穀物バブルに深まる食糧危機

ドミニク・バヤール(Dominique Baillard)
ラジオ・フランス・アンテルナショナル記者

訳・七海由美子

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 37カ国が食糧危機に瀕している。そう述べる国連食糧農業機関(FAO)は、6月にローマで特別サミットを開催する。状況はさらに悪化すると、諸々の国際機関は予想する。暴動が多発し(南側諸国では既に何人もの死者が出ている)、数百万人の人々が食糧不足に苦しむ、という展望だ。緊急資金援助が予定されてはいるが、必要量に比べればあまりに少ない。この事態を前に提起されるのは、経済発展における農業の役割という問題だ。[フランス語版編集部]

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 ブルキナファソやカメルーンでは「生活費の上昇」に抗議する暴動、セネガルの首都ダカールではパンの値上がりに反対するデモ。穀物の国際相場の高騰が、アフリカ各地の人々を襲っている。アジアからの輸入米の価格は危険なまでに跳ね上がり、他の穀物も米国市場で史上最高値を記録した。

 新たなミレニアムの幕が開けた今、食糧安全保障が先進国においてさえ、再び懸念の的となっている。国連で最近まで食糧権に関する特別報告者を務めていたジャン・ジグレールなどの識者は、西アフリカでの飢餓を危惧する声を上げる(1)。かつて農業が産業革命の犠牲にされた英国でさえ(2)、環境食糧農村地域省が2006年12月の報告書の中で、食糧安全保障が危ないと警鐘を鳴らした(3)

 それからわずか1年後、物価高に対する抗議が爆発した。舞台はロンドンではなく、食糧を輸入に頼る南半球である。しかも所得は英国とは比べ物にならないほど低い。この間に、牛乳、油、米、小麦などの価格は急騰した。最もすさまじいのが穀物相場だ。

 2007年夏、北半球が収穫期を迎える頃、相場は急激に上昇した。小麦相場は、穀物の国際取引の基準となるシカゴ商品取引所で、5月から9月にかけてトン当たり200ドルから400ドルになった。パリでも同様に、製粉用小麦が9月初めに1トン300ユーロの最高値をつけた。米国の輸出余力がほぼ尽きた2008年3月中旬、相場はさらに上がり、1ブッシェル(約27キロ)13ドルの大台に乗せた。史上最高値である。1年のうちに、米国先物市場の小麦相場は130%も上昇したことになる。

 予想外の事態を前に、先進国の製粉メーカー、製麺メーカー、飼料メーカーは激しく抗議した。供給と需要の間には、数年前から時間差が生まれている。需要は増えているのに、期末在庫(生産国における収穫期直前の在庫量)は収縮しているのが現状だ。いまや供給の増加ではなく、主要輸出国の在庫によって、市場が調整されるのである。

 こうした不安定な均衡が2007年に崩れた要因は二つある。アグリ燃料ブームによる需要の押し上げと(4)、天候不順による不作である。中国など新興国の需要増加によって逼迫していたところに、この二つが追い討ちをかけた。アグリ燃料は、トウモロコシ全体の10%を吸い上げている。ただし、アグリ燃料の主要生産国である米国がそれに伴いトウモロコシを増産しているため、この第一の要因は穀物価格急騰の主因ではない。

 決定的なのは第二の要因だ。豪州の旱魃、欧州の日照不足と降雨過多、そしてアルゼンチンの霜害によって収穫は減り、欠乏と呼ぶほどではないにしても大幅に落ち込んだ。そのため、期末在庫が売買の主要指標となる商品取引市場では、収穫期を通じて相場が高値に張り付いた。

 小麦は世界中いたる所で消費される。パンに加工できる物理的特性を備えた唯一の穀物であり、パン、麺、クスクスの材料として代用が利かない。貿易量もダントツに多く、世界の生産量の5分の1が大陸間を移動する。しかし、世界市場向けの生産は一握りの国々が独占している。米国、欧州数カ国、豪州、カナダ、アルゼンチンが主要輸出国だ。

 新興国の経済成長と都市化があいまって、人類の食生活は大きく変化した。人々はより多くの食物を、とりわけより多くの肉を食べるようになった。例えば中国では、1980年から2005年に肉の消費が5倍に増えた。だが、1キロの鶏肉の生産には3キロの穀物、1キロの牛肉を得るにはその倍量以上の穀物が必要だ。飼料穀物は油量作物とともに、家畜の日々の餌となっているからだ。

援助食糧備蓄の激減

 世界の人口増加と、新興国の生活水準の向上によって、資金手当のある穀物需要はどうしようもなく上昇している。小麦の輸出量は1960年から2000年代初めにかけて世界全体で3倍に増大した。古代ローマの穀倉であったエジプトは、現在では最大の輸入国になっている。世界的に在庫がだぶついていた過去数十年にわたり、地中海沿岸とサハラ以南アフリカの諸国では安価な小麦をどんどん輸入したため、地元の農業は苦境に陥った。こうした国々は食糧の購入に法外な値段を払うはめになっている。国連食糧農業機関(FAO)が2007年6月に出した報告書の中で、エコノミストのアダム・プラカーシュは、後発開発途上国の食糧輸入支出が2000年に比べ90%増になると予想した(5)。その数カ月後の11月9日に、FAOは重ねて警告を発している。世界食糧農業情報早期警報システム(GIEWS)責任者のアンリ・ジョスランがダカールで記者会見を開き、アフリカ諸国の食糧輸入支出は2006年から2007年にかけて3分の1増加、輸入依存度がとりわけ高い国では5割増にさえなるとの見込みを示したのだ(6)

 この事態から利益を得ているのが主要輸出国だ。筆頭の米国では2007年、農産物輸出収入が850億ドルという記録的な数字に達した。米国農務省の試算によれば、2008年は前年度をさらに上回ることになりそうだ。フランスでは、穀物農家の収入が倍増した。取引商社も密かに、驚異的な売上を記録している。

 事態の連鎖の反対側、純輸入国となっている途上国では、怒りの渦が逆巻いている。メキシコで(7)、セネガルで、モロッコで、モーリタニアで、暴動が発生している。これらの国々は地元の農業では必要を満たせない。食料品の値上がりは、食費が家計支出のたかだか14%でしかない先進国経済なら耐えられるとしても、収入の60%を費やすサハラ以南アフリカでは手の打ちようがなくなっている。

 食糧高騰のあおりを受け、これまで輸出国となってきた新興国は、国内価格を適正レベルに維持するための障壁を築いた。アルゼンチン(8)やロシアは輸出課税と輸出量制限を実施している。これらの措置は世界市場に跳ね返って、緊張をさらに高めている。

 高騰の影響を最も受けている純輸入国の中でも財政的余裕のある国は、補助金策を講じている。モロッコでは2007年9月、パン屋組合が決めた値上げに対し、いくつもの都市で激しい抗議デモが起きた。民衆の怒りが暴動に発展することを恐れた政府は、値上げ無効を宣言し、製粉業者の負担軽減策として、小麦輸入に関わる諸税を凍結した。チュニジアでは、政府がパン屋に対し、値上げをするかわりにパンの重さを減らすよう要請したほどである。

 農学者のマルク・デュフュミエによれば、わずかな天候不順が飢餓の引き金となりかねない(9)。世界の援助食糧備蓄が危険なほど減少しているだけに、飢餓の阻止はなおさら難しくなる。「小麦相場の上昇期には食糧援助が減ります」と、比較農学を専門とするデュフュミエは言う。「北側諸国は余剰がある時には気前がいい。食糧援助で在庫を減らし、国内価格を支えることができるからです。しかし相場が上がるやいなや、資金力のある需要家への販売が優先されるのです」。国際穀物理事会(IGC)が発表した数字(10)もこれを裏付けている。援助食糧として送られた穀物は、2005-06年度の830万トンに対し、2006-07年度では740万トンにすぎなかった。2007-08年度は600万トンに落ち込むことだろう。

 「飢餓の一揆」は今後も収まりそうにない。供給が需要を満たさぬ限り、価格の高騰は続く。諸国の政府が需給を逆転させるべく、チュニジア紙の論説の言う「市民的意識にのっとった消費の必要」を訴えて(11)、クスクスやパンや、特に肉の消費を控えるよう、国民に呼びかけるというのもあり得るだろう。しかし、最近やっと食生活が改善された国々で、そうした号令が聞き入れられるとは思えない。ましてや、これまでろくろく食べられなかった人々については言うまでもない。

 例えば中国の衛生省は、女性がカルシウム摂取を増やすため乳製品をとるよう勧めている。乳製品とは、つまりは家畜であり、その餌には大量の搾りかすと穀物が投じられる。穀物需要の今後の増大はまず確実である。

改めて問われる農業の役割

 さらに、投機の現象も考慮しなければならない。「農産物市場の変動の当事者になりましょう。傍観者でいるのはもう終わりです。お問い合わせください」。こんな電子メールが2007年秋に、農産物情報専門の仏企業フィナンスアグリから、業界関係者にばらまかれた。農産物の先物取引市場に大転換が起こっていることが、このビジネス勧誘メールからも窺われる。先物取引市場はもともと、価格変動リスクをヘッジする目的で開設された。それが今では、投資家や仲買人などの常連利用者からも、農家のような日曜投資家からも、格好の投機対象としてもてはやされている。先物取引の常連の参入が、農産物相場の変動を助長して、値動きを大きく変えたのだ。

 投資ファンドは相場の推移に応じて上下する農産物指数に飛び付いた。2007年の第1四半期末から第4四半期末にかけ、穀物相場は急騰し、上場投資信託(ETF)が欧州農産物を対象に運用する資金は5倍に膨らんだ。バークレイズ・キャピタル(英銀バークレイズ系列の投資専門会社)によれば、1億5600万ドルから9億1100万ドルへの増大である(12)。同社によれば、米国農産物取引での運用残高はそれ以上に拡大し、同じ期間に7倍になった。

 より多くの食物を、とりわけより多くの肉を食べる人々が増えており、その一方で、農産物価格は他の一次産品に比べて過小評価されている。したがって、農産物の高騰は長期傾向となるかもしれない。5年前から過熱状態にある金属市場とエネルギー市場に比べれば、農産物市場の熱狂はまだ始まったばかりだ。

 投資家を誘うもう一つの要因は、エネルギー産品とアグリ燃料用穀物の価格接近だ。こうした盛り上がりムードの中で、生産農家もまた利益の最大化を追求している。「高値が事業者の個人主義を助長している」と大手商社アナリストは話す。フランスでは、とりわけ製粉用小麦とビール用大麦が、協同組合に引き渡されないという契約違反が相次いだ。組合に違約金を払ってでも、直接メーカーに売った方が儲かると生産農家が考えたからだ。

 それもいたしかたない反応だと、フランス農業協同組合のフィリップ・マンジャン会長は言う(13)。「農民はかつてない変動に直面している。相場は15カ月で3倍に上昇した。過去3年低迷していたのだから目がくらむのももっともだ」。とはいえ、彼はこうした変化を嘆かわしく思っている。産業用に需要が集中し、政府も介入しようとしない現状を前にして、組合を通じた生産農家の連携こそが効果的ではないだろうか。

 IGCの試算によれば、農家も反応し始めているようだ。小麦の作付面積は2008年には4%拡大する勢いで、穀物相場の前回の過熱期となった1995-96年なみの増加率だ。しかし穀物全体を考慮すると、増産のための技術力や、とりわけ利用可能な土地を持つ国はごくわずかしかない。「土地は将来性のある投資ですよ」と英投資家のジム・スレーターは言う。彼は金属市場で財を成した後、灌漑事業を中心に農業へと投資先を転じた。

 東シベリアの広大なステップを有するロシアと、有名な黒土を有するウクライナは、農業発展の適地である。しかし大陸性の気候で事業は不安定化し、年によっては凍害で収穫量が激減する可能性がある。対して、アルゼンチンとブラジルでは、パンパや森林を耕地に転換できる。「まだ人々が見抜いていない生産性向上の余地があるのです」とデュフュミエは言う。輸出農業の将来性は、単位面積当たりの収穫量が現在世界トップの欧州よりも、生産コストが極めて低く生産性もまだ低い新興国にあるだろう。ただしその将来は、既にアルゼンチンのいたる所に見られる遺伝子組み換え(GM)作物の普及や、ブラジルの森林破壊のような環境被害を伴うものになる。

 穀物ショックで最も被害を受けた国々の救済の道は、農業の再生にこそある。国内農業の強化に力を注いだマリは、比較的ショックを免れた。ニジェール川デルタ地帯の稲作に資金が投じられていたし、綿農家には適正な判断力があった。加工企業によるキロ当たり買い取り価格の悪化に落胆した綿農家は、綿花用に受け取った肥料をソルガムやトウモロコシに転用していた。隣国ブルキナファソでは、より有利な大豆への綿花からの転作が進んでいた。また、国連世界食糧計画(WFP)は、資金を出し渋る援助諸国を前に、現地調達を増やすことで被援助国の国内生産を支えようとしており、現地調達の割合は西アフリカでは2005年の13%から2007年には30%に上がっている。

 穀物の高騰によって、経済発展における農業の役割が改めて問われている。それがEUの共通農業政策(CAP)改革でも、WTOのドーハ・ラウンド交渉でも、問題の核心となるだろう。歴史の皮肉と言うべきか、経済自由化の押し付けにより各国の農業弱体化に加担した世銀が、2008年の世界開発報告においては、農業を貧困対策の中心に据えている。

(1) See Jean Ziegler << Refugies de la faim >>, http://www.monde-diplomatique.fr/2008/03/ZIEGLER/15658
(2) 1770年から1870年の間に、国民総所得に占める農業部門の割合は45%から14%に落ちた。
(3) http://statistics.defra.gov.uk/esg/reports/foodsecurity/default.asp 農産物原料の高騰に伴い、食糧安全保障の問題が英国政府関係者の発言の中で繰り返されるようになっている。Cf. Jenny Wiggins and Javier Blas, << Expensive tastes : Rising costs force food up the political agenda >>, Financial Times, London, 24 October 2007.
(4) エリック・ホルト=ギメネス「アグリ燃料にまつわる5つの幻想」(ル・モンド・ディプロマティーク2007年6月号)参照。
(5) Food Outlook 2007, Rome, 7 June 2007, http://www.fao.org/newsroom/en/news/2007/1000592/index.html
(6) http://www.irinnews.org/fr/ReportFrench.aspx?Reportid=75238
(7) See Anne Vigna, << Le jour ou le Mexique fut prive de tortillas >>, Le Monde diplomatique, March 2008.
(8) アルゼンチンでは、フェルナンデス政権が2008年3月中旬に大豆、ヒマワリ、トウモロコシ、小麦の輸出関税を9%近く引き上げると発表した。大豆相場の上昇(2007年に70%増)を根拠とする増税により、貧困層への富の再配分を意図した措置である。この措置に反発した大地主や農民が、2週間にわたってストを実行し、都市部を食糧不足に陥れた。
(9) See Marc Dufumier, Agricultures africaines et marche mondial, Fondation Gariel Peri, Paris, 2007.
(10) 国際穀物理事会(IGC)は穀物貿易規約の全締約国を構成員とし、毎年2回、基本的に6月と12月に、通常の理事会総会を開催する。規約の履行を監督し、穀物の国際市況について討議し、穀物に関する各国政策の変更やその市場への影響についてフォローアップする。Cf. http:// www.igc.org.uk/en/aboutus/default.aspx
(11) Larbi Chennaoui, La Presse de Tunisie, Tunis, November 2007.
(12) See the << Commodity Refiner >>, quarterly study on the raw materials market, http://www.barx.com/commodities/research/index.shtml
(13) http://www.cooperation-agricole.coop/sites/cfca/


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2008年5月号)

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