フランス税制は革命前に戻るのか

リエム・ホアン=ゴック(Liem Hoang-Ngoc)
パリ第一大学助教授

訳・岡林祐子

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 2007年7月に「税制パッケージ」法案が議会で可決された。フランス政府が実施を計画ないし予定している一連の措置で、「納税上限」などと称されているが、高額所得や資産への課税を軽減し、財政支出と社会保障費の負担を低・中所得世帯に押し付けるだけのものだ。今回の法案は、これまで富の再分配と給与所得者の保護を担ってきた仕組みを全面的に解体しようとする政策の要となるもので、フランスを革命前体制に引き戻すものだと言ってよい。

 フランス革命が起きた原因のひとつは、不公平な税制への抵抗だった。旧体制下の租税は、物納、金納、労役からなり、第三身分だけに課せられて、貴族と聖職者という特権階級の財源となっていた。聖職者層への物納が「十分の一税」であり、平民から王への金納が「タイユ税」である。タイユ税は配賦税であり、定率税ではない。王が地区や教区ごとの納税額を定め、地区や教区が住民それぞれに負担を割り当てた。納税額は恣意的に設定され、地域間に不平等があった。また、1701年に創設された累進所得税で、平民の不動産収入を課税対象とする「カピタシオン税」も、貴族と聖職者は支払う必要がなく、道路敷設のための労働賦役も当然ながら免除されていた。

 1789年、旧体制の崩壊はもはや目前となったが、「1人1票」という民主主義の原則や、民主的な税制である累進課税が確立されるのは、まだ遠い先のこととなる。革命後に最初に敷かれたのは、制限選挙制である。この制度では、一定額以上の税金を納め、投票することのできる「能動市民」と、所得が基準に満たず、投票権を持たない「受動市民」が区別されていた。直接普通選挙(男子のみ)を打ち立てたのは、1792年の国民公会である。この選挙制度による委任の下で、国民公会議員はいくつかの国有化法案と最高価格令を可決した。

 1794年、ロベスピエールの失脚を見たテルミドール反動の後、総裁政府は制限選挙を復活させ、騒々しいパリの民衆を権力の座から遠ざけた。普通選挙(男子のみ)が回復するのは、第二共和政が樹立された1848年のことだ。

 第二共和政初期の税制は、今日では「4つの旧税」と呼ばれる旧来の制度を受け継いでいた。すべての市民に課せられた動産税、建築不動産税、非建築不動産税、事業税の4つを指す。これらが居住税、不動産税、職業税という現在の3つの地方税の原型となった。「4つの旧税」は厳密には所得税とは呼べない。持ち家の窓の数や賃貸料のように、市民の担税力を示すと考えられた大ざっぱな基準によって定められていたからだ。

 これらの旧税は累進税ではなく比例税であり、したがって不公平なものだった。所得が高くても低くても、一律の税率が適用された。地域間の貧富の差が考慮されなかったため、地方格差の面でも不平等だった。現在では、その後に進められた地域間の財源均等化および地方税の調整を通じて、こうした欠陥はいくらか解消されている。

 累進所得税という平等化を象徴する制度は、普通選挙制に100年あまり遅れて確立された。この税制改革は、財務大臣ジョゼフ・カイヨーの発案により、国会における激しい議論を経て、左派の支持の下に1914年7月2日法として可決された。まさに市民権の根幹となる法律であり、普通選挙を通じて決定された公共政策の費用は、一人一人の市民が担税力に応じて負担するという原則がここに確立された。市民は誰でも(裕福な人も貧しい人も)、それぞれの必要に応じて公共財産を無料で(あるいは廉価で)利用する権利を持つ。そして、この権利は、市民それぞれが財力に応じて資金を負担する義務を伴う。

社会の統合を強化

 その1カ月後、戦費予算案が可決された。財源の調達を可能にしたのが、累進所得税の施行である。少し前まで非現実的だと見なされていた累進所得税が、情勢の緊迫を受け、超党派の「神聖連合」内閣によって推進されるようになったのだ。有産階級が民衆を戦線に送り出すにあたり、罪悪感を持たずにはいられなかったことを示すものかもしれない。1914年から17年までの時期、個人所得税は大別して2種類あった。1つは分類所得税と呼ばれる所得種別の7つの比例税(1)、もう1つは累進的な総合所得税である。

 一人一人の市民が担税力に応じて、累進税によって国民的連帯の費用を負担するという原則は、第一次世界大戦を経て強固に確立された。1915年には2%だった最高税率は、戦後の財政難に直面した1924年には90%にまで引き上げられた。次いで40〜50%に引き下げられ、第二次世界大戦が勃発した1939年に再び90%となった後、1945〜75年の高度成長期には60%弱で安定推移した。

 この時期を通じて、フランスの所得税制度は不備を抱えながらも、市民と共和国の紐帯を強化していった。1946年には、人口問題に対処するために、家族係数(後述)が導入された。1948年には法人税が創設され、1959年には他の分類所得税が単一化された。こうした税制は福祉国家による富の再分配の象徴であり、フランスの経済回復の妨げになりかねなかった金利生活者層の社会的再生産を抑制する方向に働いた(2)

 フランス社会の統合をさらに強化したのが、いわゆる「ビスマルク式」の社会保障制度の確立である。この制度の下では、社会保険料は間接賃金として定義され、社会保険金庫の形で労働組合によって管理される。ドイツ占領から解放されたフランスには、レジスタンス全国評議会の計画にしたがって、社会保障、公共部門、労働法といった多数の「社会主義の小島」が生まれた。1972年6月に左派諸党が発表した統一綱領は、その拡大を提案するものだった。

 しかしながら、現行税制は、富の再分配機能が依然として弱い。付加価値税や石油製品内国税(TIPP)といった比例税の占める比重が大きく、所得税をはじめとする累進税や、かつての富裕税のかわりに1989年に新設された連帯資産税(ISF)の比重は小さい。付加価値税が税収の51%、石油製品内国税が5.5%を占めるのに対して、法人税と所得税はそれぞれ、社会保険関連を除く歳入総額の17%にしかならない(3)。51%以上の世帯が所得税を免除されているが、これらの世帯も税金を払っていないわけではない。社会保険を支えるために1999年に創設された社会保障総合税(CSG)や間接税を払っているからだ。

 所得税が国民負担率全体に占める割合を比較すると、北欧モデルの筆頭であるデンマークでは53%である。英国は30%、米国は42%である。

 最近20年ほどの間に取られた各種の措置により、フランス税制の再分配機能はさらに弱められてきた。社会党のロカール首相(1988〜91年)は、法人税率を50%から34.3%に引き下げた。社会保障総合税を創設したのもロカールである。その対象は個人の資本所得なども含み、社会保険料より幅広い。とはいえ、この税が保険料に比べて公平だとは言えない。比例税であり、世帯単位で課されるわけではなく、裕福な人にも貧しい人にも、子供がいる世帯にもいない世帯にも、同じ税率が適用されるからだ。社会保険料の企業負担分と本人負担分の引き下げに伴って、社会保障総合税の比重は増している。そこに象徴されているのは、社会保障財源の税シフトである。

「税制パッケージ」とは

 1993年、所得税の累進性の低減に先鞭を付けたのが、右派のバラデュール首相である。税率区分の数は12から7に減らされた。それに続いて最高税率が引き下げられていく。右派のジュペ内閣によって1996年に56.8%から54%に、さらに社会党のジョスパン内閣によって52.75%となる。民衆運動連合(UMP)のラファラン内閣は、2003年に49.58%、翌2004年には48.09%へと、50%の大台を割り込む引き下げを行なう。同じUMPのド=ヴィルパン前首相から現在のフィヨン首相へと引き継がれた税制改革によって、累進性はさらに弱められていく。フィヨン内閣は、税率区分を7つから5つに減らす一方で、20%の控除の廃止、さらに中・高額所得に適用される税率の大幅な引き下げを実施した。最高税率は、英国と同じ40%に設定されている。だがフランスは、税制優遇をめぐって欧州規模、世界規模で諸国が競争を繰り広げるなかで、国王以上に王党派的な施策を打ち出している。

 フランスの税制を見ると、見かけの最高税率は確かに同じだが、富裕層の税負担は英国に比べて軽い。家族係数(4)の存在に加え、新たな「節税の余地」がいくつか設けられている。投機的取引への対策を名目として、有価証券のキャピタルゲインへの課税は保有期間に応じて軽減され、保有期間8年以上ではゼロになる。また、課税総額を所得の60%までに抑える「納税上限」が創設され(上限額は後に50%に引き下げ)、超高額所得者にとっては連帯資産税の負担が大きく減る(5)。これらは「上層民」に対する優遇措置になるが、公平感を与えるために、ジョスパン内閣が「下層民」の救貧策として導入した低所得就労手当の増額と月払い化も実施された。ただし、この手当を受給するには、まず失業を脱することが求められる。

 これら既存の措置に加え、新右派が計画中の所得税改革案(後続記事参照)がそのまま臆面もなく実行に移されるなら、フランスの税制は1世紀前のカイヨー法以前の状態に後退してしまう。UMPのマリニ上院議員は、米国の新自由主義者がフラット税と呼ぶ単一税率の税金(6)の創設を主張している。要するに、累進性の撤廃だ。2000年から2007年までに実施済みの累進緩和だけでも、政府の歳入減は推定500億ユーロにのぼる。

 大統領選でサルコジが勝利した余勢をかって、「就労・雇用・購買力」法という看板に偽りのある法律が可決されている。この通称「税制パッケージ」法は、税制上の不公平をさらに悪化させるものでしかない。15%の最富裕世帯に対する相続税の実質的な撤廃は、機会均等という自由主義の原則に反している。最近、ブッシュ大統領の米国で同様の法案に噛み付いたビル・ゲイツのような、本物の叩き上げの人物なら、そう言明するだろう。相続税削減による歳入減は、22億ユーロになる。

 所得の50%止まりまで広げられた「納税上限」は、超高額所得者の負担する連帯資産税の実質的な廃止を意味する。23万5000の対象世帯が、政府から総額6億ユーロの還付を受けるのだ。最上位の1万3000世帯が受け取る小切手は、4万5000ユーロという額面だ。この税は、最低所得保障(RMI)制度の財源の一部として創設されている。生活不安が社会に拡大しているにもかかわらず、連帯資産税が完全に廃止されるようなことになれば、この制度が必要とする年間80億ユーロの財源のうち、40億ユーロ以上が失われることになる。

 地方分権の一環として最低所得保障の管理を任されるようになった県は、この減税分を補填するために、ただでさえ非常に不公平な地方税のいっそうの引き上げに乗り出すだろう。他方、「納税上限」への社会保障総合税と社会保障赤字解消税(CRDS、1996年に創設)の算入により、それでなくても公平から程遠い社会保障負担は、露骨に逆進的なものになる。裕福であればあるほど、健康保険という国民的連帯に寄与しないで済むことになるのだから。

二極化がますます拡大

 住宅ローンの利払いに関する税額控除も、富裕世帯を大きく潤すものであり、住宅の需給が逼迫しているなかで不動産価格の高騰を維持する措置になる。この措置による歳入減は、37億ユーロである。

 残業手当の非課税化という措置もある。購買力の停滞は「もっと働く」ことを嫌がる労働者自身の責任であり、資本主義的な搾取の激化などまったく関係ないという発想に立つ。この措置は、新規採用の低迷、社会保険の財源の減少、「未届出雇用」のような社会保障負担逃れの横行を引き起こすだろう。これによる歳入減は、60億ユーロである。

 以上が、勤労に報い、諸外国との税制競争に対処するという触れ込みの「税制パッケージ」の内容だ。しめて130億ユーロ以上にのぼる。これは富裕世帯に対するプレゼントのパッケージにほかならない。その多くは新興の金利生活者である。これらの措置ではまだ足りないかと言わんばかりに、さらに2008年度予算案では、株主優遇課税も検討されている。最富裕層だと最高税率の40%を適用される配当金が、所得税の対象から外されて、一律16%の分離課税を選択できるようになる。この新たなプレゼントは5億ユーロだ。政府が2008年に予定している2万3900人の公務員削減で浮くことになる金額に相当する。革命前の貴族の特権が領地と結び付いていたのに対し、新資本主義体制下のマネー貴族の特権は、金融資産から引き出される。彼らの利得はこの10年で膨れ上がった。しかし、大多数の人の所得は停滞したままだ。

 二極化が拡大した原因は、超高給と資産所得の爆発的な増大である(7)。最富裕世帯では所得の10%を資産所得が占めているのに対し、そんな余裕のない低所得世帯には貯蓄がない。フランスに浸透した新資本主義の下で、10%の最富裕世帯の所得は「申告」ベースで1998年から2005年の間に32%上昇した。同じ期間に、残り90%の世帯では4.6%しか上がっていない(8)。所得の中央値、つまり月収1500ユーロ未満の文字通り「中ぐらいのフランス人」の所得の伸び率は、年間0.6%にとどまる。年2%のインフレ率を加味すると、紛れもない中間層の実質所得はむしろ下がっているのだ。

 その一方で超高額所得者は、新資本主義の下で多大な利益を得ている。5%の最富裕世帯の所得の中央値は32%上昇した。トップの1%を取ると、伸び率はなんと42.6%にも達する(9)。「税制パッケージ」は、誰よりも最富裕層を潤すものなのだ。

 さらに、社会保険の赤字を補填するための税制改革ということで、とんでもなくひどい次の手が準備されている。医療保険の年間給付額に上限を設け、その一方で、付加価値税を3ポイントから5ポイント引き上げて社会保険料にかわる財源にしようというのだ。付加価値税は、革命前体制にひけをとらない逆進税である。現代の「乞食の群れ」は、どんな少額の支払いについても付加価値税を納めなければならない。最も貧しい10%の世帯では、所得の8%が付加価値税に消えている。他方、最も裕福な10%の世帯では所得のわずか3%で済んでいる。

 現在進行中の「改革」は、歳入の減少をさらに悪化させかねないものであり、喧伝されるように経済成長を後押しすることにはならない。減税で高額所得者が得をした分のうち、消費に回るのはほんの一部だろう。残りは証券バブルを膨らませ、不動産投機につぎ込まれるだけだ。資産家の力がさらに強まる一方で、借家住まいの者たちは、家賃という名のますます高額の上納金を払い続けるしかない。

 拡大しつつある金利経済は、良きにつけ、悪しきにつけ、新たな特権階級の消費と投機にこれまでにないほど振り回されている。まさに、革命前体制と同じことだ。

(1) 不動産所得、証券所得、商工業利益、農業利益、俸給・給与・恩給、債権所得・預貯金・保証金、事業外利益の別に課税されていた。
(2) See Thomas Piketty, Les Hauts Revenus en France au XXe siecle, Grasset, Paris, 2001.
(3) 所得税が国民負担率に占める割合について、主に税金を社会保障の財源とする国と比較するためには、フランスの場合、社会保険に充当される公租公課(社会保険料、社会保障総合税、社会保障赤字解消税)を加算する必要がある。17%というのは、社会保障総合税と社会保障赤字解消税を加えた所得税が国民負担率に占める割合である。
(4) 申告所得を所定の除数で割ったものが、課税所得とされる。したがって、富裕者の場合、子供が1人いれば、納税額が大きく減る。
(5) 年間200万ユーロ超の高額所得者について、所得税だけを見るならば、最高税率40%(ただし一律に適用されるわけではなく、所得のうち所定額を超えた部分だけに適用)に関連の公租公課、および節税の余地を加味しても、税負担率が50%を超えるわけではない。しかし、連帯資産税を加えれば、50%ラインを超過する。したがって、「納税上限」はさりげなく連帯資産税に食い込むことになる。
(6) 単一税率の税金は、すでにヨーロッパのいくつかの国に存在する。たとえば、グルジア(12%)、ロシア、ウクライナ(各13%)、セルビア(14%)、ルーマニア(16%)、スロヴァキア(19%)、バルト3国(23〜25%)などだ。
(7) Cf. Camille Landais, << Les hauts revenus en France (1998-2006) : une explosion des inegalites ? >>, Ecole d'economie de Paris, June 2007.
(8) 上位1%では41%にも達する。
(9) こうした状況はフランスに限ったことではない。米国の場合、給与所得の中央値(給与所得者の半数がこれより上に入る)の伸び率は、1966年から2001年にかけて実質ベースで11%でしかない。しかし、上位1%では121%に達し、最上位1万分の1では617%にもなる。See Serge Halimi , << Rituel democratique et societe de castes >>, Le Monde diplomatique, November 2006.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2007年10月号)

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正しい税制論議のために

リエム・ホアン=ゴック(Liem Hoang-Ngoc)


 新右派の税制改革は、施行済みのものであれ、草案段階のものであれ、「税制競争に対処し、労働の価値を引き上げること」を目標に据えている。そのためには、「働く者と起業する者に報いる」ために所得税の累進性を緩和しなければならないという。例えば民衆運動連合(UMP)のバラデュール元首相は、税率区分を3つに減らすことを提案している。同様のことが、ル=カシューとサン=テティエンヌの報告書でも検討されている(10)。さらに急進的なのが上院財務委員会のフィリップ・マリニ議員(UMP)で、節税の余地をなくし、累進所得税にかえて「フラット税」、つまり所得額に係わらない比例税を導入することを提唱している。

 新保守派とそれに同調する中道派は、「生涯の労働の成果」の継承に便宜を図るという理由から、連帯資産税(ISF)と相続税の廃止も提案している。その一方で、消費課税である付加価値税については、税率アップを主張する。付加価値税をアップして生産課税(社会保険料と法人税)を緩和すれば、輸入品を割高にすることができるから、企業の国外移転防止のために関税障壁に走らなくてもよくなる、というのがジャン・アルチュイ上院議員の見解だ。

 だが、税制競争などというものは逃げ口上でしかない。税制競争を盾にして、進行中の「改革」は不可欠なものだと言いつのる人々も、その事実を直視すべきだろう。自由主義路線のヨーロッパにおいて税制ダンピングが避けがたくなっているのは、諸国間に税制調和がなく、EUレベルの構造基金も充実していないからだという論点には、彼らは目を向けようとしない。こうした自由主義路線のヨーロッパが、2005年5月29日の欧州憲法条約に関する国民投票の時も彼らによって擁護された。フランス国民はこれを否決したが、同種の条項は、準備中の「改革条約」(11)にもそのまま引き継がれている。彼らは保護主義をタブー視することで、高率の域外関税による「域内産品優遇」の発想を退け、「社会保障目的」の付加価値税アップを推奨する(12)。しかしながら、社会的ダンピングと(EU諸国あるいは域外への)企業流出を防ぎ、ヨーロッパ固有の社会モデルを守るためには、EU予算の増額、税制や社会法制の調和、高率の域外関税といった手段が必要だ。

 さしあたり、税制競争が個人に及ぼす影響を色眼鏡なしに見なければならない。連帯資産税逃れのためにフランスを脱出する者は年間400人にも満たない(13)。その一方で、外国からフランスに移住する富裕層はその3倍にも及ぶ。法人税の問題を見ても、経済協力開発機構(OECD)の調査によると、フランスは中国に次ぐ外国直接投資の受入国だ。経済予測国際情報センター(CEPII)の調査からしても、税制競争が企業の国外移転の主因となっているわけではない。フランスの法人税率は34.3%とヨーロッパ平均の28%よりも高く、婉曲的に「税の最適化」と呼ばれる企業の会計操作があってなお、法人税収は2004年度で471.1億ユーロ、2005年度で484.7億ユーロ、2006年度で540.2億ユーロにのぼる。

進歩派に期待されるシナリオ

 進歩派を自任する政党は、不労所得を勤労所得と同列に置くようなイデオロギーを解体し、再分配を主張すべきだろう。新右派が推進している階級政治への対抗策として考えられるのは、累進所得税を税制の柱とするような大改革である。社会保障の財源も視野に入れ、皆保険的な制度にしなければならない。社会保障は給与所得者だけでなく、すべての市民が受給するものである。したがって、保険料ではなく税金を財源とするのが適切だ。国民連帯的な制度は何よりも税金によって支えられるべきものだからだ。

 社会保障の財源について、新保守派が主張する税金化のシナリオは、社会保険料のかわりに付加価値税をアップするというものだ。それに対して、進歩派のシナリオは以下のようなものになる。第一に、明らかに不公平な制度である社会保障総合税(CSG)は、所得税と一本化する。社会保障の財源面に累進性を導入するということだ。そして税率区分を現行の5つから10程度に増やして累進性を高め、「節税の余地」を減らす。

 この案は、家族係数(4)についての議論を起こす契機になるだろう。家族係数を維持する場合は、所得税と社会保障総合税の一本化によって、大家族を優遇することになる(現行制度では家族係数は後者には適用されない)。家族係数を廃止する場合は、かわりに税額控除を(例えば就学手当として)導入する。控除にあたって所得基準を設けるかどうかも検討課題となる。現行の低所得就労手当は廃止する。その名の通り失業者が対象から外され、非就業者でいることに罪悪感を持たされる制度だからだ。かわりに1番下の税率区分について控除を設ければ、給与所得者と失業者の別なく、すべての低所得世帯を給付対象にすることができる。

 第二に、社会保険料の企業負担分(給与が基準)にかえて、企業の生産総額(給与分と利益分を含めた付加価値総額)を基準とした課税を行う。企業利益も社会保障の財源の一部にするということだ。利益分を加味した「社会保障総合税・企業版」は、どんな少額の支払いでも消費者に課される付加価値税とはまったく性格が異なるものだ。この措置によって、労働集約性の高い中小企業が優遇されることになる。儲けの多い大手上場企業は、利幅を圧迫されている下請け企業よりも、課税額が比例的に高くなる。

 超高額所得者が連帯資産税を免れることにしかならない「納税上限」は廃止する。最低所得保障(RMI)の財源として、連帯資産税はかつてないほど必要とされているからだ。相続税は復活させる。平等を擁護するなら、最低限でも機会均等は保障すべきだろう。さらにもう一点、地方税制を再編して、県単位の所得税を創設する。この措置は、市民と公行政を近づけるという目的を掲げた地方分権の流れにも合致する。県の所得税の一部は地域圏の財政に回すようにする。

(10) Jacques Le Cacheux, Christian Saint-Etienne, << Croissance equitable et concurrence fiscale >>, Conseil d'analyse economique, October 2005. この報告書は、付加価値税アップに加え、現行40%の所得税の最高税率の引き下げ、税率区分の単純化(0%、13%、28%)、連帯資産税の廃止、法人税率の引き下げを唱えている。
(11) 暫定的に「改革条約」と呼ばれていたEUの新基本条約は、2007年10月19日に首脳会議で採択され、以後「リスボン条約」と称することになった。[訳註]
(12) 「社会保障目的」の付加価値税アップに対する批判的な分析としては以下を参照。 << Taxe anti-sociale >>, Liberation, Paris, 30 July 2007.
(13) この400人のうち、純然たる税対策のためにスイスに移住した者が3分の1を占めるが、この人数は連帯資産税の創設後も特に増加したわけではない。別の3分の1は若手の企業幹部で、キャリアアップのために英国に渡っている。最後の3分の1は、事業資産を売却した企業経営者で、フランスのキャピタルゲイン課税を逃れるために、ブリュッセルの高級住宅地イクセルに移住している。


[訳・近藤功一]

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2007年10月号)

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