「セキュリティ完備住宅」というトレンド

アセーヌ・ベルムス(Hacene Belmessous)
著書『未来は郊外で始まる』ラルマッタン社、パリ、2001年

訳・ジャヤラット好子

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 トゥールーズ近辺に22の物件を持つフォンタ・グループ提供の住宅街、ベル・フォンテーヌ・ド・サン・シモンの外観は、あたかも難攻不落の城のようだ。オートロック式の正面玄関、周囲を囲む柵には警備員と監視カメラ付き。住人は出入りする人間を自宅のモニターに映し出し、「好ましからぬ人物」を見極めることができる。建物に入るにはIDバッジを提示するか、さもなくば住人の招待が必要というわけだ。

 この邸宅街は築2年、地下鉄の終点から徒歩5分圏内という立地にある。構成は、一戸建のほかに2階建ての小型マンションが3棟。内部の風景はいたって普通だ。よく手入れされた緑地に一戸建の家が並び、中心にはプールが燦然と輝く。低所得者向けのミレイユ団地から数百メートルと離れておらず、裕福な中産階級の文字通りの城塞となっている。たちどころに思い浮かぶのは「富裕層のゲットー」というイメージだ。邸宅街の住人は外界から二重に隔離され、ミレイユ団地の住人を遠回しに避けている。たとえば、同じぐらいの距離にあるスーパーのうち、「ジェアン」には団地の連中が出入りするから、買い物は「カルフール」ですることに決めている。ここに住む企業管理職の一人は言う。「向こうとこっちは別々だ。それぞれの柵の中にいて、互いに口をきくことはない」

 この15年で、トゥールーズの社会的人口構成は著しく変わった。フランスでは例外的に、モンペリエと並んで人口が毎年増大を続け(1990年から99年の増加率はフランス本土平均の0.37%に対して1.53%)、1982年から99年の間に住民数は22万7349人増加した(1)。ただし内訳をみてみると、労働者、農民、職人といった昔ながらの階層が年間7000人の割合で失業しており、その一方で高級管理職が1万3000人の増加を示す。こうした人口変化の帰結は、つまり新たな都市エリートの出現である。この層は、主に子どものいる家族世帯か、あるいは子どものいない若い夫婦の世帯から構成される。

 そして、人々が他人に恐怖を覚え、治安が悪化したという感情を強めるなかで、セキュリティの意識がむやみと煽られ、「セキュリティ完備」をうたう住宅が次々と建てられた。トゥールーズ近辺だけでも20あまりの邸宅ゾーンがある。このタイプの住宅で地域最大手の不動産会社モネ・ドゥクロワは、総戸数5500を数え、うち90%は賃貸で、経営はきわめて順調だ。2001年には1746戸の住宅を販売し、他に1400戸が竣工済みである。2000年度に2290万ユーロだった売上高は、2001年には2970万ユーロにまで伸びた。同社の活況ぶりは、フランス大手3行(BNPパリバ、クレディ・ミュチュエル、クレディ・アグリコル)が資本参加していることにも見て取れる。

 社長のロベール・モネ氏は目端のきく人物で、都市の荒廃が同社の事業価値を高めてきたことを心得ている(2)。いくつかの有力な不動産ディベロッパーが提携を持ちかけてくることもあったが、今のところ誰とも手を結んでいない。同社のインターネットサイトでは、潜在的な顧客に向けて、豊かな暮らしを売り文句にしている。「ゆったりとして、管理が良好で、呼び鈴が鳴る度にびくびくすることもない。そんな空間に住みたいと人々は望んでいるのです」とモネ氏は力説する。

失われた公共の都市

 とはいえ、フランス社会の「アメリカ化」がまだ始まったばかりにすぎず、上流中産階級の人々が手放しで城塞ゾーンに住みたがるわけではないこと、それもモネ氏はわきまえている。同社の物件が大層なセキュリティを備えている点に水を向けると、あたりさわりのない答えを返してきた。「我々の物件に入居された方々は、雰囲気のよい環境で暮らせることを喜んでいらっしゃいます」。さらに自説の裏づけとして、反論の余地のない殺し文句を出してくる。「住んでいる場所の安全を守る手段なんて誰も持っていないのです。それぞれの家の前に憲兵部隊でも置いておかない限りはね」

 2才と4か月の二人の子どもを持つ母親、マリー・デュランさん(仮名)は、「ガロンヌの並木道」という田園風の名前が付いたモネ・ドゥクロワ社のアパルトマンを2000年7月から借りている。34才のこの若い女性はトゥールーズ病院の研修医で、その夫はエンジニアである。「私たちがこの4部屋のアパルトマンを借りることにしたのは、鉄柵も防壁もないところでは、家の外で子どもたちを遊ばせる時、つきっきりになっていないといけないからです」と、彼女は明かす。しかし、安心のためにはコストがかかる。「友人の不意な訪問は望めません。建物に入るのは私たちの在宅が前提となりますから。それに駐車場のスペースは限定され、番号管理になっているので、彼らが車を止められるとは限りません」。こうした厳しい内部規則に反対する者は誰もいない。いわば、快適で静かな暮らしを送るために払うべき代償ということだ。「私たちは恵まれた孤島のような場所に住んでいるのです」と、彼女は言った。

 上流中産階級の人々が暮らす孤立住宅街の増大は(3)、社会の亀裂から生じた緊張がフランスの社会モデルを変えつつあることを示している。持たざる大衆は、最低所得保障、連帯雇用契約、若年層雇用契約などの福祉制度によって生き長らえ、かたや少数の資産家は利益を蓄積する。そうして、伝統的に様々な人々が混じって共存する場であったフランスの都市に、差別主義という悪魔が巣くうようになった。郊外の邸宅ゾーンは、アメリカの「ゲイテッド・コミュニティ」と同じく、社会的・民族的なアパルトヘイトの上に築かれている(4)。フランスの城塞ゾーンが体現しているのは、運命共同体に基づいた理想の街の姿である。航空エンジニア、研究者、弁護士、建築家、ジャーナリストといった職業の人々は、「仲間内でいる」ために都市の中で孤立するという道を選んだ。そして、幸福なグローバリゼーションの電車に乗りそこねたがために脅威と見なされるようになった貧しい人々だけが、公共のスペースに取り残された。

 「似た者同士の集住」の最大の原因は、治安の問題にもまして、経済のグローバリゼーションにある。なぜならそれは社会の交流のルールを変えてしまったからだ。新興ブルジョワ層への富の集中が生み出した孤島群は、ローカルよりもグローバル、近所との関係よりもネットワークの利便をひたすら賛えることで、公共の都市の意義を失わせようとする。だが、街角やスポーツクラブ、学校といった場を通じて、庶民階級と中産階級の出会いをもたらすのは、まさに公共の都市という空間である。ある40代の夫婦の話を聞いてみよう。彼らは二人とも中間管理職で、パリの庶民地区で暮らしていた。しかしトゥールーズに転勤すれば昇進できるというので、数ある孤立住宅街の一つに一戸建を購入した。「共産党の候補者に投票を続け、異文化混合社会に賛成するにしても、静かな場所に落ち着きたいという気持ちはあるさ」と、彼らは弁解する。

 この社会的後退という乱暴なシナリオに、メディアの責任があることは明白だ。車が焼き討ちされ、治安部隊が投石される光景の劇的効果は計算ずくのものだ。テレビ画面が映し出す魔術には、いつでも同じ背景が用いられる。いわくありげな団地、マグレブやブラック・アフリカ出身の若者の群れ、建物の外壁に描かれた落書きの数々が、警察に護衛されたジャーナリストたちの担いだカメラによって撮影される。この種の演出は、現実をスペクタクルに変え、不完全な情報を広めただけでなく、政治感覚を完全に麻痺させた。

パイの分け前

 というわけで、セキュリティ完備の私有ゾーンの増大が懸念を呼び起こす可能性は低い。不動産ディベロッパーが、地方議員や国会議員の好意的な態度から利益を得てきたとは言わないまでも、つねに都市開発の経済的な立役者となってきたのは事実である。トゥールーズ近辺だけで22の邸宅ゾーンを建設したモネ・ドゥクロワ社は、今では全国に展開する。トゥール(2件)、アヴィニヨン(3件)、ナント(3件)、モンペリエ(4件)、リヨン(3件)、マルセイユ(1件)、ボルドー(3件)、などである。パリ近郊アルフォールヴィルでも2003年に1件が竣工予定、マルヌ・ラ・ヴァレでも交渉が進められている。モネ・ドゥクロワ社に建設許可証を交付した市町村のリストは増える一方だ。「我々が許可を得るべく奔走したところもあれば、向こうから我々に会いに来たところもありますよ」と、モネ氏は言う。そして特筆すべきことに、このタイプの住宅を誘致しようとする議員は、特定の政党に偏っているわけではない。「我々が進出した市町村の大部分は左です」と、彼は強調した。

 過去30年にわたって郊外の庶民地区における不動産政策で失敗を続けてきた国自身も、こうした分離主義の動きをあえて促進する道に走っている。ジョスパン前首相は中産階級の支持を取り付けようとして、セキュリティ装置が公共のスペースを侵略するのを許し(1997年から99年の間に201の市町村が公道監視用の防犯カメラを設置した)、主に上流中産階級に利益をもたらす減税プランを準備した。

 フランス経済動向研究所の調査によると、直接税と付加価値税の減税分の50%以上、800億フランが25%の最富裕層世帯の手に渡ったという。2002年9月に提出されたラファラン新首相の予算案でも、憲兵隊と警察に付与される予算の増額、上流階級に有利な所得税減税が盛り込まれており、こうした傾向がさらに増すものと思われる。

 要塞化した孤立住宅街の増殖に対して国が無策を決め込むなかで、予期せぬ役者が姿を現した。銀行界である。BNPパリバとアクサの合弁会社、BNPプロテクシオン・アビタのジャック・ギノー社長によれば、銀行が出てきたのは意外でも何でもない。「フランスには発展中のセキュリティ市場があるが、まだ十分に組織化されていない。財産を安全に保つことが我々の仕事である以上、この分野におけるノウハウを個人顧客に提供するに足るのは我々であると考える」。そういうわけでBNPの顧客は、毎月の契約料を払えば、24時間自宅を守るアラームシステムとリモート監視システムを利用できることになる。

 1998年9月に設立されたBNPプロテクシオン・アビタの経営は順調だ。2001年には1万2500件の契約が成立し、売上高330万ユーロの企業へと成長した。とはいえ、この市場に参入したのは銀行最大手のBNPだけではない。他の銀行や保険会社もパイの分け前を狙っている。なにせ、フランスではリモート監視システムを備えている世帯はまだ1%にすぎない。セキュリティのプロたちに言わせれば、15%の世帯が複数の装置を付けているイギリスの後を追い、「遅れ」を取り戻すべき日はそこまで来ているのだ。

(1) トゥールーズでは、公的研究、研究開発、情報技術の3つの分野における「戦略的」雇用も例外的に高い比率を示している(1990年には10.68%)。全国的に見て、それよりも高いのはパリ市(14.73%)だけである。戦略的雇用とは、高度な能力を必要とし、都市エリアの経済開発において決定的な役割を持つ職種を指す。
(2) ステファーヌ・ボー、ミシェル・ピアルー「『暴動』に走る若者を生み出す社会の壁 」(ル・モンド・ディプロマティーク2001年7月号)参照。
(3) 『トゥールーズ公式住宅ガイド』(トゥールーズ、2001年)参照。
(4) ロバート・ロペス「リッチな町の高い外壁」(ル・モンド・ディプロマティーク1996年3月号)参照。


(2002年11月号)

All rights reserved, 2002, Le Monde diplomatique + Jayalath Yoshiko + Saito Kagumi

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