我々は皆、ハイテク犯罪者

フィリップ・ユアエユク(Philippe Uaeuq)
国際機関高級官僚

訳・瀬尾じゅん

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 「人種差別、小児性愛、テロリズム、無断複製」。なんとも不可思議な取り合わせだが、ことインターネットの話になると、いつも一括りにして語られる。確かに、それぞれのジャンルを見れば、大なり小なり世間を騒がせるような事件が次々に起きている。しかし、知的財産権に関する議論が世界的に高まるなかで、どうして著作権侵害がこの括りに入ってきたのか。そして、なぜ欧州評議会(欧州会議)は、ハイテク犯罪防止条約の制定を通じて、知的財産権侵害を「重大犯罪」と認定しようとするのだろうか。[訳出]

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 アメリカでは、「合衆国の安全に対する世界的脅威」として、テロ、薬物、女性あるいは難民の密輸、不正な技術移転、金融操作、そして著作権侵害を並べた政府報告を出している(1)。欧州評議会も見たところ、この分析と同じ意見のようだ。アメリカ、カナダ、日本、南アフリカをオブザーバーに加えてまとめたハイテク犯罪防止条約案(2)が、欧州評議会の議員会議で支持を得ている。

 条約は、草案づくりに参加した国のうち、欧州評議会加盟国を少なくとも3カ国含めた5カ国が批准すれば発効する。仮にこれが採択されれば、インターネット上の犯罪行為を取り締まる初の国際条約となる。

 この条約案のねらいは次の3つである。まず、ハイテク犯罪の分野における各国の法制度と訴追手続の整合を図ること。次に、監督機関が犯罪の捜査、立証のために関連データにアクセスできるようにすること(3)。そして、ハイテク犯罪対策として、刑事分野における多国間の法的協力と司法扶助の制度を発展させることである。

 条約案には、様々な理由で憂慮すべき点がある。一つには、個人情報へのアクセスを許可する規定が含まれていることで、多くの専門家から「自由の抹殺だ」と言われている。これについて、欧州委員会の個人データ保護に関する作業部会のロドタ議長も、条約案は「基本的な権利と自由を合法的に制限」しようとするものだと非難している(4)。「しかるべき機関」が「交信に関するデータをリアルタイムで収集」したり、「交信内容に関するデータを傍受」することができるとされ、プロバイダは協力を強制される。

 さらに懸念すべきことに、この条約では、ある国が「国内法上の理由」により、つまり公的自由を極度に保護する法律を根拠として、国内でこのようなデータ収集を許可できない場合でも、外国事業者が「リアルタイムでデータの収集や記録に当たる」ことまで規制する必要はないとしている。このように、条約案は、低いレベルでの法的整合を図ろうとするものなのだ。

 他方で、この条約は無断複製や著作権侵害についても触れている。2000年9月19日、欧州議会で演説したディグレゴリー米司法次官補(犯罪局担当)は、「パソコンとモデムさえあれば、一個人が家から一歩も出ずに、世界中の人や企業、政府にダメージを与えることができてしまう」と主張し、「凶悪犯罪、テロ行為、薬物売買、児童ポルノの頒布、身分詐称(なりすまし)、知的財産の剽窃、電子商取引への攻撃」を列挙した(5)。ここでは、最後の3つの違法行為も最初に挙げた例と同様に「重大犯罪」に当たるから、同様の処罰を受け、同様の警察・司法手続に従うべきであるとの考えが、巧妙に言い表されている。

 このように「重大犯罪」として認定することで、知的財産権に関する各国の法制度は、ますます利用者の権利よりも権利者を保護するものへ改められようとしている(6)。この条約が採択された暁には、「無断複製」を行った者も、それを「幇助」した者も、禁固刑に処せられることになり、誰もが犯罪者予備軍になってしまうとさえ言える。また、違反者の国外引き渡しも容易になる。なぜなら、条約の対象に含まれるハイテク犯罪に関しては、関係両国間で犯罪人引き渡し条約が締結されていない場合でも、条約によって法的根拠が整うことになるからだ。

欧州評議会という枠組み

 現時点の条約案では、例えば、どこかの高校生が外国のサーバーから音楽ファイルをダウンロードしたとしても、第三国の要請によって犯罪人として引き渡され、投獄されるという事態になりかねない。すでに、このような事件は起こっている。イギリスに住むフランス人がアメリカに企業を作り、サーバーを設け、そこに商業目的でポルノ映像を置いた。これはアメリカやフランスでは合法だが、イギリスでは違法とされる性質のものだったため、彼は数カ月の禁固刑に服する羽目になった(7)。いったん条約が採択されれば、このように各国の法規制を組み合わせるやり方が、万華鏡のように無限に広がっていくだろう。

 欧州評議会は、なぜ今、知的財産権を問題にするのだろうか。本来、この分野の国際協定は世界知的所有権機関(WIPO)が統轄し、知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)(8)については世界貿易機関(WTO)の管轄に属する。

 しかし現在までのところ、これらの国際機関は、知的財産権の侵害を重大犯罪とはみなさず、民法上や商法上の問題とする立場をとってきた。そこへ、ソフトウェアにも特許を認めるかどうかという論争が起こり、次いで医薬品特許の問題が持ち上がった。特許をとっているエイズ治療薬について類似品の国内製造を認める法律を南ア政府が制定しようとしたところ、最終的には訴えを取り下げたものの、多国籍企業39社が子会社を通じて南ア政府を告訴したのだ。これをきっかけとして、それまで権利者の間だけで行われていた議論に利用者代表が押し入って、業界の利益に対する公共の利益を問うようになった。

 先の疑問にあえて答えてみよう。あの条約案のような提案を通すには、発展途上国の加盟が多く、その利益が相対的に反映されやすいWIPOやWTOよりも、ある種の特殊利益(出版社、メディア産業)を手厚く保護する欧州評議会を枠組みとした方が容易だということではないだろうか。言い換えれば、知的財産権法をめぐる昨今の動きに否定的な一部の先進国が、情報や知識への公平なアクセスを推進する政策を捨てて、特定の業界の利益だけを擁護するような条約案を無理やり採択させようと、「その他の諸国」へのごり押しを図っているのではないだろうか。

 条約案に付随する補足的な報告書は、「インターネットを利用した犯罪の越境的な性質は、国家機関の属地的な性質と相容れない」という理由の下、「共通の取り組み」が必須であると主張する。しかし、インターネットに関する国際的な議論において、競争規制、表現の自由、プライバシーおよび個人情報の保護などの多くの問題が未解決のままの現段階で、そのような「共通の取り組み」が可能なものだろうか。

 「知識社会」をめざす上で戦略的な鍵を握る知的財産権について、諸国の意見は全面的に一致しているわけではない。いくつかのキーポイントに関しては、はっきりと意見が分かれている。例えば、著作者に認められる「人格権」がそうだ。よく知られているように、アングロサクソン法のコピーライトの概念(制作者の経済的利益重視)は、フランス法の立場とは相容れないものである。その違いは、欧州評議会の条約案で、ベルヌ条約(文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)やWIPO著作権条約が定める「著作者人格権」を除外する規定(第10条)が盛り込まれたことにも表れている。さらに言えば、そこでは情報の「権利者」と「利用者」双方の利益の「バランス」の取り方自体が問題にされている。このように見ると、議論をあらかじめ封じ、業界寄りの見方を早々に押し付けかねないのが、欧州評議会の条約案なのだ。

国際貿易との一括化

 データベースに関する条約案について話し合われた1996年12月のWIPO外交会議の際も、世界的なコンセンサスのなさが顕著に示された。草案はヨーロッパ諸国の提案に基づくもので、データ編纂者にデータベースの著作権を与える(そして、それが公的機関であればなおさら恐るべきことに、データ作成者には著作権を認めない)としていたが、この案はお蔵入りになった。多くの途上国が、知識へのアクセスがますます商業化されれば自分達の不利益となることに気づいて反対したからだった(9)

 先に触れたように、南アのエイズ犠牲者が治療法へのアクセスを要求した事件は、知的財産権の問題を突如として法律の分野から切り離し、政治と道徳のレベルに投げ込んだ。WTOは今、ムーア事務局長も率直に認めているように(10)、TRIPS批判の矢面に立たされている。この協定は、それまで概念的にも法的にも別個のものであった国際貿易と知的財産権の2つを密接に結び付けたものだ。そこでは、大国の一括交渉戦略により、世界的に「整合」のとれた図式が打ち出されている。この図式は貿易には都合がよい反面で、最も弱い国々がそれぞれの事情に応じた政治的、法的な手段を講ずる可能性を制限するものでもある。法制度のグローバリゼーションとは、その鉄則をすべての国に押し付けることなのだ。それが嫌ならあきらめてくれというスタンスである。「国際市場でバナナを売りたい?  それなら、類似医薬品の製造を禁止すべきでしょう」というわけだ。

 公共の秩序、人道上の緊急事態、さらに一般的に言えば、発展の要求と「市場」の要求とのせめぎ合いが生じたときに問題とし、いずれにしても調整を考えるべきなのは、まさに、この国際貿易と知的財産権の関係である。欧州評議会の条約案も、同じような全体主義思想の上に立っている。つまり「インターネットにアクセスしたい? それなら、知的財産権について我々と同じように考えるべきでしょう」と言っているのだ。

 もう一つ、「私的複製」と著作権の例外規定についても摩擦が生じている。条約案の第10条では「商業規模」の知的財産権侵害は犯罪に当たるとする。しかし、この表現は曖昧だ。サーバーを介することなくファイル交換を可能にするナップスター、グヌーテラ、ナピゲーターのようなプログラムの利用も含まれるのだろうか。このようなファイル交換は今や大規模に行われるようになっているが、技術的にみれば私的複製に当たるから、原則的には合法なはずだ。これが「商業規模」とみなされるとすれば、我々は皆「犯罪者」になってしまうのか。

 こうしたことは多くの国で合法とされており、世界中のかなりの地域でコンセンサスがとれている。我々は、世界規模の法制度の分断へと向かってはいないだろうか。各国の法制度の「整合」を目標に掲げる条約が、まったく逆の効果をもたらす危険はないだろうか。我々が必要としているのは、多国間という名の下に、内輪で決められてしまい、持てるものだけが得するような権利ではなく、世界中で通用する真の意味での知的財産権である。それは、カントのすばらしい表現を借りるなら、「人類全体の利益」に適ったものでなければならない。

(1) << International Crime Threat Assessment >>, 15 December 2000(全米科学者連盟のサイト http://www.fas.org/irp/threat/crime.htm 等で閲覧可能)
(2) http://conventions.coe.int/treaty/EN/projets/cybercrime27.htm
(3) フィリップ・リヴィエール「明日のヨーロッパは全域盗聴中!」(マニエール・ド・ヴォワール56号、2001年3-4月)
(4) 欧州委員会のデータ保護に関する作業部会が2001年3月22日に採択した文書より(http://europa.eu.int/comm/internal_market/en/dataprot/wpdocs/wp41en.htm
(5) Cf. http://www.cybercrime.gov/EUremarks.htm
(6) フィリップ・ケオー「知識はいったい誰の物か?」(ル・モンド・ディプロマティーク2000年1月号)
(7) ウェブサイト Transfer.net 2001年5月3日付
(8) 知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)は94年10月にウルグアイ・ラウンドの一環として調印され、知的財産権に関する各国の法制度に整合性を持たせることを目的としている。
(9) フィリップ・ケオー「インターネットと知的所有権−情報は公共財産ではないか」(ル・モンド・ディプロマティーク1997年2月号)参照
(10) Mike Moore, << Yes, Drugs for the Poor−and Patents as Well >>, International Herald Tribune, Paris, 22 February 2001.


(2001年6月号)

All rights reserved, 2001, Le Monde diplomatique + Seo June + Watanabe Yukiko + Saito Kagumi

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