フランス近隣諸国にみる地方分権の実践

ブルーノ・レモン(Bruno Remond)
パリ政治学院教授

訳・吉田徹

line
 2000年3月に行われたフランスの統一地方選挙は、有権者が現場に近い意思決定を望んでいることを明らかにした。参加民主主義への志向は、他のヨーロッパの国々と同様の、とはいえ法の下の平等を尊重するような地方分権化への志向を促進する。コルシカの地位に関する法案をめぐる論争でも、様々な地方分権の考え方が対立していることが示された。また、地方選の結果のもうひとつの特徴となった若年層と労働者層の大量棄権は、政府が社会政策面の構想を欠いたまま、欧州連合(EU)の施策にも積極的に反映されている自由主義的なグローバリゼーションに「近代的」な外観を施すにとどまっている現状に対し、有権者が発したメッセージであるといえよう。失業問題がなくならず、生活不安が広がり、低賃金がまかり通り、公教育をはじめとする公共サービスの質が下がるなかで、数百万のフランス人が基本的な市民権を享受できずにいる。こうした人々は、「左派諸党」の政権に現在の政策とは異なるものを望んでおり、それを彼らなりに表明したのだった。そこで問われているのは、紆余曲折を経ながらもフランスの歴史を形作ってきた、共和国の原理そのものである。[訳出]

line

 フランスという例外を除いて、ヨーロッパ諸国の法制は地方を重視し、地方自治体の権限を強化している。連邦国家(ドイツとベルギー)、単一国家(イタリアとスペイン)、多民族の連合王国(英国)など、多様な政体や概念に依拠する諸国が、政治制度の違いはあれど、一様に地方分権政策を採っている。これらの例に照らせば、地域自治は必ずしも自決要求を導き、独立へと結びつくものではない。地域自治といっても、その規範、法律、規則のあり方は非常に多様であり、とりわけ法律や規則のあり方は各国の実情を映し出している。

ドイツとベルギー

 ドイツでは、連邦憲法裁判所の監督のもと、各州(ラント)が自由に州憲法を改正することができる。とはいえ、あくまで1949年に採択されたボン基本法(連邦憲法)の精神と制度の枠組みにおいて、また連邦の法律および規則を尊重し、基本法の原則と齟齬を来さない限りにおいて、という条件が付いている。連邦政府と連邦を構成する州政府がともに規範的権力を有することから、基本法は州に州法の制定と施行を委ねており、それらが州ごとに大きく異なる余地を残している。警察、司法行政に関わる基本規定や、教育(初等、中等、大学教育)、文化に関わる法令は、州の権限に属する。

 ドイツの諸州は連邦の立法過程にも参画する。州政府を構成員とする連邦参議院(上院)は連邦議会(下院)と並ぶ立法府として、法案の起案権を有しており、票決を求める法案を作成し、提出することができる。さらに、多少なりとも州政府の任務や関与を求める法案については、連邦参議院の承認が必要となる。連邦法案の約6割がこれに該当する。明文上は承認を必要としない法案についても、連邦参議院は拒否権を保持しており、これを否決するには連邦議会議員の過半数による票決が求められる。

 ベルギーには2つのタイプの地方自治単位が存在する。1つは「言語共同体」であり、これにはフランデレン共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体がある。もう1つは「地域」であり、これにはフランデレン地域、ワロン地域、ブリュッセル首都圏地域がある。ただでさえ複雑な枠組みは、1980年にフランデレン文化圏の「言語共同体」と「地域」が融合し、共同機関を設置したことで、更に複雑になる。ベルギーでは、この複雑な枠組みを前提とし、地域間の差異という特殊事情に配慮しつつ、国王、下院、上院の三者に連邦の立法権を与えているのである。

 連邦構成体という視点でみれば、ベルギーの制度はドイツと同じではない。第一に、「言語共同体」と「地域」という単位の創設は憲法に拠るものだが、その基本的編制は中央議会の特別多数決によって定められる。つまり、連邦構成体の機構と権限の変更が、恣意的に行われたり、フランデレン共同体ないしフランス語共同体のいずれかの反対に抗して行われることはあり得ない。そもそも「言語共同体」と「地域」が並立することから、ベルギーの連邦構成体の機能をドイツの州のそれと比較することはできない。「地域」は主として社会経済分野の自治の求めに対応するものであるのに対し、「言語共同体」は文化分野の自治要求に従って創設されたものであり、機能的に区別される。

 この2種類の地域機構は、例外規定を除いて連邦政府と同等の規範的権力を保持する。憲法上、連邦機関の専属的権限を定める規定はないことから、「言語共同体」と「地域」の権限が憲法と諸法によって規定され、連邦政府の権限はそれ以外の領域について残るという構成となる。さらに、ワロンおよびフランデレンの「言語共同体」と「地域」の議会はそれぞれ、独自の基本法を制定する権限を有する。各議会は、賛成票三分の二以上で可決された政令により、議会の構成、選出制度、運営、ならびに行政府の運営に関する基本事項を定めることができる。

イタリアとスペイン

 単一国家においてはその性質上、たとえ地方分権が進んでいる場合でも、中央と地方間の立法権と執行権の配分は、連邦国家の場合とは当然異なっている。憲法および制度の形成過程が異なるからである。連邦国家においては連邦構成体の意思に基づいて連邦政府の権限が認められるのに対し、単一国家においては、地方にどのような、またどの程度の権限を委譲するかは中央政府の意向に依存する。

 イタリアの場合がこれに該当する。同国では1948年より5つの特別州(シチリア、サルディーニャ、トレンティーノ・アルト=アディジェ、フリウリ・ヴェネツィア=ジュリア、ヴァッレ・ダオスタ)が、1972年以降はこれに加えて15の普通州が、一定の立法機能を担っている(州の立法機能は1990年6月8日の法律142号と1997-98年のバッサニーニ3法によって強化された)。

 普通州に与えられる権限は中央政府と競合する立法権に限定される。施行権のみを与えられた州もある。イタリア憲法第117条が普通州に認めているのは、「国法に定める基本原則の枠内で」立法権を行使することだけなのである。特別州とトレントおよびボルツァーノの2県には、専属的立法権(憲法上の地位規定に定める事項に限定)、競合的立法権、施行的立法権の3つが認められている。1997年から98年にかけてバッサニーニ諸法とその施行令により、地方分権は憲法改正を経ずして実質的に拡大された。これにより、イタリアは補完性の原則(1)の導入と、国家行政と地方行政の連邦的組織化に向けて大きく舵を切った。

 このように、イタリアでは法の多極化が進みつつある。第一に、立法レベルの規範は、中央政府の権限に属するものと地方の権限に属するものに分かれている。第二に、地方立法は、中央政府の定める規範に従うべきものと、従わなくてよいものに分かれている。その結果、中央の立法と地方の立法に不整合が生ずることもまれではない。このような問題が起きた場合は、最終的に憲法裁判所が裁断を下すことになる。

 スペインでは、地方自治体の機関について(ドイツ、そして最近では英国が用いるような)議会や政府といった言葉こそ用いないものの、政治や制度の実態はイタリアよりもドイツや英国のモデルに近づきつつある。スペインの場合はドイツのように立法権がいくつかのカテゴリーに分けられている。憲法と関連法規により、中央政府が専属的に権限を行使するものと、中央政府が基本的立法のみを行うものが区別されている。そのうえで地方自治州は自らの行政権と執行権のもと、国との権限配分に関わる特別規定や、自治州の専属的権限とされる領域に関わる特別規定を設けることができる。このような区別に応じて自治州の機能には程度の差があり、単に任務の遂行にとどまる領域もあれば、公共政策に関わる立法行為の認められる領域もある。

 ただしドイツとは異なり、中央と地方の役割分担は固定的なものではない。スペイン憲法は、一義的に中央政府に付与された機能が、国家組織法によって地方自治州へ移管もしくは委任され得ることを規定している。この規定に基づき、一部の自治州は高度の自治を求めてこれを獲得した(アンダルシア、カタルーニャ、ガリシア、バスク、また、それら4州には劣るもののカナリア、ナバーラ、バレンシア)。これら諸州の自治権は、近年の政治状況のもとで拡大している。アスナール政権は1996年から2000年の任期中、下院(コルテス)で過半数を欠くことからカタルーニャとバスクの二大民族主義政党の支持を求め、一部の税の直接徴収など、両自治州に対して権限増大を認めることとなった。個々の自治州が担う機能の多寡や内実にばらつきがあるのは事実であるが、それも次第に調整されつつある。

英国

 フランスの隣国事情を駆け足で考察してきたが、最後に英国の状況に触れておこう。英国は、ブレア政権のもとで、直接普通選挙によるスコットランド、ウェールズ、北アイルランド議会の設置を認めたが、これは下院の地位を大きく変えるものではなかった。ウェストミンスター議会(英国議会)の主権は、スコットランド、ウェールズ両議会の設置法を廃止する権限のもとに維持されている。しかし実際には、両議会が住民投票を経て設置されている事情から、それを廃止するような決定は政治的に困難と思われる。

 北アイルランド議会に関しては事情が異なる。同議会は、ユニオニスト(連合王国派)の議会ボイコットにより運営を妨げられ、英国議会によって2000年2月に停止された。また1998年のスコットランド法により、英国議会はスコットランド議会の権限とされた領域に関する立法権を維持している。とはいえ、スコットランド議会の同意なしにそれを行使することはないものと思われる。スコットランド法に関しても、その修正にはスコットランド政府との事前交渉が必要とされている。

 将来的には、立法権が英国議会とスコットランド議会の間で分担されることとなり、前者の権限は縮小されるだろう。このことは、教育、経済政策、農地・森林整備、運輸、環境、公共事業、保健、司法、公務員年金といった重要分野の権限が、スコットランドの首席大臣と議会に移管されたことからも予見される。ウェールズと北アイルランドも同様の展開をみるだろうが、スコットランドほどではないものと思われる。両地方の議会の立法権は大綱的(施行的)立法と規則制定にとどめられているからである。

 こうした近隣諸国の現状に比べ、新しい潮流をつかんで不可欠の変革を進める勢いを欠くフランスの「モデル」は、ずいぶんと立ち遅れているようにみえる。ヨーロッパのパートナー諸国の政治・行政の枠組み、とりわけ(ベルギーの制度のように)遠心的な枠組みをそのまま採り入れる必要はないが、改革の指針として学ぶべき4つの点を挙げることができよう。第一に、これら諸国の中央政府は、全国的あるいは国際的なものと認められる任務以外にも、基本的な規範と諸々の公的機関の任務を定めているが、規範の施行規則や機関の編制に関する規則を定めてはいない。第二に、国民国家を構成する地域機構は、諸国間あるいは一国内において程度の違いはあるものの、実質的な立法権を保持している。第三に、地方議会に委ねられた権限は、制定から実施に至るまでの全面的な権限である。そして最後に、政府や議会が地域機構の政治的責任者との協議ないし妥協を求められているにしても、中央政府はそれを自己の地位の低下とは見なしていないのである。

(1) 下位レベルの権限を重視し、上位レベルの権限はそれを補完するにとどまるとする政治原則。[訳註]


(2001年4月号)

All rights reserved, 2001, Le Monde diplomatique + Yoshida Toru + Miura Noritsune + Saito Kagumi

line
表紙ページ 本紙の位置づけ 有志スタッフ
記事を読む 記事目録・月別 記事目録・分野別
メール版・お申込 読者の横顔
リンク(国際) リンク(フランス)