飛行機は揺れる

ベルナール・カセン(Bernard Cassen)
ル・モンド・ディプロマティーク編集部

訳・安東里佳子

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 航空業界の自由化が進む中、7月25日に起きたコンコルド機の墜落事故は、安全性の問題を劇的に浮かび上がらせた。航空各社が人件費からメンテナンス費用、教育研修から管理に至るまで、株主からの要求でコスト削減にしのぎを削り、そもそもが限られた空間の中で同じ航路で競い合う現状を見れば、顧客サービスがひたすら悪化するのも当然だろう。飛行機に乗ろうとするなら、事故の危険がますます高まっていることを、もはや知らないではいられない。[訳出]

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 空の安全だって? わずかの欠陥でも悲劇を招き、マスコミの格好の的になるおそれのある業界に携わる人々にとって、この言葉は当然ながら馴染み深い。だが、航空各社がこれを口にする時はいつも、収益力や競争力と表裏一体で語られる。そこに問題の核心がある。というのも、安全のコストは高くつき、リスク計算にあらかじめ組み込んでおかなければならないからだ。ひとたび事故が起これば、計算違いが発覚する。そして、戦略のあやまちも発覚する。背景には、すでに強い抵抗にあいながらも、欧州委員会が進めている「欧州単一航空市場」構想がある(1)

 一般的にいえば、飛行機という交通手段は鉄道よりも、そして車とは比較にならないほど安全である。1999年には、全世界で15億人の定期便利用客があったが、うち2.5トン以上の大型機の事故は20件ほどで、死者数は492人にとどまった(2)。全体でも犠牲者の数は674人であり、98年の1945人、97年の1235人、70年から98年にかけての平均1491人と比べると、航空安全史上まれに見る低さだった(3)。数字からすれば特に心配するほどでもないだろうが、しかしながら現実は大きく違っている。

 ひとつには、2000年は1999年ほどの年にはなりそうもない。7月19日現在ですでに19件の事故と613人の犠牲者が出ている。70年以降、最初の7カ月で比べて第14位と、順位は悪くなっている(4)。もうひとつ、事故の件数は、安全度をはかる上で目につく指標でしかない。そこにインシデントや未遂事故も加えて考えなければならない。飛行中のニアミス(許可を受けた距離を下回る接近)や、地上でのニアミス(着陸機が離陸用滑走路を横切る「誤侵入」は、各地の空港で日常茶飯事だ。この種の事件は増えていて、いつでも事故に変わりかねず、そうなると事故件数は激増する。事故が事故を呼ぶという法則が働けばなおさらだ。こうした事件の増大を前に、第一線で活躍する運航乗務員の懸念はますます高まっている。乗務員組合は経営陣や航空交通管制機関へ警告を発するが、大抵は何の効果もない。激化する競争と利潤追求の中で、彼らはその場しのぎの甘い言葉を並べながら耳をふさぐだけだ。

 空の安全は、様々な要因に依存している。飛行機の考え方や保守、各社の方針、運航乗務員の教育や労働条件、航空管制官による交通管理などだ。空港に留め置いても利益にならないからと機体が「フル回転」させられているが、整備というものは当然ながら、各社が目の色を変えるコスト削減競争から除外すべきだろう。しかし、現実は全くそうではない。先進諸国でさえ、第二レベルの航空会社(エールリベルテやAOM、ヴァージンあるいはクロスエアなど)の下請け、それどころか第一レベルの航空会社(エールフランス、ブリティッシュ・エアウェイズ、ルフトハンザなど)の下請けとなる第三レベルの航空会社についても、その筋の専門家にはあまり信頼されていない。ある大手航空会社の機長は、自分の子供を「エールフランスの下請け航空会社」に乗せるなんて考えただけでぞっとすると言う。彼は仕事仲間の口から、そうした会社で技術的「許容基準」の問題がどのように扱われているか、またフランス語を話さない乗務員が乗客とコミュニケーションをとるのがいかに難しいかを聞いているのだ。

 飛行機というものは、たとえそのすべての機能が作動しなくても危険なく飛行できるようになっている。これらの「許容基準」は製造会社が定め、航空会社はそれをもとに「最低整備リスト(Minimum Equipment List)」として知られるマニュアルを作成する。機長はこの許容基準に従い、また追加整備を求めるなら必要になる手続きを考えながら、離陸するかどうかを決断する。この時点で機長には、あらゆる意味でのプレッシャーがはっきりと、あるいは暗黙のうちにかけられる。会社サイドは反射的に、「修理しないで済ませられないか」と考え、規則を巧みに駆使しながら、必要な修理をできるだけ先延ばしにしようとする。パイロットはほとんどの場合、「機体を工場入りさせる」ぐらいなら仕方ないと修理をあきらめるが、時には格納庫を出てから離陸を拒絶するパイロットもいる。例えば最近、ビアリッツ=パリ便の担当パイロットが会社に対し、故障を修理しなければ出発しないと警告した。ところが彼が空港に到着すると、驚いたことに代わりのパイロットが指名されていた。ただ結局は、代理パイロットの判断も同じで、修理が実行され、飛行機は空港に留め置かれた。

競争には危険がともなう

 離陸の判断には別の事情も関係してくる。例えばレユニオン島行きの長距離便の飛行を拒否した場合、パイロットは最低保障給与に加えられるはずの1万1000フラン(約16万5000円)の飛行時間特別手当を失うことになる。どうしても決めなければならないとすれば、つらい選択だ・・・。というのも、中小規模の会社をはじめ多くの航空会社では、客室乗務員も運航乗務員も契約社員であり、契約が更新されるとは限らない不安にさらされているからだ。多くのパイロットは、40万フランから60万フラン(約600万円から900万円)するパイロット資格を取るために、なけなしの貯金をはたき、借金を抱えている。彼らは、営業幹部に対して柔軟なところを見せようとするだけでなく、178時間にのぼる正規の労働時間をも超えて働こうとする。98年以降のエールフランスのように、パイロットが自分の会社の株主にもなっている場合は、安全は確保したいが配当は増やしたいというジレンマに陥ることになる。必要とあらば借金をしてまで毎月4万フラン(約60万円)の自社株を購入する者もいる。

 着陸地で24時間の休息をとれる長距離路線のパイロットと違って、目まぐるしいローテーションのために着陸地でほんのわずかしか休めない中距離路線のパイロットは特に悲惨だが、すべてのパイロットがこのような地獄のようなリズムを受け入れているわけではない。週刊誌「空と宇宙」によると、エールフランスが機長志望者の募集に最も苦労しているのは中距離路線だという。記事によると、「このポストに就く資格のある副操縦士たちは、たとえ“キャプテン”への昇格が遅れることになっても、長距離路線への留任を希望している(5)

 第一レベルや第二レベルの航空会社に当てはまることは、当然ながら第三レベルの会社にも当てはまる。94年2月9日、セネガルのスキルリング岬で起きた飛行機事故は、その意味で典型的なケースだった。この観光地に向けて50名ほどの「お得意さま」を送り出したクラブメッドは、国内線を独占するセネガル航空に便を手配した。依頼を受けたセネガル航空は、破産状態にあったガンビアの航空会社ガンバーセットを下請けにした。乗客を乗せたコンベア機は保険に入っていなかった。パイロット(ノルウェー人とロシア人)はいつも飛行中に大酒を飲んでいた。安全ベルトは締めようにも締められず、扉は自転車のチェーンで閉じられ、機内16の装備が使用不可能なありさまだった。そしてまさに、死亡者30人、負傷者26人という事故が起きた(6)。その結果、今年7月7日、事故当時のクラブメッド代表、ジルベート・トリガノおよびセルジュ・トリガノ両名に対し、「過失致死」のかどで執行猶予付き8カ月の禁固刑(95 年の特赦法により消滅)と罰金わずか3万フラン(約45万円)が言い渡された。

 もうひとつの重大なケースは、アメリカの航空会社ヴァリュージェットの起こした事故だ。同社のDC9型機は96年5月11日、鰐の群がるフロリダ州エヴァーグレーズの沼地に墜落し、110名の乗客と乗務員が死亡した。だが、この航空会社がアメリカ式の荒々しい規制緩和の落とし子で、他の数百社も後に続いた「価格破壊」の典型だったことは、周知の事実ではなかっただろうか。調査の結果、同社の「成功」の裏が明らかになった。整備や訓練の規則、また危険物運搬に係わる義務や実際の取り扱い(事故機は法律で禁じられた酸素発生装置を積載していた)に照らして、保守契約が遵守されているかの確認はなされていなかった。航空安全を監督しているはずのアメリカ連邦航空局(FAA)もまた、ヴァリュージェットに対して甘すぎたと厳しく批判された。

 ヨーロッパは、アメリカの「自由化」の弊害を教訓とはしなかった。競争の旗を振る欧州委員会の下で、アメリカと同じ道を辿っているだけだ。だが今や、この「競争」の帰結ははっきりと知られるようになった。収益になる路線だけが選びとられ、その他の路線は見捨てられるか法外な料金にされる(アメリカの小さな町172カ所には、まったく飛行機が来なくなった)。運航乗務員や客室乗務員の地位はどこでも不安定、保守業務は下請けに出され、そこがまた下請けに依頼するというのが現状であり、(ちょうど海運分野の便宜置籍船のように)整備作業の経緯は不明になりがちだ。あと数年の内に、価格競争に負けた小さな航空会社は消滅し、業界の寡占化が進むだろう。

 一言でいえば、競争はさらに強大な独占企業を生み、空の安全を悪化させ、機内のサービスと衛生の質を落とし、人員の募集と養成、訓練のレベル低下を導いた(7)。そして行き着くところ、乗客は不満を募らせる。乗客による規律違反や暴力行為は増え続け、エールフランスだけでも月に数百件にのぼる。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙のウィリアム・プファッフ記者は、「航空業界の大型合併の恩恵を受けたと確信するような乗客の代表集団を見つけるのは非常に難しいし、英国の鉄道民営化で何かしらの利益を得たと考える乗客を見つけるのはもっと難しいだろう」と論評している(8)

自衛のための情報収集

 にもかかわらず、現在公式には否定しているものの、欧州委員会は安全性の名の下に、今なお民間航空分野の収益性の原則とは異なる原則で動いている分野、つまり公共機関による航空交通管理の民営化を進めようと考えているのだ。スペインのアスナール首相と英国のブレア首相の攻勢が目立った今年3月のリスボン会議で、EU首脳が全員一致で(つまりシラク大統領とジョスパン首相も賛同して)、この新たな分野の自由化にゴー・サインを出したことは指摘しておかなければならない(9)

 リスボン首脳会議を受けてすぐさま欧州委員会のロヨラ・デ=パラシオ運輸担当委員がとりまとめた文書では、EUレベルの航空安全規制機関を創設し、毎年5%から6%の割合で悪化している空の渋滞を緩和することが提案されている。とりわけ、規制者(規則を定める者)と事業者(規則を実行する者)の職務を分離すること、つまり現在は公共機関が提供するサービスを民間に移すことが主張されている。いずれにしても、ブリティッシュ・レイルの民営化から生まれた企業の怠慢を原因とするパディントン駅の列車衝突事故から何の教訓も引き出さなかったブレア首相は、国家航空局(NATS)の下に改革を進めようとしている。

 こうした動きに対し、フランスの航空管制官たちは、はっきりと反対している。彼らに言わせれば、利潤という経済自由主義の論理と安全性の論理は両立しない。「航空会社の目的は運搬であり、安全性はそれに伴うやむをえない決まりごとでしかありません。航空管制業務にとっては反対に、空の安全を守ることがそもそもの目的なのです」と、全仏航空管制官組合(SNCTA)のジャン=ミッシェル・リシャール総書記は語る(10)。民間航空労働組合連合・労働総同盟(USAC-CGT)の意見では、空の運航遅延と渋滞の責任は航空会社にある。激烈な競争と過密な運航ダイヤのために、飛行機の数ばかり増え、乗客数に対して座席数が少なすぎる状況になっている。ここ10年間のパリ発着便を見ても、便の数がおよそ60%も増えたのに対して、搭乗客の数は40%しか増えていない(11)

 空の安全と同じぐらい微妙な問題であるはずなのに、ほとんど議論されないままの問題もある。それは、テロ事件や犯罪行為に係わる保安の問題である。上層部からの圧力にさらされた出発担当スタッフ(遅延に応じて査定される)は、いつも貨物室の荷物と搭乗客を照合する時間があるわけではない。パリの空港だけでも、持ち主不明の(X線探知機にかけられたとは限らない)スーツケースが日に数十個も飛び立っていくのだ・・・。

 こういった情報はマスコミではほとんど取り上げられない。読者もそうだが広告主の旅行会社や航空会社に不安を感じさせてはいけないというわけだ。特に、航空会社が乗客に数千部、数万部を配ってくれる新聞・雑誌の場合、そうした姿勢が目立つ。新聞・雑誌社にとって、航空会社から「搭載費」を請求されて収支が五分五分やマイナスになるとしても、機内で配ってもらえれば部数は伸びる(広告収入の獲得に意味があるのは部数だけだ)。

 空の安全と保安の確保は、利潤追求とコスト削減との絶え間ない戦いとなる。飛行機を利用する市民は、そうした意識を持たなければならない。もしも我々が、自分の利用する航空会社や空港について万全な、少なくとも今以上の知識を持つようになれば、投げ売り価格の誘惑に負けず、面倒なコントロールに不満をぶつけずにいられるのではないか。

(1) フランスの空を麻痺させた6月26日の航空管制官のストライキなど。
(2) レ・ゼコー2000年5月17日付
(3) 出典:Aviation Safety Network(http://www.aviation-safety.net
(4) 同上
(5) 「空と宇宙」2000年7月14日付
(6) ル・モンド2000年5月20日付および7月8日付参照
(7) サンディカ・アルテール(エールフランスの運航乗務員組合、少数派)のサイトを参照:http://wanadoo.fr/syndicatalter
(8) << The Mistakes of Market Ideology Are Increasingly Apparent >>, International Herald Tribune, 10-11 June 2000.
(9) 「規制緩和の道を突き進む欧州連合」(ル・モンド・ディプロマティーク2000年6月号)参照
(10) ル・モンド2000年6月25-26日付中の引用
(11) USAC-CGTのサイトを参照:http://www.usac-cgt.org


(2000年8月号)

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