危険きわまりない米国の新戦略概念

ポール=マリー・ド=ラゴルス(Paul-Marie de La Gorce)
ジャーナリスト

訳・ジャヤラット好子

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 2002年6月1日、ウェスト・ポイント陸軍士官学校の前で、米国政府が今後の指標とする軍事戦略ドクトリンをブッシュ大統領が明らかにした。それは新しい防衛の概念を示すという以上に、従来の原則を大胆に見直そうというものであり、米国の外交姿勢や、軍事力の組織と司令のあり方、それに使用方針に大きな影響を及ぼすことになる。

 ブッシュ大統領によれば、米国が立ち向かうことになる脅威は、国際テロリスト集団によって、また彼らを黙認し、保護し、支援する国家によって生み出される。また、大量破壊兵器を保有済み、保有の見込み、あるいは開発中の国家も同様である。脅威がその源泉と性質を変えた以上、反撃もまた完全に変わらなくてはならないと言う。

 要するにブッシュ大統領は、新たな敵が米国またはその同盟国に対し、9月11日のような一撃を食らわすことも、米国の大使館や海軍部隊、駐屯地を標的した事件を繰り返すことも、絶対に受け入れられないと断言したのである。そして今後の米国の戦略は、潜在的な敵に対して「先制行動(pre-emptive actions)」を取り、このような脅威の現実化を防ぐことにあると公言した。

 9月11日のすさまじいテロの衝撃が理解に難くないにしても、彼の言葉がその衝撃から発せられたと考えるのは間違いである。実のところ、ブッシュ政権の発足当初から米国防総省の専門家によって三つの基本研究が進められ、完了に至っている。うち一つは、軍の職員の生活条件に関する研究である。他の二つは、2002年1月に提出された「核戦略見直し」と「四年ごとの国防計画見直し」であり、どちらも重要な戦略的意義を持っている。大統領の演説は、その意味を明らかにし、実施を予告するものであった。それまでの米国は(現実の行動が必ずしも一致しないにしても)、軍事力の使用は攻撃への報復に限定し、米国が戦争に関与するのは常に敵が口火を切った結果であるとの立場を取っていた。このタブーがなくなったのである。

 年頭の一般教書演説の中で、ブッシュ大統領は既にそれを臭わせていた。そして1月31日、ラムズフェルド国防長官がさらに明白に、次のように公言した。「我が国の防衛には予防と自衛、また時には先制攻撃が必要である。テロリズムその他、21世紀に出現しつつある脅威に対する防衛には、敵地での戦争の展開が必要となる可能性が高い。場合によっては、うまい攻撃こそが唯一の防衛となる」。この6月6日に行われた北大西洋条約機構(NATO)の閣僚会議でも、彼は次のように述べている。「もし、これらのテロリストたちがいつでも、どこにでも、なんらかの技術を使って攻撃することができるとしたら、それに対して常時くまなく、あらゆる技術に備えて防衛することは物理的に不可能である。だからこそ防衛とは何かを再定義することが絶対に必要となる。(中略)唯一可能な防衛は、国際テロリスト網の尻尾を掴み、米国がアフガニスタンで示したように、彼らにふさわしい処遇をもって臨むように努めることである」

 この考え方は「国家安全保障戦略」という名の下に、国家安全保障会議によってまとめられている。これによって「抑止」や「封じ込め」といった以前のドクトリンが明白に放棄され、「防衛的介入」あるいは「先制行動」と表現される新規のドクトリンが打ち出された。

適用の対象

 ここに新たな問題が提起される。では、米国はいかなる敵に対して「先制行動」を仕掛けるのか。米国の政策責任者たちは自国民に対し、また可能な限り国際社会に対しても、理解を得るために努力を傾けた。この種の行動の対象としてロシアを想定しているわけではないということをはっきりさせるため、無数の弁舌が費やされた。ロシアに対する唯一の手段は今でも冷戦期の核抑止戦略であるが、これは理論上の究極の戦略にとどまっている。もはやロシアに現実の脅威となるような通常戦力がないことは明らかである。さらに、9月のテロ後にプーチン大統領が即座に米国側に付いたことにも表れているように、いわゆるイスラム主義「テロリスト」活動への対策を筆頭に、ロシアの国益が米国との永続的な協調関係の確立にあることも明らかである。

 中国に対する「先制行動」を想定することも、同じく問題外である。核兵器によって反撃される可能性がある上に、紛争の大規模化は必至である。中国に対しても、米国の選択はやはり伝統的な核抑止戦略となる。

 その一方で、「先制行動は、完全にその目標に合致するためには、『決定的』なものでなければならない(1)」とパウエル国務長官は述べ、いくつもの例を引いてみせた。イスラエルは1981年8月にイラクのオシラク原子炉を破壊した。フィリピンの反体制派グループに対する大規模な軍事行動の示唆により、アキノ政権に対する爆撃作戦を未然に防ぐことができた。この6月14日にカラチの米国領事館前で11人の死者を出したテロに関しても、事前に察知されていた場合には報復攻撃を行うのが当然だと言う。

 この新しいドクトリンに照らせば、一般教書演説の中でブッシュ大統領が、「悪の枢軸」を構成する三つの国家としてイラク、イラン、北朝鮮を選んだ理由がよくわかる。テロ組織を黙認し、保護し、支援し、もしくは大量破壊兵器を保有済み、保有の見込み、あるいは開発中の国家を敵として糾弾する公的発言には、要するに米国の見方と国益に沿って、確立された国際秩序を守ろうとする意志が表れている。

 イラクは9月11日のテロには関与していないとはいえ、米国の支配に屈服する日がくる可能性は皆無である。つまり先制行動を適用されるべき国ということになる。米国の軍事専門家によれば、イランは大量破壊兵器、特に核兵器を持とうとしている。これらの専門家は、核武装を計画もしくは既に実施している強力な周辺諸国(ロシア、イラク、イスラエル、パキスタン、インド)をうかがうイランの指導者たちが、自国の核武装を決定したと確信している。さらにイランは、レバノンのヒズボラのように、米国政府によって「テロリスト」と見なされた組織に手を貸していると見られている。

 北朝鮮は米国との間で、核開発を民生目的に限定するという明白な合意を交わしたにもかかわらず、複数の国へ向けて中距離ミサイルの売却を続けている。これらの国々が、テロリスト組織へミサイルを供給したり、あるいはテロリスト組織に乗っ取られるという可能性がある。「悪の枢軸」を形成する国々のリストは網羅的なものではないが、これを見るだけでも米国の標的範囲の広さを捉えることができる。

 この新しい戦略概念は、特に核兵器の使用方針に大きな影響を及ぼすことになる。それは、この1月に発表された「核戦略見直し(NPR)」からも、その実施に関して3月に故意に漏らされた情報からも明白であるが、先制行動の概念に照らしてみれば、影響の規模がさらにはっきりと理解される。NPRでは、弾道ミサイル、戦略爆撃機、ミサイル搭載潜水艦という伝統的な抑止戦略の三本柱が、「核兵器ならびに非核兵器による攻撃システム」にそっくりそのまま統合された。これが新戦略の第一の要素であり、以下の二つの基本でもある。第二の要素は「防衛能力」である。その最も革新的な手段が迎撃ミサイル防衛であり、航空母艦から発射された迎撃ミサイルによる標的ミサイルの破壊という最近の実験成功により、新しい段階に入っている。第三の要素は、9月11日のテロによって露になった課題に対処できるようなインフラの構築であり、米国本土の死守を目的とする。この目的に向け、28の行政組織と17万人の職員からなる国土安全保障省が創設された。

 新しいドクトリンによる「先制行動」に向けた「攻撃システム」では、核兵器の使用に関する伝統的な考え方が直接的な見直しの対象とされる。従来の意味における核抑止を放棄するという意味ではない。米国の枢要な権益が広範な攻撃を受け、その主体が明確に特定され、大量破壊兵器をもって応戦するという、きわめて考えにくい極端な仮定のみを考慮して、もっぱら兵器の数の縮小を検討するということである。

核兵器の使用方針

 NPRでは、米国の戦略核の弾頭数を一方的に削減し、START-II(第二次戦略兵器削減条約)の合意で固定された3456発、START-III(第三次戦略兵器削減条約)の交渉で想定された2496発から、2200発にまで引き下げることが示唆されている。2002年5月25日、米国とロシアの間で交わされた合意でも、この数字が留保された。しかし、それだけ見ても、米国という核保有国の限られた一面しか捉えられない。というのも、米国にとってNPRの最大の長所は「柔軟性」にあるからだ。これは、新たな脅威に対する恒常的な適応性、そして可逆性として定義される。

 この点こそが新戦略の大きな特色である。それは、核兵器のラインナップを拡大しておき、数カ月あればテストを再開できるような「新たな態勢」を前提にしている。そして将来的には、新兵器の研究を停止するという1992年の決定によって解散した研究者チームを再結成し、製造施設を整備することを予定している。NPRは次のような理由を挙げる。「核兵器製造用の複合施設を再生させる必要は明らかである」。さらに「様々な規模、射程距離、目的を有する核オプションを設定し、核以外の手段を補完する」と言う。こうして、通常兵器および核兵器から構成され、状況に応じて使用される兵器群の中に、様々な種類の核兵器を取り入れることが公然と主張された。

 この点に関して故意に行われた情報漏洩では、いくつかの前例や仮説が引き合いに出されていた。例えば湾岸戦争の直前に、父親の方のブッシュ大統領からフセイン大統領に宛てた手紙をベイカー国務長官がアジズ外相へ渡している。そこには、もしイラクが化学兵器を使用した場合、その報復には核兵器を使うという警告が暗に込められていたとされる。同じ時期、「イスラエルとその周辺国に対するイラクの攻撃、韓国に対する北朝鮮の攻撃、あるいは台湾に関わる軍事対決(2)」などの場合を想定し、核兵器の適度な使用が検討されていた。

 NPRでは、「北朝鮮、イラク、イラン、シリア、レバノン(3)」のような国が関与すると見られる「急迫の、あるいは潜在的な、もしくは不測の事態」の際には、核兵器の適度な使用が認められるとされた。これらの国々は、政治状況も戦略態勢もずいぶんと違うが、どれも皆「テロリストに支援や保護を与え」、また「大量破壊兵器の研究や製造に熱心である」という理由から、同類として括られている。

 NPRによって概略の示された核兵器の使用方針は、米国防政策の歴史の上で決して新しいものではない。むしろ再登場したと言うべきである。60年代初頭に米国の政策責任者たちが考え出した「柔軟反応」戦略が、現在の国際情勢に合わせて焼き直されたのだ。この戦略では、紛争時には作戦の進展状況と敵の行動に応じ、いわゆる戦術核を通常兵器の援護、補完、または代替として使用することが想定されていた。

 これは周知のように、核兵器が欧州大陸の東西に同時展開されるという結果をもたらした。戦争が起きた場合、欧州が核兵器および通常兵器の飛び交う戦場となるのは必至であった。この点が、「柔軟反応」戦略の時代と現在の戦略状況の実質的な相違である。現在では、核兵器の使用は、ある国家(または敵一般)に対し、その核武装や開発計画の有無を問わず、米国が下した決定による「先制行動」の手段として想定されている。

 欧州のNATO加盟国政府は6月6日の国防相会議の際に、米国の現在の戦略概念についてのラムズフェルド米国防長官の説明を聞いた。出席した各国の国防相はこれに先立ち、英国のブレア首相とスペインのアスナール首相からの共同書簡を受け取っている。二人は各国に対し、NATOとして「国際テロリズムと大量破壊兵器」に関する新たな方針を打ち出すようにとはっきりと要請した。これは次回11月にプラハで開催されるNATO首脳会議でも中心的な議題となるだろう。同会議にはNATOに新たに加盟した7カ国の代表が初めて顔を出すことになる。その日には、既に全員が事情に通じているはずである。

(1) The Washington Post, 17 June 2002.
(2) ル・モンド2002年3月13日付。
(3) Nuclear Posture ReviewThe Los Angeles Times, 12 March 2002 からの引用)


(2002年9月号)

* 後ろから四段落目の「現下の」を「急迫の」に訂正(2002年10月27日)

All rights reserved, 2002, Le Monde diplomatique + Jayalath Yoshiko + Saito Kagumi

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