火星が青い星になる日

ロラン・ルゥク(Roland Lehoucq)
宇宙物理学者、フランス原子力庁所属

訳・瀬尾じゅん

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 宇宙、あるいは太陽系惑星へのコロニー建設という遠大な計画に挑もうとすると、どうしても、避けて通れない技術的な問題にぶつかる。地球外で人間の生存に適した環境を長期的に維持するためには、そこの空間の実際の環境がどうであろうと発展と再生ができるような、地球生態系のミニチュア版を作らなくてはいけない。月にしても火星にしても、あるいは宇宙に浮かぶ巨大ステーションにしても、地球外に人類が住めるコロニーを建設する際には、大気、水、植物が存在せず、外気は非常に高温か、あるいは極端に低温、そして紫外線とX線、放射線量が多すぎる点がどれも障壁となってくる。未来の惑星コロニーの場合、野心的な解決策がある。惑星の表面の条件を人類が生命を維持できるものに改造するのだ。この壮大な惑星エンジニアリング事業は「テラフォーミング」と呼ばれている。

 人間が火星表面の条件を積極的に作り替えるというアイデアは、1917年に出たエドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』という小説に既に見られる。この作品は11冊のシリーズ物の第1作で、大気の「製造工場」が火星を居住可能な惑星に変えるという設定になっていた。同じようなアイデアは英国人作家、オラフ・ステープルドン(1886-1950年)も小説にしている。1930年に出た彼の『最後にして最初の人類』は20億年にわたる人類の未来を物語る一大巨編である。そこでは有毒ガスを吸収し、酸素を放出する遺伝子組み換え植物によって、海王星の大気は酸素呼吸可能なものに変えられている。

 「テラフォーミング」という用語は、アメリカのSF作家、ジャック・ウィリアムスンの1951年に出版された『シーティ・シップ』という作品の中で初めて使われたというのが、大方の一致した意見である。そこでは惑星を人類が居住可能な環境に変えるために実施される事業をまとめて指す言葉になっている。以降、テラフォーミングはSF作家がよく採り上げるテーマになった。1952年、アーサー・C・クラークは小説『火星の砂』の中で、核反応を利用して衛星フォボスを燃焼させ、この惑星を暖めるというアイデアを描いた。フランク・ハーバートの出世作『デューン砂の惑星』(1965年)では、フレーメン族が帝国惑星学者リエル・カインズの力を借りて、広大な砂漠からなる自分たちの惑星、アラキス星を緑化する計画を立てる。しかしなんと言ってもこのテーマを扱った小説の真打ちは、キム・スタンリー・ロビンスンが1993年から96年に書きあげた3部作、『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』『ブルー・マーズ』である。作家はそこで、火星を居住可能な惑星に改造する事業と、その後の惑星での人間社会や政治を描いた。

 テラフォーミングはSF作家の想像力を掻き立てるだけでなく、科学者の興味も引いている。その最初の人物は、アメリカの高名な宇宙物理学者、カール・セーガンだ。彼は1961年、大気が存在し、大きさが地球に近いことが既にわかっていた金星の表面をより穏やかな条件にする方法を提案した。金星の表面はまさに地獄で、気温は摂氏480度に達し、気圧は地球の92倍もある。この点は1975年から82年の間に何度か着陸したソ連の探査機ヴェネラによっても証明されている。この過酷な条件下で、探査機が機能したのはわずか数十分間のことだったのだ。カール・セーガンの研究以降、テラフォーミングの認知度は上がった。最も活発な研究活動をしているのは、カリフォルニアにあるNASA・エイムズ研究センター(1)の科学者、クリストファー・マッケイである。

 テラフォーミングは一朝一夕にできるものではなく、対象惑星の居住可能度を段階的に上げていかなければならない。しかし非常に幸運なことに、テラフォーミングが完了する前に人間の居住を容易にするような手段がいくつもある。例えば、酸素呼吸には不適でも大気層を厚くすれば、宇宙粒子や高エネルギー線を防ぐすばらしい盾となる。エアブレーキによって宇宙船を周回軌道に乗せやすくなり、飛行体も使えるようになるだろう。ほとんど無重力状態に近い居住区を建設し、あるいは宇宙服を着用せず、簡単な酸素マスクだけで惑星上を散歩できるかもしれない。

温室効果ガスを求めて

 テラフォーミング成功の第一歩は、カナダの生物学者ロバート・ヘインズ言うところの「エコポイーシス」だ。不毛の惑星を改造して、生命が存続でき、完全な生態系を保てる場所に変えることである。というと、厳選されたバクテリア、あるいは遺伝子組み換えバクテリアを大量に散布すれば事足りるのではないかと想像してしまうが、それほど単純ではない。火星の場合を考えてみよう。表面の温度は一日のうちに摂氏マイナス140度からプラス20度まで大きく変わり、平均は0度をかなり下回る。気圧は極端に小さく、太陽の紫外線を遮断するオゾン層は存在しない。以下に述べる改造を実施しなければ、地球のバクテリアは、かなりタフなものでも生き延びることはできない。
  • 火星表面の平均温度を少なくとも60度上げる。気圧を上昇させる。

  • 水が液体の形で地表に存在するようにする。

  • 火星表面を直撃する紫外線と宇宙粒子を大幅に減少させる。

 リストをあげるのは簡単でも実現は難しそうだ。こうした困難を緩和してくれる現象が二つある。第一に、これらの改造はそれぞれ密接に関わりあっているので、条件の一つが変われば、別の条件も望みの方向へと促進される。例えば、気圧が上がれば、惑星表面が放射線から防御されるとともに、温室効果が生まれ、気温が上昇する。第二に、系には「プラスのフィードバック」がある。この専門用語のなかには我々の企てにとって好都合なサイクルが隠されている。状態の改善が、新たな改善を促すような条件を生み出すということだ。例えば、大気層を厚くするための気体や、気温を上昇させるための巨大ラジエーターを火星に運び込む必要はない。最初に強い推進力を与えておけば、火星の条件が高温状態(我々の期待によれば安定した高温状態)となるような方向への「自律的」な変化が始まるはずだからだ。これはまさに現在、人類が地球上でやっていることによく似ている。ただし地球の場合には好ましくない方向へと進んでいるわけだが。

 火星の表面には多数の起伏が観察されており、かつては液体、特に水が流れていたのはほぼ確実だろう。また、主に二酸化炭素からなる厚い大気層が地表を覆っていたと考えられる。エコポイーシスの筋書きは、こうした古代の環境を再現することが可能であるという考えに基づいている。最大の仮定は、火星上には今でも大量の二酸化炭素が、簡単に抽出可能な形態で表面に「貯留」されているというものだ。これを放出させれば、二面的な効果が得られる。第一に、気圧が上昇し、大気のもとが形成される。第二に、赤外線を吸収する二酸化炭素は温室効果ガスである。つまり、二酸化炭素が多くなるほど大気は暖かくなり、気温上昇メカニズムが始動する。気温が上昇すれば、極冠の氷が昇華(固体から気体への直接変化)することによって、あるいは火星の地層、レゴリス層のなかの気体が放散されることによって、二酸化炭素の放出が促される。二酸化炭素ガスが増えると、大気の気圧と温度はさらに上昇し、それがガスの放出を増大させ、それが気圧と温度がさらに上昇させ、といった循環が続いていく。ここでは、二酸化炭素ガス放出のために極冠やレゴリス層に手を出すという考えは視野にない。火星の一年(2)にわたって見るなら、春になって極冠が太陽光線の効果によって昇華すると大気圧は20%上昇する。同様に、冬には二酸化炭素の気体が固体化するため大気圧は下降する。

 しかしながら、極冠とレゴリス層に固着している二酸化炭素の量については、およその見当しかついていない。いくつかの推計によれば、極冠は現在の気圧を10倍から20倍にできるぐらいの二酸化炭素を含んでいるという。レゴリス層には気圧をその4倍から5倍、つまり地球のほぼ半分にまで上昇させられる量の二酸化炭素がたくわえられているという。しかし、そううまくもいかないかもしれない。ヨーロッパの探査機、マーズ・エクスプレス(3)の分光計オメガが2004年1月に、これまで信じられていた説を覆し、南の極冠の氷の成分の大半は水でしかないことを明らかにしたからだ。

 二酸化炭素が地球のように炭酸塩の形態で存在している可能性もある。地球では、二酸化炭素は海水中では炭酸塩の形で存在しており、炭酸塩鉱物となって地中をさまよった後、火山活動によって大気中に戻ってくる。火星でも、核爆発、隕石の衝突、レーザー光線の発射などの非常に荒っぽい手段を使えば、炭酸塩は気化するはずだ。惑星を手に入れるために爆撃から始めるというのは確かに人類の典型的な行動ではあるが、どうみても繊細さに欠けていて、情熱を掻き立てるものではない。

抵抗力のあるバクテリア

 ではどうやって進めるか。クリストファー・マッケイとロバート・ズブリンの研究は(4)、南の極冠の温度を4度上げるだけで火星の気象条件を変えるために必要な時間、エネルギー、技術を節約できることを示している。彼らがそのために提案するのは実に単純なことで、太陽光を集める巨大な反射鏡を宇宙空間に建設し、それで極冠の温度を上げればいいという。巨大(半径100キロは軽くあるような)かつ軽量で、また太陽光が反射鏡の表面に及ぼす小さいながらもゼロではない圧力が火星の重力によって相殺されるよう、うまく設置できるものが必要だろう。この反射鏡は照らし出すべき場所に対して静止状態になければいけない。いわば、ロシアが1999年2月のミール計画で展開した薄さ5ミクロン、直径25メートル、マイラー樹脂で被覆した反射鏡ズナーミャの巨大版である。

 極冠の気温を上昇させるもうひとつの解決策は、粉末炭素のように太陽光線を効率よく吸収し、気温上昇を引き起こす黒色物質を散布することである。NASAの研究によれば、この技術を使って約1世紀で極冠を溶かすことができるという。しかしここには不都合がある。火星の風は穏やかとはいえ、物質の散布を撹乱したり、形成された黒色物質の層を吹き飛ばしてしまうかもしれない。

 レゴリス層の場合には、問題はますます複雑である。鉱物に取り込まれた二酸化炭素は、再び大気中に放出させるのがさらに難しいからだ。この場合、気温の上昇が表層だけでなく、厚いレゴリス層(200メートル)にも及ばなければならない。この障害を回避するためには、大気中に別の温室効果ガスを注入することが考えられる。ジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』(1986年)に出てくる「大気処理装置」のような大工場で、二酸化炭素に比べ温室効果が1万倍のフロン分子を数百億トン生産するのだ。地球では、産業活動によって放出されるフロンが温暖化を招き、オゾン層に穴をあけてしまった。火星では、この問題は起こらないだろう。なんと言ってもオゾン層がないのだから。

 火星の条件が多少とも改善されば、微生物を投入できるようになる。温室効果に有効な気体、アンモニアやメタンを生成する微生物なら、惑星を温暖化させるのにも役立つだろう。しかし、この惑星は天国には程遠い状態にある。選ばれる微生物は極限状態でのサバイバルチャンピオンでなければならない。既に研究所でのシミュレーション実験で、メタン生成バクテリアのなかには低い気圧にも適応でき、火星の地中でも生存に必要な栄養分を見つけられそうな種がいくつかあることが示されている。ディノコッカス・ラジオデュランス(非常に高い電離放射線のなかでも生息できる)、あるいはマッテイア(水なしで生息可能)などのバクテリアの類まれなる抵抗力にも期待できそうだ。

 火星の大気層が厚くなれば、水があちこちで、表面を新たに流れるに十分な気温になるだろう。大気は相変わらず酸素呼吸に適さないが、微生物や地衣類は生息できるだろう。人間は気密服なしで歩けるかもしれない。とはいっても防寒服と酸素マスクは必要だが。

 大気を温暖化し、厚くすることは、驚くほど簡単な方法でできるかもしれないが、次のステップはさらに長い。数十億年前のような完全な水の循環ができあがるように、水圏を再活性化させなければならない。最も明白な貯蔵庫は極冠だと思われる。アメリカの火星探査機オデッセイ(5)が集めたデータによると、水は地中の氷の形でも大量に存在するようだ。

 さらに、水はレゴリス層の鉱物中にも含まれているだろう。火星に貯留されている分だけでは足りないとしたらどこかから持ち込まなければいけない。彗星の核、あるいは土星の環にある巨大な氷塊を捕捉して、火星の地表に突き落とせば十分な量の水を得られるかもしれない。またしても爆撃。しかし今回は大義が立つ。

 あちこちで、放出された水蒸気が凝縮されて雲になる。数十億年来初めて、火星の地表に雨が降るだろう。湖、奔流、河川ができ始める。火星の乾いた地表を水が蛇行し始める。マリネリス峡谷は水があふれ、ものすごい絶壁にはさまれた途方もない川幅の大河となるだろう。高度が地表の平均よりも2キロ低い北半球の平原は、北極を囲む海となるだろう。

新たな論争に向けて

 火星の大気中の酸素含有量を増加させ、呼吸可能にするためには藍色細菌(藍藻)、つまり極限状態でも生息でき、光合成によって二酸化炭素を吸収し酸素を放出する微生物を火星に散布しなくてはいけない。この微生物は地球上では20億年にわたって君臨した。精選されたシアノバクテリアはまず、酸素の分圧を1ヘクトパスカルの閾値にまで高め(6)、植物が自由に生育できる環境を作り出すだろう。これらの植物は火星の厳しい条件に順応でき、酸素の放出量を最大限に高めるよう、おそらく遺伝子を組み換えられたものになるだろう。酸素の分圧が120ヘクトパスカルを超えたとき、最初の入植者たちは酸素マスクを更衣室に置いたまま散歩に出かけるようになるはずだ。

 テラフォーミングは長期にわたる仕事である。火星の場合、かかる時間もさまざまな一連のステップを重ねていくことになる。最初のエコポイーシスの段階をうまく成し遂げるためには数百年を見積もらなければならないだろう。さらに数千年後、火星の地表で植物を生育させることが可能になるにちがいない。さらに数万年かけて、我々が手ぶらで呼吸するのに十分なだけの酸素を含んだ大気が生成される。

 このシナリオの大筋の締めくくりとして、我々の成功の確率について、もう少し悲観的なことも書いておこう。というのも、火星には、テラフォーミングのためのどんな試みも破綻させかねない二つの大きな障害があるからだ。まず、火星は地球より小さく、質量も少ないので重力が弱い。あまりにも弱いので、最初に生成された大気の大部分が、宇宙に漏れ出すのを防ぐことができない。たとえ大気を人為的に復活させたとしても、放出あるいは注入されたガスが宇宙空間に消散し、すべての努力を無に帰してしまうことは十分にあり得る。

 さらに、現在の火星には磁場がない。地核の冷却に伴い、磁場を生み出す運動が停止したからだ(この点にも火星が小さいことが関係している)。地球の磁場は、太陽や宇宙から発される高エネルギー分子から地表を保護する大気を保つ、一種の盾となっている。我々が火星の磁場を再活性化させることは、まず間違いなく無理だろう。この惑星は、地表を保護し、大気の蒸発を防ぐ自然のすばらしい傘を当てにできないのである。

 火星をテラフォーミングするというのは壮大な計画であり、人間の頭脳が考え出したアイデアのなかで最も途方もないものに入るだろう。この計画を荒唐無稽だとか、恐れを知らないと非難することもできる。キム・スタンリー・ロビンスンは有名な火星3部作の中で、火星の相貌を変えるための信憑性の高い方法を力を込めて詳細に書き出した。人間は火星をテラフォーミングする必要があるのか。この厄介な質問に彼は答えようともしている。小説の中で、意見のまったく違う2つのグループが激しく対立する。グリーンズにとってはテラフォーミングは宇宙征服の当然のなりゆきにすぎない。レッズにとっては火星は、我々の太陽系の歴史を物語る地質学的な聖域であり、絶対にそのままにしておくべき場所である。

 これは結局のところ、人類が到達可能なすべての場所に広まっていくべきだと主張する人間中心主義と、自然に内在的な価値があることを認め、なんとしても保護しようとする生物中心主義との対立である。地球の環境に対する倫理観が宇宙に対するそれにまで拡大すれば、新たな政治的、哲学的論争が持ち上がることは間違いない。テラフォーミングが可能であるとして、それを許すべきか。惑星の相貌を作り替えることは容認されるのか。

 とはいえ、おそらく火星へのコロニー建設は避けがたいだろう。結局、我々の地球はか弱く、そして孤立している。小惑星の衝撃ひとつで、人間とその歴史は一瞬にして掻き消されてしまう。火星をテラフォーミングすることはある意味では、太陽系のなかで、さらに広くは銀河系のなかで、人類が長期的に生き延びるチャンスを増やすことになる。確かな点がひとつある。火星のテラフォーミングは企てることが可能であり、21世紀初頭の技術によって始めることができるのだ。理論をもっと掘り下げて、技術的に顕著な努力をすることはもちろん必要だが。

 テラフォーミングの研究は(自然現象についてであろうと、人為操作についてであろうと)、宇宙開発の長期的な目標となるばかりでなく、学際性を促進するすばらしい知的刺激剤であり続ける。そこで我々は「惑星エンジニア」となった人類の行動についての知識と省察を分かち合う。もし火星に人が住めるようにするのが可能なら、あるいは簡単だというのなら、地球の生命圏を不安定にし、取り返しのつかないほど破壊することもまた簡単であるからだ。

*本稿はSF雑誌『Bifrost』第35号(2004年8月)に掲載された文章を改稿したものである。

(1) http://www.arc.nasa.gov
(2) 火星の自転速度は地球と同じぐらいで、火星の一日(ソル)は24時間39.6分である。しかし太陽の周りを公転する速度は長く、地球の2倍近い。火星の一年は669ソルで、地球で言えば687日かかる。
(3) http://www.esa.int/SPECIALS/Mars_Express/
(4) http://mars.nw.net/docs/terrafrm.pdf
(5) http://mars.jpl.nasa.gov/odyssey/
(6) 火星地表の気圧は季節によって6-10ヘクトパスカルの間で変動する。地球の地表の大気圧は1015ヘクトパスカルである。


(2004年12月号)

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