ヨーロッパの豊かな台所の陰

ニコラ・ベル(Nicolas Bell)
欧州市民フォーラムとの共編著『私たちの果物や野菜の苦い味』
(リマンス社、2001年)

訳・瀬尾じゅん

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 青果の集約的な生産は、欧州連合(EU)の共通農業政策の中でも規制が少ない分野であり、きわめて無秩序な自由主義の下に置かれている。フランス国立農業研究所のジャン=ピエール・ベルラン研究員が書いた文章中に、次のような記述がある。「雇い主である生産者は天候や経済の状況に関係なく収穫ができるように、常に大量の労働者を準備しておかなければならない。つまり、不法移民からなる農業労働者の予備軍が必要とされる。不法移民と合法的移民をうまく組み合わせ、相互に補完させるということだ」と書いている(1)。彼は19世紀に実施されていた「カリフォルニア方式」について述べているのだが、これは現代のヨーロッパにもそのまま通用する。ただし微妙な違いがあって、現代のヨーロッパでは、移民だけでなく国民も含めた「無届け労働」全体を視野に入れる必要がある。

 組合活動家により、6カ国を対象とした非常に珍しいヨーロッパ規模の調査が行われ、次の事実が報告されている。「種々の情報からすると、闇労働やそれに近い労働が局所的にいろいろな形で展開され、強化・拡大しているのは明らかだ。それらは、常勤者による無届けの超過労働から、きわめて変則的で柔軟な臨時労働、違法であり時には奴隷的ですらある雇用形態にまで至る(2)

 こうした状況に加え、決定的な役割を果たしているのが大型小売店チェーンであり、生産者側にすさまじい圧力をかけてくる。生産者はまったくの下請けにすぎなくなり、必死でそこから抜け出そうと、削減可能な唯一の費目の圧縮にかかる。つまり人件費だ。ドニ・ブリュサールはレタスを例にとってこう説明する。「いつ何時でも、大型スーパーの発注があれば、仲買人から電話があって、いついつまでに、どこどこにトラック1台分、パレット1枚とか3枚を納入してくれ、と指定される。だから常勤の労働者を抱えておくのは無理なんだ。突発的に、2時間のあいだ15人だけ必要になるという具合だから。失業者や社会保障受給者、不法移民のような予備軍がいなければやっていけないよ(3)

 生産者にとっては非常識でとんでもない状況である。この12年間で、南仏ブッシュ・ド・ローヌ県では43%の農家が廃業した。フランスやスペインの事業者は、人件費をさらに抑えるためにモロッコに投資するようになっている。その一方で、スーパーの収益は急上昇した。フランスの長者番付トップ10のうち5人までが大型小売店の経営者である(4)

 労働者にとっては壊滅的な結果である。スペインでは、2000年2月にアンダルシアのエル・エヒドでモロッコ人農業労働者に対する人種差別的な暴動が起こり、その悲惨な労働条件が白日の下に晒された(5)。2001年1月にムルシアの近くで起こった悲劇的な自動車事故では、非合法に農家で働く12人のエクアドル人が命を落とし、スペインで農業に従事する不法移民の多さが改めて明らかになった。彼らはみな労働の対価として、時給2.41ユーロしかもらっていない。この悲劇によって初めて、この地域に2万人、スペイン全体では15万人のエクアドルからの不法移民がいることがわかった。エル・エヒドの状況はことさらにひどいとはいうものの、ヨーロッパのあちこちにこのような横暴が蔓延している。

 イギリスでは、増え続ける東欧からの労働者を「マフィア集団」などが組織化し、賃金水準や労働条件を仕切っている。「農業の事業者にとって理想的なのは、労働を準固定的な生産要素(つまりコスト)ではなく、生産規模に応じた変動的な要素とすることだ。そのために一番簡単な方法は、合法ないし非合法の斡旋事業者を下請けとして、その日ごと、あるいは時間ごとに必要な労働力を集めることだ(6)

 早くから農業の集約化を進めたオランダでは、不法労働者の3分の1に当たる10万人が花卉や青果の生産に従事する。ヨーロッパのほぼ全域が、4つのカテゴリーからなる幅広い「人材」プールに労働者の供給を頼っている。低賃金あるいは無給で超過労働をこなす合法的な自国労働者、無届けの自国民(失業者、社会保障受給者)、やはり超過労働をこなす合法的な移民労働者(契約書の有無は問わない)、そして不法移民である。

下層階級の制度化

 フランスでは国際移民局契約(OMI契約)(7)として、ヨーロッパの中でも農業季節労働者の地位が古くから制度化されている。似たような契約制度は他のヨーロッパ諸国にも存在する。たとえばオーストリアでは、2000年5月に「エルンテヘルファー(収穫手伝い)」という制度が導入された。「対象者は7000人、滞在期間は6週間に限られる。社会保険はなく、賃金は非常に安く、組合も存在しない。雇用者は、失業保険も年金も負担しないので、税込み賃金の15.5%を節約することができる(8)

 ドイツでは1991年に、季節労働の制度が農業、林業、ホテル業へ導入された。契約期間は最大3カ月である。2000年には農業季節労働者22万人に対して新たに許可証が交付された。上限は1998年以降、18万人と決められているが、政府は「高賃金による圧迫で倒産の危機に瀕している場合」など様々な例外を設けてきた。こうした無届け労働者の数は、合法的労働者と同じくらい存在すると思われる。ドイツの農家に雇われた移民の90%は東欧出身者である。彼らは非常に少ない賃金で長時間の仕事を受ける。というのも、同じ仕事でも東欧と西欧では賃金に格段の差があるからだ。

 季節労働者という地位は、望ましくない効果をいろいろ伴う。フランスでは、期間終了後ただちに出国しなければならないので、雇用者側に横暴があっても訴え出ることができない。さらに、彼らが将来もし正規の滞在許可を申請するとしても、季節労働者として滞在した期間は滞在年数として数えられない。たとえば数年前からフランスにいる不法滞在者なら、滞在許可を取得できる場合がないでもない。しかし、25年にわたって、毎年8カ月の滞在を続けてきたOMI労働者には、何の権利も与えられていないのだ。

 ヨーロッパ各国の政府は、こうした期間限定の地位を設けることで、労働市場における耐え難い人種隔離制度を固めている。フランス国立学術研究センターで移民と社会のあり方に取り組むアラン・モリス研究員は言う。「労働法の条文に少しずつ例外規定や蹂躙が加えられていくことにより、非合法労働というものがまったくなくなるような事態を容易に想像できる。理由は単純で、合法性という観念自体が大きく崩れることになるからだ。たとえば農業労働について言えば、農事法典とは労働法規に対する例外規定の寄せ集めにすぎない(9)

 ヨーロッパは、恒常的に入れ替わる期間限定の労働者という下層階級を生み出しつつある。家族と普通に暮らす権利は決して移民には与えられないだろう。EUの中欧への拡大は予期できない結果をもたらそうとしている。たとえばポーランドの小さな農家は破滅に追い込まれ、数百万人が新たな収入源を探し求める必要に迫られる。たいした熟練を必要としない職種は、それらに以前から従事してきた南欧の移民に東欧の移民が加わって厳しい競争となり、雇い主が大いに利益を上げるようになる。合法か非合法かを問わず、「一見そうは見えない」移民にとって特に有利な状況だ。「西側でそうは見えないというのは、肌の色が白いことであり、できるだけキリスト教の文化に属していればなおさらよい。移民の『白人化』の傾向はあちこちで見られるようになっている。エル・エヒドの人種差別暴動の後には、労働者の一部を白人に替える動きが起きている(10)

 移民の交替のもう一つの顕著な例は、2002年春、苺の産地として有名なアンダルシアのウエルバで起こった。ここでは毎年3月から6月にかけ、5万5000人の季節労働者が雇われる。以前は国内の日雇い労働者だったが、数年前から1万人ほどの移民が見られるようになった。彼らのほとんどは北アフリカから無届けで働きに来た人である。スペインでは2001年に非正規滞在者の大規模な運動があり、彼らのうち5000人がウエルバでの苺収穫に限定された許可証を獲得した。シーズンの初め、ついに正式の身分証を得た彼らは、何の不安もなく現地で待機していた。しかし驚愕すべきことに、そこにポーランド人やルーマニア人の若い女性が大挙してやってきて、苺の収穫を始めた。その多くは、彼らよりも低い賃金で仕事を受けていた。スペイン政府は女性を主とする6500人のポーランド人と1000人のルーマニア人に対し、同じ仕事の契約を与えることに決めたのだった(11)

 数千人の北アフリカの人々は、全てを奪われ、仕事も家も希望もない状態で路頭に迷うことになった。状況は非常に緊迫し、「ムーア人ども」は不潔でひげもそらず怠け者だという、人種差別の波が巻き起こった。ウエルバでは「市民の不安」を訴えて4000人がデモ行進し、極右の国民民主党のポスターが初めて貼り出された。

 最終的には北アフリカの人たちも苺収穫の仕事に加わることになった。どんな仕事でもいいから見つけようと必死の気持ちでウエルバに残っていた彼らは、「東欧から来た労働者だけでは人手が足りない祭日や繁忙期のための重要な予備軍となっていた。それで得をしたのは、今シーズンは大収穫だと満足顔の事業者だけであった(12)

(1) 欧州市民フォーラム「カリフォルニア方式の長い歴史」、『私たちの果物や野菜の苦い味』(『情報とコメント』増刊号、コラン、2001年)所収。
(2) 1997年に欧州委員会の協力の下、欧州社会関係協議研究教育事務所が組合活動家と共同で、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、オランダ、イギリスの組合が実施した調査、「農業分野における闇労働」参照。
(3) 「大型店と自由主義論理」、前掲『私たちの果物や野菜の苦い味』所収。
(4) クリスチャン・ジャキオー「大型スーパーマーケットの横暴」(ル・モンド・ディプロマティーク2002年12月号)参照。
(5) ヴィクトール=アンジェル・リュシュ「アンダルシアのアパルトヘイト」(ル・モンド・ディプロマティーク2000年3月号)、欧州市民フォーラム調査委員会報告「エル・エヒド、無法の地」(ゴリアス社、ヴィユールヴァンヌ)参照。
(6) 前掲「農業分野における闇労働」。
(7) 国内で公式の求人への応募がなく、外国人の季節労働者を雇おうとする者は、県の許可を得た上でOMIに登録し、対象の労働者を指名する(フランスと協定を結んでいるモロッコ、チュニジア、ポーランドに限定)。OMI契約の労働者は2カ月まで延長可能な6カ月の契約期間に加え、帰国準備のための10日間の滞在を認められる。彼らの労働法上の権利、社会的権利、滞在権は著しく制限されている。[訳註]
(8) 前掲『私たちの果物や野菜の苦い味』。
(9) ラジオ・ジンジン(フォルカルキエ)、2002年9月12日放送より。
(10) ジャン=ピエール・アロー(移民労働者のための情報と支援グループ)「カール大帝の白人とキリスト主義のヨーロッパへ?」、前掲『私たちの果物や野菜の苦い味』所収。
(11) モロッコのマグレブ・アラブ通信によれば、2002年、スペインへのモロッコ人出稼ぎ労働者はほぼ全面的に季節労働者雇用の割り当てからはずされた。3万2000人のうち515人のみが採用。1990年代初頭以来、それまでは半数以上がモロッコ人に割り当てられていた(出典:『プロヴァンス農民』誌、エクサン・プロヴァンス、2002年11月15日)。
(12) 在ウエルバ「移民と外国人労働者のための民主組織」責任者、デシオ・マチャドへの2002年5月19日付インタビュー(『アーシペール96』、バーゼル、2002年7月)より。


(2003年4月号)

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