フランケンフィッシュの物語

フランク・マゾワイエ(Franck Mazoyer)
ジャーナリスト

訳・北浦春香

line
 穀物や実験動物に続き、今度は遺伝子組み換えのペットが出現した。蛍光遺伝子を組み込んだカラフルで遊び心をくすぐる観賞魚が台湾で発明され、遺伝子組み換えに警戒心を持つ欧州の消費者を手なずけようとしているのだ。1999年のインターネットバブルの時のように、バイオテクノロジー企業は株式市場の狂奔にあおられながら、大衆向け娯楽市場の攻略に向かっている。[フランス語版編集部]

line

 台湾は熱に浮かされている。観賞魚愛好家なら、旧正月を心待ちにしない者はいない。彼らを熱狂させる6センチメートル足らずの小型魚の第三世代、「TK-3」が販売開始になるからだ。この魚は素晴らしい蛍光色を持ったゼブラフィッシュ(学名 Danio rerio)で、「夜の真珠」とも称される。既にペットショップでは、100匹単位で発注をかけている。

 インド南部を原産地とするこの魚は、出回り始めた頃はごく普通の魚だった。野生種は、これといった魅力もない黒みがかった魚にすぎない。しかし、シンガポールのある大学の研究室で密かに行われた研究によって、一躍もてはやされることになる。この魚の魅惑的な蛍光色は、まったく自然なものではなく、人工的に作り出されているのだ。

 今から3年前、シンガポール国立大学のゴン・ジーユエン博士の研究チームは、緑色蛍光タンパク質の遺伝子をクラゲから採取して、ゼブラフィッシュの遺伝子に導入した。すると、奇跡が起こった。半透明の皮膚を通して、ゼブラフィッシュの器官が光り輝き始めたのだ。

 当初、この遺伝子操作は学者の便宜のため、彼らが研究対象とする器官に蛍光色を付けることを目的に、同大の研究室で秘密裏に行われるに留まっていた。数年前から、ゼブラフィッシュは実験動物として重宝されている。繁殖が容易で、72時間以内に卵から稚魚となる上、皮膚が半透明なので器官のごく細部まで目で見ることができるからだ。

 遺伝子研究に従事する大規模な国際チームにとって、ゼブラフィッシュは理想的な実験動物だった。今ではネズミやマウスに取って代わっているほどだ。卵の段階で遺伝子を組み換えれば、72時間後には器官に起こった変化を観察することができる。まさに科学革命である。

 このちっぽけな魚のおかげで、器官形成学は飛躍的な進歩を遂げた。この魚を使うことで、例えば心臓、血液細胞、筋肉、腎臓、腸、目、そして脳の形成に関わる遺伝子を解明することができる。シンガポールの研究チームには、特定の細胞に蛍光遺伝子を埋め込むことで、一つの器官だけを狙い打ちする能力がある。顧客となる科学者の専門分野に応じて、注文どおりに心臓なり目なりに蛍光色を付けることができるわけだ。

 ゴン・ジーユエン率いる研究チームはさらに、汚水に触れると赤くなり、水質汚染の指標として使えるゼブラフィッシュも生み出した。また同様に、温度に応じて色が変わる魚も作りたいという。情報は瞬く間に広まり、台湾ではツァイ・フアイジェン教授(1)の研究チームが、冴えないゼブラフィッシュを水中の螢に変身させようとした。こちらも成功だ。しかし今回は、成功を研究室の中に閉じ込めておくわけにいかなかった。台湾最大手の観賞魚生産業者、タイコン社(2)のウィリス・ファン社長が、宝の山にすかさず目を付けたからだ。この変異体が水中で放つ魅惑的な蛍光色は、消費者の目を引くに違いなかった。

駆逐されたノルウェーの野生のサケ

 ビジネスマンと学者は会合し、契約を交わした。タイコン社は研究資金を援助し、見返りに魚の商品化の権利を得る。初めての遺伝子組み換えペット「TK-1」の誕生だ。最初の生産量は、1カ月足らずで10万匹。1匹15ユーロ程度の値段で、特にこれといった経費もかからず、売上高は100万ユーロにものぼった。会社にとっても学者にとっても、打出の小槌、金の卵を生む鶏である。こうして台湾は1年前に、史上初めて遺伝子組み換えペットの販売が認められる国となった。

 日本やシンガポール向けの輸出は、環境保護団体の圧力により、政府の動物衛生当局の最終的な許可を待つ形で宙に浮いている。しかし、既に輸出はなされている。自由な販売が可能なのは台湾に限られているが、組織的な密輸が行われているからだ。シンガポールでは、非合法的に輸入された数箱分のTK-1が、動物衛生当局に押収されている。同様の事態は世界各地で起こっているようだ。フランスでは、アニマリス系列のトリュフォーとジャルディランド・グループの二大仕入れセンターが観賞魚市場の80%を占めており、タイコン社は、ここにフランスや欧州向けの輸出を持ちかけたものと思われる。この二社は、現在のところ、自社店鋪に遺伝子組み換え動物の取り扱いはないと断言する。とはいえ、ジャルディランドの獣医ニコラ・ピジナによれば、パリにある店の中には、こうした魚が置かれているところもあるかもしれないという。タイコン社側は、フランスで販売の許可はおりていないが、陳列することは可能だとする。

 フランス法の規定がどうなっているのかといえば、規定は何もない。現時点では、遺伝子組み換え観賞魚についての法律がないからだ。だが、危険は現実のものとなりつつある。「フランケンフィッシュ」とあだ名された遺伝子組み換えゼブラフィッシュは、現に懸念を呼び起こしている。観賞魚貿易協会は、観賞魚はおもちゃではないとして、販売に反対する立場を表明している。タイコン社は、同社の事業の中身をつかんだ環境派を鎮めるために、ゼブラフィッシュの後続世代については不妊化することを約束した。

 しかし、現在もっとも効果的な不妊化技術(三倍体の作出)でも、70%の確度しかない。遺伝子組み換えのゼブラフィッシュには、もっと目に付きやすい大きさの動物と違って、小麦と同様の拡散の問題がある。もし自然界に放たれれば、持ち前の強い繁殖力(1回の産卵数200個以上)で、コントロール不能になってしまうだろう。そこから生じる結果は未知数である。

 とはいえ、考える手がかりを与えてくれるいくつかの先例がある。コントロールを逃れた遺伝子組み換え生物は、環境に順応し、他の種の生態的地位を奪い、その種を絶滅に追い込んでしまいかねない。ノルウェーでは、強健さを基準にして選別された養殖サケが、こうした災厄を引き起こした。間違って放流され、野生のサケを完全に駆逐したのだ。その結果、生物多様性が失われてしまい、気候や病気などの環境変化があった場合には種全体が絶滅するおそれが生じた。なぜなら、種が生き残るためには、亜種の遺伝的多様性を通じて、環境に適応するチャンスを増やすことが必要だからだ。

 こうした多様性を回復するために、ノルウェー漁業省は、河川を席巻していた養殖サケを一匹残らず捕獲しなくてはならなかった。目端のきく企業は、生物多様性が受けた被害のうちに、ビジネスチャンスを見出した。米国オレゴンには、ゼブラフィッシュ・インターナショナル・リソース・センターという研究所があり、野生のゼブラフィッシュのあらゆる種を生きたまま保存している。また、各地で発生した変種も集めて、水槽の中で繁殖させている。その目的は、野生では既に絶滅したものも含めて、系統の揃った研究用のゼブラフィッシュを育て、研究者に売ることにある。この企業は、一つの種の遺伝的多様性がいずれ宝の山になることに早々に気付いたのだ。自然は我々に、医学にとってまたとない特性を備えたゼブラフィッシュを与えてくれた。しかし、発生学的に人間に近いこの脊椎動物についての研究は、もし誤って放流された場合には地球上の自然な生態的均衡を壊し、他の種を絶滅させてしまうという危険性を伴っている。

急成長の観賞魚市場

 ゼブラフィッシュは、技術の進歩がはらむ両面性を一身に体現している。ゼブラフィッシュのおかげで、科学者はポストゲノムの時代に突入した。様々な植物や動物のゲノムが解読されると、彼らの眼前には人類史上これまでにない展望が広がった。遺伝子一つ一つの正確な役割を解明し、その発現をコントロールするという展望だ。

 研究者は種Xの遺伝子を種Yのゲノム中に導入し、形態の変化を引き起こすことによって、それぞれの遺伝子の機能を研究する。そこでは得体の知れない変異体、つまり「怪物」やキメラが作り出されることになる。他に進むべき道はないと言う者もいる。変異は常に存在した。それは我々の進化の鍵となってきた。人類が単細胞から地球を支配する種となるに至ったのも、変異のなせる業だった。地球の曙まで遡るこの過程は、これまでは自然なものだった。変異は長い時間をかけて、例えば人類の祖先が海から陸に上がり、さらには直立歩行することを可能にした。

 遺伝子操作を行うことにより、人間は自分自身を含め、種の自然な進化を加速させる力を手に入れた。既にいくつかの植物や動物については、耐性・抵抗力や収量・生産性を高めた変異種を作り出している。次なる標的は、人間そのものかもしれない。人類の進化の次の段階は変異体ということになるのだろうか。この荒唐無稽にも見える問いに対する答えは未来の中にしかない。ほんの5年前には、遺伝子組み換えペットの出現でさえ、SFの世界のものだと思われていたのだから。

 遺伝子組み換えされた「夜の真珠」は、既に自由に市販されている。生産業者のタイコン社は、欧州や米国への輸出も時間の問題だと見る。この年初に向け、ドイツとの間では販売に関する合意を締結済みだ。実質的なコントロールが及ばないまま、こうした遺伝子操作が続行されている。タイコン社は目下、第三世代ゼブラフィッシュ、蛍光の緑と赤が半々の「TK-3」を売り出している。ファン社長によれば数カ月のうちに、インターネット上で消費者が好みの色を選び、一つしかない特注の魚を配送してもらうことができるようになる。

 台湾、インドネシア、タイは、300年以上前から、観賞魚養殖の中心地である。ここでは、海で簡単に捕まえられる観賞魚が、家庭の水槽で個別に飼育され、欧州における犬や猫と同じく「家族同様」の存在となっている。家族にとって大切なのは、珍しい魚を飼っていることだ。このため生産業者は、交配によって目新しい色や形のものを作り出そうと躍起になってきた。観賞魚市場は昨年の夏以来、ディズニーとピクサーによる最新大型アニメ映画『ファインディング・ニモ』の公開も手伝って、急成長の渦中にある。

 国連環境計画(UNEP)および海洋水族館協議会によると、米国ではこの映画のヒットによって熱帯魚の販売が20%増加したという。UNEP世界動植物保全センターの2003年度版の報告によると、毎年1471種の熱帯魚2000万匹が、主に米国向け(85%)また欧州向けに、観賞用として海中から捕獲されている。

 この儲けの多い商売には、年に2億から3億3000万ドルの「市場規模」がある。養殖された魚は20%から30%割高だが、寄生虫に感染しておらず飼育に適しているので寿命が長い。養殖魚だけを取り扱うタイコン社は、商品カタログを充実させるために遺伝子組み換えの一線を踏み越えた初の企業となった。テキサスにあるバイオテクノロジー企業ヨークタウン・テクノロジー社も、米国内での遺伝子組み換えペットの販売を2004年1月4日に開始すると発表した。グローフィッシュという名前で、台湾のゼブラフィッシュと瓜二つである。唯一の違いは、蛍光色がクラゲ由来ではなく蛍光サンゴの遺伝子によるという点だ。我々の社会への変異体の出現は徐々に始まっている。こうした生物操作が観賞魚だけに留まるはずもない。

 これらの新しい「被造物」は、近いうちに他の遺伝子組み換えペットの創造を促すだろう。先駆けとなったゼブラフィッシュが遊び心をくすぐることから、待ち受ける危険が人々の目には映らない。あらゆるリスクを急いで検討してみる必要がある。しかし、商業目的の生物操作についての倫理的な考察や具体的な対応は、現実にまったく追い付いていないように思われる。

(1) 漢字表記は「蔡懷●」、三つ目の字は「木」+「貞」。[訳註]
(2) 漢字表記は「●港」、最初の字は「台」+「おおざと」。[訳註]


(2004年1月号)

All rights reserved, 2004, Le Monde diplomatique + Kitaura Haruka + Saito Kagumi

line
表紙ページ 本紙の位置づけ 有志スタッフ
記事を読む 記事目録・月別 記事目録・分野別
メール版・お申込 読者の横顔
リンク(国際) リンク(フランス)