「反グローバリゼーション派」に逆襲する自由主義体制

スーザン・ジョージ(Susan George)
フランスATTAC(市民のために金融取引に課税を求める会)副会長

訳・萩谷良

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 辱めを受けたG8ジェノヴァ・サミットの終了後、抗議の的とされた多国籍企業、G8諸国政府、欧州連合(EU)その他の国際機関は、 執拗な問いに悩まされるようになった。抗議する人々をメディアは「反グローバリゼーション派」と呼び慣わすが、当事者はこのレッテルを一斉に拒否している。企業、政府、国際機関の問いとは、シアトルのWTO(世界貿易機関)会議以来、世界の支配者たちの壮大な式典をいつも攪乱する国際的な市民運動を、どうすれば信用失墜させ、弱体化させ、操って、願わくば粉砕できるかということだ。彼らの反撃としては、警察による逆襲と直接の弾圧が、最もよく知られている。この4月に米州サミットが開かれたときも、ケベックの春は花の香りもけし飛ぶような催涙ガスの臭いに満たされた。米州自由貿易地域(FTAA)(1)の創設に反対するデモ隊に対し、治安部隊は公式発表でも4709缶分の催涙ガスを浴びせた。ケベック州政府に任命された委員会ですら「行きすぎ」と認めたほどだった(2)

 だが、暴力行使と人心操作の面では、ここ数カ月に欧州で見受けられた変化が際だっている。すでに6月中旬にイェーテボリでEU加盟15カ国の首脳が集まったさい、スウェーデン警察はデモ隊に実弾を発射することすらためらわなかった。

 6月22日のバルセロナでは、世界銀行が予定していた経済開発に関する国際会議の中止を受けて、そのみじめな敗退を祝うフォーラムやデモが開かれた。ここでは、私服刑事が行進の後尾にまぎれ込んで、あちこちで物を破壊したり、制服警官を襲撃するなどして、警察が平和なデモ隊とジャーナリストに暴行を加えるように仕向けた。

 ジェノヴァで、イタリア警察は、さらにエスカレートした。死者1名、負傷者600人あまり、不当逮捕数百件。そして何よりも、まぎれもない政治的策謀が働いていた。ジェノヴァのいくつかの区域を荒らし回った挑発者グループ「ブラック・ブロック」と警察当局が通じていたことは、おおぜいの人々に目撃されている(3)

 抗議者たちがこうした物理的抑圧にひるまないのをみると、司法を盾にとったいやがらせという手段が持ち出される。シアトルなどの集会で非暴力の技術を指南したことで知られるラッカス・ソサエティ(4)のある指導者は、米国共和党の党大会に対する抗議デモの翌日、フィラデルフィアで逮捕された。彼は6時間にわたり取調べを受けた。これにあたった警察官は、「あいつの前科リストをなるべく糞まみれにしてやる(5)」よう指示された、と進んで認めている。その結果、13件の容疑がかけられ、これらの軽微な違反については米国司法史上前例のない100万ドルの保釈金を請求されたのである。

 不当逮捕、威嚇的措置、拘留者に対する虐待、会合場所の「予防的」閉鎖は、自由主義グローバリゼーション反対者が集まるたびに常套手段として用いられる。インディメディアのサイト(6)を見て回れば、それがよくわかる。インディメディアは非集権的な独立メディアのセンターで、米国政府にとっては癪にさわる存在だ。ちょうどケベックでFTAAに反対する大規模なデモが行われた日、FBI(連邦捜査局)と秘密情報部のエージェントがインディメディアのシアトル本部に現れて、過去48時間にサイトにアクセスした者すべての電子メールアドレスを提出せよという捜査令状を提示した。何千人にものぼる数である。これはどう見ても、合衆国憲法で保障された権利の侵害である(7)。ジェノヴァでも、7月21日から22日にかけての夜、憲兵が捜査令状なしにインディメディアのオフィスを襲い、「破壊活動家」グループの関与を示す証拠写真を探しているのだと言い立てた。

情報戦

 欧州でも同様に、政府は法律を自分勝手に解釈するのに何の不都合も感じていない。2000年12月、新条約の締結を目標とする政府間会議の閉幕となったEU首脳会議がニースで開かれたときには、EUの自由主義政策への反対デモの規模を縮小させようとして、正規の切符も身分証明書も持っている1500人のイタリア市民を、国境で拘束した。それから数週間後の2001年1月には、こちらはシェンゲン協定(8)に参加していないスイスの例になるが、政府当局がダヴォスに通じる一切の道路を封鎖し、この地域一帯を武装防衛した要塞と化してしまった。イタリア政府の場合は、他国のデモ隊がジェノヴァに入り込むのを(結局は不可能だったが)阻止しようとして、4日間にわたってシェンゲン協定を事実上停止した。

 イデオロギー面での反撃もすさまじい。シアトルのような失策のあとで、どのように態勢を立て直すべきか。第一に考えられるのは、相手を「貧者の敵」と決めつけることだ。これは、ロンドンではフィナンシャル・タイムズ紙とエコノミスト誌が、ジュネーヴではWTOのムーア事務局長が使った手口である(「あのデモ隊には吐き気がする」2001年2月5日)。米国でも、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授でマスコミの寵児のエコノミスト、ポール・クルーグマンが、これに劣らぬ活躍ぶりを示している。「反グローバリゼーションの運動は、すでにすばらしい実績をあげている。まさに自分たちが擁護すると称する人々と大義に多大な損害を与えたのだ」と彼は書く。なぜなら、ケベックのデモ隊は「その意図が何であったにせよ、貧者をよりいっそう貧しくすることにベストを尽くしたのだから(9)」。同じことを、ジョージ・ブッシュ本人もジェノヴァ・サミット直前にル・モンド紙(7月19日付)に語っている。「デモ隊は人々を貧困に追いつめる」と彼は言う。

 第二に考えられるのは、エコノミスト誌がシアトル後の最初の号でさっそく展開した論法だ。シアトルで成功を収めたNGOは「選挙で選ばれたわけでもなく、誰に対する責任ももたない集団に権力が移行する危険にほかならない」とほのめかしたのだ。反対運動には正統性がないという主張は、1998年9月に当時の国際商業会議所理事長ヘルムート・マウハー(ネスレ会長、欧州産業円卓会議議長も兼任)と国連事務総長の会談にもとづく「ジュネーヴ・ビジネス宣言」が発表されて以来、財界の主張を貫くライトモチーフとなっている。

 この宣言は「活動家の圧力団体」に対して、まず自分たちの正統性を自問するようにと訓告した。正統性をもたないならば、「彼らの権利と責任を規定する規則」に従うべきだという。「財界は、労組や消費者団体その他、責任に従い、信頼に足り、透明性をもち、説明責任を負い、それゆえに敬意に値する団体とともに仕事をするのをつねとする。我々が問題とするのは、こうした自己規律の基準を一切もとうとしない活動家集団が増加していることである」

 三番目の戦術は、反対派の主張はいいかげんだと、耳にタコができるほど言いまくることだ。反対派団体の流す思想や意見は、どれも「あからさまな嘘」や「たわごと」とは言わぬまでも「情報操作」の好例であって、「風見鶏」ないし「狼少年」の言い分でしかないと、さまざまなところで書き立てられている。たとえばニューヨーク・タイムズ紙のトーマス・フリードマンによれば、あんな非常識なことを公言する連中は「見下げはてた」ものであり、「往復ビンタをくれてやるべき」だという(10)。フィナンシャル・タイムズ紙の場合は、グローバリゼーションに悪意をもつ敵対勢力の進出を食い止めたければ「越えてはならない一線を引くべきときだ」と、さりげなく凄んでみせる(11)。しかし、「自己規律」が相変わらず欠けており、「一線」が平気で踏み越され、反対派が依然として「たわごとを言い」つづけるのだとしたら、どうすればよいのか。そう考える者も出てきている。

砂漠と地雷原

 2000年3月、自由貿易の推進を使命とするワシントンのコーデル・ハル研究所(12)が、「シアトル以後−WTOを再活性化するには」と題したセミナーを開いたのも、その流れのなかにある。約50人の参加者(高級官僚、閣僚、閣僚経験者、大企業顧問、大使ら)のうち、NGO代表者はたったの2名だった。憤慨したそのうちの1人が、インターネットでセミナーの様子を伝えている(13)。実際にはWTOというよりも、反対派をおとなしくさせるための方法が討議されたのだ。

 まず英国のパーキンソン元貿易産業相(サッチャー内閣)が、反対運動を容易に組織できる米国では今後は二度とWTO会議を開くべきでないと提案したのを皮切りとして、議論はおおいに盛り上がった。米国のヤイター元農務長官も同意を表明して、開催地は「安全と秩序を確保できるような」場所に設定し、「反対運動をぐらつかせるために」ぎりぎりまで発表しないでおくべきだと述べた。

 ブラジルの外相が、次回の会議は砂漠の真ん中か、さもなければ「洋上の客船」でやってほしいと発言し、次のWTO会議は実際に11月にカタールで開かれることになった(次回のG8サミットも2002年に、そう簡単には行けないロッキー山脈カナダ側の保養地で開かれる)。外相は出席者一同の拍手を浴びたのち、ぼた山の石炭を袋につめて近くの鉄工場に運び、生計の足しにするブラジルの子どもの話をひとくさりして、児童労働の必要を熱心に説いた。米国のある高級官僚は、「NGOには、お遊びのための別の砂場を与えてやらんとな」とコメントした。たとえば、何の実権ももたない国際労働機関(ILO)などだ。また別の出席者は「NGOに正統性を認めさせない」ことが大事だとして、資金源となっている財団に財布のヒモを締めるよう働きかけ、NGOを活動停止に追い込むことを提案した。

 本当の理由が何なのかはともかくとして、米国の大手財団が方針を変えているのは事実だ。いくつかの確かな筋(匿名を希望)によると、グローバリゼーションに反対するシンクタンクや組織は、資金を絶たれつつあるという。大手財団では理事長が企画責任者による資金の配分を追跡し、過去に「シアトル系」のグループに出資したことがないかを自ら調べるという、異例の行動に出ている。フォード財団とロックフェラー財団は、レーガン政権で顧問を務めていた人物を理事長とする経済戦略研究所のようなシンクタンクを優遇するようになった。同研究所の寄付金リストは、まるで米国の多国籍企業の紳士録といったおもむきを示している(14)

 これらの企業のもうひとつの強力な武器となるのは、電子情報ネットワークの監視である。eウォッチ社(15)の事業は、資本主義が万事をそつなく利益の源とする力を備えていることをみごとにに示している。資本主義の支配に反対する人々の活動すらも利益の源となるのだ。同社はある広報企業の子会社で、顧客についてインターネットで言われていることをすべて、1万5000のディスカッショングループと4万のニュースグループを含めて監視するという。年額3600ドルから1万6200ドルきっかりで、「貴社はライバル企業、政府の規制機関、活動家や反対運動家、その他貴社の事業にかかわる一切をぬかりなく監視できるのです」と、同社はうたう。この値段なら、まったくただみたいなものだ。

 こうしたことが、フェアプレーと呼ばれるのか。こうしたこと自体、自由主義グローバリゼーションへの反対運動が現にインパクトを与えている証拠だと考えられなくもない。でなければ、「世界の支配者」がこんなに気にかけるはずないではないか。そうかもしれない。しかし、そうした論理にとどまるならば、国際資本がこの戦いをいかに重視しているかを過小評価することにもなるだろう。かつて、その民主主義に対する憎悪がかくもあからさまに見せつけられたことはない。国際資本としては、次なる揺さぶりをかけられないうちに、自らの支配の正統性をなんとしても固めておく必要がある。米国でジョージ・W・ブッシュが、イタリアでシルヴィオ・ベルルスコーニが選ばれたことは、この意味で、じつに幸運である。ジェノヴァ以後、さまざまな社会運動は、これまでにもまして、地雷原に踏み込む覚悟でいなければならない。

(1) ル・モンド・ディプロマティーク2001年4月号参照
(2) Toront Star, 3 May 2001(公式情報に依拠)
(3) ドン・ヴィタリアーノ・デッラ・サラという聖職者は「ブラック・ブロック」が憲兵隊の輸送車から出てくるのを見たと語っている(ラ・レプブリカ2001年7月22日付、ル・モンド2001年7月24日付)。
(4) ブルーノ・バジーニ「反グローバリゼーションの戦闘員とともに」(レクスパンション誌、パリ、2001年6月7日)
(5) ラッカス・ソサエティの指導者、ジョン・セラーズの私信による。
(6) http://www.france.indymedia.org ; http://www.indymedia.org
(7) シアトル・インディペンデント・メディア・センターの2001年4月27日付コミュニケ
(8) 欧州諸国間の人の移動の自由を定め、協定国域外国境の管理を強化した協定。[訳註]
(9) Paul Krugman, << Why sentimental anti-globalizers have it wrong >>, International Herald Tribune, 23 April 2001.
(10) New York Times, 19 April 2000.
(11) Financial Times, 19 April 2001.
(12) コーデル・ハル研究所は、フランス国際関係研究所の米国における提携先のひとつである。
(13) Bruce Silverglade, Centre for Science in the Public Interest, << How the International Trade Establishment Plans to Defeat Attempts to Reform the WTO >>, 5 April 2000(電子メールによる情報)
(14) http://www.econstrat.org 参照。とくに、ロックフェラー財団およびフォード財団による国際貿易に関する研究調査への出資についての発表を見ること。
(15) eWatch(本社所在地ダラス)は、PRニューズワイアの子会社である。http://www.ewatch.com


(2001年8月号)

All rights reserved, 2001, Le Monde diplomatique + Hagitani Ryo + Saito Kagumi

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