北朝鮮の核実験を中国から見ると

沈 丁立(Dingli Shen)
復旦大学(上海)国際問題研究院常務副院長、
アメリカ研究センター主任、
軍備管理・地域安全保障プログラム主任

訳・にむらじゅんこ

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 核兵器の登場以来、アメリカがそれを同じ核保有国に対して使用したことはない。とはいえ、核兵器の使用を計画したことがないわけではない。ただ、あえて実行に移さなかっただけである。例えば、かつて中国が核を保有しはじめた頃、アメリカは中国に先制攻撃をかけようとして断念した。以来アメリカは、「台湾独立」に好意的であり、さらにはそれを支援しながらも、反対するような素振りを続けざるを得なかった。中国との軍事衝突に至る可能性を意識したからだ。核を用いる衝突が起これば、双方にとって壊滅的な事態となることは言うまでもない。 そのダメージは、9・11の時とは比べ物にならないだろう。

 一方、北朝鮮の側は、自国の安全は自ら確保すべきだと考えている。核兵器の開発と実験を行うことは、技術的にはたいして困難ではなかった。北朝鮮は充分な量の核分裂性物質を保有し、使用済み燃料から軍事用プルトニウムを化学的に抽出する能力を備えており、いくつもの(約10個の)広島型・長崎型の原子爆弾を作ることができる。第一世代型の核爆弾の製造法は、もはや入手不能ではない。北朝鮮は、起爆装置作りに必要な技術を既に習得済みなのだ。

 核保有国に対しては戦争を起こそうとしないアメリカだったが、3年前のイラク攻撃の際には躊躇しなかった。さらに遡った1999年春、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)の一部諸国は、同じく大量破壊兵器を保有しないユーゴスラヴィアを爆撃した。いずれも国連の承認なしに、である。

 北朝鮮はこれらを見て、アジア太平洋地域におけるアメリカの施設に照準を合わせた核兵器を保有する必要を確信した。そうすれば、自国の安全保障を独自に確保できると考えたからだ。それは、この国の基本的な国家理念である「主体(チュチェ)思想」とも合致する。つまり、アメリカとの正常かつ友好的な外交関係の樹立も、中国やロシア、あるいはどこか他の国との特別な関係の構築も当てにしないということだ。

 北朝鮮が、アメリカの攻撃はないだろうと踏んだ根拠は、大別すれば5つある。第一に、北朝鮮の核による抑止効果。第二に、北朝鮮の通常戦力による抑止効果。第三に、アメリカの同盟国である韓国からの反対。第四に中国やロシアといった国の反発。第五にはイラクの状況、イランの核問題、そして全般的に不安定な中東情勢が、アメリカに同時多発的に課している制約である。

5つの根拠

 核の抑止効果については詳細に述べる必要もないが、北朝鮮の場合、通常戦力もまた非常に大きな役割を果たしている。北朝鮮は100万人規模の軍に加え、500万の戦闘員からなる準軍事機構を持っている。これらが展開されて攻撃態勢をとるならば、韓国と在韓米軍にとって重大な事態となる。アメリカはクリントン大統領時代(1993-2001年)に、金正日政権の転覆に必要なコストを試算している。10万人の兵員を失い、直接的には1000億ドル、間接的には1兆ドルの出費が必要になるという。これは到底受け入れがたいコストである。

 また、北朝鮮のノドン型のミサイルは、日本に対する充分な威嚇となる。以上の要因からして、もしアメリカが平壌に対して攻撃を企てれば、確実に韓国、そしておそらく日本の反対にあうだろう。中国とロシアもアメリカの「先制」攻撃に異論を唱えることは確実だ。中国と北朝鮮は、1961年に友好協力相互援助条約を結んでいる。この条約は現在でも有効であり、修正あるいは破棄には両者の合意を必要とする。従って北朝鮮が侵攻された場合、中国はこの条約上の同盟国を支援する義務を負う。そしてアメリカは、北朝鮮が大量破壊兵器を保有しているというだけの理由で、中国と再び交戦するようなことは望んでいない。

 中国は、目下の課題として、自国の経済発展だけでなく、国家統一を目指している。この点に関しては、「台湾独立」に反対することが第一の重要事となる。北朝鮮は、数万人規模のアメリカ軍を韓国で釘付けにすることで、中国の国家統一計画に対するアメリカの軍事プレッシャーの緩和に一役買っている。つまり、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍事的脅威を「分かち持つ」ことで、中国を援護しているわけだ。北朝鮮の指導部はさらに(1961年の条約に基づく)同盟国として、北東アジアのメーンゲートにおける中国の防衛を助けてもいる。中国は、このように自国の安全保障の強化に寄与している北朝鮮を見放すことはできないし、北朝鮮に対する広範な制裁に加わる可能性も低い。

 北朝鮮は、中国が朝鮮半島の安定重視の観点から、同国の「体制転換」を回避する方向に動くと読んでいるに違いない。それが的を射ているとすれば、中国は隣国の核実験が引き起こす結果を否応なしに甘受せざるを得ない。北朝鮮の指導部はさらにロシアについても、今回の核実験が間違いなく不愉快であったにしろ、それほどの制裁を加えてはこないと見ている。ロシアは北朝鮮と複雑な関係を保っているため、アメリカがこのアジアの隣国に軍事力を行使するような真似に出れば、「地政的安全保障」の見地から断固として非難するだろう。

 アメリカはといえば、国際舞台の上でもはや手が回らなくなっている。アフガニスタンでの戦争は終結にほど遠い。イランの核問題に対する強硬姿勢は袋小路に陥っている。イラク情勢は、今後も長らくアメリカの政治家を悩ませるだろう。アメリカはイラクの泥沼にはまり込んでいる。イラクに介入したことで、軍の犠牲は2700人以上、出費は既に3000億ドルにのぼる。こうした現状の下、ホワイトハウスがさらに新たな戦線を開き、共和党を政治的リスクにさらすとは考えにくい。

損害を最小限に抑える道

 北朝鮮指導部は、以上の要因を考え合わせた結果、核実験を決行してもそれほど不利な事態にはならないと判断した。アメリカから核攻撃を受けるおそれは実際にはないし、「国際社会」が深刻な経済制裁を科してくる心配もない。従ってしばらくの間、実害のない程度の国際的制裁措置を被った後に、核保有国クラブの事実上のメンバーに加われるだろう。インドやパキスタンが、1998年の実験の数年後に、友好と尊重をもって遇される諸国の一員に復帰したのと同じことだ。

 東アジアにおけるアメリカの同盟関係がたいして堅固ではないと見る「国際社会」では、日本と韓国が北朝鮮のこうした態度を見て、独自の核軍備計画を展開するのではないかという懸念が消えない。その可能性は完全に否定できないとはいえ、さほど高くはないだろう。もしも日本と韓国がアメリカとの同盟をさしおいて核軍備に乗り出せば、それはもはやアメリカの軍事的庇護を信用せず、自主的な国防に突き進むという意思表示になる。両国の対米関係は致命的に悪化し、東アジアの安全保障におけるアメリカの役割が揺さぶられることになる。北朝鮮の核実験は阻止できなかったものの、アメリカは依然として、東アジアの同盟諸国が同じ道に走ることを阻止することはできるのだ。

 北朝鮮の最初の核実験の発表後、日本の一部の高官が、日本にも核軍備の議論が必要ではないかと言い出した。しかし日本の世論とアメリカのプレッシャーにより、そうした声はすぐにかき消された。ライス国務長官は、アメリカは可能な限りの手段で日本を守るつもりであると改めて強調した。また、ラムズフェルド国防長官も、アメリカは断固として韓国を守るという意向を表明した。

 北朝鮮は、自国の核実験が引き起こす結果を次のように予測している。「国際社会」による制裁は限定的なものに留まる。中国はそれに加わらざるを得ない。アメリカは東アジアの同盟諸国との軍事協力を強化する。そして、北東アジアの安全保障問題、つまり北朝鮮と中国との関係は複雑化する。

 一方、中国の側には、ほとんどと言っていいほど選択肢がない。安全保障に関する中国と北朝鮮の関係は、片側通行ではないからだ。確かに、核軍備計画を断念させるための12年間にわたる中国の努力は、水泡に帰した。とはいえ、北朝鮮の追求する国益が中国の基本的な利益を害さない限り、中国としては北朝鮮に過大なプレッシャーはかけられず、北朝鮮が独自の行動をとるのを阻止できない。こうした「利益のバランス」は、過去において存在しただけでなく、「台湾独立」の問題がくすぶっているがゆえに、今日でも意味をなすものだ。

 もしも北朝鮮が新たに核実験を行えば、中国としても、北朝鮮にとって打撃となるような国際的制裁(核技術の輸出入の制限など)に加わることになるだろう。しかし、それ以上の措置に出ることは拒否するに違いない。中国の立場としては、かなり厳しい姿勢をとらなければ無責任な大国だとみなされかねない。その一方で、厳しい制裁措置を発動すれば、北朝鮮を極端な行動に走らせたり、「体制転換」につながるおそれがある。この両極の間で、中国は損害を最小限に抑える道を選ぶことになる。そこに北朝鮮は賭けたのかもしれない。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2006年11月号)

* 著者名が消えていたのを修正(2006年11月29日)

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