お誂えベースの民主主義

イグナシオ・ラモネ(Ignacio Ramonet)
ル・モンド・ディプロマティーク編集総長

訳・にむらじゅんこ

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 民主主義は、しばしば最良の政治システムだと言われてきた。しかしそれは長年にわたり、希有な統治形態であった。理想的な民主主義は、弱者に対して強者が完全に誠実であり、あらゆる権力の乱用が徹底的に糾弾されることを前提とするが、それを完璧に満たすような体制はない。理想的な民主主義には、必ず遵守すべき5つの基準がある。自由な選挙、組織化された自由な野党、実質的な政権交代の権利、独立した司法システム、自由なメディアの存在だ。これらの基準が満たされてなお、フランスやイギリスのような民主国家は、長い間女性の選挙権を拒否していた。しかも両国は植民地列強として、現地の住民の権利を踏みにじってきた。

 こうした難点を抱えながらも、民主主義という統治方法は世界的に広がっていった。まず、アメリカ大統領ウィルソン(1856-1924年)の強力な推進策があった。さらに、冷戦の終焉とソ連の消滅という要因が大きく働いた。この時期には「歴史の終わり」が宣言されている。もはや障害はなくなり、すべての国家が「最高の幸福」をもたらす2つの目標をいずれは実現できるという見立てからだ。市場経済と代議制民主主義という2つの目標が、疑問の余地のないドグマとなったのだ。

 ブッシュ大統領はこのドグマを大義名分とすることで、イラクでの武力行使を正当化できると考えた。国外に設けた秘密の監獄で軍が拷問を行うことを許可したのも、同じ大義名分による。グアンタナモ収容所についても同じである。国連人権委員会の報告書や欧州議会の決議で告発されているように、グアンタナモの収容者たちは、あらゆる法の枠組みの外に置かれ、非人道的な扱いを強いられている。

 このような重大な違法行為にもかかわらず、アメリカは民主主義の世界的な審判役を気取って憚らない。アメリカ政府は敵対する諸国を片っ端から「非民主的」、さらには「ならず者国家」「圧制の拠点」などと決め付けて、貶めてきた。汚名をすすぐための唯一の条件は、「自由な選挙」を実施することだ。

 だが、自由な選挙といっても結果次第だ。ベネズエラがそのいい例である。チャベス大統領は1998年以降、国際的な監視団が問題なしという条件下で繰り返し当選しているが、それには何の意味もないらしい。アメリカ政府は、チャベス大統領を「民主主義にとって危険な存在」だと非難し続けており、2002年4月にはクーデターの扇動まで行っている。このベネズエラの大統領は、今年12月に再び有権者の判断を仰ぐ。

 さらに3つ、イラン、パレスチナ、ハイチの例に見られるように、もはや民主的に選出されるだけでは充分ではない。まずはイラン。2005年6月の選挙は、誰もが素晴らしいと認めるものだった。有権者は大挙して投票に向かった。さまざまな組織から多彩な(ただし公式路線たるイスラム主義の枠組みに沿った)候補者が出ており、なかでも欧米から支持を集め、当選確実と見られていたラフサンジャニ氏の選挙運動は華々しかった。この時点では「核の脅威」などと言い出す者はいなかった。なのに、アフマディネジャド氏が当選すると、すべてががらりと変わった(いずれにしろ彼のイスラエルについての発言は容認できない)。そして今、イランは悪玉に仕立てられている。

 イラン政府は核不拡散条約(NPT)に調印しており、核爆弾の保有など望んでいないと主張している。にもかかわらず、フランスの外務大臣はつい先日、イランが「秘密裏の軍事的な核開発計画」を推進していると糾弾した(1)。アメリカのライス国務長官は、この前の選挙をもう忘れたのか、イランにおける「民主主義の促進」のため7500万ドルの予算を議会に要請した。

 ほぼ同じようなことがパレスチナについても言える。アメリカと欧州連合(EU)は、多数の外国人監視団の立ち会いのもとに「真に民主的」な選挙を実施せよと求めたくせに、それで出てきた選挙結果を否定した。イスラム民族主義の立場をとるハマス(イスラエル市民に対する卑劣なテロの実行組織)の勝利が気に食わなかったのだ。

 ハイチに関しても、今年2月7日の大統領選の運動期間中、最終的には当選したプレヴァル氏に対し、「国際社会」は当初あらゆる妨害活動を行った。アリスティド元大統領とつながりがある彼の当選は、是が非でも阻止したかったからだ。

 「民主主義は、最悪の体制である。それ以外のあらゆる体制を別とすれば」とチャーチルは言った。今日において始末に困るのは、選挙の結果を前もって確定できないことだ。お誂えベースの民主主義の確立を目論んでいるやからにしてみれば、思惑通りの結果が出てくることが必要なのだ。

(1) ル・モンド2006年2月17日付。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2006年3月号)

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