ネットに乗るうわさ

フィリップ・リヴィエール(Philippe Riviere)
ル・モンド・ディプロマティーク編集部

訳・葉山久美子

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 インターネットを利用する者なら、これらの情報が駆けめぐるのを目にしたに違いない。「9月11日の事件はノストラダムスの予言の中で予告されていた」「アメリカへの攻撃に喜ぶパレスチナの人々というCNNの映像は、実際には1991年のものだった」「これが飛行機激突の瞬間に世界貿易センタービルの屋上から撮られた最後の写真だ」「あそこで働いていた4000人のイスラエル人がモサド(イスラエル情報機関)からの通告を受け、その朝は仕事を休んでいた」「ニューヨークのあるカフェでは、犠牲者の治療に必要な水を求める医者に130ドル請求した」。最後のもの以外、これらがすべてデマであることは今さら述べる必要もないだろう(1)

 複数の調査によれば、インターネットには25億以上の公開ウェブページが存在し、さらに毎日700万ページもの割合で増え続けている。Eメールはといえば、日々数億通が交換されている(2)。この原初的な混沌から次々と生まれる情報は、サイトからサイトへ、メールからメーリングリストへと、飛び交い、増殖し、広まり、影響しあう。スーパーマンのように目も眩むような速さで世界を一周し、「地球規模のうわさ」の地位にのぼりつめる。ネット情報の最大の特徴は、それが的確だとか信憑性があるといったことではなく、とにかく速いという点にある。

 新ダーウィン主義の大生物学者、リチャード・ドーキンスは、遺伝子と同様に再生産能力を備えた思考や言語の断片を「ミーム」と名付けた。現代の進化論者によると、生物は遺伝子を次世代に伝えるための乗り物でしかない。偶然が働いたにせよ、乗り物をうまく操縦できたおかげにせよ、「良い」乗り物を得た遺伝子は、世代を重ねるごとに増殖し、進化の勝ち組となる(3)

 サイバースペース(ミームが進化する世界のデジタルな部分)や人智圏(ティヤール・ド・シャルダンが最初に使った言葉で、人間の思考の集合体)においても、多数の「良い乗り物」に素早く乗り込んだミームが勝利者となる。人間の手を介さないこの種の伝染は「ワーム」その他のネットウィルスの得意技で、最も普及しているソフトの欠陥につけ込み、狙ったハードを意のままにする。そして、さらにそこから次の数百の新しい獲物めがけて飛び散っていく。このサイクルが指数関数的に繰り返される。

 「世界最古のメディア(4)」であるうわさは、機械から機械へと伝わるだけでは足りない。脳の中にまで入り込まなければならない。たわごとが有力情報に変わるのは、うわさが信頼できるとか的確だといったことよりも、環境に適応して進化することによる。「人々は伝統的なメディアに対する信頼を失い、真実は自分たちには隠されていると確信するようになった」と、ウェブサイト「ホークスバスター」を率いてネット上のうわさを調べているギヨーム・ブロッサールは(Eメールで)説明する。「Eメールは完全に自由に流通しているのだから、そこに真実がないはずはないだろう。それに、僕たち一人一人に、ちょっとしたスクープや独占情報を狙う『ヒーロー』願望が眠っている。誰よりも早く情報を手に入れ、それを人に伝えるのは、どうしようもなく嬉しいってことだろうな。そして、『それが本当かどうかは絶対にわからないわけですよね』と、ネットサーファーが僕たちのところにコメントを送ってくる」

 このように、サイバースペースと人智圏の相互接続によって、教育、マスメディア、文化、議論といった古典的な思考伝達方法に加え、これまでに例のない特性を持ったルートができあがった。そこに乗った情報は直ちに、拡散的に、地球規模で伝わっていく。この独特の性質は次のような効果を生みだしている。

  • 真実と伝達の間には何の相関関係もない。「本当」か「うそ」かということは、うわさの進行を妨げも助けもしない。

  • とめどない「情報」の奔流によって、その再生産に向けて追い立てられる心理が働くとともに、これらを分析し、確認し、批判するための他の「情報」ルートが求められる。

  • 元々の「情報」のたどってきた経路に「反論」を行き渡らせることはできない。「反論」は他の経路(裁判、メディア広告キャンペーン、テレビ、学校など)によってしか行うことができない。

  • 情報の洪水を前にして、現代人は茫然自失する。
 このコミュニケーション・ツールを身についた文化とし、信頼性、分散性、責任性、民主性を兼ね備えた新しい情報手段として確立するまでに、1世紀はかかるだろう。その1世紀の間には、うわさの売り手、「ウィルス・マーケティング」を売り込む広告代理店、ペテン師やデマの発信者が横行するだろう。くたびれ果て、うんざりした我々は、「送信」ボタンを押す前に自分の「独占情報」の価値を吟味する習慣を少しずつ身につけ、ためらうことなく「削除」ボタンを押すようになるだろう。だが、我々がどんなに気をつけていても、うわさはどこかで再起動の機会を見つけることになる。うわさとは、瞬間コミュニケーション社会に生存するのに最も適した創造物だからである。

(1) これらは、本当のもの、うそのもの、真偽のわからないものを取り混ぜて、http://www.snopes.com が調べたうわさの一例にすぎない。フランス語サイトでは、http://www.hoaxbuster.com が同様にすばらしい気晴らしを提供してくれている。
(2) この数字は、もちろん、忙しい人向けの概数でしかない。より詳しい数字は、バークレー大学が行った調査プロジェクト“How Much Info”を参照のこと。http://www.sims.berkeley.edu/research/projects/how-much-info/
(3) リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(日高敏隆ほか訳、紀伊國屋書店、1991年)、『延長された表現型』(日高敏隆・遠藤彰・遠藤知二訳、紀伊國屋書店、1987年)、『ブラインド・ウォッチメイカー』(中嶋康裕ほか訳、日高敏隆監修、早川書房、1993年)参照。
(4) ジャン=ノエル・カプフェレール『うわさ−世界最古のメディア』(スィユ社、パリ、1987年)参照。


(2001年11月号)

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