カオスの淵に立つアフガニスタン

セリグ・S・ハリソン(Selig S. Harrison)
国際政策センター 国家安全プロジェクト責任者、ワシントン

訳・葉山久美子

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 この6月にアフガニスタンで、暫定行政機構を引き継ぐ移行政権を選任するために、ロヤ・ジルガ(国民大会議)が招集される。しかし、この国は平和の回復にはほど遠く、軍閥による派閥抗争から抜け出せずにいる。例えばパクティア州では、前知事のパチャ・ハン・ザドランと治安隊長のムハンマド・ムスタファの両派が敵対している。襲撃は日常化し、アメリカとその同盟勢力はタリバンおよびアルカイダ追撃の手を緩めない。経済復興のための真の努力がなされないまま、アフガニスタンは再びカオスの中に沈もうとしている。[訳出]

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 「これは愚劣で無益な戦争だ。私は大いなる悲憤をもって見守ってきた。ただちにやめてもらいたいものだ。今は復興のときなのだから(1)」。自国で行われている戦闘についてどう思うかとイタリアの人道団体の代表に問われ、こう答えたザヒル・シャー元国王は、ジャーナリストが同席しているのを知らなかった。この発言はアメリカのメディア全般に無視されたが、重く受け止める価値のある言葉である。4月中旬にアフガニスタンに戻った彼は、カルザイ議長の暫定行政機構に代わる移行政権を選任する6月のロヤ・ジルガで議長を務める予定であり、国家元首に就く可能性もある。ローマに亡命していた元国王は、今ではカブールに戻っている。

 元国王の厳しい言葉は、アメリカの軍事作戦による民間人の犠牲者を前にして募りゆくアフガン人の怒りに呼応している。爆撃による民間犠牲者の正確な規模は誰にもわからない。だが、ニューハンプシャー大学の経済学者であるマーク・W・ヘロルド教授が、現地にいる人道団体やジャーナリストの証言を丹念に集めて行った調査によると、戦闘開始から最初の8週間で殺された民間人は3712人となる。この数字は、9月11日の攻撃によるアメリカの犠牲者3067人を上回る(2)。当初、ラムズフェルド米国防長官は、この「付随的被害」に遺憾の意を表していたが、もはやそれもなくなった。1月24日のカンダハール北部空爆の際に16人の無実の市民が犠牲になったことを認めた国防長官は、数週間後にこう述べている。「これがミスだったとは思わない。アフガニスタンの戦地の状況は、望むと望まずとにかかわらず、厳しいものである。混乱状態なのだ。片側に善人が集まり、反対側に悪人が集まっているという、はっきりした状況にはない(3)」。4月中旬には、4人のカナダ兵が米軍の誤爆によって死亡した。

 ソ連軍との8年にわたる戦闘とそれに続く13年間の内戦という戦争の試練のなかで、アフガン人の心は麻痺してしまった。戦闘開始から数週間は、ジャーナリストに質問されてもアメリカを批判するのに躊躇して、誰にでもミスはあるものだと進んで認める者もいた。しかし、彼らの我慢もいまや限界に達した。ラムズフェルド国防長官の発言に象徴されるように、現地住民の苦しみに無頓着なアメリカの態度によって、すでにカルザイ議長の人気は下がりはじめている。

 ガルデス近郊での「アナコンダ作戦」ではアメリカ側に8人の死者が出ているが、当初の情報によると部隊の置かれていた状況はかなり明瞭で、「悪人」が一方の側に固まっていた。カルザイ議長が述べたように、ガルデス一帯は「アフガニスタン最後のテロリストの孤立した拠点」である。タリバンとアルカイダの残党狩りにおいて、米軍がこれ以上「はっきりした」場面に遭遇することはまずないだろう。そして、ニューヨーク・タイムズ紙のジョン・F・バーンズ記者が伝えた住民の証言によると、そのガルデスでさえ、「米軍の爆撃は民間にかなりの犠牲者を出した」と言う(4)

 同じくガルデスにいたファイナンシャル・タイムズ紙のチャールズ・クローヴァー記者によると、アメリカによる軍事介入は地元から「まったく」支持されていない。「人々はこの地域での戦争にうんざりしている」と彼は書く。米軍司令官によると、近隣の山中に立てこもる武装勢力はアルカイダの中核メンバーだということだが、クローヴァー記者によれば、彼らは再結集して新たな火種を作ろうとする者ではなく、「黙って放っておいてほしいと望んでいるアフガン人かタリバン逃亡兵だと、地元住民が断言している(5)

 住民から見れば、アメリカがアラブ人、パキスタン人、チェチェン人のようなアルカイダの「外人兵」を殺すのと、アフガン人であるタリバン兵やその家族を殺すのは、まったく別のことだ。パクティア州のワルダク知事がワシントン・ポスト紙のピーター・ベーカー記者に対して、「普通のタリバンとアルカイダの強硬派を支持するタリバンの間には違いがある」と述べたことは重要だ(6)。軍事介入の当初に生じた民間人の犠牲者の多さへの反発からしても、流血に満ちたガルデスの空爆のような大規模な爆撃を続ければ、すでにくすぶっている反米感情を掻き立てずにはおかないだろう。カルザイ議長は、10月11日のカラム村、12月1日のトラ・ボラ地区、12月20日のパクティア州での民間人の犠牲者について故意に沈黙を守ることにより、アフガン人の怒りを抑えてきた。

 しかし、12月29日にニアジ・カラ村で結婚式に集まった民間人が米軍の爆撃を受けた際には、議長は公然と非難した。1月24日のカンダハール北部空爆については調査を要求し、ペンタゴン(米国防総省)は米軍が「不手際」により16人の市民を殺害したことを認めた。

 ニアジ・カラやカンダハール近郊での作戦の際に米軍が「善人」と「悪人」を混同したのは、アフガンの軍閥が敵対勢力を追い落とすためにアメリカの諜報員にうその情報を流したという単純な理由による。先のヘロルド教授がはじき出した3712人の民間人の犠牲者という数字は、あくまで暫定的なものだが、現地にいる国連の担当者、国境なき医師団のようなNGO、多くのアメリカ人ジャーナリストや、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、インド、パキスタンなどの外国人ジャーナリストからの報告や証言を丹念に集め、多くの書き込みを加えた資料の山を根拠としている。

国際部隊拡大の必要性

 犠牲者数をもう少し低く見積もっているものも含め、あらゆる調査が爆撃による犠牲者の多さを3つの原因に帰している(7)。まず、アメリカが空爆したタリバンの要塞はかつてのソ連軍の駐留地で、防御に最適な人口密集地に造られていた。次に、タリバン自身もしばしば弾薬庫を人口密集地に隠そうとした。最後に、最も重要な原因として、米空軍はコソヴォ戦争時のようなレーザー誘導システムではなく、精度に劣る衛星利用の全地球測位システム(GPS)を用いたことだ。

 命中精度に問題があったうえに、広範囲への「じゅうたん爆撃」がさらにひどい被害をもたらす結果となった。この爆撃はB52機および「クラスター爆弾」CBU87を搭載したB1B爆撃機を使って実行された。CBU87の「親爆弾」は重さ450キロで、それぞれにパラシュートのついた202の子爆弾を内蔵している。CBU87が投下されると、それが放つ子爆弾はサッカー場2つか3つ分の地域を覆い尽くす。B1爆撃機は1機あたり30個までのCBU87を搭載でき、2002年1月末までに約600個を投下した。この爆弾は地面に接触すると爆発するようになっているが、5%は不発弾となった。ということは、地雷に似たこの子爆弾が6000個ほど国中に散らばっていることになる、とヘロルド教授は言う。

 ラムズフェルド国防長官は最近、全世界規模での対テロ作戦続行のために100億ドルの「緊急補正予算」を議会から獲得した際に、アフガニスタンでの軍事作戦は少なくとも2003年10月まで続くだろうと明言した。そして、カルザイ議長とブラヒミ国連アフガニスタン担当事務総長特別代表の再三の要請にもかかわらず、治安部隊拡大へのアメリカの参加を否定した。

 国際治安支援部隊(ISAF)は現在カブールに4500人を駐留させているが、国連としては2万人まで増強し、首都だけでなくヘラートやカンダハール、ジャララバード、マザリシャリフへも展開できるようにしたいと考えている。この新しい治安部隊の枠内でアメリカに求められている役割は、兵力の提供、他国からの人的・物的資源のための空軍の使用、情報の提供、危険時の撤退のためのピストン空輸の実施である。ISAFを拡大すれば、米軍の直接軍事行動のための資源の散逸を招くとペンタゴンは主張する。

 しかしながら、現在まさに浮上しつつある新しい脅威は、カオスの脅威である。ペンタゴンの態度には、指揮命令権の分散を意味する多国籍軍展開へのイデオロギー的反感、そして何よりも、アメリカ側の犠牲者を出すのを回避するという狙いがうかがわれる。こういった態度は、アメリカの同盟国からもアフガン人からも好感を持たれない。アフガンの人々は、戦場の上空という相対的に安全なところから米軍が投下した爆弾によって、同胞の民間人が死んでいくのを見ているのだから。

 ホワイトハウスはペンタゴンと足並みをそろえ、拡大ISAFへのアメリカの参加はないとする。だが、もし他の参加国が必要な追加兵員を出すならば、拡大を支持する用意はあると言う。この姿勢は、4月に自国の派遣規模を縮小しようと考えているイギリスからも、その分を補充することになるトルコからも不評をかった。アメリカが限定的な兵力すら提供せず、拡大ISAFの任務を定める国連の決議を支持せず、他国への参加も呼びかけないとすれば、国際部隊への支持が失われる危険はきわめて大きい。少なくとも、波乱が起きそうな今度のロヤ・ジルガ会期中の安全を確保するためにも、ISAFの拡大が緊急に必要だという認識は高まっている。

 ブッシュ政権はカルザイ暫定行政機構の成功を望むと明言しているが、ペンタゴンはISAFの拡大を妨げているばかりか、各地の軍閥を財政援助し徹底武装させることにより、新体制の立場を弱めてきた。これらの軍閥は今や中央政権と張り合う勢力となっている。ジャララバードやガルデスでは地元の武装勢力が権力を争っているが、ペンタゴンは今なお反カルザイ派を支持している。

 アフガニスタンを再びテロの基地としないために、麻薬密売(のこれ以上の拡大)を食い止めるために、そして世界最貧国の一つを経済復興の道筋に乗せるために、安定した中央政権の確立が望まれる。国際治安部隊の拡大とともに経済援助の増大が必要とされている。

 国際社会が継続的に援助を続けても、アフガニスタンの復興には長い時間がかかることだろう。この間の内戦にアメリカが直接軍事介入するのは、これまでに押し付けられた「付随的被害」によって生まれた恨みを募らせるだけでしかない。そして、アメリカがタリバンの排斥によって当初に勝ち得ていた好意は失われ、まさにタリバンの温床であったパキスタンやアフガニスタンのイスラム過激派を勢いづかせることになるだろう。

(1) イタリアの人道団体との会談でのザヒル・シャー元国王のオフレコ発言、ラ・スタンパ紙、ローマ、2002年3月7日付。
(2) Marc W. Herold, << A Dossier on Civilian Victims of United States' Aerial Bombing of Afghanistan : A Comprehensive Accounting >>, University of New Hampshire, Durham, New Hampshire, December 2001. ヘロルド教授は同大のホイットモア・ビジネス・アンド・エコノミックス・スクールで経済学を教えている。
(3) The Washington Post, 18 February 2002.
(4) The New York Times, 7 March 2002.
(5) The Financial Times, London, 9 March 2002.
(6) The Washington Post, 6 March 2002.
(7) Project for Defense Alternatives (PDA) による以下の調査では、爆撃の直接被害者を1300人としている。 Carl Conetta, << Strange Victory : A Critical Appraisal of Operation Enduring Freedom and the Afghanistan War >>, Research Monograph, PDA, Cambridge, Massachusetts, 6 January 2002. 次も参照。<< Operation Enduring Freedom : Why A Higher Rate of Civilian Bombing Casualties >>, Briefing Report 11, 24 January 2002.


(2002年5月号)

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