投機フィーバーにおどらされるアフリカ農地

ジョーン・バクスター(Joan Baxter)

ジャーナリスト・作家

訳:七海由美子


 鉱石と石油に続き、今度はアフリカの土地に外国勢力が色めきたっている。すでに何百万ヘクタールもの耕作可能地が、アフリカ諸国の関係当局によって、きわめて不透明なかたちで売却された。国際的なアグリ企業、それに中東やアジアなどの政府の主導下で、検討中の計画も多数にのぼる。これらの取引がまとまれば、社会や自然環境、地場農業は危うくなってしまうだろう。[フランス語版編集部]

 2009年11月18〜19日、ロンドンのエリザベス二世会議センターにて、シエラレオネ援助フォーラムが開かれた。演壇に立つのは、会の主催団体アフリカ・ガヴァナンス・イニシアティヴを率いるブレア前首相である。参加者に向け、シエラレオネは「何百万ヘクタールもの耕作可能地を持つ」国であると力説し(1)、農地の取得を熱心に勧める。熱に浮かされたブレア氏は、数百万人のシエラレオネ人がこの土地からの収穫で生きていることを忘れているらしい。

 大もうけを確信した銀行、投資ファンド、大企業、諸国政府、資産家たちが群れを成して、いずれも輸出用の食料作物とアグリ燃料の大規模ビジネス農場をアフリカに作ろうとしている。農地のこうした切り売りや長期の借地が、巨大投資家と当該国の相互利益に結びつく開発事業計画として喧伝される。

 こうしたスタンスは、世界銀行の国際金融公社(IFC)(2)、国連専門機関の国際農業開発基金(IFAD)も共有する。当初はディウフ事務局長が「新植民地主義の一形態だ」と言っていた国連食糧農業機関(FAO)も、今ではこの流れに与している。

 アフリカで現在行われている大規模なたたき売りの事例は、枚挙にいとまがない。コンゴ民主共和国では、中国が280万ヘクタールの土地の払い下げを受け、世界最大のアブラヤシ園を作る予定らしい(3)。 スーダン南部では、ニューヨークの投資ファンド、ジャーチ・キャピタルの代表で、保険大手AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の幹部だったフィリップ・ハイルベルクが、軍閥のパウリノ・マティップから40万〜100万ヘクタールの土地を借り受けたという(4)。隣のコンゴ共和国では熱帯雨林が消滅の危機にあるが、最近その貴重な森1000万ヘクタールを南アのアグリ企業数社に提供した。

 2009年11月、エチオピア出身のサウジの実業家、モハメド=アリ・アムディの主導により、サウジの大企業50社がエチオピアでフォーラムを開催した。輸出作物の専用農場の設置がねらいである(5)。同じころ、インド人のサイ=ラーマクリシュナ・カルトゥリが、アグリ大手カーギルと張り合って、自分はエチオピアをはじめとするアフリカに世界最大の「農地バンク」を持っていると豪語した(6)。エチオピアは、旱魃に見舞われ、食糧援助を訴える国だ。にもかかわらず、この国の政府は、すでに60万ヘクタールを譲渡したうえ、さらに300万ヘクタールを売りに出そうとしている(7)

密室でこっそりと

 アフリカ諸国の首脳たちは、食料作物の輸出こそが、国内の物資不足と失業の解決策だという考えに傾いているらしい。それを後押しするのがIFCである。「ビジネスに有利な環境」を作りだそうと、こうした国々に投資促進事務所を開いている。現地の税制や法制(労働法、人権、環境保護)から、ひいては国家主権にいたるまで、企業活動の自由に対する足枷に苦しむ投資家たちを支援するためだ。

 土地が遊んでいるというのが、よく用いられる論拠である。しかし、土や川が再生するのは、休耕地や未開墾地のおかげだ。しかも、現地の人々は、食物、繊維、香辛料、採油植物、調味料、薬草など、無数の資源を森林や「使われていない」土地から得ている。

 ワシントンの国際食料政策研究所(IFPRI)の推定によれば、売却または30〜100年の借地に付された土地は、過去2年間に2000万ヘクタールにのぼる。少なくとも30カ国にわたり、その大半はアフリカだ(8)。NGOのグレインでは、これらの取引を数え上げようとしているが、ほとんどが不透明なかたちで素早く行われるため、正確な数をつかむのは難しいという(9)

 政府上層部が結ぶ契約の一部は、密室でこっそりと交わされる。族長たちが加担する場合も多い。土地の番人であるはずの族長たちは、投資先プランテーションでの低賃金雇用の創出という見通しに丸めこまれてしまう。

 この「市場」の最大の参入者は、耕地に恵まれず、食糧安全保障をめざす湾岸の富裕国、それにアジアの数カ国だ。さらに投資機関や大手企業が、食料作物(サトウキビ、アブラヤシ、キャッサバ、トウモロコシ)やジャトロファを原料としたアグリ燃料生産を目論む。ジャトロファは「グリーン・ゴールド」とも言われる植物で、ディーゼルに近い成分の油が採れる。一連の取引の舞台は、水資源の減少と、自分たちに責任のない気候変動のせいで、自国の食糧安全保障に苦闘するアフリカ諸国である。

 土地の買い占めもまた、自然環境の均衡を損ないかねない。アフリカ大陸の食料(食料作物)生産の主体である小農たちは、さまざまな品種を植えており、それが生物多様性の保全に寄与している(10)。しかし大手アグリ企業が推進する単一作物の栽培が、彼らを日に日に脅かしている。

声を上げる民間団体

 アフリカの耕作可能地の取り合いは、世界的な食糧危機によって加速した。世界で10億人もの栄養失調は、食糧が足りないせいではない。手が届かないのだ。2008年を通じて食糧価格は高騰の一途をたどった。暴騰の一因は、アグリ燃料推進という欧米諸国の決定を受けた投機である。逆説的にも、気候変動対策に本当に役立つのか定かでないアグリ燃料が、農地買収を引き起こしている状況だ。この流れに拍車をかけたのが金融危機だ。2008年9月の暴落以降、金融業界は確実で高収益の新規投資先を探し始めた。彼らの目に「土地は金と同じくらいか、それ以上に確実な投資先」と映った(11)

 国連の食糧の権利に関する特別報告官オリヴィエ・ド=シュテルは、アフリカの首脳たちが国会審議なしに契約に署名していると嘆く。外資に厳しい条件(インフラを整備する、収穫の半分は地元向けとする等)を課すために協力するかわりに、互いにしのぎを削り合っていると彼は言う。「食糧不足のとき、投資家は規制のない弱小国家を探すものだ」と先のハイルベルクは言ってのける(12)

 こうした現状に対し、いくつものアフリカの民間団体が声を上げている。たとえばCOPAGENだ。アフリカ各地の科学者と農民団体の同盟であり、種子と食糧に関する主権の防衛をめざす。2009年10月17日には、27の地元団体が、ビジネス農業の支援をやめるようアフリカ首脳に呼びかける書簡に署名した。返事は今のところ来ていない。

 農地買い占め案件の多くが、まだ計画段階にあるのは事実である。しかし「計画」は、支障がなければ実地に移されるものだ。そして投機だけを目的とした大量の買い占めは、かつてない規模の紛争や環境破壊、政治的混乱や飢餓の種を宿している。2009年11月にローマで開かれた食糧サミットで、FAOは海外投資家の「行動規範」を国連貿易開発会議(UNCTAD)、IFAD、世銀とともに作成中であると発表した。国際的な規制は「責任ある」農業投資を促進することにもなるだろう。そんな取り組みでは弱すぎる。

 だが、解決策はたしかに存在する。マイクロ・クレジットを供与すること。農産物を地元市場で販売できるよう、道路を建設すること。生物多様性に目を向けた農業技術を磨き、収穫物の加工や貯蔵の仕方を改善できるよう、農民たちに研修を提供すること。彼らの仕事の意義をそぐ輸入を減らすこと。アフリカの人間と農業という資本への建設的な投資は、そうした事業にこそ見出すべきだろう。

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2010年1月号)