ブッシュとドルと双子の赤字

イブラヒム・ワード(Ibrahim Warde)
フレッチャー法律外交大学院助教授、
マサチューセッツ州メドフォード

訳・佐藤健彦

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 「それはわれわれの通貨である。しかしそれはあなた方の問題である(1)」とは、ニクソン政権で財務長官を務めたジョン・コナリーが1971年に言った言葉だが、第一次ブッシュ政権のドル政策についても同じことが言える。「テロとの戦い」とイラク戦争を優先課題に据えたアメリカの指導者層は、重要な国際的経済問題にほとんど関心を払ってこなかった。彼らは投機筋による下げ基調を誘導しないよう、強いドルが望ましいと公言してきた。しかし、市場に全幅の信頼を置いてみせることによって、膨大な額になった「双子の赤字」、つまり財政赤字と貿易赤字については隠蔽する姿勢を強めていた。

 ブッシュ政権は2000年の時点で、前政権から2400億ドル近い財政黒字を受け継いでいた。しかし2001年の景気後退(による税収減)、共和党が優位を誇る議会で(財政黒字が構造的になったという仮定から)可決された大幅な減税案、9・11事件に由来する防衛・国内治安予算の新たな増大により、経済成長が回復したまさにその時期に、貴重な黒字は大幅な赤字へと変わった。赤字額は、2004年には4120億ドル、つまり国民総生産(GNP)の3.6%に達した。これと並行して、貿易赤字は3年連続で拡大し、2004年に6180億ドル(GNPの5.3%)という史上最高額を記録し、2003年度に比べ24.4%の増加となった。

 アメリカの「双子の赤字」については、G7(米、日、独、仏、英、加、伊)の全ての会合や他の重要な国際会議で取り上げられている。しかし、それらの会議で、アメリカの財政均衡回復策として推奨されるのは、増税、防衛費削減、貯蓄促進など、アメリカにとって痛みを伴い、ブッシュ政権の主要政策に逆行するものである。

 アメリカは輸出額より輸入額の方が50%多い。世界一の経済大国アメリカの豊かな暮らしを支えているのは、アメリカ国債に投資している外国人投資家である。このドルの還流による調整には、アメリカの費用を海外に移転するという利点がある。他国の経済成長、雇用、貯蓄を利用できることになるからだ。ドルが弱くなると、アメリカで生産された製品の国際競争力が上がる。外国人投資家にとっては、アメリカ資産の購入が(価格低下のために)より魅力的になる。また、3兆ドルといわれる貿易赤字の重みが相対的に下がる。

 歴史上、基軸通貨国が世界最大の債務国であるということは一般的ではない。栄華の頂点を極めていた1913年の大英帝国は、当時、世界の主要債権国でもあった。イギリスは続く50年間、ポンド防衛のため全力を尽くしたが、完全な敗北に終わり、イギリス産業の弱体化を招いただけだった。他国の中央銀行はドルを外貨準備に用いるがゆえに裏づけを求めることがなく、アメリカはドルを必要に応じて増刷することができる。かつてド・ゴールはこれを「法外な特権」と呼んだ。この基軸通貨国の特権の別形態であるドル安という武器を用いれば、理論的にはアメリカの双子の赤字を痛みなしに解消することができると考えられている。

 この分析には政治的な思惑も加わっている。2004年11月の大統領選挙間近に行われた世論調査によると、アメリカ有権者の多くは、財政再建には民主党上院議員のジョン・ケリーの方が適任だろうと考えていた。選挙が大接戦になるだろうと予測されていた状況下で、ブッシュ大統領には、経済成長と雇用面で良い実績がどうしても必要だった。これを実現できそうな唯一の方法がドルの過小評価だった(2)

 しかしながら、既に下がりはじめていたドルが急落したのは、再選が決まってから数週間の間のことだった。2004年12月、ドルはほとんど毎日下落し続け、クリスマス直前には史上初めて1ユーロ=1ドル35セントを割り込んだ。全体的に見ると、2002年から2004年にかけて、ドルはユーロに対し20%低くなった。毎年恒例の、必ずしも当たるとはいえない年末予想で、銀行家とエコノミストは、2005年にドルがさらに大きく下落するだろうという見解で一致した。

奇妙な循環

 この予測は、多くの要素によって理由づけられている。ブッシュが再選されたということから、無謀な外交政策と放漫財政が今後も続くことが予想される。再選時の票差が少なかったことにめげず(対立候補より3ポイント優勢なだけだった)、自分は困難を伴う大胆な改革に着手する「負託」を受けたのだと公言しているだけになおさらである。そして、物議をかもしている多くの措置を敢行するために「政治的資本を取り崩す」つもりだと述べる。その一例が連邦年金制度の部分的な民営化であり、政府の負担は第一段階だけで数千億ドルにのぼる見込みである(3)

 ドルに暗雲がただよっているのは、「市場」による対外債務削減という政策が失敗したためでもある。ドル安のおかげで、アメリカの輸出が伸び、輸入が減るはずだった。ところが、財政均衡が回復されるどころか、赤字は著しく拡大し、アメリカ経済の構造的脆弱性が露わになった。アメリカの金融関係者がそこから引き出した結論は、ドルがまだ十分に安くなっていないというものだった。貿易赤字を半減するためには、ドルがさらに30%下がり、1ドル=0.55ドルの水準になるべきだと述べる者さえいた。

 こうした状況はドルの保有者の不安を呼んだ。その筆頭が、それまでドルを懸命に支えてきた諸国の中央銀行である。2003年、諸国の中央銀行は、アメリカによる輸入の代価としてドルを受け取り、他の通貨と交換せずに保持することにより、アメリカの経常赤字の83%を補填した。アジア諸国の中央銀行の保有するドル資産総額は2兆ドルに達すると推定される。中国や日本その他の国が、価値の低落するドル建て資産をこれほどの規模で蓄えてきたのはなぜなのか。それは彼らが、余分なドルを売ることによって為替市場で自国通貨の価値が上昇する、という事態を避けようとしたからだ。つまり自国の輸出競争力を重視したのである。彼らは保有ドルをアメリカ国債に投資することによって、金利を極端に低く保つことにも貢献した。この奇妙な循環を通して、アメリカの貿易赤字は、自国の債務とアメリカ市民の貯蓄性向の低さを補う資金源となっているのである。

 しかし、ドル安更新への対策として、一部諸国の中央銀行は、ドルの購入を減らして、ユーロをはじめとする他の通貨に切り替えることを決定した。海外への輸出を促進するために多少の損失をこうむるのは織り込み済みとはいえ、ドル続落の付けを回されるのは想定外だというのが、この戦略転換の理由である。2004年11月19日、連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長は、外国人投資家がいつかアメリカの財政赤字の増大にうんざりし、「ドル建て資産に魅力を感じなくなる」ことは避けられないだろうと予想外の指摘をした(4)。数日後、中国人民銀行貨幣政策委員会の余永定は、中国が「外貨準備高のうち、アメリカ国債の形で保有する分を絶対額ではなく割合として減らした。ドル急落に備えるためだ」と述べている。

 この傾向は、最近セントラル・バンキング・パブリケーションズから刊行されたアンケート結果によっても確認される。このアンケートによると、対象となった67カ国の中央銀行のうち3分の2以上が、2004年9月から12月にかけて、外国為替準備高にドルが占める割合を減らしている(ドル保有額は現在も70%と突出しているが、30年前には80%もあった)。調査グループの一員であるニック・カーヴァーは「諸国の中央銀行のドルに対する熱意は冷めた。アメリカは今後彼らの無条件の支持を当てにしてはならない」と語っている(5)。ユーロ圏からの輸入が多い産油国は、ドル建てで売っている石油が高騰しても、ドル安のせいで収入が目減りしてしまうことを好ましく思っていない。また、一部のアラブ諸国は、彼らがアメリカに保有する資産がテロ対策の名目で凍結されるのではないかとも危惧している。

人民元という要因

 為替政策は厳密科学ではなく、期待はずれの効果に満ちている。通貨の切り下げも一定限度を超えると、プラス面よりもマイナス面の方が多くなってしまう。自国通貨の下落を防げずにいるアメリカの指導層は、ドルという武器の効果が自分たちにはね返ってくる可能性に気がついた。アメリカはドルを支えるために、毎日18億ドルの資金を必要としている。もし信認が傷つくようになれば、ドルは「他国の問題」とは言えなくなる。ドル安が続くことが予測されれば、連鎖反応が始まるかもしれない。つまり、外国人投資家はドルの購入や保有、あるいはアメリカ国債の引き受けに当たって、金利の引き上げを要求する。ドル安のリスクが大きければ大きいほど、金利プレミアムは引き上げられなければならない。しかし、金利が高騰すれば、投資や消費に恐ろしい影響を及ぼす。他国に比べてローンが普及しているアメリカでは、特に影響が大きい。例えば、これまで歴史的に低い金利のおかげで好調だった不動産市場は、暴落するおそれがある。そして、諸国の経済システムと通貨システムは密接に絡み合っているため、アメリカの景気後退は世界経済に影響を及ぼすことになる。

 ドル安の代償を主に払ってきたのは、第一にヨーロッパ、次いで日本である。欧州中央銀行(ECB)のダウゼンベルヒ初代総裁は「強いユーロで強いヨーロッパを」をモットーとしたが(6)、ヨーロッパにはユーロ高を歓迎する者はほとんどいない。このモットーの前半は実現されたわけだが、トリシェ第二代総裁の目下の嘆きはドルの急落が、ヨーロッパ産業の競争力を大きく殺いできたことだ。2004年の時点で、ユーロ圏は世界で最も経済成長率が低い地域の一つであった。それにもかかわらず、薬のつけようもない楽観論者は、ユーロ高に利点を見つけ出した。石油はドル建てなので、高騰の影響が減殺されるというのだ。2004年11月、フランスのサルコジ財務大臣(当時)は、このような理由からユーロが過大評価されても「悪いことばかりではない」との見解を示した。

 中国は1994年に人民元(公式名称は人民幣)をドルにペッグして以来、通貨政策ではアメリカと利害が一致する。つまり、中国はドル安の進行によってアメリカに対する競争力を維持し、他の地域に対しては競争力を増した。米中関係の不均衡は著しい。アメリカの対中貿易赤字はそれだけで2070億ドルにのぼり、全体の3分の1以上を占める(7)。一部のアメリカ人は、誰も太刀打ちできないような低価格の製品が大量に流入することを歓迎している。アメリカの流通大手で、国内最大の従業員を擁するウォルマートは、販売している製品の70%を中国から輸入している。しかし、これを不正競争と見る企業、賃金労働者、政治家が次第に増えて、中国政府へ完全な変動相場制への移行を要請するよう、自国政府に働きかけるようになった。20年前、アメリカ政府の通貨・貿易政策の筆頭を占めていた問題は、日本からの自動車と電子部品の輸出、それに円相場だった。

 アメリカの政治指導者の公式の立場は、何度も繰り返されてきたように、人民元は40%過小評価されており、中国人民銀行は為替相場への大規模な介入を止めるべきだというものである。中国政府の反応ははっきりしていない。中国の上層部で議論が開始されているのは間違いないが、外に向けて発されたシグナルは今のところ矛盾に満ちている。中国の一部の指導者は、中国にはドルと人民元のペッグの緩和、さらには廃止に向けて、資本市場の柔軟化を実施するつもりがあると確言する。副首相の黄菊は、中国政府が段階的に「人民元の為替レジームを改革していく」方針だと述べつつも、「市場メカニズムと、健全に運営されるシステムを構築するためには、安定したマクロ経済環境」を作り出す必要があることを理由として、具体的な時期については公表していない(8)

 また別の指導者は、政策の変更などあり得ないと言う。中国人民銀行貨幣政策秘書長の易鋼によると、中国政府は「中国経済の安定を維持し、成長を促進する」ために「単一為替レートと管理された変動相場という通貨政策」を続行するという。2005年2月4日のG7の会議で、中国人民銀行総裁の周小川は、各国の財務大臣の前で説明を促されたが、市場関係者の気をもませている問題については返答を拒否して議論を打ち切った。

 つまり、中国政府は自国の通貨主権を主張していくつもりだということだ。1997年から2004年にかけて、平均年率9.5%という、飛び抜けて高い経済成長率と、13億人の人口を抱える市場の計り知れない潜在力のため、中国は全ての多国籍企業にとって黄金郷となった。まさに経済大国となった中国は、1976年には世界経済の1%にしか満たなかったが、現在は4%を占めている。2020年までに中国が世界全体の生産の15%を占めるようになると推測する者もいる。

第二のプラザ合意は困難

 中国は、真の科学技術大国とまで行かなくとも、世界の工場であるだけでなく、世界経済の牽引役たらんともしている。中国は既に、先進国の工場移転から日本経済の回復、一次産品価格の高騰にいたるまで、ありとあらゆる経済問題の中心部にいる。中国の企業グループ、レノヴォ(聯想集団)がアメリカ大手企業IBMのパソコン事業を買収したことは、既に40個以上の衛星打ち上げに成功し、月面探査と2年毎の有人飛行を計画している国家の野望を象徴的に示すものだ。

 中国の指導者は、通貨面での力関係が変われば自国経済のリスク要因となることを認識している。インフレ、不動産投機、銀行部門の脆弱性、未発達な資本市場など、不安定要因は多い。社会的不平等の増大と民主主義の欠落を考えれば、大規模な政治的不満の爆発が起きてもおかしくない(9)。経済成長の急激な減速を避けることに何よりも腐心するエリートが、慎重になるのも道理である。そんなことになれば、アメリカとの関係を含め、経済と政治の両面で計り知れない影響を招くことになるからだ。中国が、イラン、北朝鮮、台湾など、多くの懸案事項についてアメリカと反対の立場をとり続けていることを忘れてはならない。

 各国が自国利益を追求するよりも、通貨管理で協調していくことが望ましいことは、おそらく投機筋は別として、共通の認識となっている。にもかかわらず、国際通貨情勢についての分析の多くは、衝突が避けられないことを示している。「通貨分野における恐怖の均衡」、為替市場への欧日の共同介入、さらにはアメリカが中国製品を買い、中国がアメリカの赤字を補填し、その他の諸国と対立するという「大同盟」などが想定されている(10)。これまでにも、日本が保有するアメリカ国債の多くを売却するとか、アメリカが中国に対し報復措置をとるなど、脅しを実行に移す国も出てくるかもしれないという展望が、金融市場に繰り返し動揺を引き起こしてきた。

 国際通貨関係史上の転回点となったプラザ合意の時のように、米欧中日の「四大勢力」が協調介入すれば、為替投機に歯止めをかけ、乱高下を抑えられる可能性がある。1985年9月22日、G5(米、日、英、仏、西独)の蔵相と中央銀行総裁がニューヨーク市のプラザホテルで会議を開き、「ドル以外の為替相場の秩序ある回復が望ましい」との決定を下し、5カ国は「調整を促進するために今までより緊密に協力する用意がある」ことを明らかにした。この暗合めいた言葉が、レーガン政権のベイカー財務長官の下で進められたドル安協調への前奏曲となった(11)

 このような合意は今日では実現しそうにない。政権に単独主義の気配が広がり、様々な「イデオロギー上」の理由が働いているために、協議の原則そのものが通りにくくなっている。それに、現在の世界の経済政策責任者のうちに、ベイカーの担った役割を務められる人材はいない。アメリカの財務省には、20年前のような国際的な威光はもはやない。ブッシュ大統領が最初に財務長官に任命したポール・オニールは、自主的すぎるとの理由で更迭された。彼のブッシュ政権での経験について触れた本の中に、大統領がアメリカ経済の現実について無知で、閣議では「耳が聞こえない人間ばかりの部屋にいる目が見えない人間」と化していると述べたくだりがある(12)。イラク戦争以来、ブッシュ大統領は、自由を旗印とした大規模な十字軍に専心し、財政問題にはますます関心を払わなくなっている。

 おまけに、昨年11月の再選以来、イエスマンだけに取り囲まれるという傾向が強化されている。ブッシュ政権の閣僚に選ばれるために一番重視されるのは、大統領に対する忠誠度であり、実力ではない。現財務長官のジョン・スノーは、大統領の政治担当補佐官たちによって、決定プロセスから排除されている。任期更新となった79歳のグリーンスパンFRB議長にしても、これ以上の続投はないため、後継者争いが始まっている。次期議長の座を狙う者は、現政権の正当化しにくい経済政策を熱心に擁護することで、ブッシュ大統領から絶対的な信頼を得るとともに、「市場」の信認を得るという、どうにも無理のある仕事をこなさなくてはならない(13)。こうした経済分野での権力の空白を前に、イラク戦争の「売り込み」に成功し、大統領の再選を支えた勢力は、現政権の予算・金融政策の正しさを国民に納得させようと奮闘している。

ブッシュ政権の「緊縮政策」

 第二期ブッシュ政権が公式に発足した2005年1月20日以降、「双子の赤字」をめぐる新たな言説と新たな戦略が打ち出されている。ドル問題に対する意識的な無視(ビナイン・ニグレクト)は許容範囲を超えてしまった。ドルが暴落する可能性は現実にある。政権の主張するところでは、赤字削減は、以前のようなドルの切り下げによってではなく、高い経済成長によって実現され、それは新たな減税策によってもたらされる。ブッシュ大統領に言わせると、「長い目で見れば、赤字を減らす一番良い方法は、経済を成長させることである。我々は、アメリカ経済の強さ、革新性、競争力を増すために、必要な措置をとっていく」

 今では、貿易赤字は、アメリカ経済がむしろ健全であることの反映だと解釈されるようになっている。それゆえ、特に注意を払う必要はない。ヨーロッパをはじめとする他の諸国こそが、減税と投資優遇政策によって経済成長を回復すべきである。スノー財務長官に言わせると、「貿易赤字は二つのことを反映している。一つは我が国の迅速な経済成長が貿易相手国のそれより強力なこと。もう一つは、世帯収入と雇用率が上昇したことで可処分所得が増え、その一部が貿易相手国からの製品購入に回されていることである(14)」。最初は赤字のあまりの多さを嘆いていたグリーンスパン議長も、現在では「アメリカ経済の柔軟性が増したことで、深刻な影響なしに、経済活動全体の調整が促進されていくだろう」と、逆にドルを支持する発言に転じている。 

 第一次ブッシュ政権と同じように、政府の公式な政策は強いドルの必要性の明言であるが、今回ばかりはドル下落の食い止めが真剣に目指されている。2005年2月2日、FRBは公定歩合を2.5%に引き上げた。ECBの政策理事会が公定歩合を2%に据え置くことを決定した現状で、対米投資の収益率を引き上げれば、ユーロに対してドル相場を支えることになるからだ。

 ブッシュ大統領は改めて「赤字を半減させる」ことを主張し、治安と防衛以外の全ての部門へ「緊縮政策」を広げるべきだと語っている(防衛費は前年度より190億ドル多くなっている)。2006年度の予算案によると、政権が「無駄、余計、あるいは優先される必要がない」とみなす150以上の政府計画は大幅に縮小されるか、廃止されるという。福祉プログラム、特に子供や貧しい人のためのものは、第一のターゲットとされ、年々その絶対額は減ってきている。

 ブッシュ政権が組み上げた予算案は、非現実的な仮定に依拠し、ある種の巨額の支出は除外している。国家財政を大きく食いつぶしているイラクとアフガニスタンでの軍事作戦は忘れられてしまっている(15)。年金制度の一部民営化は10年で少なくとも7540億ドルかかるが、そのことも忘れられている。

 その一方、ブッシュ政権と、政権寄りの共和党議員は、税収が増大すると見込んでいる。その手段というのは減税である。ブッシュ大統領は、消費拡大と経済成長の促進を目的として最初の任期で可決された、1兆8000億ドルにおよぶ巨額の減税の恒久化を提案したのだ。税収は2004年の時点で既に国内総生産(GDP)の16.3%にすぎず、1959年以来最低の水準となっている。財政が黒字だった4年前には21%にのぼっていたにもかかわらず、である。

 一部の、それもかなり有力な政治家にとっては、財政赤字削減より減税の方がいつの世も急務である。これから大規模な改革を進めていくつもりのチェイニー副大統領は、そうした確信の下にこう述べている。「レーガンは、赤字など問題にならないというのを立証した(16)

(1) B.アイケングリーン『グローバル資本と国際通貨システム』(高屋定美訳、ミネルヴァ書房、1999年)。
(2) それでもブッシュは、1932年に再出馬したフーヴァー大統領以来、第一期中に雇用を減らした最初の大統領となった。
(3) もしこの計画が最終的に実現すれば、労働者は給料の一部を天引きされ、それを自分の年金を蓄えるための私的な資産形成に振り向けるようになる。政府は税収不足のため、現在の年金受給者への支給額を借り入れで賄うことになる(10年間で7540億ドルと言われる)。
(4) Larry Elliott, << US risks a downhill dollar disaster >>, The Guardian, London, 22 November, 2004.
(5) Mark Tran, << Move to euro hits US finances >>, The Guardian, London, 24 January, 2005.
(6) Willem F. Duisenberg, << The first lustrum of the ECB >>, speech at the International Frankfurt Banking Evening, Frankfurt, 16 June 2003, http://www.ecb.int
(7) David E. Sanger, << U.S. faces more tensions abroad as dollar slides >>, The New York Times, 25 January, 2005.
(8) William Pesek Jr., << Dollar skeptics in Asia have prominent company >>, International Herald Tribune, 3 February, 2005.
(9) ル・モンド・ディプロマティーク2004年10月号の中国特集を参照。
(10) エリック・ル=ブーシェ「米中巨大同盟 vs 世界」(ル・モンド2004年1月25日付)、ピエール=アントワーヌ・ドロメ「通貨面での恐怖の均衡」(ル・モンド2005年1月5日付)参照。
(11) ドルは、1980年第一四半期の1ドル=4.15フランから、1985年第一四半期に1ドル=9.96フランになったが、1986年第一四半期には7.21フラン、1987年第一四半期には6.13フランの価値しかなくなった。対ドイツマルクでは、同時期それぞれ1ドル=1.77マルク、3.26マルク、2.35マルク、そして1.84マルクだった。18の通貨に対する1972年から2002年までの四半期ごとのレートについては、ジャン=マルセル・ジャヌネ、ジョルジュ・ピュジャ編『西ヨーロッパ経済とその国際環境、1972年から現在まで』(ファイヤール社、パリ、2005年)を参照。
(12) ロン・サスキンド『忠誠の代償』(武井楊一訳、日本経済新聞社、2004年)。
(13) Paul Krugman, << The Greenspan succession >>, The New York Times, 25 January, 2005.
(14) Elizabeth Becker, << Trade deficit at new high, reinforcing risk to dollar >>, The New York Times, 13 January, 2003.
(15) 年度の途中で複数の補正予算案が個別に議会の審議にかけられた。最も最近のものは、イラクとアフガニスタンへのアメリカ軍の駐留費用810億ドルで、予算には計上されていない。
(16) ロン・サスキンド、前掲書。


(2005年3月号)

* 小見出し「奇妙な循環」から四つ目の段落の末尾に句点を追加(2005年3月29日)

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