温暖化問題は技術で解決という工学者たち

フィリップ・ボヴェ(Philippe Bovet)
ジャーナリスト
フランソワ・プロワイエ(Francois Ploye)
技術コンサルタント、パリ中央工芸学校出身

訳・ジャヤラット好子

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 欧米では、地球温暖化問題を解決するという科学者やエンジニアリング会社が、気象工学の実験に熱中している。これらの研究者たちは、二酸化炭素(CO2)を大量に消費するプランクトンの発生を促進させたり、海底や地中にCO2を隔離するといった新技術の導入によって、温暖化対策という新たな市場を開拓し、大きな利益を上げようと考えているのだ。[訳出]

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 2008年までに、温室効果ガス排出権という広大な世界市場ができ上がることになる。2001年11月にマラケシュで開催された気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)で、参加した167カ国がそう合意した(1)。先進国では、あらゆる汚染企業が有害ガスを削減する義務を負い、環境対策を怠る企業には支払いが課せられる。ただし、会議に出席した米国は、この合意を批准していない。

 ここ数年で、新市場の開拓を狙う気象工学という新しい科学分野が、議論を呼びつつ目覚ましく発展した。そこにはCO2の長期的な貯留のように、これまで分散していた様々な技術が集められている。汚染ガスの排出を改めることのできない企業、あるいは改めようとしない企業からは、対策を求める強い圧力がかけられている。なかでも、CO2の排出量が非常に大きな石炭・石油関連の多国籍企業の活動は、中期的にみて問題視されるようになるだろう。石油会社のエクソンや多国籍の石炭会社エディソンのような大手エネルギー企業は、大気汚染産業というイメージを打ち消そうと必死になっている。

 CO2貯留技術の中で、特に研究が進められているものは四つある。第一の技術は、石油や天然ガスの採掘の時にすでに実験済みで、地中の広大な空間にCO2を封じ込めるという内容だ。これはノルウェーの石油会社ノルスク・ハイドロで使われている技術である。また、フランスのトタルフィナ・エルフ社も数百万ユーロをこれにつぎ込むつもりでいる(2)。ただし、これらユーザー企業の主張とは裏腹に、CO2が地中に注入されているのは環境問題という動機によるわけではない。坑内の圧力を保持することにより、化石燃料を最大限に取り出すためである。1999年、米エネルギー省はバークリー大学とローレンス・リヴァモア国立研究所に、CO2の海洋隔離という第二の技術の研究を始めさせた。CO2は火力発電所の排煙装置のような排出源でそのまま回収され、パイプラインによって水深1500メートル、さらには3000メートルの深海に送り込まれ、水圧によって液化されて海中に広がっていく。

 深海に投棄されたCO2が、一定の区域内に滞留しているという保証はない。ドイツのヴッパタール研究所で気候政策部門を率いるヘルマン・オット氏は懸念する。「どんな反応がこれによって起こるのかわかっていない。このCO2投棄によって、食物連鎖に大きな影響を及ぼすことになるかもしれない」。実験が進行中の南半球の大洋では(3)、魚や珊瑚礁が脅威にさらされるかもしれない。

 第三の技術は、植物にCO2を吸収させようという内容である。広範囲の植樹を行い、植物の生産性を大幅に引き上げるという。この原則はマラケシュ会議で認められた。「CO2の吸収源」と呼ばれるアマゾンの森林の再生に投資するプジョーのように、企業はイメージ回復のチャンスだと考えている。しかし、話がおかしな方向にずれていく可能性もある。日本のトヨタは、CO2を大量に吸収するような遺伝子組み換え樹木の研究を進めてきたとされる。日本の地球環境産業技術研究機構(RITE)は、砂漠緑化のために水不足や極限環境に耐えられる遺伝子組み換え植物の研究に取り組んでいる。

海洋への施肥

 さらに議論を呼んでいるのが、鉄粉を散布するという技術である。一部の海域では、アンモニアや鉄分などの養分の不足が藻類(海藻や植物プランクトン)の発達を阻んでいるとの認識から、数平方キロメートルの区域を選び、鉄粉を散布して、藻類を大量に増殖させようというのだ。このような商業プロジェクトの無節操な拡大によるリスクに対し、英字週刊誌「サイエンス」2001年10月12日号の中で海洋学者が連名で警告を発している(4)。にもかかわらず、すでにいくつもの小規模な実験が、必ずしも科学者の手によることなく進行中、あるいは準備中だ。たとえば、シドニー大学の海洋技術グループの研究室では、アンモニアを使ったチリ沿岸への施肥を計画している。これによってCO2の吸収を増大させるとともに、魚の繁殖を促進するという二重の効果が期待されている(5)。魚を大量に消費する日本からは特に関心が寄せられている。

 アメリカの工学者マイケル・マーケルズは、すでに二つの実験を行っており、次回は1万平方キロメートルに及ぶ大規模な実験を行おうとしている。彼の興した企業グリーンシー・ベンチャーは、当初マーシャル諸島の政府から領海使用の合意を取り付けたのだが、同国政府が消極的になったためにエクアドルのガラパゴス諸島へ目を向けるようになった(6)

 マーケルズ氏によれば、15万平方キロメートルの海洋に定期的に25万トンの鉄粉を補ってやれば、米国が化石燃料の燃焼によって排出する全CO2と同量のCO2を吸収させることができるという(7)。彼は排出権市場の枠組みの中で、CO2除去費用を1トンにつき2ドル程度で企業へ請求することを考えている。これは、8ドルと見積もられる市場価格を大きく下回っている(8)。「鉱山会社が関心を持つだろう。燃料製品にラベルを貼って、これらの企業が排出量と同量のCO2除去を約束していると示すわけだ」とマーケルズ氏は解説する(9)

 これはなにも突出したケースではない。工学者ラス・ジョージによってカリフォルニアに設立されたオーシャン・サイエンス社(旧カーボンコープ社)でもまた、鉄分施肥の研究を行っている。この会社は、商船に金を払って設備を据え付け、航海の途中で適当な場所に肥料をまいてもらうのだという。ほどなくジョージ氏は、科学的実証(聞き違いではない)のもとに「グリーン・タグ」の販売システムを打ち出した。価格は一つ4ドル。これ一つで、海洋の微小プランクトンがCO21トンを吸収により隔離することを保証するという構想だ。つまりたったの60ドルあれば、アメリカ人の一世帯が今から早速「グリーン・タグ」を買って、彼らが毎年排出する15トンのCO2の処理を確保できるのだ。抜け目のない実業家であるジョージ氏は、リスクのない図式を描き出す。将来の排出権市場の枠組みの中で海洋施肥が認められれば、「グリーン・タグ」は転売利益を生み出すことになる。認められなかった場合にも、投資分は海洋研究への助成費として税控除を受けられる。

 とはいっても、藻類によって吸収されたCO2が長期的に隔離できるという確証はまったくない。ブレスト大学の海洋学者ステファーヌ・ブラン氏は、こういった実験によって誘発される攪乱を心配する。「海は全てつながっているんですから、実験の影響が限られた区域内だけに収まるとは言えません。実際の影響を実験で測定するのは困難ですよ。小規模な実験を積み重ねるだけでも、大規模な実験と同じぐらいの被害を及ぼすかもしれないと考えなければいけません。こうした実験には国際的な管理が必要です」。グリーンピース・インターナショナル英国エクセター支部の科学研究所所長のポール・ジョンストン氏は次のように述べている。「こうした実験は工学者の発想であり、問題を最大限に単純化し、長期的な解決策を見つけると主張する。これは偏った見地でしかなく、微生物学者や海洋学者などの見方を考慮していない。十分な情報を持たない者には、生態系を全体として理解することはできない」。この議論はまた、法制の弱点を浮かび上がらせる。200カイリを越えた海は何者にも属さない。いかなる国家もここでの実験に反対できないのである。

軍事目的の気象制御

 温室効果ガスが地球温暖化をもたらすことから、地球が受ける太陽放射を減らすことが第四の技術の目的とされる。エアロゾルと呼ばれる固体または液体の微粒子を大気の上層へ散布することで、太陽放射を防ごうというのだ。散布作業は定期便の航空機によって実行されることになる。エアロゾルは火山が噴火すると自然発生し、そのときに拡散した粉塵が雲のように広がって、それが冷却効果をもたらす。パリの国立学術研究センターで研究部長を務める気象学者、エルヴェ・ルトル氏は懸念する。「エアロゾルは問題の解決にならんでしょう。世界が別なふうに変わってしまう。エアロゾルは酸性雨の原因になっているぐらいなんですからね」。ここでもまた、法制は整っていない。フランスも他の多くの国も、大気の上層や下層に関する法律を持っていないのだ。

 自然界の循環に直接的に介入するという発想は別に新しいものではない。1960年代には多くの農業支援計画が展開され、ヨウ化銀をまいて雲を発生させることで降水量を増やそうとした。アフリカのサヘル地域に雨を降らせようとするこの解決策を、好意的な目で見る者もいた。今でも米国では、この分野で多くの企業が活動している。60年に設立されたアトモスフェリックス・インクや、ウェザー・モディフィケーション・インク、50年代から200以上の気象改変プロジェクトを推進してきたTRCノース・アメリカン・ウェザー・コンサルタンツなどがそうだ。しかし、これらの計画の効果はわずかなものでしかなく、降水量の増加はせいぜい10パーセントから15パーセントにとどまった。同じ頃、軍がこの技術に関心を示していた。

 ヴェトナム戦争中の1966年から72年の間、米国は「ポパイ計画」と呼ばれる実験を行っている。モンスーン季を引き延ばして、北ヴェトナム軍の進行を泥で足止めしようと考えたのだ(10)。1976年に環境兵器の使用を禁止する国際条約(11)が調印されたことで、この実験は中止された。

 しかし、軍事目的のために気象を制御するという発想が完全に放棄されたわけではない。米国防総省が出資し、アラスカの電離層(12)研究センターが展開するHAARP計画がその一例だ。この計画の生みの親のバーナード・イーストランド氏は、高空で気流の源泉となっているジェットストリームに高密度レーザーを当てて気象を変えるというアイデアで特許を取った(13)。ジェットストリームの変動は地域の気象に非常に強い影響を与えるのだ。1996年には空軍が、局地的に気象に影響を与えることが必要だとする報告書を作成した。その目的は、雲や霧を除去することで視界を改善したり、逆に雲や嵐を都合よく発生させることで気象を不安定にすることにある(14)

 現在の気象改変の試みには矛盾があると言える。施肥実験が技術的に簡単で費用も少なくてすむとしても、そこには大きなリスクがある。CO2を地中や海底に隔離する技術について言えば、一連の方法がどれもみなエネルギー資源をむさぼるということが、科学者たちの頭からは抜け落ちている。CO2を回収して、圧縮し、埋設地まで運び、地中や海底に注入しなければならないのだ。

 気候変動の影響とそれへの適応についてのグリーンピース米国支部のスペシャリスト、キッツィー・マクマレン氏は次のように述べる。「これらの研究は行政機関や大企業の人間、あるいは資金によって進められている。彼らはハイテクだけが問題解決の手段だと思っていて、単純な解決方法を考えることができないでいる」。エルヴェ・ルトル氏はもっと厳しい。「これらの計画はどれもみな経済的効果を狙ったものだ。この過程を左右できるチャンスは非常に乏しい」。それよりも企業の生産方式と西側消費者の生活習慣を見直した方がよい。気象改変の実験は、遅かれ早かれ実行すべき転回を先延ばしにしているだけだ。いずれは、化石燃料をまったく使わずに、エネルギーの節約に努め、太陽エネルギーや風力またはバイオマスのような再生可能エネルギーを大量に使用する、という方向へ向かわなくてはならないだろう。

(1) http://unfccc.int/cop7/ 参照。同じく、アニェス・シナイ「温暖化防止対策を阻むロビー活動」(ル・モンド・ディプロマティーク2001年2月号)参照。
(2) ル・モンド2001年11月7日付。
(3) ブッシュ政権のもとで、エネルギー省はハワイ沖で一連の小規模な実験を予定している。グリーンピースによれば、このプロジェクトには豪州、ノルウェー、スイス、カナダ、日本が加わっている。
(4) Sallie W. Chisholm, Paul G. Falkowski and John Cullen, << Discrediting ocean fertilization >>, Science, Vol.294, Washington D.C., 12 October 2001.
(5) 海洋では、窒素やリンなどの栄養素が他の栄養素に比較して不足しており、人工的にアンモニアの窒素分を加えることにより、植物プランクトンが自然状態以上に増殖する。プランクトン量が増えることにより、CO2の吸収量も増え、プランクトンを餌とする魚も増える。[訳注]
(6) Amanda Onion, << Just Add Iron, Some Suggest Dumping Iron in Oceans May Be Global Warming Fix >>, ABCnews.com, 12 October 2000.
(7) Michael Markels Jr, << Fishing for Markets >>, Regulation, Vol.18, No.3, Cato Institute, Washington D.C., 1995.
(8) エルヴェ・ナタン「汚染市場に関して167カ国が合意」(リベラシオン紙2001年11月12日付)
(9) Don Knapp, << Ocean Fertilization Yields Hope, Uncertainty for Global Warming >>, Cable News Network, 23 January 2001.
(10) E. M. Frisby, << Weather modification in Southeast Asia, 1966-1972 >>, The Journal of Weather Modification, Fresno, California, April 1982.
(11) Convention on the Prohibition of Military and Any Other Hostile Use of Environmental Modification Techniques, 1976年12月10日の国連総会にて採択。
(12) 高度100から1000キロメートル間の大気の上層。
(13) ティム・ヘインズ『電離層の支配者たち』(1996年製作のドキュメンタリー、2002年3月26日にテレビ局フューチャーにて放映)
(14) << Weather as a Force Multiplier : Owning the Weather in 2025 >>(米空軍のための将来研究、1996年8月)


(2002年7月号)

All rights reserved, 2002, Le Monde diplomatique + Jayalath Yoshiko + Saito Kagumi

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