中東石油の重要性

ニコラ・サルキス(Nicolas Sarkis)
アラブ石油研究センター所長、パリ
雑誌『アラブの石油と天然ガス』発行

訳・安東里佳子

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 2002年6月に石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国は非加盟諸国との協議を予定している。グリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は原油価格の引き上げを抑えようと、ありとあらゆる圧力をかけている。これに先立って、ロシアはすでに増産を決定した。[訳出]

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 2001年9月11日にアメリカを襲ったテロの衝撃波は、みるみるうちに国際政治経済の舞台へと広がり、世界の石油産業は新たな混迷局面に突入した。特に中東は、今や台風の目である。世界の原油埋蔵量の3分の2、輸出量の44.5%を占める中東諸国は、ブッシュ米大統領が宣言した「対テロ戦争」標的リストの筆頭に置かれた。ウサマ・ビン・ラディンのアル・カイダをはじめ、ほとんどのイスラム主義運動は、これらの国々を発生の地とする。そしてイラクとイランは北朝鮮とともに、ブッシュ大統領から「悪の枢軸」と称されている。

 世界第一の産油・輸出国サウジアラビアは、中東におけるアメリカの主要同盟国だが、この国もまた、イスラム主義運動を支援しているという圧力や非難にさらされ、難しい立場となった。シリアやイエメンも、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスとともに槍玉に挙げられ、慈善の名には程遠い活動を行っているとされる慈善組織の活動や資金調達に目をつぶったとして湾岸諸国も非難されている。さらにパレスチナでの最近の殺戮、イスラエル・アラブ紛争の激化、アメリカによる対イラク軍事行動の懸念など、複数のアラブ国家体制を吹き飛ばしかねない不安要素が揃っている。石油と火薬が隣り合わせの中東地域は、まさに一触即発の状況にあるのだ。

 9月11日のテロが石油市場に及ぼした影響は、これまでのところ価格の乱高下のみにとどまっている。OPEC(石油輸出国機構)のバスケット価格(1)は4カ月で28.3%下落した。すなわち、2001年8月には1バレル当たり24.46ドルだったのが、同じ年の12月には17.53ドルまで落ち込んだ。この激しい値崩れを引き起こしたのは、原油需要の低下、世界的な景気後退に対する危惧、それにOPEC加盟諸国(2)とOPEC非加盟諸国を通じた過剰生産だった。

 2002年1月以降、価格は急激に反発し、5月中旬には1バレル24.48ドル、前年12月の平均価格と比べ39.6%も跳ね上がった。この反転の背景には、アメリカ経済回復の兆し、先進国の備蓄減少、そしてアメリカがイラクに軍事介入するのではないかとの観測がある。原油価格は今後数カ月の間、需給動向、OPEC各国による生産枠遵守の度合い、またアメリカとイラクのにらみ合いの帰趨に応じて、上昇と下落を繰り返していくだろう。だがどのような道をたどるにせよ、長期にわたって1バレル25ドルのラインを超えるようになるとは考えにくい。

 1日当たり約650万バレル(その半分以上がサウジアラビア)と見られる生産余力を備えたOPEC諸国は、イラクが攻撃を受けて石油の輸出を停止した場合、あるいは他の理由で世界の供給総量が需要総量を下回った場合には、躊躇なく増産に踏み切るだろう。国内に経済問題を抱え、原油価格を吊り上げたいのはやまやまとはいえ、目標価格帯は1バレル22ドルから28ドルに据え置かれたままだ。一部のアラブ諸国、とりわけ湾岸諸国は、9月11日以降ブッシュ政権が振りかざした巨大な鞭に恐れをなして、1日当たり数十万バレルの増産に応じて体制の安全と延命を図る方を選んだ。

 長期的に見ると、9月11日の悲劇が石油産業に及ぼす影響は、価格の乱高下だけには収まらないかもしれない。国際テロ対策という情勢の中で、石油消費国では供給不安がよみがえり、世界の主要産油・輸出地域としての中東の役割が見直されつつある。アメリカとロシアの接近、中央アジアや西アフリカといった他の産油地域への関心の高まりなどに見られるように、世界石油地図の再編はすでに始まっている。しかし、それが中東への依存を多少なりとも減らし、新たなエネルギー危機の回避につながるのかといえば、大いに疑問が残るところだ。

他の地域へと向けられた関心

 まず第一に、アメリカによる制裁が強化されるおそれがある。好むと好まざるとにかかわらず、アメリカが掲げたテロ対策の旗の下に先進諸国が集まった現在では、イランとリビアに対する「二次的な制裁」(3)をめぐる欧米の対立はもはや些末なこととなった。近い将来、欧州や日本、その他の国々が、第三国に対するアメリカの制裁を無視し、原油輸出・生産に関してイランやリビアと新たに合意を交わすようなことは考えにくい。イラクに関しては、奇妙にも「賢い制裁」と呼ばれるアメリカの計画の一環として、いわゆる石油と食糧の交換プログラムがさらに厳しい条件付きで維持される以上のことは望めない。こうした情勢では、世界の原油埋蔵量の4分の1近くを占める上記3カ国への石油投資は鈍るばかりだろう。

 ただでさえ不十分な中東への石油投資が凍結された結果、国際社会の関心はアンゴラをはじめとする西アフリカやカスピ海沿岸などへと向かうこととなった。カザフスタンのカシャガン油田だけで、北海油田イギリス地区やロシアの2倍の埋蔵量があると推定されている。

 しかし事態を冷静に見るならば、ナイジェリアを含めたギニア湾沿岸の現時点での確認埋蔵量は390億バレル、すなわち全世界の5.2%にすぎず、中央アジアのそれは1.6%に満たないことを忘れてはならない。世界の原油の66%は中東に埋蔵されているのだ。

 9月11日のテロのもうひとつの影響は、米ロ両国が接近し、ロシアの石油・天然ガス開発計画へのアメリカ企業の関与が増大したことだ。ロシアは1980年代末には世界最大の産油国であり、87年から88年にかけての絶頂期には日量1140万バレルを生産していたが、その後96年には日量620万バレルにまで落ち込んだ。99年から2000年の原油価格の回復、92年から93年の石油部門の再編、そして98年8月の金融危機を受けてのルーブル切り下げという要因により、ロシアの産油量は過去5年間で日量730万バレルまで上昇した。ロシアは今後数年間にわたり、生産と輸出の増大を続けるつもりでいる。この野心を支えているのは、全世界の4.6%にあたる486億バレルと推定される埋蔵量である。しかし、国内需要が増えていることからすると、現在6.3%の輸出シェアを2010年までに7〜8%レベルに引き上げるのは難しいだろう。

 世界の石油需要に対し、アフリカや中央アジア、ロシアが無視できない貢献をもたらすことになるとしても、石油需要の伸長を考慮するならば、アラブないし湾岸諸国が果たす圧倒的な役割を肩代わりしたり脅かしたりすることは不可能だ。入手可能な世界のエネルギー動向予測は、中東がなおも長期にわたって石油産業の救いの神であるだろうという点で概ね一致している。莫大な確認埋蔵量、イラクやイランなどで発見された未開発の巨大油田、そして低廉な採掘コストといった利点を備えた中東地域は、世界石油消費の予測増加量の大部分を満たすことができるのだ。

 ニューヨークとワシントンのテロから2カ月後の2001年11月、国際エネルギー機関(IEA)が公表した「世界エネルギー展望」では、こうした現実が時宜を得た形で指摘されている。今後20年間の石油需給については前年度と同じ予測が示されている。需要は年平均1.9%の増加を続け、2010年には1日当たり9580万バレル、2020年には1億1470万バレルに達するという。これは、2010年までに1日当たり約2000万バレル、2020年までに4000万バレル近く増加することを意味している。換言すれば、2010年までに現在のサウジアラビアの2倍、また2020年までに現在のOPEC諸国全体の130%に相当する生産能力の拡大が必要とされるということだ。これは、どのように立ち向かえばよいのか今のところ誰も述べようとはしないが、途方もない挑戦である。

供給予測の難しさ

 実際には、需要の長期予測は供給に比べれば容易である。というのも、経済成長や人口増加、価格に対する弾力性、あるいは過去の動向からの推定値など、需要の算出に必要な変数は容易に設定できるからだ。それよりも供給の推移を探る方が難しい。不確実な投資、大部分の産油国における政治的安定度、イラクやイラン、リビアなどの国々に対する制裁、輸出国の石油政策など、扱いにくい不確定要因がつきまとうからだ。

 これらの不確定要因を考慮しつつ、IEAは以下の予測を示す。OPEC非加盟国からの供給は2010年までは日量4600万バレルから4700万バレル前後で安定し、その後は減少に転じる。反対にOPEC加盟国の生産量は、世界石油需要の莫大な増加を満たすために、2010年には日量4410万バレル、2020年には6180万バレル、つまり今後20年間に2倍以上へと急増する。特にOPEC加盟国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、イラン、イラクの中東5カ国では、基準年度とされた1997年の日量1950万バレルから、2010年には3050万バレル、2020年には4670万バレルへと増加する。この5カ国が世界全体で占める生産量は、1997年の26%から2010年には32%、2020年には41%に達する。

 この予測によれば、主要石油消費国の輸入依存度、特に中東への依存度は上昇の一途をたどることになる。1997年から2020年にかけて、輸入依存度は北米では44.6%から58%に、欧州では52.5%から79%に、そして太平洋諸国では88.8%から92.4%に上がるだろう。中東の天然ガスも石油と同様、2000年には2230億立方メートルの生産量が、2020年には5240億立方メートルと劇的な増加となる。

 油田の生産性の自然減を補填し、新規に生産能力を開発するために必要とされる巨額投資には、きわめて大きな疑問が持たれる。様々な試算によれば、2001年から2010年の投資額は、中東主要諸国では3000億ドル超、またOPEC非加盟諸国では1兆ドルと見込まれている。しかし今のところ、とくに9月11日の事件が生み出した新たな不確定要因を考えると、このような巨額の投資がほんとうに実行されるのかどうかは何ともいえない。

 供給予測の難しさは、石油輸出国自身の政策よりも、価格水準や国際政治状況に起因している。リビアにおける1969年の革命、イランにおける79年のイスラム革命、イラクに対する91年の戦争を見ても、これらの国々が体制の性格とは無関係に、石油・天然ガス収入を増やしたいというごく単純な理由から、生産と輸出の拡大を強く望んでいることがわかる。ただしそのためには、これらの国々が制裁の対象とならず、外国投資の誘致に必要な安定を享受し、石油相場が適切な水準に落ち着くことが必要だ。1バレル25ドルですら、73年の貨幣価値では7.2ドルにすぎず、80年代前半の水準の半分以下でしかない。

 このように、真の問題は石油資源そのものではなく、原油価格と中東の政治的安定にある。好むと好まざると、中東は今後数十年間にわたり、世界石油産業の要衝であり続けるだろう。

(1) OPECバスケット価格とは、代表的な次の7油種の平均価格のことである。サハラ・ブレンド(アルジェリア)、アラビアン・ライト(サウジアラビア)、ミナス(インドネシア)、ボニー・ライト(ナイジェリア)、ドバイ(ドバイ)、ティアファナ・ライト(ベネズエラ)、イスムス(メキシコ)。
(2) 石油輸出国機構(OPEC)は、サウジアラビア、イラク、イラン、クウェート、カタール、アラブ首長連邦国、アルジェリア、リビア、ナイジェリア、ベネズエラ、インドネシアの11カ国で構成されている。
(3) 二次的な制裁とは、アメリカがリビア・イラン制裁法に規定した制裁のことで、リビアやイランにおけるエネルギー関連計画に4000万ドル以上を投資する会社が対象となる。


(2002年6月号)

All rights reserved, 2002, Le Monde diplomatique + Ando Rikako + Hemmi Tatsuo + Saito Kagumi

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