IMFの2度目の再生

アルノー・ザシャリー(Arnaud Zacharie)

ベルギー協力発展全国センター(CNCD)事務局長、
ブリュッセル大学・リエージュ大学助教授

訳:日本語版編集部


 2009年4月2日に発表された共同声明によると、主要富裕国・新興国20カ国グループ(G20)がロンドンで会合し、「これまでにない規模のグローバルな経済再建プラン」の一環となる「1兆1000億ドルのプログラム」を決定した。この決定で最も得をしたのは国際通貨基金(IMF)である。「加盟国が2500億ドルをただちに拠出、さらに5000億ドルに増額する(可能性もある)」ことにより、資金規模が2500億ドルから3倍の7500億ドルに引き上げられる。特別引出権(SDR)の新たな配分のほか、「最貧国が簡単に借りられる追加資金として、今後2年から3年の間に総額60億ドルを供給する」目的で、金準備の一部を売却することも認められた。さらに、これまでは融資の利息収入のみで運営されていたのが、「必要に応じて市場での借り入れを検討」できるようになる。こうしてIMFは新しい命を吹き込まれたように見える。最初から数えて3つめだ。

 IMFは1944年7月のブレトン・ウッズ会議により、戦後の国際通貨システムの安定性を保証する番人として創設された。IMFの主要な役割は2つだった。ひとつは、通貨の競争的切り下げ(1)を防ぐための通貨協力を担保することである。もうひとつは、国際収支の一時的な不均衡に陥った加盟国に融資を行って、国際流動性を確保することである。この頃にIMFが付与した融資の3分の2以上は先進国に対するものだった(2)

 1971年8月15日、米国がドルと金の交換を停止したことでブレトン・ウッズ体制が廃止されると、IMFが監視の任を負っていた規則は、実質的に存在しないも同然になった。IMFが再生を果たすのは、1982年以降になってからだ。第三世界では、多くの国が債務不履行に陥り、債務危機が発生した。以後20年にわたって、IMFは何十もの債務国に対して、構造調整計画と引き換えに融資を行った。そして「ワシントン・コンセンサス」の番人となったのである。

 IMFのこうした手法の失敗は、激しく批判されてきた。とくに、世界銀行の主任エコノミストという経歴のあるジョセフ・スティグリッツは次のように非難した。「金利の高騰がともなう貿易自由化は、雇用破壊と失業創出を招くばかりであると言ってよく、犠牲にされるのは貧困層だ。(・・・)ふさわしくない環境でむやみに追求された緊縮財政も、高い失業率につながって社会契約を粉々に砕く(3)

 1990年代には、アジアと中南米で度重なる金融危機が発生し、アフリカで貧困が恒常化しつつあったことで、IMFに対する信頼は大きく揺るぎ、これまでの手法を見直さざるをえなくなった。しかし、1999年に発表された「国際金融の新たな枠組み」にしろ、2002年3月にモンテレー(メキシコ)で採択された「新コンセンサス」にしろ、大山鳴動してネズミ一匹にすぎなかった。IMFなしでやっていこうと決意した新興諸国は、一次産品相場の高騰と金利の低下という世界景気の変化を追い風に、外貨準備を積み上げた。2003年にはタイが、2006年にはアルゼンチンとブラジルが債務の全額を繰り上げ返済し、他の諸国も次々に後に続いた。

 主要な顧客、つまり収入源のかなりを失ったIMFは、融資残高が2003年の1030億ドルから2008年3月31日現在で161億ドル(うち3分の2がトルコ一国に対するもの)に激減してしまった。ドミニク・ストロス=カーンが専務理事に就任した2001年11月1日には、このワシントンの機関の予算は赤字になっていた。その数カ月前には、クロケット報告書がIMFの財務状況の監査結果として、月々の帳尻を合わせるために経常支出を削減し、金準備の一部を売却することを推奨している。2008年春にストロス=カーンは、2634人の職員のうち380人を解雇した。

融資政策の「大規模な見直し」?

 前途が急に明るくなったのは、2008年秋、最初の流動性危機が起きたときだ。2008年10月から2009年1月の間に融資を求めた国は9カ国にものぼり(4)、その総額は486億7300万ドルに達した。ルーマニア、レバノン、トルコなど、危機的状態にある国がどんどん増えるなかで、IMFの現行資金では、危機国の要請に応じきれないことがたちまち判明した。G20の強力な後押しのもとで、資金を3倍に増額することが発表されたのは、このような背景による(5)

 資金増額と同じ流れの中で決定されたIMFの機構改革は、それに比べて控えめである。とはいえ、顕著な前進が2点ほどある。ひとつは欧州出身者による専務理事ポストの独占をやめること、もうひとつは新興国の投票権を強化するために加盟国の出資割当額(クォータ)を2011年までに見直すことである。これらの措置は、IMFの民主化という方向性を持つものだ。出資額に応じたIMFの決定方式は、戦後の勢力関係に基づいて定められている。このため、主要出資国である先進国が過半数を握っている(6)。ただし見直すといっても、2006年の最初の改革は化粧直しにすぎず、全投票権の10%だけを対象とし、全体のバランスはほとんど改善されなかった。

 IMFの融資条件に関しては、G20ではほとんど進展がなかった。たしかにG20では、2008年10月29日に新設されたIMFの弾力的信用枠(FCL)が評価された。これは、困窮した国に対して3カ月の間、再建計画や構造調整を条件とせずに、流動性を供給するというものだ。しかし、1000億ドル規模のこの信用枠の対象は、政治が「健全」な状態にあると判断された国、つまり一握りの特権的な国に限られる(7)。2007年12月にIMFの独立評価機関が発表した報告によると、1995年から2004年に発展途上国55カ国で実施された120の融資案件において、IMFは1案件につき平均17項目の条件を課していたが、将来的には4項目か5項目に減らされるべきである(8)

 2009年3月24日、IMFは融資政策の「大規模な見直し」と「構造的パフォーマンス基準の廃止」を発表した。融資を受けた以上は必ず、その融資案件は所定のパフォーマンス基準を満たさなくてはならないとするのではなく、所定の改革が実施された時点で初めて融資を実行するというのが新しい方針だ。そこでは「高パフォーマンス」の国が優遇されることになる。構造調整は消え去ったわけではない。融資実行の時期と対象案件の評価方法が変わるだけだ。要するに、IMFの改革は、発表されたほど抜本的なものではなく、過去の政策が完全に姿を消したというには程遠い。

 IMF首脳部はここ数カ月、景気後退を食い止める「景気変動相殺的」なケインズ式の振興策を称揚している。しかし、IMFの融資は相変わらず、金利引き上げ、公的支出削減、賃金凍結などを定番とする「景気変動増幅的」な措置に基づいている。2008年10月から2009年1月の間に9カ国に対して付与された融資に関する調査が明らかにしたように、IMFは政府予算と通貨政策について、過去と同じくらい厳しい条件を付けている(9)。たとえば、アイスランドとラトヴィアでは金利が6%も引き上げられ、財政赤字がグルジアでは国内総生産(GDP)の6%から3.75%に、ウクライナでは0%にまで削減された。つまり、構図は変わっていないのだ。銀行システム救済と引き換えに、国民生活に第一にのしかかる緊縮政策と経済健全化政策が強要されるということだ。

新しい国際準備通貨システムへ

 融資条件を遵守させる決意を示そうとするかのように、IMFは2009年4月2日、G20がIMFの資金規模を3倍にすると決定したのと同じ日に、ラトヴィアの公的支出削減に進展が見られるまで同国への融資を停止すると発表した。ラトヴィアは、既存の融資で予定された支出しか実施しておらず、GDPが激減したせいで財政赤字が予定の5%から12%に広がったことを論拠として、財政赤字の目標値を5%から7%に引き上げることを求めたが、IMFには聞き入れられなかった(10)

 G20は、米国が自国の赤字を新興国からの大量の借金で埋めていることによる国際的不均衡については何も言及していない。なかでも、中国は米国債の最大保有国となっている。国際通貨システムは不安定であるだけではない。それは過剰発行による暴落のおそれのある通貨に依存している。米ドルという国際基軸通貨の発行国である米国が借金を増やし続けている以上、このシステムは自滅の道をたどっているのだ。

 中国をはじめとする新興国の側は、米国の赤字の穴埋めに何千億ドルも出しているが、自国の発展のための資金を大いに必要とする。そのうえ、ドルが暴落でもしようものなら、ドル建ての外貨準備が無価値になるおそれがある。中国人民銀行総裁がG20の数日前に、たとえばSDRのような、特定の一国と結び付くことのない超国家的通貨に基づいた新しい国際準備通貨システムの創設を提案したのは偶然ではない。

 同様の提案は、金融危機に関する国連の専門家委員会(11)、国連貿易開発会議(12)、他の複数の新興国(ブラジル、ロシア、南アフリカ、韓国など)からもなされている。発想のもとはケインズの構想にある。ブレトン・ウッズ体制の基盤として、最終的に採用されたのはドルと金だったが、ケインズは超国家的準備通貨(バンコール)を提唱していた。もし超国家的通貨という代替案が日の目を見れば、IMFはこれまでケインズの頭の中にしかなかった新生を遂げることになる。もはや特定の一国と結び付くことがなく、その一国の財政赤字のせいで価値が低減することもない国際準備通貨に基づく通貨システムのもとで、国際金融の均衡を保証する役割を果たすようになるのだ。

 これを短期間で実現することは政治的に不可能だ。ドルの地位の消滅を米国が受け入れることを意味するからだ。しかし、もしドルが暴落すれば、中期的には事態が進展する可能性がある。経済協力開発機構(OECD)によると、銀行救済策と経済振興策の実施によって、米国の財政赤字は今後3年間で40%近く拡大することになる。金融投機に対して効果的な対策が取られなければ、新たなバブルが生み出されてしまうだろう。我々はいま目の前で、米国債バブルが膨らみつつあるのを目撃しているのではないだろうか、金融の歴史の教えるとおり、バブルは必ず弾けるものだ。

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2009年5月号)