である間は、容認できるように思われていた。今では、創業者と投資家は大きな富を得ている。その一方で、同紙が現在の地位を確立するにあたり、無償の協力者が中心的な役割を果たしたことは看過できないはずだ。例えば、「銃と宗教にしがみつく」貧しい米国人に関するオバマ候補の発言を公表したメイヒル・ファウラーは、同紙の発展に大いに貢献した。彼女は100本ほどの記事を書き、同紙から2度もピュリツァー賞候補に推薦されたにもかかわらず、一度も報酬をもらったことがない。彼女は同紙を辞めたが、その決断についてマリオ・ルイス広報部長は刺々しい調子で、「就いてもいない職をどうやって辞められるというのか」とコメントした(7)。しかし、有償のジャーナリストと無償のブロガーの違いはまったくもって不明確だ。しっかりした調査に基づき、多数の記事を寄稿していたエルクのことを、読者の大半は専従の社員だと思っていた。

 この新しい形のジャーナリズムが、リベラルな思想に、これまでにない表現の場を与えたことは確かだ。だが、それは同時に、米国の社会・経済秩序の広範な再封建化につながる形で、労働のある種の組織化を促進してもいる。米メディアに関するピュー財団の最新調査によると、この10年間で職業ジャーナリストの3分の1以上が解雇されている。過去3年間では1万1000人に上る。

デジタル封建制度

 ニューヨーク・タイムズの海外特派員だったクリス・ヘッジズは最近、「ハフィントン・ポストによる略奪」と題する記事でこう書いた。「どのような思想を表明しようとも、こんなふうに莫大な利益を得るのに労働者を利用する者たちが、搾取する側の階級に属しているのは明らかだ。マルクスを再読せよ。彼らは労働者の敵だ」。ブロガーたちには「常に選択肢がある」という反論に対し、ヘッジズは「ドミニカ共和国やメキシコの搾取工場のマネージャー、ウエストヴァージニア州やケンタッキー州の炭坑会社、メーン州の広大な養鶏場の経営者」と同じ言いぐさだと批判する(8)

 ロイター通信のプロダクトマネージャー、アンソニー・デ・ローザは、ハフィントン・ポストや類似メディアのフェイスブック、ツイッター、ブログサイトのタンブラーなどが形成するシステムを「デジタル封建制度」と呼ぶ。「これらのサイトで用いられる技術は非常に魅力的で、知らず知らず奉仕させられる。われわれはカモにされてコンテンツを作り、他人のために価値を生み出している(9)」。ハフィントンはこうした見方に同意しない。彼女によれば、「自分の発表の場を得ることが、人々にとって信じがたい自己実現の源泉となった」以上(10)、ブロガーたちは、無償で働くことに喜びを感じているはずだという。

 カラクリは今や明らかだ。サイト訪問者が増大する。続けて投資家や広告主が増大する。利益を出せという要求がどんどん高まる。個々のコンテンツの価値は下がる。サイト運営者は急いで安価に「新着」を掲載する必要に迫られる。その秘訣が無償奉仕と、検索結果を最適化するアルゴリズムである。AOLはずっと前からこうした技術革新の先頭を走っている。AOLのために働くジャーナリストの言葉が、ニュースサイト「ビジネス・インサイダー」が明らかにしたメモに引用されている。「AOLの主目的は、技術を駆使して訪問者数を増やし、各コンテンツから最大限の利益を引き出すことだ。質の良し悪しは問わない(11)

 「アリアナ(・ハフィントン)はわれわれと同じ目的を持っている。それは消費者のニーズに応えることであり、政治ニュースの分野に限定されるものではない」と、AOL会長は明言する(12)。ハフィントンの側でも、初期には約50%だった政治記事の訪問者数が、今では15%に満たない事実を強調する。

 両社の合併により、職業ジャーナリストの新規雇用が決定されたが、これは良い方向だ。とはいえ、その大部分は、ニューヨーク・タイムズなど伝統メディアにいた者で、ずっと前に始まった中道右傾化を追認しているにすぎない。このサイトに記事を寄せようというリベラルなブロガーは、自問してみなければならない。それは、自分の考えを広く知らせるためなのか。それとも、もはや他の大企業と何ら異なるところのないオンライン新聞にも、思想の多様性があるという幻想を作り上げてやるためなのか。

 米国メディアが以前から抱えている病理は、インターネットによって変化したわけではないが、ハフィントン・ポストの買収劇は、その縮図を提供してくれるものだ。ニュースへの取り組み方が本質的に商業的。ほぼ全面的に広告に依存。上場しているがゆえに短期の収益性に取り憑かれた巨大グループの傘下にある。市場規制がないため、合併や買収が助長される。その結果、多くが巨額の負債にあえいでいるのだ。

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2011年5月号)